2017/04/10 のログ
ヨキ > 「ふふ、この学園は人の出入りが多いからな。
 目標を見つけて、早くに出てゆく人も少なくないから。

 なあに、どうせ恵まれた環境で学ぶなら、自分に合った授業を取るのがいちばんだろう?
 だからと言って、ヨキと美澄君の縁が遠ざかる訳でもなし」

苦く笑う様子に、くすくすと微笑む。
作品展の感想に感じ入った様子で会釈し、魔術の話になると今度はこちらが苦笑い。

「ああ。昔々の……そのまた昔かな。
 まるきり犬だった頃に、そうと知らずに魔力を操っていたらしいんだがな。
 ようやく『まるきりの人間』になったら、そいつがまた使えるようになった。

 おかげで初歩の初歩から、魔術のいろはを勉強している最中さ。
 君たち学生が入学したての頃に読んだような魔術書と睨めっこをしたり、
 魔術の得意な先生に教えを乞うたりしてね」

そうしてピアノについて話す蘭の顔を見ながら、ほう、と瞬く。

「今は趣味として、か。
 何か、他に目標でも見つかったかね?」

美澄 蘭 > 「そうですね…それこそ、島の外の、一般の大学を目指すなら…島の外の学校の方が、都合が良いこともあるんでしょうし。

………ありがとうございます。そう言ってもらえると、気が楽になります」

そう言って、安堵に口元を緩める。
目標が定まったのと、異能の制御という新たな課題が出来たのとで、今年度の蘭の時間割はその辺りの比重がとても大きい。
作品展の感想を、信じていた通り受け止めてもらえると、左右で色の違う瞳を輝かせて顔をほころばせた。

「…そういえば、元は精霊のようなもの、だったんですっけ、ヨキ先生。
…姿としては元から遠ざかっているような感じもしますけど、それで力が戻ってくる、っていうのも不思議な感じですね」

ヨキが魔力を扱えるようになった経緯を聞いて、きょとんと目を丸くしながらも首を傾げる。
ヨキが発した「ようやく」という言葉にも若干の引っかかりは覚えないでもなかったが…それは、言葉にするまでには至らなかった。

「…でも、金工の技術だけじゃなくて魔術の勉強もとなると、ヨキ先生もお忙しそうですね」

魔術の話になって苦笑いを浮かべるヨキに対して、「無理はなさらないで下さいね」と言って、淑やかさと朗らかさが静かに入り交じる、少女らしい笑みで笑った。

そして、ピアノの段になると…笑みは維持しながらも顔つきを引き締め、色の違う二つの瞳に決意の光を宿す。

「…はい。色々考えたんですけど…私の中で一番大事なのは「知る」ことだな、と思って。
それで…今は、ジャーナリズムに興味があるんです。この学園を出たら、その土台となるように社会科学系の勉強をしたいな、って。

まだ、このくらいしか決まってなくて、大分ざっくりなんですけど」

「何を重視するかで、専攻をどうするかが大分変わってしまいますし」と、口調はやや自信なさげながらも、表情は揺るがなかった。

ヨキ > 安堵した様子の蘭に、鷹揚に頷き返す。

「元は、犬からストレートに人間へ成り代わる予定だったんだが、途中で躓いてしまってね。
 だから良いんだ、今の姿で魔力を扱える方が自然なのさ。
 混じりっ気なしの人間……と呼ぶべきかどうか、今はまだ、出鱈目な魔力が垂れ流しの状態だがね。

 ご心配ありがとう。
 やるべきことの沢山ある方が、動く目標があっていい。
 どちらも中途半端に終わってしまうことのないように、着実に進んでゆきたいところだ」

相手の関心がジャーナリズムに向かっていることを聞くや、興味深そうに目を瞠る。

「ジャーナリズム?それはそれは……また険しい分野に目を付けたな。
 知ることの意欲は勿論、知るべきことを発見するための勘も、知ったことを伝えるための手腕も必要になる。

 何事も、まずは自分自身の関心に気付くことから始まるものさ。
 そちらに舵を切ったら、はじめは臆する前に進んでみるといい」

にこりと笑う。

「何か切欠になるような出来事があったのかい。
 それとも、君の毎日の中で長く培われたものが花開いた?」

美澄 蘭 > 「そうなんですか………何というか、「事実は小説よりも奇なり」って感じでしょうか。
《大変容》以降は、みんながみんなそんな感じなんでしょうけど」

「こうなる予定だった」「今の方が自然」というヨキの言葉に、目を丸くして首を傾げながらも、自分なりに理屈を付けて納得しようとはしているようだ。

「………垂れ流し、ってことは、制御が追いついてないような感じなんでしょうか。
それは大変ですし…せっかく素養があるんでしたら、どこまで扱えるか試したいっていうのもありますよね。
先生に教えて頂いているんでしたら、私が何か言えることもないですけど…応援、しています」

制御がどうも怪しいように聞こえる事情や、ヨキのやる気を受けて、魔術の勉強については素直に応援することにした。柔らかく微笑む。
…そして、自分の興味の分野や、そこに思い定めた理由を尋ねられれば、気後れするように目を伏せて。

「………元を正せば、ピアノ専攻の進学に興味を持って、大人に相談して…あまり良い顔をされなかったのがきっかけなんですけど。
…ピアノに全部を捧げるために、この島を出て、全力で向き合えるかと言われると…実際のところ、気が進まなくて」

そこまで言ってから、再度ヨキの顔を見上げる。

「この島は、《大変容》後の世界のモデルで…ある意味、濃縮されてるところがあると思うんですけど。
そんな中で、私は、上澄み以外はほとんど知りません。…きっと、島の外についても、同じです。

私は…それらを、「ないこと」にしていたまま、自分が生きていくことが、凄く嫌だな、って思って。
それを、きちんと「世界に存在する」ことに出来る人になりたいって、思ったんです」

「きっと、実際に思ってるより、ずっと大変な道を目指そうとしてるんだと思います。
………でも、いつか、「モデル都市」が必要じゃなくなるくらいに、「分かり合える」世界を作るための…その、手伝いが出来る人になりたいって。今は、それが私の目標です」

最後には、そう言って晴れやかに笑った。

ヨキ > 「何しろ事情が込み合っているからな。今ここに在るヨキを理解しようと、受け入れようとしてくれるだけで重畳さ。

 単なる人間にとっては、過ぎたる神力だからな。正直なところ、使いこなせなくて当然なのやも知れん。
 だがそれを御するのもまた、人間の作った魔術学の成せる業だと思っているよ」

だから大丈夫、とばかり、自信ありげに笑う。

「……良い顔をされなかった?ふうむ。
 素人の耳には、以前の発表会も素晴らしく聴こえたものだが……難しそうな話だな」

とは言え、蘭が語る経緯に聞き入る顔は真剣だ。

「見えないものを見出して斬り込んでゆくには、気力も体力も、度胸も、金も、コネクションも、ありったけの武器が居る。
 だがその道に全身全霊を傾けることの出来る者は、必ずやよい成果を残すよ。
 映像でも、写真でも、文字でも、それ以外の方法でも。自分自身にとっても、周囲の人間たちにとってもね」

ふっと目を細める。

「君が『知ることの出来る人間』になったその先を――君が『いかに伝えてくれるか』を、ヨキは期待しているよ。
 楽譜を解釈して音色に込めることの上手な、美澄君にね」

美澄 蘭 > 「………そっか、「精霊のようなもの」の魔力ですものね。
制御は大変かもしれないけど…人の知識の積み重ねって、すごく偉大だと思いますし…応援しています!」

自信ありげに笑うヨキに、こちらもぐっと小さくガッツポーズのようなものを返す。力の篭った表情は、真剣だ。

「………あれ、私は1年以上前から練習して、やっとあそこまで弾けるようになったんですけど…ピアノ専攻を目指すような同世代は、数ヶ月で…他の曲と並行で仕上げちゃうんです。
だから、実力がそもそも足りてなかったのと…追いつくにしても、教えを受けたり、コンクールに出たりするのに、この島にいたままでは不都合が多かったですから」

「頂は、凄く高いんですよ」と言って、ちょっとだけ寂しそうに笑った。

「………そう、ですね。決して楽な仕事ではないと思いますし、そういう「武器」を作り上げていく過程も、凄く大変だと思います。
………でも、最初から諦めて後悔するのは、絶対に嫌なので」

そう言ってはにかみがちに微笑むが、少女らしく細いソプラノの声に、どっしりと芯があるかのように感じさせる語り口だった。

「この島は、外からはちょっと切り離されてるようなところがないでもないですけど…
この島にも響くような「何か」が伝えられるようになったら、嬉しいですね」

「頑張ります」と、晴れやかな笑顔をヨキに向けた。

ヨキ > 「ははは、有難う。
 普段は生徒を応援する側だが、生徒から応援してもらえるのはとても元気が出るよ。

 ……そうか、なるほどな。
 心血を注ぐほど好きな物事の、実力の頭打ちを痛感するのはつらいことだったろう。
 君の気持ちは察するに余りある。

 が、趣味でも続けることさえ出来るものがあれば、違う道の途上でくたびれたとき、きっと君の支えになるはずだ。
 専門の分野としてはゼロからの出発やも知れんが、君には成長するための地盤が出来ている。
 安心しきるとまでは言わずとも、心配はしておらんよ」

言って、額を小さく掻く。

「ヨキとて、言わばゼロからの出発だ。君と似たようなものだよ。こんな風に、」

東屋の床から芝生の地面に降りて、しゃがみ込んで手を伸ばす。

その指先が土に触れた瞬間――ぴょこ、ぴょこぴょこ、と、新たな芝生が芽吹き出す。
見落としてしまいそうなほど狭く、しかし一度目にすれば見紛うことのない活性。

「――今はこの力の制御と、活用の仕方を学んでいる最中さ。
 このままでは、下手に裸足で歩いたり、地面にずっこけることも出来やしない」

眉を下げ、軽い調子で笑った。

美澄 蘭 > 「…頭打ち…という意味では、実力というよりは、努力の方ですね。
それはそれでかなりショックでしたけど…でも、おかげでこれからは好きなように弾けるかな、とも思ってます」

「音大受験するなら、さほど思い入れのないレパートリーもしっかり弾かなきゃですから」と言って、苦笑いを浮かべるも、

「それで、趣味として続けるために、今更ですけど部活にも入ったんですよ。
自主性重視なので気楽に出来るんですけど…あんまり規模が大きくないので、練習するタイミングは他の人と調整しなくちゃいけなくて。
そのうち、安いので良いから88鍵のキーボードと練習用ペダルが欲しいな、なんて思ってます」

と、今後のピアノの展望を明るい表情で語った。
将来の進路に向けての歩みを語る時にも、その明るさは揺るがない。

「ええ…目指す道に向けて、努力を積み上げていくだけです。勉強は、裏切りませんから」

「心配していない」と言われれば、「ありがとうございます」と満面の、年相応に人なつこい笑顔を返す。
…が、ヨキの「魔力」の作用を見せられて、目をぱちくりと大きく瞬かせた。

「………凄いですね…植物が、急激に育った………?」

蘭なりに、その作用の「何か」を感じ取っているのか、そんな風にぽつりと呟く。

「…裸足で外を歩く機会はそうないと思いますけど…でも、他の影響が気になりますし、制御出来るに越したことはないですよね。
………コントロール出来るなら、何かの材料になる植物を早く育てたりとか、出来るのかな………」

むむむ、と口元に手を当てて、ヨキが芽吹かせた芝生をまじまじと見つめている。

ヨキ > 「部活に?それは前向きなことだ。
 君はそうやって、何かしらの形で前向きになろうとしていられる。
 建設的に頭が回るだけでも、育てて損はない能力だ。

 ふふ、新しい勉学に機材に、学生には大変な入り用ぶりだな。
 次はそちらの演奏会にも足を運ばなくてはね」

自らの魔力の発現を目にした蘭を前に、再び立ち上がる。

「ああ。初めは外に発揮することもなくて、自分のちょっとした傷を止血したり、
 どこかにぶつけたような青痣を消すような――自然治癒力とでも呼ぶべきか、
 そういうもののために使っていたよ。

 けれどいつしか力が強まるうち、作用が『自分の外』に出てきた。
 力が強まるのは、もっぱら植物ばかりだ」

両手を広げ、小さく肩を竦める。

「ヨキ自身や、植物以外にも……例えば他の誰かの生命力を高めるような、
 治癒魔術に似た使い方でも出来れば良いんだがね。
 応用の仕方は、まだまだ勉強中なんだ」

美澄 蘭 > 「…そんな、大したことじゃないですよ。
演奏を発表する機会を個人で確保するのが難しいので、それをどうにかしたかっただけです」

前向きさを評価されれば、そう言って少し眉を下げながら笑う。
それでも、「私自身はまだどうするか決めてませんけど、うちの部の演奏会は夏と常世祭です」と伝えるのは忘れなかった。

「………何か、凄く原始的な生命魔術、みたいな感じですね。植物優先みたいな。
でも、意識して他の人を治せないのはちょっと辛いかも…」

「傷ついて痛がってる人を見てるの、辛いですし」と、真面目な顔で。
生命魔術をほどほどに学んでいる蘭は、ヨキの「魔力」をそのように解したようだ。

「…生命魔術を学んで、他の人に使えるようになったら…ああでも、生命魔術って魔力込めれば強くなる、みたいな感じじゃあんまりないから…」

「難しいですね…」と、視線を落としがちにしてぽつりと。

ヨキ > 「動機など構わないさ。積み重ねることが出来るのならね。
 多少の狡さだって、かけがえのない武器になる。君はもう、そのことを肌で察し始めているのではないかな」

悪戯っぽく笑う。

「そう。とても原始的で野放図だ。
 現代の魔術学の枠に嵌めると萎縮してしまうのではないか、という話も出たがね。
 今この時代を生きるヨキにとって有用なら、どんな形であれ構わんのだよ」

考え込んでしまった蘭に、明るい声を投げる。

「だからそのうち、植物や治癒力の活性以外にも、あっと驚くような使い方が浮かぶとも知れん。
 ヨキに出来ることや、目指すべき目標がひとつ増えた。そう考えると悪くない」

根拠のなさそうな、やけに強い自信は、獣人の頃から変わらない。

「ああ、それではそろそろヨキは引き上げるとしようかな。
 次に会うとき、君の状況がまた何か進んでいることを期待しているよ」

踵を返――しかけて、足を止める。

「……それから、実を言うと。
 犬の目は、視界がモノクロだったもので」

金から紺碧に変わった瞳の傍を、指先でとんとんと叩いた。

「君が去年よりぐっと綺麗に見えるが、視界に色が付いた所為だけではないような気がするね」

紅を差した目尻に薄らと笑い皺を浮かべて、その場を後にする。

美澄 蘭 > 「…まあ、伴奏を頼みやすい人間が入ったので、みんな喜んでくれてるから良いかな、っていうのはありますね」

こちらも、悪戯っぽい笑みを返した。
今は、新歓用の親しみやすい楽曲の練習中だったりする。

「………制御と萎縮の違いって、難しいところありますよね。
上手いさじ加減が出来れば良いんでしょうけど…」

思案する蘭の頭にあるのは、今のところ酷いことにはなっていないが若干制御に難のある、自身の異能だ。

「………そうですね。せっかく強い生命の力があるんだし、治癒に活かせれば凄そうですけど…
色々、手探りしてみるのも面白いと思います」

それでも、最後には、ヨキの目標を、人懐っこそうな表情で応援するのだった。

「ええ…それでは、また。
私も、頑張りますので」

そう、軽く頭を下げて見送るが………笑って言われた内容には。

「ふぇっ!?」

びくんと身体を跳ね上げて、変な声をあげるのだった。

ご案内:「常世公園」からヨキさんが去りました。
美澄 蘭 > 「………。」

変な声をあげたことや、その他諸々で顔を赤くして固まる蘭。
それから、軽く頭を横に振って。

「………ちょっと、「瞑想」して帰ろう」

顔の赤さを残したまま、早足で公園から出て行く。
行き先は、常世神社の鎮守の森だ。

ご案内:「常世公園」から美澄 蘭さんが去りました。