2015/10/02 のログ
茨森 譲莉 > 「クリームをトッピングした人を責めないで。今はとにかく進むしかないわ。」

進むと言っても、食べ進むだが。
せめてチョコレート味が増えればまだマシだろうに、
この積雪5メートルなふわふわなクリームは、スプーンですくってもすくっても無くならない。
まったく、誰がこんなアホなトッピングをしたのか。

―――この目の前のラーメン男である。

トッピングを忘れてましたとか言ってたけど、
こんな意味不明な量をかけるパフェがあってたまるか。
間違いなく、このラーメンマンの勘違いだ。

ずずーっとコーヒーを飲む。
先に苦いと砂糖を入れたのは失敗だった。
せめて苦いコーヒーがあればもう少しマシ
………いや、さすがに無理だろう。
圧倒的な物量というのは寡兵を容易く押しつぶすものである。
クリームを食べるのを放棄してラーメンマンのほうにこっそり押しのけながら、
一足先にチョコの岩壁に辿り着く。
長々とクリームを食べ続けて麻痺した舌の上でチョコレートが躍る。
しかしこれもまた甘い。ここはせめてビターチョコレートにして欲しい。

このパフェを作ったシェフはどこだ、アタシがパフェのなんたるかを叩きこんでやる。

「………むぐむぐ。」

そんなアタシの思いの丈は、圧倒的物量によって封殺されていた。
………ただスプーンを突き刺し、黙々と食べ進む。

目指すはチョコの中に埋まる金脈。フルーツのエリアだ。

真乃 真 > 「確かにそうだな。」

恨んでごめんクリームの人。
OK許す!
そんなやり取りを脳内で繰り広げながらクリームを食べ進める
さっきからクリームの量が増えている気もするが気にしない。

「よし、これでようやくチョコレートだ!」

白い山脈を片付けチョコレートのエリアに入る。
さっきより手ごたえがあるチョコを整地するかのように掘り進める。
途中でマシュマロが入っていた。
チョコの甘さに飽きた口にマシュマロの甘さが効いてこれは。

「甘い…。」

しかも、そのマシュマロもチョコの風味という念の入れようだった。

茨森 譲莉 > 「このパフェを作った人、壊滅的に料理が下手ね。」

料理が下手な人には2パターンいる。
1パターン目はそもそも料理が料理の形を取らない人間。
つまり、料理という行為そのものを勘違いしている人間だ。

そして、もう1つは、味付けが壊滅的に下手で、
基本的に同じ味付けをしておけばいいとか思っている人間だ。
料理というのは、メニューの中の味付けのバランスが大事で………。

つまり、このパフェ、甘い以外の成分が一切ない。
フルーツのエリアに辿り着いても、よりにもよって桃のシロップ漬けだった。
せめて柑橘類でも入れておけばマシだったろうに、なんで甘い桃を選ぶのか。

―――いや、いっそ、鋼の精神で自分の信じる味付けを貫いた結果なんだろうか。

とにかく、せめて箸休めが欲しい。それこそ、ラーメンとか。

「……もう無理、アタシはギブ。」

からんと音を立てて、山を削っていたスプーンが机に転がる。
べしゃっと机にクリームがついたが、どうせ拭くのはこのラーメン男だ、構うものか。

その山は、まだ1合目も削れてはいない。
だが、アタシは元々金銭的な損もなければ、
これを食べなくてはならないという使命感もない。

追加でコーヒー、とびきり濃い奴、と注文する。
もしかして、このパフェ、この店の陰謀なんじゃないだろうか。
料金をせしめ、罰金をせしめ、さらに箸休めの為の商品を買わせる。

なんとえげつない商売だろうか。

真乃 真 > 確かにこのパフェを食べきるのは普通の人間には不可能だろう。
異能を持たない普通の人間には…。

「そうか…仕方ない…。反則みたいでこれだけはしたくなかったけど!!」

明日からのごはん代を守るため負けらられない戦いがそこにはあった。

「うおー!!」

凄い勢いでパフェを口に運ぶよく見れば口に触れた瞬間どこかに消えているのが分かるかもしれない。
彼の異能の力の自身と触れたものの強制的なポーズ変更、破損をおこさないならどんなポーズでも可能!!
自分の胃の中にパフェがあるというポーズすら可能!
そう、彼は異能を用いて自らの体内にパフェを移動させ続けた。
この方法なら甘さも満腹感も無視して永遠に食べ続けられる。

「勝った…。」

それから五分もたたない間に、山は崩れた。
その代償として真乃の腹部は異様なほどに盛り上がっていた。

「…コーヒー承りました。」

よたよたと厨房へ歩いていく。
後ろから見ても腹部の膨らみは視認できるほどだった。

茨森 譲莉 > アタシの目の前で、奇妙な事が起こった。
山ほどあるパフェが、いきなり彼の口に吸いこまれるように消えたのだ。
異能学園、アタシが今居る場所の名前が、頭に浮かぶ。

―――それが出来るなら最初からアタシに食わせるな。

「………はぁ、散々な目にあったわ。」

濃い目の苦いコーヒーを口にしながら、アタシはため息をつく。
異能学園、常世。この学園には平和な日などありはしないのだ。

コーヒー2杯分の伝票を持って、レジのほうへと歩いて行く。
腹が膨れてラーメンのどんぶりをひっくり返したような形になっているラーメン男は、仕事に戻っていた。

美味しいケーキでも食べて帰ろう。

アタシは、少し冷えて来た店の外をゆっくりと歩き出した。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から茨森 譲莉さんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から真乃 真さんが去りました。