2017/04/09 のログ
ご案内:「常世公園」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 春である。
新学期なんである。
「…………、」
毎年のことながら新年度のてんてこ舞いの最中、ヨキは息抜きがてら週末の公園を訪れていた。
木製の東屋でベンチに腰掛け、緑豊かな芝生を眺めている。
というのも、魔術師として(微々たるものながらも)鍛錬を重ねつつある日々の中、
つい最近になってある“異変”が起こったのだ。
靴を脱ぐ。裸足になって、そろそろと東屋の床から足を伸べる。
五本指の足の裏が、芝生の中に晒した土をそっと踏む……
■ヨキ > その瞬間、音もなく、ヨキの足元から、無数の芝生が、ぼふぁ、と噴出した(ように見えた)。
それはあまりにも唐突な、紛れもない芽吹きだった。
「くすぐったッ……!」
足をぴょんと離す。
地面から芝生がにょきにょき生えてくるというのは、とてつもなくこそばゆいものだった。
自分がかつて人里に恵みを齎す神獣の類であったのは確かだが、何とも不便な形で力を取り戻したものだ。
「ぬう……。もう少し見た目が派手なら格好もついたであろうに、……少しばかり地味だな……」
もう片足も靴を脱ぎ、地面に両足を突く。
――もさもさもさもさ。
さすがに地中に種のない植物が、無から生えてくることはない。
ヨキの足元にはふわふわと芝生が増え、申し訳程度のオオイヌノフグリがぴょこんと咲いた。
■ヨキ > ヨキの足元のごく狭い範囲で、植物が生えきって、種が落ちる。
その種がまた芽吹いては枯れ、再び咲く。早送りの映像でも観ているような光景だった。
「使いどころに迷うな……」
頬を掻く。
無からは芽吹かず、有効範囲が限りなく狭い。ピーキーなまでの魔力が、極めて局地的に作用している。
効果を広げるより、魔力の扱い方を学んで留める方が効率的なのかも知れない、とヨキは考えていた。
何の気なしに、足を一歩踏み出す。
「…………、うわッ」
見れば、芝生がヨキの足の形にぽっかりと枯れ果てていた。
再び地面を踏んづけて、きりの良い生え具合まで戻してから慌てて東屋の床の上に戻る。
間抜けだ。
ご案内:「常世公園」に美澄 蘭さんが現れました。
■美澄 蘭 > 新学期。学園の授業は始まったばかりで、導入が中心だ。
そうなると、自習するにもやることはあまりなく。蘭は部活動の新入生歓迎演奏会の練習の後、花の季節と思いふらふらと散歩していたのだが。
「………ヨキ先生?」
顔見知りの教師が東屋の辺りで慌てふためいている様を目撃してしまい、何となくそちらの方に向かう。
秋以降、蘭自身も忙しくてなかなか挨拶も出来なかったし、近況の話なんかが出来たらいいなぁ、とか気楽に考えながら。
■ヨキ > 人の身体で魔力を得てからというもの、自身の自然治癒力を無茶なレベルに高めるぐらいにしか
活用していなかったことを思えば、力が外界に作用するようになっただけ随分な成長だ(と思いたい)。
ブーツを両手に片足ずつ携えた格好で、やってくる少女に振り返る。
「――おや?」
その顔を見るなり、ヨキの顔がぱっと明るんだ。
「美澄くんではないか!発表会ぶりだ」
裸足のいささかワンパクな姿のまま、ぺたぺたと蘭に近付く。
ヨキの居る東屋はぽかぽかと和やかな緑の中とあって、吹き抜ける日陰の風もさわやかだ。
「随分とご無沙汰していたね……挨拶も出来ずに済まなかっ、」
はたと気付く。
「……もしかすると、初めてだったかな。
“人間”になってから会うのは?」
尋ねて、首を傾ぐ。
美術準備室で語らった日、顔の両脇にぶら下がっていたはずの、犬の耳がない。
■美澄 蘭 > ブーツを両手にそれぞれ持って、裸足。
そんな様子で東屋にいるヨキを近くで改めて確認し、少々面食らったように目を瞬かせるも。
「…はい、お久しぶりです。
私の方も、あの後色々あってばたばたしていましたし…そもそも、ヨキ先生の講義も履修していませんから。気にしないで下さい」
そう、はにかみ気味の笑顔を浮かべて少女らしいソプラノではきはきと答えると、軽く頭を下げた。
頭を上げ、"人間"になってから会うのは初めてかと尋ねられれば。
「そうですね…常世祭の金工ゼミの作品展には足を運んだんですけど、ヨキ先生はいらっしゃいませんでしたから。
…そんなわけで、噂としては知っていたんですけど…改めてお会いすると、ちょっと、不思議な感じがしますね」
そう言って、蘭は柔らかく笑った。
■ヨキ > 「四月になって変わらず会えたところを見ると、『今年も一年よろしく』と言って良いのかな。
沢山の生徒を見送っては新しく迎えたが、春に知った顔を見るとほっとする」
笑う。
獣人の頃から変わらない明るさではあるが、その表情にはどことなく自然な柔和さが新たに宿っていた。
「やあ、作品展にも来てくれたのか。有難う、嬉しいな。
いろいろと変わったことも多いが……ヨキは変わらず金属を触ってる」
言いながら、いそいそとブーツを履き直す。
「『魔力が扱えるようになった』のも、変わったことのうちの一つだ。
今日はその練習、といったところかな。
美澄君の方は?
ピアノ、頑張っているかい」
■美澄 蘭 > 「はい、まだ3年生なので、今年含めてあと2年ですから。
こちらこそ、今年もよろしくお願いします。
…といっても、やっぱり美術の授業を取るのは今年も厳しかったんですけどね」
「今年もよろしく」の段で軽く頭を下げるが、授業の履修についてはそう言って苦笑い。
「はい…一言で「金工」って言っても、色々あったので見ててとても楽しかったです。
ヨキ先生の作品も…その、エネルギーが凄いな、って思いましたし」
数ヶ月越しの、そんな感想を伝えて嬉しそうに微笑む。
…と、ヨキの『魔力が扱えるようになった』という言葉を聞いて、目を瞬かせた。
「…そういえば、ヨキ先生は魔術は扱われなかったんでしたっけ。
どんな練習をしていらっしゃるんですか?」
そう、首を傾げて問う。
「………はい、ピアノは続けていますよ。
今は、趣味として、ですけど」
ピアノのことを尋ねられれば、そんな風に答える。笑顔は保っているが、その顔にどこか寂しげな陰が宿った。