2015/09/14 のログ
『ウィザード』 > 「個人情報になるので詳しい事は言えぬが。
 奴はそもそも、君主などという者を元々持たぬ。
 亡くなったわけでも、国があるわけでもない」
もし七英霊『ナイト』に君主なんてものがいれば、奴は真っ先にその君主を嬲り殺すだろう。
『ナイト』のくせに、騎士道精神などというものを一切持ち合わせていない冷酷な奴だ。
「だが奴は、騎士という位についている。
 元から何も守るものがない騎士だ。
 守る必要すらない騎士だ。
 ただ強さを求めた先に、奴は何が見えたのだろうな」
なんとなく意味深とも思える語り方をする『ウィザード』。
いつしかこの島で犯罪を起こす予定の英霊なので、重要な情報は伏せている。

「遠征ではなく、怪異に巻き込まれてしまったと言ったところか。
 門の被害者は多くいると聞くが、貴様もその一人というわけだな。
 愛国や忠誠を誓う君主、そして所属する騎士団から放される今の気分はどうだ?」
まるで楽しむかのように質問している。

「騎士の信念……?
 そのボロい布切れがか?
 笑わせてくれる。
 そんなボロボロの布一枚を信念だという程、騎士はくだらぬものなのか。
 そうだろうな、君主という偶像の下で働かされている者達だからな」
ダナエの信念について煽りを入れる。
忠誠? 信念? そんなもはボロ布の如きくだらないものでしかない、と『ウィザード』は考えている。
『ウィザード』は心から邪悪なのだ。
「私に思い入れがあるものなど存在しない。
 よいか? 何もかも道具でしかないのだ。
 私のこの杖も帽子も衣装も、全てが道具だ。
 利用されて初めて、価値があるものとなる。
 そこに情なんてものを入れてみろ?
 道具は途端に道具ではなくなる。
 使い古して価値がなくなった時どうする?
 道具なのだから捨てれば良い。
 情なんて余計なものを挟まなければ、全て価値があるかないかで決定づける事ができるのだ」
『ウィザード』は合理的といった様で冷静に語った。

「そうだろう?
 知識の探求はとても大切なものだ。
 知る事こそ、生きる価値ですらある。
 貴様名乗るのであれば、私も名乗らなければなるまい。
 私はウィズだ」
これから大きな事件を起こすのに、態々『ウィザード』を名乗る事もない。

「重い鎧をいつも装着しているのか?
 こんな平和ボケした空間で常に戦闘態勢というわけだな」
ダナエは店員を呼びとめてりんごジュースを注文していた。
「貴様もりんごジュースにするのか。
 この店のりんごジュースは美味しいからな。
 無難な選択だ」

ダナエ > 「なんと、元々主君を持たんのか……!」
主のない騎士。衝撃。
自分の感覚だと、守るもののない騎士はもはや騎士ではない。
「守るものがないまま強さを求めるか。
 何だかろくなことにならんように思うが……
 世界が変われば騎士も色々だな。
 その騎士は貴公の友人か?」

「控えめに言って、絶望だな」
今の気分を聞かれて、フンと鼻を鳴らす。
冗談めかした本音。
「だがまあ、いい勉強にはなったぞ。
 この世界に来てから、
 もう何十枚何百枚と目から鱗が落ちている」
己の常識が覆されることで、成長もしているはず、と。

喧嘩早い性質なので、思わずぴくりとガントレット手が動く。
「…………信念なき者には分かるまい。笑わば笑え」
奥歯をぎりぎり言わせ、我慢。悪鬼の形相。
「君主は偶像……
 確かに、時として優れた人物でない君主を頂く場合もあろう。
 だが騎士の誓いとは神や国や君主に立てるものではあるが、
 同時に自分自身に誓いを立てるものでもあるのだ。
 自分自身に誓ったことは、
 如何に君主が無能であろうと裏切れまい?」

情をばっさり否定され、眉根を寄せる。
「情が余計なものだと?
 信念も情もないと言うなら、一体何を心の指針にするのだ。
 それに貴公にも家族や友人がいるだろう、
 その者たちにかける情も余計なものだとでも言うのか?」
目の前の少女の異常性に気づきはじめ、その価値観に戸惑う。
「……そこまで情を排して合理性だけを追求しては、
 恐ろしいことになるのではないか?」

「ウィズか。うむ。
 ……これから貴公と、良い関係を築ければ良いのだが」
よろしく頼む、とは言いにくいこの流れ。
相手の名乗りを聞き、複雑な表情で頷く。

「……常に危機に備える姿勢は大事だろう。
 まあ、好きで着ているわけでもないが……」
呪いで人前では鎧を外せない、とは言い出せず、
ゴニョゴニョ誤魔化す。
相手のグラスを見て、
「ふむ、そうか。期待しよう」
そわそわとりんごジュースを待つ。

『ウィザード』 > 主君がいない騎士に、ダナエは驚いている。
それ程に、ダナエにとってはありえない事だったのだろう。
彼女の世界の常識から逸脱している事がうかがえる。
「強くなる理由は様々だ。
 だが、そこに理由がなく、純粋に強さだけを求めるとどうなるか。
 その答えをあの騎士は持っているのだろう」
それはきっと、強大な悪にもなり得るというものだ。
英霊『ナイト』こそがそれを素で体現しているともいえる。
「友人? 馬鹿を言え。
 なぜあの騎士なんかと友人にならねばいけないのだ。
 この世界において価値のないくだらぬものはいくつかある。
 その一つが“友情”だ。
 よく覚えておくがいい」
七英霊は一枚岩ではないし、そこに友情なんてものは存在しない。
むしろ、友情なんてものはばかばかしいと思っている英霊が大半、いや……全員が当てはまるか。

「絶望の味はさぞ染みる事だろう。
 一度門からこの世界に訪れれば、帰る事すら困難と聞く。
 希望など、簡単に打ち砕かれていくものだ」
あいかわらず帽子を深く被って表情を見せないまま語る。
「学ぶ事は良き事だ。
 特に、貴様のような異邦人だと情報こそが命取りにもなりやすい。
 勉強になって、よかったな」
心から喜んでいるようには聞こえない、淡々とした口調だった。
だが最後『よかったな』を除けば、言っている事は本音だ。
 
ガントレットの手が動くのを見て、帽子で隠れてある口が歪む。
そんなダナエの形相からも怒っている事が読みとれる。
「くだらぬ信念など、持たぬ方が良い。
 そんなものは邪魔になるだけだ」
そう言いながら、静かな声で嘲笑ってみせる。
信念なんてものは、ごみと一緒に捨ててしまうのが正解なのだ。
「無能で国民を平気で苦しめる暴君程たちが悪く、救えぬ者はいないな。
 そんなものに誓いを立てなければいけない騎士は、さぞ醜かろう。
 暴君の駒にしかならぬからな。
 ならば、そんな腐って行く自分をどう癒せば良いか?
 自分に誓いを立てる、と目を背け、最もな理由をつけて言い訳すれば良いのだ。
 自分自身の誓いなど、綺麗事に過ぎぬ。
 無能な君主に誓いを立てている時点で、己も無能なのだ。
 信念なんてものを掲げて、その現実を見ないようにしているのだな」

「ああ。家族や友人にかける情など、塵程の価値もない。
 何を心の方針にすれば良いか? そんなものは決まっている。
 人は、欲望のあるがままに動くものだ。
 綺麗な言葉で欲を制しているようで、人は欲まみれな生き物だ。
 知識を得るのもまた一つの欲望だ。
 それ以外の信念や情などというものは所詮、まやかしに過ぎない」
帽子の下でニヤリと笑う。
そして、虐殺もまた、欲に従い実行すればいい。
何も遠慮する事などない。
「ならば、情は恐ろしい事にならないというのか?
 例えば、友人がやられた仕返しで相手を殺すのも情になる。
 恐ろしいというならば、どちらも然程変わらない」
口を歪ませながら、楽しげともいった風に語る。

「なに、価値感は人それぞれある。
 良き関係を築いていこうではないか」
最も、こちらにその気はない。
良い関係を築いていくとすれば、それは慣れ合いごっこでしかない。

「ああ。危機に備えるのは大事だ。
 それを怠る者が、いざ災害などに出くわした時、後悔する事になる。
 だが貴様はそれとは少し違うのか?
 なんらかの事情があるようだな。
 騎士というわりには、好きで着用しているわけではないのか」
騎士も日常生活に甲冑など不用だろう。
『ウィザード』はりんごジュースのグラスに手を取り、飲む。

ダナエ > 「強さを求めた答え、か……。どんな答えなのだろうな。
 その騎士に一度会ってみたいものだ、
 相当な手練れであることは間違いないだろう。
 名は何というのだ?」
主なき騎士の名を問う。

友情までも下らないものと言い切る少女に、
ようやくその異常さを確信して険しい表情になる。
「……貴公は故郷を懐かしく思うことはないのか?
 『星は砕かれてなお天上に輝く、砕かれてこそより強く輝く』……
 希望とはそういうものだと、祖国の聖書には書かれている」
希望を信じ続けたいとは思うが、表情は暗い。
「情報が命取りか、本当にそうだな。
 肝に銘じておくことにしよう」

「信念が時には邪魔になることも含めて、
 私はこの道を信じているのだ。
 合理性も大事だが、何もかも切り捨ててまっすぐに
 最短距離を行くことだけが正しい道でもあるまい。
 遠回りにも実りは必ずある」

戦場で死んでいった仲間の姿が脳裏に浮かぶ。
「……ッ、貴公に騎士の何が分かる?
 死地に赴く兵士の心を、合理性が支えてくれるとでもいうのか?
 彼らが何を信じ、何を誇りにして死んで行ったか……
 私の前で、彼らを侮辱することは許さんぞ」
ピリピリどころかビリビリした口調で、口早に。
「確かに、周りの大臣らも機能しなくなるほどに君主が
 無能で人々を苦しめるならば、
 確かに仕える騎士もまた別の道を取らねば
 ならなくなるやも知れん。
 だがその場合でも、一度誓いを立てた相手に背いた以上、
 何らかの筋は通さねばなるまい」
それが騎士道だ、と。

欲望のあるがまま──その言葉に、
己の鎧に取り憑いている亡者達が歓喜し同意しているのが分かる。
ぎゅっとガントレット手を握り締め、
「欲望のままに生きるならば、獣と変わりなかろう。
 欲望と戦い、制してこその人だろう!」
ゴゴン!とテーブルを強く叩く。ヒビが入ってしまった。
「それはそうだ、情が深いがために人を殺める者もいよう。
 だが何故それを、
 己の欲望のために人を殺める者と同列に語れるのだ!?」
楽しげな相手に、
その二者はまったく性質の違うものだろう!と苛立つ。

店員がトレイにりんごジュースを乗せたまま、
こちらの様子を伺っているのが見える。
仕方なく少しクールダウン。
運ばれてきたりんごジュースを、怒りの表情で飲む。
「……………………美味いな!」
グラスを見下ろし、ぺろりと口端を舐めて。
苛ついてはいるが味は認める方向。

「……どんな騎士とて、この国の暑さでは甲冑を脱ぐだろう。
 今は少し過ごしやすくなったが、
 少し前までは酷い暑さだったな……」
日本近辺の夏の暑さを思い出し、ぐったり。
暗に脱げないことを匂わせた、つもり。

『ウィザード』 > 「ほう……」
『ナイト』に会いたいと言うのか。
もし出会えたとすれば、奴はもしかしたら、ダナエを殺しにかかるかもしれないな。
「その騎士はこの島にいる。
 会いたいというなら、いつか邂逅する時が訪れるかもしれぬな。
 名は、そうだな……」
ここで教えていいものかどうか『ウィザード』は一瞬悩む。
「それは残念だが教えられぬな」
これから行動を開始し、島の人々を殺害していくであろう『ナイト』の深い情報をそう易々と口にしていいものでもない。

「故郷か。そんなものは懐かしむ価値もないものだ。
 聖書には、面白い事が書かれているものだな。
 所詮、希望などという馬鹿げたものを伝えたい何者かが書いたものなのだろう?
 希望などというものを抱くから、人は絶望に堕ちる。
 それが今の貴様ではないのか?」
表情が暗いダナエに、容赦なく追い打ちをかけるかのように言った。

「遠回りは所詮、遠回り。
 もしそれで実りがあったとしても、そんなものは結果論でしかない。
 邪魔になる時があると自覚して、尚も信じ続けようとするのか。
 ふん。理解し難い行動だ」
騎士の道か何か知らないが、そんなものを信じて何の得があるというのか。

「国や君主などというくだらない物のために死ぬ事が、そもそも馬鹿なのだ。
 君主の駒になり死地に赴く兵士こそが、愚かというものだ。
 誇りなどというもののために死ぬなど、愚行にも程がある。
 彼等は、忠誠心や信念、誇りを持ってしまったから死んだのだ。
 それは事実だろう。
 許さないというなら、貴様は何をする気だ?」
さらに帽子で隠された口元が歪んでいく。
「君主が無能なら、その首を刎ねてしまえばいい。
 簡単な事だろう?
 機能しなくなった大臣にも同じように、死の苦痛を与えればいい。
 実に単純な話だろう?
 人はそれを“革命”と呼ぶ。
 良い響きだろう?
 その程度の事で誓いとやらは簡単に捨てられるものなのだ。
 いかにくだらぬものか、よく分かるだろう?」

「人も所詮、獣の一種に過ぎぬという事だ。
 だが人間のみが獣と差別化し、欲を制するなどという綺麗事を述べようとする。
 まだ欲に正直な獣の方がかわいげがあるな」
ダナエがテーブルを強く叩き、ヒビをいかせて尚、『ウィザード』は嘲笑う。
「その二つは同列だ。
 結果を見れば、人を殺したという事実だけが残るのだからな。
 だが人間は、前者には同情の意思を見せる事はあっても、後者は同情無き悪とする。
 だから欲望のまま人を殺害すれば罪が重くなりやすい事もまた事実だ」
七英霊は欲望のまま人を殺す側だ。
しかし、反省の意思を見せる事は決してない。
殺人を心より楽しむ“悪”なのだから。

クールダウンするダナエは、りんごジュースを口にした。
「そうだろう。
 りんごジュースの美味しさで、少しは落ちつく事ができたか?」
『ウィザード』は表情を見せないままそう訊ねる。

「夏も終わる頃だが、暑さはまだ残るな。
 そんな格好では、夏も辛かった事だろう。
 よく耐え抜いたものだな」
そこで『ウィザード』は感づいた。
「貴様、その鎧が脱げないのだな?
 大方、呪われた防具といったところか」

ダナエ > 「名を教えられんのか?
 ふむ、訳ありの人物というわけか。
 主のない騎士……」
ますます気になる。

追い打ちに胸を撃ち抜かれ、グッと堪える表情。
「…………だが。それでも。
 故郷で私を待っていてくれているであろう者たちのためにも、
 諦めるわけには行くまい」
歯と歯の隙間から唸るように、希望を絶やさない宣言。

理解し合えない同士だと、フ、と少し笑って。
「奇遇だな。私も貴公が理解できん。
 遠回りをして得た実りに、
 すぐに何かに役立つ即効性はないだろう。
 だが確実に、人生の糧となるのだぞ」


──彼らは、忠誠心や信念、
  誇りを持ってしまったから死んだのだ。

その事実を嘲笑う相手に、胸をえぐられる。
「ぐッ、貴様ぁ、まだ言うか……!!」
伸びかける手の方向を、どうにか大剣からテーブルの上の
グラスに切り替えることにギリギリ成功。
「……喧嘩なら、買う。
 が、貴様もこんな場所で争いたくはないだろう」
争いたくないという台詞とは裏腹に、凶悪な形相と声。
禍々しい【憤怒】の闇のオーラを鎧の隙間から漏らしながら。
怒りでぶるぶる震える手でりんごジュースを一気に飲み干し、
ダン、と乱暴にテーブルに置く。

「簡単に誓いを捨てるわけではない。
 騎士の本分は人を守ること。
 暴虐の王が民を殺し続けるのならば、
 優先するべきは騎士の本分だという話だ」
民に仇為す王ならば、騎士は民の側に立つべきと言いたい。

「貴様の話すことは理路整然としていながらすべて、
 人の心というものが抜け落ちている。
 貴様は獣だ、頭と口のよく回る、獣だ」
目を細め、低い声で。
「同列ではない。
 私の頭が貴様ほど回らんのが何とも口惜しいが、
 とにかく同列ではないのだ。
 人を殺めるための剣と、肉を切り分けるためのナイフ。
 貴様はその二つを、
 凶器になりうるのだから同列だと言っているようなものだ」
首を振りながら、相手の意見を真っ向否定。
うまく説明できない歯がゆさに顔が歪む。

呪われていることを察された様子に、
長居すれば亡者達が喜ぶ結果になりそうだと判断。
「…………恐らく貴様も、亡者どもと同類なのだろうな」
そんな曖昧な台詞を、返答の代わりにして。
「悪いがこれ以上貴様と話していると、
 面倒なことになりそうだ。帰らせてもらう」
一方的に告げて、伝票をひっつかむ。

『ウィザード』 > 「さて、どうだろうな。
 その騎士に出会えるといいな」
そして下手をすれば戦う事になるのだろう。
『ナイト』は強い奴をぶっ殺す事に快感を覚えるのだから。

「諦めた方が幾分、楽になるぞ?
 抗う苦しさを味わう事もなくなる。
 そもそも、人の絆とは脆いものだ。
 はたして、故郷の人間は貴様の事をいつまで覚えているかな?」
希望を絶やさない、という事はダナエはまだ絶望しきっていないのだ。
まだ故郷に帰れると信じているようだ。
その辺は実際にどうなるか、どれ程元の世界に帰還する事が困難か、『ウィザード』の知った事ではない。

「確実に?
 大した根拠もないのに、よくそんなにはっきりと言えるものだな。
 私も、絶対に人生の糧にならないとまでは言わない。
 だがそれは、偶然役立った類のものだろう。
 貴様の言う遠回りは、信念という無駄なものに縛られた、無意味なものでしかない。
 本当に役立つ遠回りは他にあるというものだ」
例えば綿密に練られた計画なんかは、多少遠回りしてもダナエの言う通り実りが出てくる事もあるだろう。


大剣に手を伸ばそうとしていたダナエだが、どうにかグラスの方に切り替えれたようだ。
「ああ。蛮族でもあるまいし、こんな所で貴様は剣を抜くべきではない。
 それにしても、自分とは関係ない人のために、そこまで憤怒するか。
 滑稽なものだな。
 しかしな、喧嘩など簡単にしてしまって良い環境でもない。
 常世島は多くのエリアで、異能バトルを制限、あるいは禁止しているのだからな」
その凶悪じみた声や表情が『ウィザード』に伝わる。
素晴らしき闇のオーラが鎧から出てきているのが分かる。
やはり、ただの鎧ではないのだろう。
ダナエがグラスを乱暴に置いた時、『ウィザード』のりんごジュースも波をたてる。

「騎士が民側について、後は何をする?
 ただ王宮の兵から、民を守り続けるだけか?
 それでは、結局のところ、君主を裏切った反逆者という事になる。
 主のいない騎士が誕生するな。
 それならば、その暴虐の王を殺してしまった方が手っ取り早いだろう」
民を守り続けるだけでは、暴君は玉座を降りない。

「私は獣かもしれぬな。
 されぞ、貴様も、このテラスにいる奴等も等しく獣なのだ。
 ただ、人間という特別な枠組みをつくろうとし、自分達だけが獣ではないと勘違いして綺麗事を語る、たちの悪い獣だ」
『ウィザード』は静かに笑った。
所詮、獣が獣と言い合っているにすぎない、その滑稽さにだ。
「剣とナイフは当然、用途という面では異なるぞ。
 剣は人を殺めるもの。ナイフは肉を切り分けるもの。
 作られた目的は、違うものだ。
 しかしな……。
 これら二つの違う刃物でも、人の心臓を刺した瞬間、それは『人を殺めるもの』という同列なものに変わるのだ。
 その刃物が、一つの命を奪う事になるのだからな。
 簡単な理屈だろう?」
うまく説明できないダナエに対し、『ウィザード』は落ちついた様子で、しっかりとした言葉で反論する。

「察するに、亡者というのはその鎧の呪いか」
そんな訳の分からないものと同類か。
まあいいだろう。
一方的に別れを告げられるが、『ウィザード』は特に反応を示すことはなかった。
『ウィザード』は自分のりんごジュースを静かに飲み干す。

ダナエ > 「そうだな、楽しみにしておこう」
主なき騎士がそこまで危険な騎士とは知らず。

──故郷の人間は貴様の事をいつまで覚えているかな?

問いかけに、息も止まるような衝撃。
例え自分が覚えていても、もしかすると故郷の仲間はいずれ──
「…………黙れ!」
唸る虎のような声と、瞳で。八つ当たりのよう。

「偶然こそ神の思し召し。
 人が思う『役に立つ』ことは目先のこと小手先のことだが、
 神の采配はもっと広く深い。
 ……私がこの世界でこうしているのも、神の采配だろう。
 神が今はこの世界にいろと仰るのなら、そうするまで」
少し覇気を取り戻す。

「蛮族は貴様だ!」
つい声を荒げてしまう。
「ならば民の中から新しい王が現れるだろう。
 腐敗と革命の繰り返し、これが歴史なのではなかったか」

「誰の中にも獣はいる。
 その手綱を離すまいと必死に掴む者を人、
 手放す者を獣と呼ぶのではないか」
自己矛盾に苦しみ抗う者、そういった者を人と呼びたい、と。

もはや理屈では返せず、子どものように首を激しく振る。
「違う、それは絶対に違う。
 貴様の言うことは、どれも間違っている。
 私ではそれを説明しきれんのが残念だ」
悔しげな、そして同時に哀れむような悲しげな表情。
亡者の話には返事さえせず、

「──赤い魔女、ウィズ。その名、忘れんぞ」

鷹のような目で、少女を見下ろし。
重い全身鎧を引きずり、テラス席から離れる。



会計の際にテーブルのヒビのことを正直に告げ、弁償。
先日売ったモンスターの牙で潤った所持金を
またしても粗方失い、怒りと悲しみと失望に闇のオーラを
撒き散らしながら、足音荒く店から出て行った。

ご案内:「カフェテラス「橘」」からダナエさんが去りました。
『ウィザード』 > 『ナイト』はダナエを八つ裂きにするのだろうか。
はたまた、ダナエは『ナイト』に出会う事が出来るかどうか。
それはまだ『ウィザード』には変わらぬ事だ。

黙れ、と強く言い放つダナエの声や瞳は虎のよう。
その光景は、八つ当たりにすら見えた。
だが『ウィザード』は一切臆する事などない。
ただ、そんな様子を見てせせら笑うだけであった。

「神などと戯言を口にするか。
 運が良かったのは全て神のお陰。
 成功したのも全部神の采配。
 ふん。思考停止もいいところだな。
 神の仕業にして、なぜそうであるかを考えようともしない。
 それでは見える本質も見えてはこない」
思考停止の道具に扱われている神も哀れなものだ。

蛮族は貴様だと言われれば、もはや笑う他ない。
もはや罵倒以外の意味を持たないその野蛮な言葉に、返すものはない。
「そうだな、歴史はそうやって積み上げられてきた」
そこはダナエの言葉に同意する。

「その手綱を離すまいとしている時点で、自分は獣ではなく綺麗な人間なのだと驕っているのだ。
 人と獣をわざわざ別けようとしている事がその証拠だ。
 自分は綺麗で、欲を我慢できる人間でありたいと願うか?
 それもよかろう。
 だがそんな勘違いをしている時点で、獣という存在を見下す傲慢さが滲み出ているのだ」
人も獣も欲で塗れている。
だが人だけが綺麗であろうとする。
実に滑稽な姿だ。

もはや理屈では返せない鎧の少女は、子供のようではないか。
「何が違う?
 それが、事実なのだ。
 小奇麗な事を言って否定しても、現実は変わらぬのだ」
深く被った帽子の裏で、ニヤリと不気味ともいえる笑みを浮かべる。
ダナエが見せるのは、悲しげな、そして哀れむような悲しい形相。
だが実際は“悪そのもの”である『ウィザード』に哀れまれる要素など何一つない。

──話はここまでだろう。

鋭い眼つきでダナエに睨まれると、『ウィザード』は最後に彼女を嘲笑った。
その後、去っていくダナエを見送る事すらせず、会計を済ませてカフェテラスを後にする。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から『ウィザード』さんが去りました。