2015/07/25 のログ
ヴィクトリア > おいおい、そりゃー抱えすぎってやつだろ
ま、いつもウサギみたいなお前がそういう懸念があるのはわかるっちゃわかるけどな

ハッキリ言うと立場としちゃボクのがだいぶアレなんで
ボクがまだ残っててお前が無事って時点で互いにだいぶ何とかなってるってもんだ

だから、もしホントに何も考えないでやることだけ済ますんなら
今のうちにどっか飛ばすべきだし
そーでないなら抱えるしかしかたないだろ

んで、その抱え方が悪いってならそりゃ責任出るのも仕方ない……もぐもぐ

【相変わらずケーキは手づかみだ
こうやって立て膝でケーキを食べつつ、コーヒーをすするマイスタイル】

……だってどーせほとんど放ったらかしなんだろ?
ひとこと忠告入れようがあのタイプはやりたいことに暴走するに決まってんだから
友達でも作ってあげるか頼りにされるかって基本は2択だろ

でなきゃ一人で大事な爆弾抱えてドカン
わかってることじゃんか

【ボク見てりゃわかるだろ?
と言いつつもぐもぐ】

『室長補佐代理』 > 「結果からみた日和見で一度『クビ』になってるんでな。そういう『多分』で物は考えたくねぇのさ。
何とかなっているなら、何とかならなくなった時の事を考えるべきだ。
とりあえず、飛ばすことは不可能だ。それは人事部の権限だ。
俺の手元に置かれている以上、俺に期待されている仕事は『利用』と『監視』だ。
それは薄野も多分わかってるだろう。だからこそ、それについては懇切丁寧に説明する必要はない」

サンドイッチをまた一口。
意外と食欲は戻るものだ。話す相手のお陰だろうか。
考えてみれば、彼女と喋るときはだいたい食事のシーンが多かったように思える。
条件反射というのも中々バカにならないものだ。

「ああ、ほったらかしさ。『そういうこと』にしている。今まで通りな」 
 
故に、それもいつもの調子に戻ってきたからだろうか。
男はそこでまた……にやりと笑う。
 
「今までと違うところは……『お前が俺の実質的な部下』であるということだけだ。
それは、『今まで通り』に『今まで通り』が出来ることになると、俺は期待しているんだがな?」

ヴィクトリア > あー、そっか
そーいやお前、ボクより感情の扱いが下手だっけな?

お前も割と宝の詰まった爆弾箱抱え落ちしそうなのに、理性で最後捨てるタイプだっての忘れてた
だからお前さ、他人も最後はどっかで理性が勝てば無事でいられるって思ってんだよ

殆どの人はむしろ感情が先に立って、宝の詰まった爆弾入りの箱抱えたら捨てらんないんだよ
まだ大丈夫、まだ大丈夫ってな?
爆発したあともまだ大丈夫って言いながら死ぬんだ

【そしてケーキ追加
ザッハトルテ、あとコーヒーおかわり

うむ、AIは頭脳労働なのだ……
甘いものは必要だからな!!(いいわけ】

なんでかっつったら、感情は真実で事実で当人には正しいからだよ
どんなに理屈で間違ってても、物理的に狂ってても本人には正しいし唯一絶対なわけ
なにせ感じちゃうからな、発生した時点でそれは事実で自分に生まれた疑いよーのない真実だ
経験で体験で現在進行形の過去で未来だからな

それと比べると理屈や理性ってのは、他人の論理だ
本に書いてあるから正しい、誰かが言ってたから正しいってのが理屈の基本だからな
水を飲まなきゃ死んじゃうってことすら実証しないと事実にはならないんだ

ま、基本的には分かってんだろーが、改めて説明するとそーゆーことだ
たぶんお前、その理屈がいまいちわかってない、理屈で物が考えられる貴重な人材だからな

ボクぐらい感情に振り回されるバカになってくると、説明するまでもないことなんだが
世の中はそういうテキトーな感情で回ってる

でもお前……理屈は理屈、感情は感情で分けて回してるんじゃね?

それはすごく貴重でいいことなんだが、その理屈で話すと、部下は感情の生き物だから、死ぬぜ?
でも理屈だと既に言うべきことは言ってあるし伝えてあるから問題ないことになるんだな、コレが

そーするとな、不思議なことに正しいのに狂った結果になるだろ?
たぶんそーいうとこ悩んでるんじゃね?
ま、当たってるかどーかはしんないけどな、似たようなところじゃねーの?

それに……お前今さ、殺していいかどうかの判断してね?
それボクに全振りってのはナシだぜ、部下だって言い方するなら余計にな
グループのシステム的問題であって、個人の問題にするべきじゃないんじゃないかと思うんでな?

【チョコで汚れた指を舐めつつ、ちょっと方向を変えて話してみる
たぶんコイツの弱点といえば、ここだ
んでコイツ切り離す前に悩んで、終わってから戻ってきた感情で悩むんだ】

『室長補佐代理』 > 男の表情が、固まる。
笑みではない。侮りでもない。嘲りでもない。
ただ、固まる。
思考するが故に。ただ、その一言を受けて、凍りついたが故に。
 
【でもお前……理屈は理屈、感情は感情で分けて回してるんじゃね?】
 
それに対して、『感情の扱いが下手』な男が、どうして反論ができるだろうか。
どうして、反駁することができるであろうか。
手に持ったコーヒーを、テーブルに置く。それしかできない。
ただ、それしかできず、沈黙する。
片手で、ヴィクトリアの発言を一度静止してから、沈黙する。
言葉ではない。それを発する余裕はない。
ただ、仕草で通して、沈黙するほかない。
爆弾を抱えたまま一度死んだ自分に対して、その打擲は正鵠を得ている。
ならば、それ以上ができようはずもない。
ただ、男は故に黙る。
黙り込んで、考え込む。
十二分に黙り、十二分に待たせ、十二分に考え込んだ末。
男は、頭を振った。
 
相手が、昔馴染みだからかもしれない。
色々あった相手だからなのかもしれない。
嘗ては色を帯びた話もした仲であるからかもしれない。
いずれにせよ、それは恐らく感情だ。
しかし、その感情の細部を知れないほどに、男はその問いに対して答えを持っていなかった。
 
「待たせて、悪い」
 
まずは、ただそう謝ってから、笑みを消して、首を垂れる。
考えた末に、そうする。
 
「色々、その問いに対する答えを考えたが……多分俺は分かってない。
お前がいうように『理屈』で片付けようとしてるのは分かる。
性質が悪い事にそこに『感情』が含まれていると織り込んでな。
だから、お前の云う事は俺にはきっとわからない。わかってない。
『理屈』の域を出てない。それも多分隙がある。
言い訳はできる。でも、それ以上がきっとできない。
だから、教えてくれないか。俺は多分、何がわからないかすら、俺には分かってない。
俺には……何が分かってねぇんだ?」

恐らく、それの先達であるであろう相手に、素直に問う。
知らないのなら、それは取り繕ってもしょうがない。
素直に不備を認めるほかない。

ヴィクトリア > あー。
なんかちょっと深刻に考え過ぎだお前
これ本来お前の得意分野なんだからな?

【……なんかだいぶ深刻だなーと思う
が、ちょっと勘違いしてるだけだ
ひとことで言うと素直じゃねーってやつだ
ザッハトルテが来るまで説明しよーか】

ま、んじゃおさらいから始めようか

とりあえず基本説明な?
アレだ、つまり理屈でどーにか正しいって思ってることで、色んな所のバランス調整に走るのがお前
感情を封殺して、できることに関しては精一杯譲歩、出来ないことは最初っから捨てるっていうスタンスなわけな?
もちろんこのことに関して優秀だし文句ない
自分と組織の基本概念にも合うし、迷惑も少ないし問題も起こしにくい

ただ、2つ問題があってな?
ひとつは、別に自分の感情が納得いくわけじゃねーってこと
例えば、この間の件でボクが目の前で頭吹っ飛ばされたらお前冷静じゃいられねーだろ?
もちろん、その場では取り乱さなくても、だ
あとからなんかなかったのかって考えて、んで、結局は現在のことに忙殺されて過去のことだからって諦めるからな

もうひとつは、部下の育成
さっきも言ったように世の中ほとんど感情の生き物なんで、感情を殺されると理屈が正しくても死ぬんだ
本人にとって感情が真実であるがゆえに他人の正しさには寄り添えない
だが理屈は間違ってないから理屈の正しさを何処かで押し通す必要はあるよな?
でもそういう時、そういう軋轢に部下だけじゃ耐えられないことのが多いわけ

……特に死んだり殺したりするところだとね?

お、来た来た♪

【そこでケーキが来る
ほくほくした顔でザッハトルテに手を伸ばす
こいつのこうした真剣な顔は可愛がりたくなるというかからかいたくなるところがある

……がまあ、今はもったいぶる程度に抑えておこう】

ま、基本的にそんな難しく考えることじゃない

お前のそのスタンスは正しいんだが、今のところそれで便利なのは上とお前とそれをわかる連中だけって性質がある
なのになんで正しいかってったら……

そりゃ、お前………………問題をそのまままっすぐに捉えないで柔らかく分解しなおしてるからだよ

今回も一緒
つまりは感情が真実だってならその真実に都合と理屈を合わせりゃいいんだ
でもそのままぶんあげるとみんな怒るから、どーするかってったら先入観を弄るわけ

もともと理屈は正しいんだから、頭のどっかでその理屈に沿わなきゃいけないことは分かってんだよ
である以上は感情にそれに従う理由をくっつけてやんだよ

例えば特にやる気のないパトロールが、恋人っていう守りべき対象が出来たりしたら意味が変化するだろ?
見たところそのツヅラってのもそのタイプだ

だから落第街上がりでクロノスなんかに傾倒するわけ
で、クロノスのやつ、目的はどうあれやってることはアレだ
そういうのも、感情が先走ってそれに理屈合わせてるからああなるわけ
もしかしたらそれでもっと上の方と戦うとか、経済状況を改善するとか、流通を作るとか、インフラ整備するとか
そういった戦いできたはずだろ?

感情に合わせてやるべきことを与えるってのがボクは大事だと思うねぇ?

こんな、進退を決める分水嶺で感情をこれ以上かけないことを決めるかどうか迷うんじゃなくてさ
そういう感情がお前にあるなら、他人の感情の方向性に仕事を与えてやるってことは出来るんじゃないかな?

さっきも言ったように感情は正しいんだ、なら、それを理屈で肯定してやればいい
プチ妥協なら案外してくれるもんだからな?
ほら、チョコケーキがなくても甘いモノ食べたかったら、ほかのケーキ食うだろ?
そんなもんだ

ただまあ、最後に目当ての物食えるかどうかってのがあるけど、それはもしかしたら他の店で叶う場合もあるからな
今すぐ欲しい絶対欲しいってわがままさえ殴っときゃ、あとはそこそこどーにかなるもんだよ
……ま、お前の問題はまた別だけどな?
とりあえず今の件は、そんな感じ
【苦笑しつつ、相変わらず熔けたチョコで手をベタベタにしながら手づかみでザッハトルテを食べる
説明しながらなのでもちろん、チョコが溶け、手はチョコだらけである】

『室長補佐代理』 > 男は悩んでいた。
未だかつてない程、懊悩していた。
割り切っている方ではあったと思う。そこに悩みも付随していたと思う。
なら、それは考えた末の答えであるはずだと思うが、それは『そう思い込んでいた何か』である可能性は常にある。
故に、彼女のいうことは、まぁわかる。
聞けば分かる。
いや、わかってるのか?
言葉の意味は分かるだけではないのか?
それも会話としての意味ではなく、単語としての意味がわかっているだけではないのか?
男は今はそう自分を疑っている。
なら、それは理解ではない。
そこまではわかった。わかったつもりになれる。
だが、そこから先はどうだろうか。
自分は正直にいえば、感情は理屈の一部だと思っている。
多分そうだろうと思う。
別物であることはなんとなくわかるが、感情を言い訳にするならそれは最早理屈であろう。
数値化された衝動を原因として結果を示すのならばそれは最早理屈であるはずだ。
無理屈は理屈に勝る理屈でしかない。
少なくとも、男はそう思っている。開き直りは開き直りという理なのだ。
男の掲げる正義ですら言ってみればその一種である。
たまたまそういう開き直りを迎合し、共にしてくれる組織があるだけだ。
いや、自分が寄せただけともいえるのではないだろうか。
まぁそこはいい。今は関係ない気がする。
必死に悩んでいるが本当にそれくらいしか、答えらしい答えがでない。
これを口に出していいのかすら悩んでいる。
いや、どっちにしろわからないことにかわりはないのだからまぁそれはいいのだろう、多分。
 
故に、男はたっぷり時間をかけて、ようやく声を出した。
最早、サンドイッチもコーヒーも見ていない。
手を付けられない。
背景も見ていない。
ただ、ヴィクトリアの言葉に対して顔を見ながらどうにか返答できるだけだ。
表情も最早気にしていないので、今どんな顔をしているのかわからない。
わからないことはわからない。
わからないのだ。
 
「ホントによくわからねぇんだけど……なんだ、つまりあれか? 個人の欲求を満たすことを優先してやりながら、それに婉曲的にでも貢献できる仕事をまわせばいいってことか? 説明してやりながら?」
 
どうにか、出来た理解はそんなところである。
感情とは欲求であるはずだ。そうしたいと思う衝動であるはずだ。
なら、それに沿った何かを付随した責務を与えれば誘導は可能なのではないだろうか?
そんな風に男は思った。

ヴィクトリア > あー、なるほどなぁ
ちょっともう一回説明するか

感情ってのは自発的に生まれるもんだよな?
理屈がどうあろうとそれとは関係なく「感じてしまう」物事だ
つまり発生した時点で、事実だ

例えば、極端な話だが、他人がどんなに美味いって大喜びする食べ物てもマズいって感じちまったら、それが本人の真実だよな?
感情ってのは「体験」なんだ、事実であり過去であり正しいのさ

そこで大勢の連中が美味いって言ってる食べ物だから、一般的には美味いんだろうなって捉えるのが理屈
周りがどう思ってようとマズいもんはマズいから二度とボクに勧めんなってのが感情
感情は自分の中においてそこは揺るがないよな?

お前たぶん、その区別がついてない
お前の中で感情は、ただ自分だけのもので考えずに、理屈があってそれと対比していくものだからだ
だからお前の場合、勧めんじゃねーよ、と思いつつ、立場を考えてしぶしぶ笑顔で食ってみせたりすることに慣れてんのさ

で、世間がそうじゃないってことはわかるよな?
普通は「マズいもんはマズい」だ
マズイ飯なんか我慢して食えないから、まずい飯のない世界をつくろうとしたりメニューを否定したり大忙しだ
もしかしたらちょっと調味料を入れれば美味いかもしんないし、3年したら味覚変わるかもしんないし
同じ料理でも完成度高くて同じ料理と思えないほど美味いものがある可能性まで否定すんだよ
普通、ファーストフードでバーガーの汚れてないバンズを残して、上にサンデー乗っけて別のデザートにしちまったりしないだろ?
ボクらはそう言うのできるが、一般は無理なんだ

だから、代わりに美味い食い方を教えてやる必要があんのさ
まずいファーストフードを滅ぼそうとしにいく前に、旨いハンバーガー食わせたりするべきだってこと

【コーヒーをすすりつつ、話に付き合う
おそらく考え過ぎだなコレ
ま、放っときゃ結果出るだろ】

お前に関しちゃ基本的に「理屈が正しければ自分の感情を曲げられる」「感じてもそれを俯瞰で判断し直す」ってのが長所であり
それを他人にも期待するってのが短所だ

で、判断が早いんで「その気配」がありゃ、ある時点を境に自分が感情が許される範囲を計算し、それ以上は抑えるってスタンスだ
だから被害も少なければバランスもいいし判断も綺麗で事故も少ない
反動がないわけじゃないんで、まず事前に覚悟して、終わったあとで引きずったりするけどな

ただ、それはさっきも言ったように、もともとは感情の生き物からすると「よくわからない」んだ
他人から見て「なんで理屈で割り切れるのか」と理解できないわけだ
判断が早いんでな、実際には他人が悩むような時期よりもっと前に悩んで、決断を先延ばしにしないだけなんだけどな?
そのタイミングがずれてるから、他人にはわかんねーんだ

でも一見するとそうはなってないだろ?

それがどうして上手く回ってるように見えるかってったら
……お前、理屈に感情くっつけて別に譲歩しないわけでも悩まないわけでもないからだよ
それがお前の目も周りの目も勘違いさせるのさ、正しい理屈に感情くっつけて出来る限りのことはやってるからな

ただな……お前、そこですることはほぼ忠告と心づもりしかしないと来てる、決めちまったら基本、不干渉なんだよ
それはお前がすでに決定したモノを超えルヤばさを知ってるし、それが精一杯できることだからだ
だがもちろん、他人は感情による大作戦が絶賛進行中だから聞きゃしないわな?
失敗して破綻した時に、その伏線に気付くだけだ

だからこれはシステムでグループの問題って言ったんだよ
別に誰が問題あるって話じゃないからな?
暴走する奴が来るたびに問題起こして自己責任を繰り返すわけ

ボクがお前の補佐みたいなもんなら副官的にフォローすんのもいいけど、臨時の幽霊委員にそれ期待すんのはアレだろ?
だからって麻美子にそれ期待するワケじゃねーだろ?
アレも根っこじゃたぶんお前と気が合うぐらいだから相当「早い」
早い奴はお前の気遣いがわかるからな?
そこに気付かない……というか、気付いても直進する奴がいま問題になってるわけだから解決しないんだよ

【ザッハトルテで手がベッタベタである
もちろんコレを舐めるのがヴィクトリアが好きなので、まるでネコみたいな状態である
皿の上のクリームまで指で拾うのは行儀悪いのだが
慣れているだけあって、意地汚いというよりは案外普通なのもいつものことだ】

『室長補佐代理』 > 言われるたびに、男は頷く。
ただ、言われるままに頷く。途中で口を差し挟む事もなく、ただただ頷く。
目にふざけた色はない。真剣そのものだ。
ここまで、男がその論説に意見を差し挟まないことは、恐らく、長い付き合いのあった二人でも初めてであろう。
それくらいに男は言われたことを聞いて、その度に悩んでいた。
当然、ヴィクトリアの言うことは分かる。噛み砕かれればよくわかる。
その指摘は正に正鵠を得ていて、何一つ間違いがないように思える。
理屈で考えればそうだ。これはそういう話だ。
だが、彼女はそうではないという。理屈ではなく感情の話であることは男にはわかった。
感情というものが時に理屈に勝ることであることも『理屈』ではわかっている。
この時点でもう感情に依っていないという打擲なのであろう。
それはよくわかる。非常によくわかる。だが、わかった時点で恐らく『分かっていない』のだ。
なら、どうしろというのか。
これはそういう話だと男は理解したが、多分間違っていることも理解している。
故に、ただ渋面を作る他なく、ヴィクトリアに「?」をつけて問い返される度に目を細め、口元を引き締める。
コーヒーはもうすっかり冷めてるし、サンドイッチは表面が乾き始めた。
だが、男は手を付けもせずにただ、悩んでいる。
その上で、やっぱりこれは知ったかぶっても仕方がないと踏んで、ザッハトルテを食べ終わったタイミングで男は満を持して、こういった。

 
「なるほど、わからん事がわかった」 
 
 
ヴィクトリアなら分かるであろう真実であり、嘘偽りのない言葉であった。
男は律儀であり、真面目である。なら、そこで取り繕うことはない。
『考え過ぎ』しか結局男にはできない。なら、それはわからないのだろう。
 
「じゃあなんだ、つまり……薄野の件は、結局どうするのがいいとヴィクトリアは思うんだ?
俺は、まぁ今まで通りに監視を続けるしかないと思ってるんだが」 
 
しかし、それは強固であり、安牌であり、むしろ否定されたところで続ける当たり前の公安の仕事でしかない。
今までもこれからもずっとしていることだ。
それの単純な強化をしたところで保険になるだけである。
それもわかっている、故に、抜本的な解決策がこの少女にはあるのではないかと男は期待した。
珍しく全面的に他人に頼っているが、そのへんの自覚は一切ない。 
 

ヴィクトリア > まー、基本は本人が欲してる物事に通じるコトやらせたり、うまい飯の食い方教えるってことだな
「なにやってるかわかんねー、これホントになんか役に立つんですか!?」
って状態を避けてやんだよ
もしくは修行ってか地道なことさせて、やったらご褒美、耐えらんなきゃどっかいけって放逐するとかだ
できれば効果が見えるやつがいいな

何にしても単純に忙しいとか、感情で突っ走りだすと充実するからな
んー、ほら、お前も麻美子いるんだからわかるだろ?

あ、そーだな……感情について、もしコレ以上困るなら、

「自分が当事者としてこの件に当たった時、麻美子が絡んだらどう判断する?」

みたいなこと考えるとわかりやすいんじゃね?

例えばさ、治安的に麻美子の家近辺がヤバイとする
公安には人員が足りない、風紀も忙しくて手を付けらんない
物理的にどーしよーもないとして、その理不尽さに耐えねーといけないって時
それ納得して身内危険に晒したまま公安信用して仕事出来るのかって話だな

死人に鞭打つようで悪ぃが、クロノスの場合、それが局所的に行き過ぎてあーなったんだろ?
見て見ぬふりや仕方ないで済ませられなくなったワケだ

【そして、目の前の人物書類に目を落とし、アゴで指し示す
まさかチョコまみれの手で触るわけにもいかないからだ】

で、共感はしたけど実行に移らなかったから運良くコイツは残ってる
ただ、コイツの理性が勝ったわけじゃなく、クロノスの残った理性がコイツに向けられてたからだ
基本的に中身は変わんねーし、縮小再生産みたいなもんだ
落第街上がりのやつは、自分と同じ境遇の連中が捨てらんないか、同じじゃないって思ってるかほぼどっちかだ
で、コイツは前者……共感したってことは捨てらんない側だ

いわばお前にとってもコイツにとっても、クロノスで試せなかったこと、出来なかったことを拾う機会でもあるってこと

【ま、問題は簡単だ
優秀すぎて、代理の野郎が「感情」を体験でなく「知識」として扱っちまうってことだ
だから他人のもそんなもんだと思ってんだろう、割と
こいつ自分が我慢できなくなるより前に覚悟を先に決めちまうからな

コーヒーカップを空けながら、さして深刻になるでもなくそう考える

それをいきなり当事者的立場に放り込まれたから混乱してるだけのことだ
……たまにはいいだろ、世間一般が悩んでるような悩みに放り込むのもな?】

ま、お前の方は基本的にそんなもんだ
……放っときゃ解決つくと思ってるけどな?
お前、体験である感情も「それはそれ」として考えて、判断を鈍らすと色んな所に影響が出るから割と客観視するよーにしてんだよ
知識の一環として扱おうとしてっから、自分の感情にあんま素直じゃねーんだわ

世間はそーじゃなくて、他人の言ったこと、つまり客観を信用しねーから、体験をベースに考えるんだ
聞いたことは信用しない、見たこと感じたことしか信じねーってやつだ
主観的ってやつだな……だから体験に騙されるんだけど

……そんでも他人の感情について考えらんねってなら、客観的にそう判断しときゃいーだろ?

【……現にボクが体験なんか関係ないって奴だからな
AIである以上、ボクは誰かにデザインされて、誰かの都合で作られてんだ
ボクからすると真実は……こうやって甘いモノを好き放題に食べても太らないってことだけだ

……頭脳労働をするAIには甘味が必要だという持論は今度どこかにまとめておこう】

んじゃま、最後に重要なとこ聞くぜ

……おまえさ、コイツをどーしたいんだ?

助けたいにしろ特にどーでもいいにしろ、今んトコ中身がねーんだよ
わかりやすく言うなら「来年にはどうなってて欲しーんだ?」だよ
それがないまま現状に任せっきりにして様子見、挙句、自滅しましたとか切られましたって言うまで放置するってのは
お前がそれに満足してるならともかく、そーでないってなら、そりゃ上から見ても3度目はねーだろっていう話にはなるぜ

「どーしたい」があってそれから「どうしよーか」だ

それもないままどうしよーかって悩んだって今までどおりの結果しか出ねーと思うぞ?
したいよーにさせたらそーゆー傾向の持ち主なんだから時間の問題だろ?

……直接の相談に乗れるのはそっからだぜ?
それまでは悩み相談室だな……くすくす、コレじゃいつもと立場逆だなぁ、ええ?

【くすくすとからかうように苦笑する
いつも大抵不満をぶちまけるのはボクで、コイツはボクを満足させる御用聞きだった
暴れるボクをコイツが面倒を見るってパターンだ
それが何だ、今日はボクが面倒見だぜ……? 面白いこともあるもんだ】

『室長補佐代理』 > 「……こう見えて俺も若造なんでね」
 
これまた珍しく苦虫をかみつぶしたような顔をして、舌打ちをする。
普段なら恫喝の意味合いも含まれるそれなのであろうが、今はこの有様だ。
迫力も何もあったものではない。
だからこそ、ヴィクトリアの苦笑に男はつい目を背けたのだろう。
故に、想像が加速する。
人は本当に悩んだとき、明後日の方向を向くという。
脳と眼球は繋がっている。
故に、本当に悩んだとき、人は脳の指令が赴くままに明後日の方向を向くのだ。
左斜め上の虚空を睨みつけながら、男は懊悩した。
麻美子の身に危険があったらどうするか。
ヴィクトリアが犬飼と一緒に居られないような事があったらどうするか。
クロノスが生きてたらどうなったのか。
薄野を今後、どうしてやりたいのか。
ただ、想像した。考えた。
なんでもないように、ただ想像した。
極々当たり前の一年後を想像してみた。
普通なら一番そうなりそうなものを取捨選択する。
だが、それは今回は度外視しろといわれた。
最適解でいいといわれた。
いや、ちがう、『都合が良い解答』でいいと、ヴィクトリアはいってくれた。
なら、それを『考えて』処理してみよう。
考え込むのはNGだが、考えるくらいはいいだろう。
じゃなきゃ、もうお手上げだ。
だからこそ、開き直ってもう出来る限り簡素に想像して。
簡単にただそうなったらいいんじゃないかと思って。
ただ、なんとなく。
それとなく。
ただ、手に取れるだけの『それ』を、口にしてみた。 
 
「変わらず、部下でいてくれると……嬉しいような気がするな」
 
ただ、そう、何と無しに口にしてから、ハッとなって頭を振り。 
 
「いや、それが一番都合がいいからな? まぁ、それだけのことだ」 
 
クソ真面目な顔で、そう言い返した。

ヴィクトリア > おう……んじゃ、まぁ、そーゆーことだな

なら、このままほっといたら火傷しそーな奴の様子見ってこたねーだろ?
一度死ぬほど火傷すれすれにまで持ってってヤバさ教えるとか、柵つけるなり何なりするしかねーし?

ただ、な……都合のいいことにコレ相手には呪文があってな?
「お前このままクロノスみたいにいなくなるつもりか?」
って言えば、大抵のことは通るし、通んなくても一度考えなおす可能性が大だ

キツイんで、感情的になってる時に名前出すと嫌われるかもだし
むしろヤバイ方に一直線ってことはありうるけどな?

ま、名前出す出さないはともかく「お前もいなくなるのはカンベンしてくれ」ってのは結構でかいと思うぜ?

クロノスを含めお前らが夢見てたフツーの1年後ってやつは、コイツも見たいんじゃねーの?

【ま、答えはシンプルだった
一度話してみろってことで、それ以上でもそれ以下でもない】

あと、お前は麻美子がいるんだから多少ヤバイ言葉でも使えるのは美味しいな?

【多少ドキッとするよーな言葉使ったところで、心に釘を刺す効果使えるのはいいな、ということだ
隙を突いた時に言葉は一番刺さる……今日のように】

『室長補佐代理』 > 「なるほど」
 
素直に、頷く。
ようは遠まわしが過ぎると恐らく彼女は言いたいのだろう。
それは自分も分かる気がする。
男の常識では言わなくて良い事のほうが言った方が良い事よりも圧倒的に多いのだが、どうもそれが違うようである。
理屈では釈然とし難い所があるが、まぁこの分野は不得手だ。
大人しく師匠に従うのが無難であろう。
いや、どうだろうか。本当に無難だろうか。
そこで安易に寄りかかったら結局『ダメ』なのではないだろうか。
いやいや、その安易がまさに感情の正体なのだろうか?
それも違う気がする。
結局考え始めてしまい、考え込むとダメだったなと思い直してそこでやめる。
結論を出すまでやるのではなく途中でやめるのが正解なのだろうか。
それも違う気がするが、どうにもそこは……いや、これがダメなんだったな。
たっぷり二往復はそういった懊悩を繰り返してから、ようやく返答を続ける。
 
珍しく、今までの問答の中で唯一、男にも理解できそうな単語が出てきたからだ。
  

故にであろう、男は不敵な表情を浮かべ、じわりと……いつもの汚泥を思わせる滲む笑みを滴らせて、返答した。
それこそ、我が意得たりといった様子で。

「なるほど、結局はそれなんだな……多少『ヤバい言葉』か……それなら、得意分野だな」
 
それなら、自分にもできそうだと、自信満々に。
男にとってはそうであった。暗喩が入り混じるとこうなる。 

ヴィクトリア > お、やっといつもの調子ぽくなってきたな?

ま、簡単にいえば、フツーは自分が気持ちイイところに落ち着くんだよ
だから、放っといたらそーする
多少ほのめかしたってダメだ、「そうしたい」んだからな?

放っといたらそーするものを変えるには、キッカケがいるだろ?

英語覚えようってんでも、ジョギング始めるってんでも、趣味を見つけるんでもキッカケだ
感情が納得するようにそいつをくれてやればいーんじゃね?

【ま、この顔が出たんなら時間の問題だろ
コレで感情まで利用できるよーになってきたらだいぶえげつなくなるな】

なんにせよ、ボクが言ったのは基本的にたとえ話だからな
お前がやりやすくて合ってるやり方ってやつに変換してやればあとは慣れだろ

それにお前どんだけ権謀術数回しても、根が単純だからな?
だから嫌われねーし、この場で「楽しい学園生活が続くといいな」なんて真顔で言えるんだよ

【……ま、ボクはどーなるかわかんねーからな?
とは言わないでおいた
今のところはとりあえず無事そーだが、「誰か」にとって要らなくなったら捨てられる可能性もある
犬飼がボクを捨てるってことは無くても「二代目局長」はありうるのだ、ボクのように
……もっともボクはバージョン1.13だけどな? 二代目どころじゃない】

『室長補佐代理』 > 「まぁ俺は俺が優秀であると思ったことはない。単純なのは重々承知のつもりだ。
それに、俺は俺の日常を守る為に正義をやってる利己主義者だからな。
それは、揺るがないし、揺るがせるつもりもない。
力なき凡人が利己主義を突き詰めると、社会評価を得つつ間接的に個人の力を得ることが最大利益になる。
俺は、それを実行しているだけだ」

言わなくても分かるだろうとばかりにそう嘯く。
実際、世の中には言わないと分からない事も多く、これは恐らくその一種なのだが、男はそのあたり無自覚である。
割と本気で世の中の大半、特に社会構造に対する理解は『言わなくても分かる』と思っているのだ。
自己評価が低い故に、そうなっている。
その辺りに自覚を持つにはもうしばらく時間が必要なのだろう。
 
「とりあえず一先ずの対策は分かった。とにかく、やってはみよう。
相談乗ってくれてありがとな。礼といっちゃなんだが、此処は俺が持つわ」

ヴィクトリア > お前さ、それ難しく回しすぎ
世の中理不尽だから、せめて自分と身の回りがちょっと幸せならいいな、でいいじゃん?
それ以上でもそれ以下でもねーんだから

あとお前、自分と同じことが他人にも出来るって思うな
それすげー勘違いの始まりだから

全員認識はバラバラで違うんだ、同じ景色を同じ時間に完全に同じ位置から見ることはないし
同じことなんかねーんだよ
考えてもみろ、そのへんの機械だって寸分違わず同じにはならねーんだぞ
曖昧でアバウトが得意な人間が同じように出来るわけねーだろ
そもそも歩くことですら当たり前じゃねーんだ、その腕ならわかるだろ?
当たり前と思ってることが当たり前でなくなった時、周りの人間があたりまえだと思ってると理解に至らねーんだよ
だからお前みたいな位置にいる奴が当たり前になるな、疑いやがれ

【ま、ボクみたいに存在自体がそうだって場合もあるからな?
当たり前ってのは怖いもんだ……と思う

いや、まぁ……ボクのコレは予想できるもんじゃないけどな、普通?】

つまりだ
……ココの払いは当たり前なので、それを疑うとして
今度ドコ連れてってくれる?

【いいことを言ったと思ったら罠だった】

『室長補佐代理』 > 「そうかぁ……? 
まぁこの腕とか異能だのはともかく、知恵だの知識だのに依るところは、俺程度に出来ることは大半の奴は本気出せば出来ると思うんだが……
まぁ、お前がそういうなら信用しとこう」
 
釈然としないといった様子でそこは首を傾げる。
男は物を疑うことはできる。それは仕事である。
故に、自分の実力を常に『疑って』いる。
その弊害ともいえるのかもしれない。
当たり前や常識によって盲目となり得る怖さは男も自覚しているつもりだが、己の実力に依るものとなるとそれは懐疑的である。
なにせ、男は自分が有能とは微塵も思っていない。
それが全ての原因なのかもしれない。
何が問題なにか。
己の力量不足という定義の中で再び原因を求めよう自家撞着に陥りかけたところで、丁度、ヴィクトリアからそう声が掛かって溜息をつく。
 
「おまえ……もう犬飼いるのにいいのかよ。
まぁ、でも世話になったことに違いはねぇしな。わかったよ。
またどっかフルコースでいいか? いや、いっそ、高いケーキでも食いいくか?
もう気取ってなくていいんだろ」

ヴィクトリア > そんなもんだ
あと、本気出せばっつーけど、普通は本気は出さないし
本気出さない程度が本気だと思ってるっていえばわかりやすいか?

テスト前に一夜漬けを本気って言わないだろーがよ
んで、それを毎回繰り返すんだよ

【だいたい、そんな動けないやつをそんな位置に置いとくかよ
ま、臆病だから有能だってところなんだが、出し惜しみするのも長所だから余計そーなるんだろな……

公安はコイツが暴力を振るわずに解決する物事も多い
つまり、成果の割にだいぶ予算が抑えられているのだ
……西園寺やクロノスみたいな件がなければ
あ、ボクの件もそうか? あんな穴の空き方からすっとゲート弾だし高いんだろなアレ】

お前、犬飼のやつが甘いモノ食ったり高級店に行ってまともな行動できると思うのか?
そんなこと言ってるとアイツのぶんまで奢らすぞ?
別に気取ってなくても構わねーけど……気取らなくていいってどういう意味の言葉だ?

【コイツどこまで知ってんだ……? 
さすがにココはチェックしとかねーとな】

『室長補佐代理』 > 「いや、前はだって高級店無理にいくようなところあったようなきがしたけど……今は甘いもの好きなだけくっていいんだろ?
じゃあ、今度はそれでもいいじゃねーか。
別にそれだって付き合うぞ。飴玉だけくいてぇとかいうアホを抜かすなら流石に呆れるけどな」 
 
と、何でもない様にいう。
多分、適当に察しているだけで、細部は知らないのだろう。
そして、それは知る必要もないと思っている男である。
真実と虚実に区別をつけず、ただ事実を尊ぶ男であることはヴィクトリアも恐らく承知のはずである。
 
「しかし、本気を出さない事が本気って……なんだよそれ、謎かけか?
いよいよ意味不明だな……一夜漬けでもなんでも結果出ればまぁいいと思うけどよ」
 
そのあたりも、大真面目に答えている。
自分の行動は自分の行動である以上、男にとっては何もかも『当然』であり、それ以上でもそれ以下でもない。
故に、それは無自覚であり、理解もし難いのだろう。
ヴィクトリアが言えば言うほど、頭を捻らせている。
 
「まぁ、とにかく……礼はする、どこいきてぇんだ?」

ヴィクトリア > まー、高級店が好きなのは変わんねーぞ?
あと甘いモノが好きなのも変わんねーぞ?

ただ、この間の件で、体質的に思う存分甘いモノ食っても太らねーってのがわかっただけだ
それと、犬飼のせいでクズとは思っててもあんま卑下しなくなっただけだ

【体質的に食っても太らないことに関しては世の女子に恨まれそ~だし感謝していいと思うが
素性を自覚したことでクズだとは思っても正確に把握できるよーになったのはでかい
依存癖もマスター相手で満たされてしまうし、ダメなことを気にすることはあっても、設定だと知っていればだいぶ違う

ま、コイツが特に気にしないならそれはそれでいーだろ
素性割れたとこで気にしそーなやつでもないし、おおっぴらにする奴でもないしな】

……ま、今回はスイーツで行くか
手づかみで食えねーなぁ……

【フルコースだと犬飼と一緒がいいな、とも少し思ってしまうのだった
もしかすると少し態度に出たかもしれない】

『室長補佐代理』 > 「じゃ、そういうことで。
つーか、太るとか太らないとか、気にしてたのかお前。
それをまず初めて知ったぜ」

あんだけ好きなだけ食っといて、といいそうになったが、流石にやめておく。
藪を突いてこれ以上蛇を出すこともない。
一先ず、今後の方針も決まったし、今日はここまでだ。
そうときまれば、とばかりに乾ききったサンドイッチを頬張り、コーヒーで一気に流し込む。
そして、そのまま伝票を掻っ攫って立ち上がる。
 
「んじゃ、またな。ヴィクトリア。店はお前が決めとけ。
甘い所は俺は詳しくねーからな。食いたいもんくらい自分で決めろ。
さっきのレクチャー内容からすれば、それが妥当なんだろ? 多分だけどな」
 
昔だったら妙に気を回して男が探していたのだろうが、今は違う。
なら、そこは任せるべきところだろう。
そんな風に考えて、男はレジに向かって去って行った。
 
どことなく、最初よりは晴れやかな面持ちで。

ヴィクトリア > いや太るとか太らないとか気にしたことないけどな?
こーゆーんで太ったことねーもの
それが最近体質だって分かってますます安心しただけだ

【もともと食いたいだけ食って好きなだけ寝る生活していたのだ
それで太らないのであれば太らないと考えるのが妥当ではある
しかも、そもそもデザインされた体は、未発達ながら男を殺すようにできている
本人は見た目を気にしているが、女性らしいボディではないだけで、肢体としてはキレイなものだ】

うーあー!
いつもみたいになんかお前がいいところ発掘してくんの期待してたのに!?
お前、ボクが探すよりいいところ見つけてくんだもんよー
……わかったよ今度はボクがどっか探しとくよ畜生
貸し切りにして手づかみで食ってやるからな!覚悟しとけよ!!

【ケーキを手づかみで食べることにこだわるヴィクトリアであった
まあ、なんにせよ見事なまでに腐れ縁だった】

ご案内:「カフェテラス「橘」」からヴィクトリアさんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から『室長補佐代理』さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」に青砥 朱音さんが現れました。
青砥 朱音 > 「まさか、エアコンがお釈迦になるとはねぇ・・・」

恨めしげな声で独り言を呟きながら、扉を開く
先日、自身の部屋の空調が酷使に耐えかねたのか、ストライキを敢行してしまったのだ
自身で修理を行うことも出来るのだが、熱気が充満した密室でそんな自殺行為をするほど馬鹿ではない

そういうことはブルーカラーにお任せ、と電話で修理依頼を取り付け、自身はここ、カフェテラスに涼み・・・いや、書類仕事を片付けに来たのだ

カフェテラスに現れた朱音は店内の
――とりわけ空調設備に近い席に陣取り
アイスコーヒーと少々のクッキーをオーダーした

「多少の出費はやむなしとしても、ここのコーヒーは格別なのよねぇ♪」

ウキウキとした声で一人ごちると、トートバックから薄型のノートPCを取り出し、起動した

ご案内:「カフェテラス「橘」」にライガさんが現れました。
青砥 朱音 > ファイルやフォルダが散乱するデスクトップ上から、迷うことなく1つのワードファイルを開く
すると、一瞬遅れて画面全体が白く染まった
乱雑に並ぶ文字列と数値やABCが並んだリスト
受け持つ生徒の成績に関する、外部流出禁止のデータだ

「えーっと・・・、テストの採点データは・・・14Pか」

慣れた手つきでページをスクロールし、目的の項を見つける
リストに打ち込まれている数字は一番上が95、一番下が2である

「しっかし、あのテストでよくもこんなに高得点を・・・
私の特製意地悪問題だけミス、あとは全部満点って・・・」

敬意を表しながら、空欄を次々と埋めていく

ライガ > 今日はどうも、何も手につかない。
思考を落ち着けるために、カフェにやってきた。

さて、どこに座ろうかな。
店内を見回すと、ノートPCをに向かっている知った横顔が見えたので、そちらへと近づいていく。

「先生、こんなところで仕事ですか。
もっと涼しい場所、学園内にあるでしょうに」

苦笑しつつ、相席良いっすか、と問いかける。

青砥 朱音 > 「まあ答えのない問題だからねぇ・・・
白紙解答が一番正解に近いかしら、ね」

空欄を全て埋め、コーヒーを一杯頂く
綺麗に降順に整理されたデータが、朱音の前に鎮座している
それも、面白い位に整理されたデータだ

いつもなら上司に対する悪戯や仕返しで、多少――朱音にとってはだが
乱雑にまとめられたデータを提出するところなのだが
あまり目を付けられては今後の仕事に支障が出る

たまにはこういう模範的なデータを作っておかないと、ね

一仕事を終えるとウィンドウを閉じ、頬杖をつく
・・・あれ、保存したっけ、という疑念が一瞬脳裏に浮かんだが、流しておく
と、その視界に見知った顔が飛び込んできた

「あら・・・、ライガ君?
ど、どうしたのこんな所で・・・
同席は構わないけど・・・」

やばい、だらしない格好を見られてしまったと
少し気恥ずかしそうにしながら、真正面の席をすすめた

ライガ > 「いや、珈琲飲もうかと。
…僕って、そんなにカフェってイメージ湧かないですかね。
ここには、たまに来るんですけど」

相手の服装には、特に気にした様子は見られない。
暑いから、かっちりとした服装より、多少ラフな格好は許されてもいいと思うんだ。
正面の席を勧められれば、礼を言って座る。
アイスコーヒー、頭をリセットさせるためにも今日はイタリアンローストを頼もうか。

「ところでこの間の手合わせ、ありがとうございました。
なかなか近接格闘の知り合いって少ないもので、貴重な経験になりましたよ。
ちょっと高揚しちゃって、敬語忘れちゃいましたけど、すいません。
……また、できればリベンジ、お願いしてもいいですか」

時間もあり、2手3手交わした程度だが、戦い方のヒントを得られたのは大きい。

青砥 朱音 > ライガの注文を聞き、ほう、と

「・・・あら、ライガ君はスモーキーな苦みがあるものが好みなのかしら?」
もしそうだったら私と似てるわね、と声を発した

「いいえ~、私も色々学べたし、おあいこ様よ♪
近接格闘の知り合いねぇ、ストリートファイトも見かけないし、皆興味がないのかしらねぇ・・・」
頬杖をつき、視線をテーブルに固定しながら
もう片方の手の人差し指で宙に円を描いている

「リベンジ?いいわよ~
但し、条件があるわ」
視線をテーブルからライガへと移し、軽く睨んだ

ライガ > 「え? いや、気分にもよりますけど、だいたい苦みがある方が好きですね。
珈琲もそうですけど、お茶なんかも。
今回はアイスですし、こんなものかなあと。
にしても、朱音先生も苦み派ですか、奇遇ですね」

そういえば、コーヒー好きで有名な教師らしい、そんな噂があったのを思い出す。
ほどなくして運ばれてきたカップに口をつける。

「それなら、よかったです。
…ストリートファイトなら、血の気の多い連中がそこかしこでやってますよ、
風紀委員会に注意されてるの、ときどき見ません?
歓楽街とか、あともう少し治安のよくないところなんかは」

あんまり奥の方行くのはお勧めしないですけど、と苦笑しながら付け足す。

「条件、って具体的に聞いてもいいですかね?
無理難題だと困りますけど」

睨まれた意味は分からないし、心当たりも特にない。
はて、何かやらかしたっけ……

青砥 朱音 > 「酸味の効いたモノも嫌いではないんだけど・・・
やっぱりコーヒーの"苦さ"が好きなのよねぇ♪」

そう言うと、自身のアイスコーヒーを飲み干す
ライガのイタリアンよりは浅煎りだが、それでも十分に苦い代物だ
カフェインによる腹痛とは無縁の朱音であるが、食後であったら胃酸の分泌が促進され、胃がもたれていたであろう

「・・・あら、それは初耳ね
歓楽街、落第街とかスラムかしら?
確かに名前からしてスリルを味わえそうではあるわね・・・」

クスっと笑い流す
興味をそそられたが、そんなところにいるのを見咎められ、上に報告でもされたらオシマイだ
安易に飛び込むわけには行かない

「条件と言っても、そう大したものではないけど・・・
・・・ライガ君」

頬杖をやめ、ニッコリと微笑んで

「君の事を聞かせて欲しいの」
そう、言い放った

ライガ > 「スリルって……
歓楽街はともかく、落第街はホントに勘弁してくださいよ。
正直、奥まった場所は治安が悪いなんてもんじゃないんで、
自衛できて、深入りしないって辺りでとどめておくのが一番いいと思いますよ。
先生お強いでしょうけど、魔術とか異能とかで襲われて、対処できます?」

朱音先生が笑ったのと対照的に、ライガは少々、あきれ顔だ。
少なくとも、異能とか魔術に対応できない限りは行くべきじゃない。

リベンジの条件、その詳しい内容を聞くと、若干困り顔で思案する。

「僕の事、ですか。
そりゃあまた、ずいぶんアバウトですね。
聞いててそんなに興味引かれるものでもないと思うんですが」

とびきり面白い経歴があるわけじゃないですし、と笑いながらコーヒーを一口。

「それじゃあ。
好きなものは苦いもの、っていうか刺激物ですね。激辛カレー屋なんかはこの時期たまに行きます。
逆に、甘ったるいものは苦手ですねー。少し控えめくらいがいいと思ってるんで。
あと、えーと、趣味は路地散策ですね。ちょっとメインストリートから離れると、毎回新しい発見がありますんで。
あと部活もそうですけど、手芸を時々。
……意外って思うかもしれませんけどね。普通はこういう体格してると、どうしても体育会系をイメージするでしょうし」

青砥 朱音 > 「確かに、魔術とか使われたらちょっと困るわね・・・
現実的な攻撃・・・徒手格闘や兵器であれば、そのメカニズムを知り尽くしていればどうにでもなるけど
超常現象みたいな非現実的なものは知識だけではどうにもならないから・・・
ああいうのと渡りあうのは、その類に精通した人間でないと無理よ
もちろん、身体の限界を把握して自身の能力の範囲で対応できるものに限るけど
・・・ま、人は見かけによらないのよ?」



ライガの自己紹介を聞きながら、頭にインプットされている情報と照らし合わせる
なるほど、嘘は含まれていない
ただし、それだけでは朱音を満足させるには程遠かった

ニッコリと微笑む
だが、目は笑っていない
見据えるような、冷たい視線だ

「確かに、私の把握している情報と相違ないわね
でも、今君がした発言――落第街の治安の悪さをさも経験談のように知り尽くしている
加え趣味、そして・・・」

あえてその言葉の続きは飲み込み
口の端を吊り上げ、代わりに別の言葉を放った

「君は、公安・・・
少なくとも、公安と関わりや繋がりのある人間かしら?」

ライガ > 「僕も魔術そこそこ使いますけど、それでも超人的な連中はいっぱいいますしね。
ま、興味本位で関わらないのをおススメしますよ」

……ああ、自分の事を知りたいってそういう意味か。
気押されれば、困ったな、と呟き後頭部を掻く。

「いや、あのう……
何か勘違いしてらっしゃるようなんですが、あの辺巡回してる風紀委員なんかに注意されるだけで、学生も教師も、落第街周辺に出入りしてる人はいますよ?
僕は、確かにご明察の通り、落第街には時々行きますけど。
それだって、この辺りの入浴施設じゃ身体に彫り物あるとひと悶着あるんで、うるさくない場所にある銭湯に行ってるだけですよ。
路地散策っていっても、やたらな場所に突っ込むわけにはいかないんで、探すの苦労しましたし」

そう言いながら、シャツの襟をはだけて、ぐいっと広げてみせる。
一部消えかけているが、筋肉質な胸板の一部に、何かの紋様のような刺青がみえるだろうか。

「これ、別にヤーさん的なものじゃあないですけど、魔術に関係したものです。
いちいちひとっ風呂浴びるのに、説明するの面倒なんですよ。異文化交流とか言ってますけど、まだまだ相互理解が浸透してないところは多いですしね」

とりあえず、これで納得いく説明ができただろうか。
身体の刺青をわざわざ見せたのは巡回の風紀委員に説明して以来だろうか、あまりズカズカ踏み込んでほしくはない事柄ではある。

青砥 朱音 > 「まあ、死んだら元も子もないしね・・・」

明言は避けた、か、と心の中で一人ごちる
人によっては触れられたくない話題だろうし、はい左様でございます、なんて言えない立場もあるだろう
中にはスパイもいるというウワサを人伝に聞いたこともある
目の前の人物がそうであるかは不明瞭だが、
少なくとも公安、もしくはそれに準ずる立場の存在であることは、確信があった

「まあ君が公安や風紀の人間であろうとなかろうとどちらでもいいのよ
ただ、そういう"ある程度の威厳"がある立場からのお言葉だったら
従っておかないと面倒なことになりそうかな、と思ってね?」
どうやら、落第街などへの立ち入りを咎める発言についての話のようだ



「あらあら、これは・・・刺青、いや、紋章かしら
でも中々どうして嫌な感じのする模様ね・・・」

なるほど、一応満足のいく回答と新事実を引き出すことは出来た
特に刺青は興味を惹かれるものがある
なにせ、朱音もはじめて見る類のものだったからだ

「あまり踏み込んで欲しくない話題だったかしら?
でも教師として、生徒のことを把握しておくのは至極当然かつ重要な職務だし、許して?ね?」
尤もらしい台詞を口にし、今回の飲食代はおごるから、と付け加えた