2018/01/06 のログ
レンタロウ > 「えぇい、まさか雨に降られるとは思ってなかったぞッ!」

苦々しい顔をしながら走る男。
既に数分以上も雨の中を走っていたのか、衣服はかなり濡れてしまい、
黒一色の格好が更にその濃さを増している。

まだ寮までは距離があるので公園で雨宿りした方が良いと判断したのか、
水音を立てながら屋根のある小さな東屋へと駆けこんだ。

「はぁー…酷い目に遭った…
 …すまない、少し入れてくれ。」

軍帽を脱いで雨粒を払いながら、先客である少女へと言葉をかけた。

鈴ヶ森 綾 > 地面と屋根を叩く雨音だけの世界に、騒々しい足音が飛び入り参加してくる。
その音の奏者が水煙を立てながら姿を現し、自分のいる東屋へと飛び込んでくる一部始終を見届ける。

「えぇ、構わないわよ。…あら貴方、たまに見かける顔ね。騒がしくてよく目立ってる子。」

単なる先客に過ぎない女は、その場の主のような尊大さを漂わせる調子で後からやってきた男の言葉に応える。
そして、それが以前に学園の生徒として過ごしている時に知り合った男と見るや、しれっと初対面を装った。

「なんでも自分の事を調べているらしいけれど…合ってるかしら?」

レンタロウ > 雨粒を払った軍帽を片手に持ったまま、自分の髪を指で梳く。
濡れてしまったかと小さく溜息をついてから、軍帽を被り直した。

「すまない、助かる。追い出されでもしたら途方にくれるところだった。
 …む、そうか?まぁ、確かに妙な視線を受けることは多いがな。」

学園付近にいる時は、その格好と言動で視線を集めることが多い。
そのこと自体は男も知っていた。その視線が奇異なものを見るものであることまでは理解していなかったが。

「あぁ、その通りだ。記憶喪失な上に、この世界の人間ではないようなのでな。」

少女の言葉に、服の濡れ具合を確かめつつ、特に誤魔化すこともせずに答えた。
男の方は、少女の顔を見ても初対面だとしか思っていないようだった。

鈴ヶ森 綾 > 「ちょっとした有名人よ、あなた。まぁ、ほんの少し話の種にされる程度のものだけれど。」

それが良い意味でか、あるいは悪い意味でか、その辺りの事には言及せず。
濡れた身体を確かめている彼に対し、自分の隣にスペースを少し作って座るように促す。

「記憶喪失、ね。それはまったく難儀なこと。それで、自分探しの捜査は思うように進んでいるのかしら?有名人さん。」

自分の術に特に不具合が生じている様子はない。
相手が気づかないのであれば、あえて知らせる必要もない。
あくまでこの場で初めて出会った体で話を進めようとする。

レンタロウ > 「ふむ…そうなのか?まぁ、悪い気はしないな。
 それに有名になれば、記憶を失う前の俺のことを知る者にも会えるかもしれないからな。」

どうやら、全体の7割程度雨に濡れてしまっている。
身体も少し雨で濡れてしまっているようで、冷え始めてしまっているようだった。
戻ったら干さねばと思いつつ、ベンチにスペースを作ってくれた少女に促されるままに腰掛ける。

「すまんな。…あぁ、全くだ。
 だが、最初に比べると進んではいるとも。剣の名前を思い出せただけだがな。」

少女の質問には座る時に自分の直ぐ傍にたてかけた見せながら答える。
まだまだ先は長いが、それでも進展はあったと得意げに笑みを浮かべて。

鈴ヶ森 綾 > 「…前向きなのね。私も少しあやかりたいものだわ。」

悪い意味である可能性は考えていないのか、気にしてないのか、
どちらにせよその考え方は、ネガティブな思考に陥りがちな最近の自分には少々羨ましくある。

「剣の…あぁ、それね。名工による大層な業物だったりするのかしら?」

男の腰から傍らに移された軍刀風のそれをちらりと見やる。
見ただけでは平凡な量産品、あるいは名刀妖刀の類とも判別がつかないが、その辺りの事情を詳しく聞こうとして。

「あら、随分寒そう。カイロでもあれば貸してあげたいところだけど…ちょっと失礼。」

自分より長く雨に打たれていた分、その姿は寒々しく映る。
一言前置きしてから手を伸ばすと、彼の手に自分のそれを重ねようとする。

レンタロウ > 「なに、こんな状況だからこそ、前向きに考えて動いた方が良いと思っているだけだ。
 変に沈んだままでも、記憶が戻るとは限らないしな。」

異世界で独り、記憶まで失っている。
これ以上悪くなりそうにない状況だからこそ、前向きでいるだけと足を組みながらと答えた。

「いや、そういうわけではない。ただ…少し変わっているだけだ。
 口で言うよりも、見せた方が早いな。」

少女の質問に、そのようなものではないと答える。
両手で軍刀の鞘と柄を握り、その刀身を少しだけ見せる。
刀身は青白い輝いており、その光が周囲を淡く照らし出した。

「まぁ、こんな感じだ。あぁ、正直かなり寒いが…我慢するしかないだろう。
 …ん?ははは、温かいな。」

刀身を鞘に納め、傍にたてかける。
少女の言葉に、臆面もなく寒いと言い切ってから、自分の手に重ねられる少女の手の温かさを感じ取る。

鈴ヶ森 綾 > 「あら綺麗…どこかで読んだ物語に出てくる剣みたい。
 確かその話では、持ち主に危険が迫ると刀身が光る…だったかしら。
 これもそんなような物なのかしら。」

放たれる幻想的な青白い光に一時心を奪われる。
て光が止むと、ほぅ、と小さく息を吐き、興味深そうに鞘に収まった刀身を見つめた。

「そちらは冷たいわ。手が冷たい人は心が暖かいなんて言うけれど…
 こう寒いとどこまであてになるか分からないわね。」

手を重ねると、向こうからは冷えた感触が伝わってくる。
こちらの手も少し冷えてきているのだが、相手ほどではない。
温度差のおかげであちらには暖かな手に感じられるようだ。
彼の冷たく冷えた手を軽く力を込めて握り込み、触れ合う面積を増やす。

しかし彼は気づいているだろうか。
触れ合った手がやりとりしているのが、互いの体温だけでは無いことに。
暖かな温もりの中、氷の塊に爪の先で触れるような異質な感覚がほんの僅か混ざり込んでいることに。

レンタロウ > 「研究施設で調べてもらったが、そんな能力は無さそうだったな。
 だが…あるのかもしれないな。」

此処に来てから、危機的状況に陥ったことはまだ無い。
なので、少女の言うような能力が軍刀に無いとは言い切れない。
一度、軍刀の方へと視線を向けてから少女へ言葉を返した。

「この有様だからな。心が温かいか…
 良く分からないが、困っている者には手を差し伸べる…ような感じか?」

雨に濡れた上に、季節は冬。
どうしても冷えてしまうことは避けられない。
故に少女の手の温かさは心地よく、僅かながら暖を取ることが出来ていた。

「………ん?」

握りこまれる手を笑みを浮かべて眺めていた男がふと違和感を感じ取る。
少女の手の温もりとも違う、自分の冷えた手の感覚とも違う。
無言のまま、少女に握りこまれた自分の手を見遣る。

鈴ヶ森 綾 > 「まだまだ分からない事だらけなのね。…あら、じゃあ今危険が迫っていて光ってるとしたら…原因は私かしら。」

ふふっ、と笑みをこぼしながら冗談めかしてそんな言葉を口にするが、
それが実に悪趣味な冗談である事を認識しているのは自分だけだ。

「そうね…出どころの分からない話だけれど、私もそんな風に解釈しているわ。
 いつでも人に手を差し伸べられるよう、ポケットに手を入れず、だから手は冷えてしまう。そういう事ね。」
「…どうかしたかしら。何か、おかしな事でも?」

薄っすらと笑みを浮かべ、最後に相手の手の甲を一擦りして手を離す。
頂戴した精気はほんの僅か、身体へ深刻な影響がでるような事はないが、
それでも何かを奪われたという得体の知れない感覚は残るかもしれない。
丁度雨の勢いも弱まってきたようで、ここを出るにはいいタイミングのようだった。
ベンチから立ち上がると下に敷いていたハンカチを軽く叩いて回収する。

レンタロウ > 「その通りだ。あぁ、光るのは月の光を吸収させているからだと思うぞ。そういう刀のようだからな。」

笑みを零す少女。
見る限りでは危険なようには見えなかったので、その言葉は冗談なのだろうと判断していた。
刀身の光に関しての説明を簡単に付け足して、少女が離した自分の手をまじまじと見遣る。

「自分の手が冷えても、誰かを助けられるのならば、きっとその者は満足なのだろうな。
 ………いや、何でもない。冷えたせいか、感覚が少し鈍ったか…?」

手に外傷は無い。
ただ、何かが僅かに減ったような。そんな妙な感覚を感じる。
なんだったのだろうかと不思議そうな顔をしていると、ベンチから立ち上がる少女を見上げる。

「雨も先程よりは弱まったようだな。」

出るなら、今くらいが良さそうだと口にする。

鈴ヶ森 綾 > 「月の光を…面白い性質があるのね。」

その説明にふーむ、と小さく唸る。
不可思議な力を秘めた刀剣の類は数度見たことがあるが、これは今まで見聞きしたものとはまったく異なるもののようだ。
異世界の存在というものは、やはり興味深いものがある。

「そう?なら良かったわ。じゃあ行きましょうか…あぁ、私はこっちだけど…多分別方向かしらね。」

最初に訪れた時、互いがやってきたのは逆の方向からだった。
指で指し示したのは、彼が当初目指していた寮へ帰る道とは反対の方角だ。
懐にしまっていたマフラーを巻き直し、寮を目指す彼とは反対の方角を示して歩きだす。

「それじゃ、またどこかで。」

レンタロウ > 「逆に言うと、それと名前…あぁ、もう一つあったな。
 まぁ、これはまた今度だな。」

まだ一つ能力があったと口にする。
しかし、それを少女へ披露するには別の機会になりそうだった。
ベンチから立ち上がり、腰に軍刀を差して服の乱れを少し正す。

「そのようだな。あぁ、またどこかでな。」

少女が指差したのは自分の向かう先とは違う方角。
歩きだす少女に言葉を返し、自分も歩きだす。
そういえば、名前を聞き忘れたと気付くのは寮に返ってからのことだった。

ご案内:「常世公園」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。
ご案内:「常世公園」からレンタロウさんが去りました。