2016/02/08 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に真乃 真さんが現れました。
真乃 真 > 冷たい風が体を凍えさせる。

「寒い、あぁ寒い。」

首に纏った白いタオルを普段よりもぐるぐると巻いて
こんな日には甘くて温かい飲み物が欲しくなる。
そんな思いからカフェテラスの方に目をやるとガラガラのテラス席に一人だけ
座っている客の姿が見える。
何故こんなにも寒いのにわざわざ外でバニラアイスなのだろうか?
前に、あのゲームセンターであったあの獣人の先生は寒くないのだろうか…。

「あの…ヨキ先生…この席、寒くないんですか?
 中の席空いてるところないか聞いてきましょうか!?」

そう声を掛けた。見ている方が寒かった。

ヨキ > 「む」

フォークをぱくりと咥えた格好で止まって、真を見遣る。
律儀によく噛んでから呑み込み、やあ、と手を挙げた。

「こんにちは、真乃君。寒……?
 ああ、いや。今日はわざとここに座ってるんだ。
 ちょっと暑くなってしまって」

『暑い』という言葉がこれほど似合わぬ季節もない。
振り返って店内を見遣ると、暖かな照明に照らされた店内にはまだまだ沢山の空席があった。
真に背を向けると、元から波打っているヨキの癖毛の、頭頂の一房が余計にうねうねと波打っていた。

「実は……火遊びが過ぎて、少し火傷を」

“少し”という割には、顔も手も赤く見える。
照れたように笑って後頭部を掻いている顔は、いかにも暢気だ。
絆創膏を貼った顔はわんぱくそのものだが、見た目と言葉の内容がそぐわなかった。

真乃 真 > 「良かった、自分で座ってたんですね。
 てっきり満席で追い出されたものだと…というか暑いって…。」

もしかしたら熱が溜まりやすい種族とかなのかもしれない。
そういう種族なら体を冷ますためにテラス席であんなに氷がいっぱい入ったアイスティーを
注文するのも納得できる。

「火傷って…大丈夫なんですか!?うわ、痛そう…。
 火を使うのは危ないですからね。特にこの時期は乾燥してるから色々燃えやすいですし…。」

この時期に花火でもあるまいし温まろうと思って焚火でもしたのだろうか…。
いや、たき火の中へ転がり込みでもしない限り焚火でこうはならないだろう。
…したのだろうか?

「とにかく、あんまり危ないことはしたらダメですよ!怪我したり周りの物が燃えてからでは
 遅いですからね!!」

ヨキ > 事の重大そうな雰囲気とは裏腹に、てへへ、とでも笑いそうな顔だった。

「獣は火を避けるものだが、ヨキはついつい寄って行ってしまうからいかんな。
 気を付けねば」

奇しくも真の想像に沿った発言。ずばり焚火に転がり込んだかのようだった。
真の気遣う言葉に、機嫌よく笑って頷く。

「ああ、無用な心配を掛けて済まない。
 手遅れにはならぬようにするから」

年寄りのような言葉遣いでいて、内容は火遊びを諌められているのだ。
それからワンテンポ遅れて真のタオルが余計に巻かれている様子に気付いて、ああ、と呟く。

「かく言う君は、随分と寒そうにしているな……。
 どこかへ行く途中だったか?もし時間があるなら、如何かね。ヨキと少し茶でも」

首を傾ぐ。まるでナンパだ。

真乃 真 > 「獣って…。確かに種族によっては火が苦手なヒトもいますよね。
 僕も寒い時期には寄っていくタイプですが。」

獣人は種族によっては炎への恐怖が強いらしく料理の際に火を使わない種族なんかもいるらしい
一方で炎を操ることに長けたヒトたちもいるヨキ先生は後者なのだろう。

「ヨキ先生が怪我してたらみんな心配しますからね。
 まあ、でも少しくらいは良いと思いますけどね!うん!」

まあ、温かいし綺麗だし火遊びもこの時期は幾らかは仕方ないと思う!
人に迷惑をかけなければ基本的にはオールOKだ。

「いいですとも!丁度温かい飲み物を飲もうと思ってたんですよ!一人よりは誰かと飲む方が…
 うお、冷たっ!」

席に座るとその部分から一気に体温がもっていかれる…この椅子凄い冷えてる!

ヨキ > 「うむ……おかげで髪も三割増しでチリチリしておるわ。
 だが人を心配する側が心配されていては、元も子もないからな」

どうやら髪まで灼けたらしい。大事故である。

誘いに乗った真が椅子の冷たさに驚く様子には、頭上にエクスクラメーションマークが浮かぶ。
食べかけのワッフルの皿やアイスティーのグラスを手に、席を立った。

「やはり君には少し寒いようだな。
 風邪を引かせてしまう訳にもいかん、中へ入るとしよう」

言って、店内へ場を移す。
『暑い』と口にしていた身体は程よく冷めたらしく、よく利いた空調にもほっとしながら席を見渡す。

やって来た店員に席を移る事情を話し、案内されたのは中ほどのテーブル席だ。
寒かったろう、と真へメニューを差し出しながら、言葉を続ける。

「君は確か……ゲームは一日一時間、であったか。
 今日はどんな休日を過ごしているんだね?」

真乃 真 > 「どんなエキセントリックな火遊びですか…。」

想像の中では祭りの様相を呈してきた激しい火遊びの様子を頭から振り払う。

「ありがとうございます。やっぱり中が良いですね。はあー。」

申し出を受けるやいなや飛ぶように中に入り安心したように大きくため息を吐き出した。
外はやっぱり寒かった。

「そうですねー。料理したり運動したりあとは…
 だいたい困ってる人を探して町中ぶらぶらしてますね。」

メニューを見ながらそう答える。このホットココアが一番目につくこれにしよう!
この写真からして温かそうだ!

ヨキ > 「エキセントリック」

呟いて、目だけで上を見る。

「確かに派手だったな……」

火祭りをしていたと思われているとは知る由もない。
テーブル席に着いて人心地つくと、真が捲るメニューを対面から覗き込む。

「困ってる人、か。ふふ、便利屋だな。
 人の頼みとあらば、どこでも誰の元へも駆けつける……と?
 いい心掛けをしているな」

『困っている人を探して町中を』。そう聞いて、当然の発想。
やってきた店員には、真に次いで自分も注文を付け加える。

「コーラフロートをひとつ」

また冷たい。しかも甘い。
残りのアイスティーをぐびぐびと飲み干して、美味そうに息をついた。

真乃 真 > 少し誤解されてるかもしれない。

「いや、僕は頼まれてもないのに駆けつけるんですよ。
 困ってそうなら声を掛けて困ってる人なら助けて困ってない人ならとりああえず謝って…。
 実際に困ってる人と困ってない人の区別をつけるのが難しいんですけど。」

自分がやってることを実際に口に出して言ってみると変な奴だと自分でも思う。

「それでも困ってそうな人を見つけるんですよ!僕の視界に入る困ってる人は
 僕の手が届く所に居る困ってる人は全部助けようと心がけていますからね!!」

無駄にカッコいいポーズを付けながらそう言い切って届いたホットなココアに口を付ける。
ああ、温かい、甘い、体の芯が温まる…。

ヨキ > 真の『人助け』の内容に、ほう、と笑う。

「なるほど、手が届く範囲か」

ココアと併せて運ばれてくるフロートの、アイスを掬い取って口にする。
しゅわしゅわとしたコーラで喉を潤して、ワッフルの残りを平らげた。

「呼ばれて手を伸ばしに行くのではなく、自分から駆け回って手を届かせる、ということか。
 困っている人を全部助けたいと思うのは、殊勝な心掛けだとヨキは思うが」

唇のハチミツを舌先で綺麗に舐め取ってから、ペーパーナプキンで拭う。
行儀が良いのか悪いのか、よく判らない。

「『君の手が届かないところに居る』困った人はどうするんだ?
 そうも走り回っていては、取りこぼしも少なくなさそうだが」

別段責めるでもなしに、平然とした調子で尋ねる。

真乃 真 > 「手が届かない範囲ですか…。」

例えば落第街。
あそこにはあそこのルールがある。日々何人も死ぬ人がいる。
だがどうすることも出来ない。

例えば研究区。
非合法な研究が行われそれに苦しめられている人がいるという噂を聞いたこともある。
死ぬよりもひどい目にあっている人もいるかもしれない。
だが、どうすることも出来ない。

例えばこの島の外。
この島から一歩出れば生まれ持った異能の為に迫害される人や
それ以外でも様々な要因で苦しむ人もいるだろう。
だが、真乃真にはどうすることも出来ない。

「手が届かないのに見えてても何の意味もないじゃないですか。
 全力で手を伸ばして向こうも手を伸ばしてるのに届かないならどうしようもないじゃないですか。」

ここで何故か自信ありげな笑みを浮かべて

「だから僕は手が届く所までしか見ないことにしてるんですよ。」
 
だからその質問への今の答えはこうなる。

「だから『その人たちは僕から見えない場所にいたから気が付かなかった』から仕方がないんです。」

奥歯を噛みしめながらなお自信ありげに笑ってみせる。

ヨキ > 真の答えに、得心がいったとばかりに笑む。『一理ある』と。

「気が付かなかったのなら、確かに仕方のない話だ」

炭酸をものともせず、コーラがぐいぐいと減ってゆく。
見ればグラスにも水が何度か注ぎ足されているのだが、トイレなどに立つ様子は全くない。

「だからと言って『手が届く人を全員助ける』に徹していたとしても……
 いつか『目の前に居たのに助けられなかった』という状況に陥ったとき、重大な後悔を招きそうなものだがね」

ついと視線を流し、真の輪郭を見る。
頬の肉付き。結ばれた唇の裏側、奥歯を透かし見るように。
心理学ではない。美術解剖学の範疇だ。

「……ふふ、止そう。正義を務めるに、『万が一』など詮無い話であるな」

緩く首を振って、コーラに融けたアイスを掬う。

「だが、仕方がない、と言うからには、君とてそのやり方に全面的な納得はしていないのだろう?
 何か、人助けを始める切欠でもあったのか。誰かに救われたとか、あるいは……救えなかったとか」

真乃 真 > 「そう、知らなかったものはどうしようもないんですよ。」

ヨキに或いは自分に言い訳するかのように言葉を重ねる。

「正義ですか、僕は正義ではないです。
 人を助けてるのもきっと自己満足の為ですしそんな私欲で動いてるヤツが正義であるはずがありません!!
 それでも、それでも僕の手が届くなら絶対に助けます!万が一なんて起こさせません!!」

最後に近づくにつれ言葉に力が入る。
真乃真は正義ではない。人を助けるのも結局は自分の為だ。
自分の為に動く者が正義を名乗っていいものか
正義とは自分を捨てて、弱い者の為に動ける人だ自己満足で動くものでは決して無い。

「…僕は子供のころからヒーローに憧れてたんですよ。弱きを守り悪を討つ!
 本当にカッコよくて。カッコいいヒーローになりたくて…
 この島に来てから風紀委員に入ってたんですよ!そこで頑張れば頑張るほど自分が自分の足りなさが見えるんです。
 体も!魔術も!異能も!心も!見えるもの全部を助けようとしても力が足りなくて!
 頑張ったらもしかしたらいつかは全部を助けられるかもしれないけどそれでもそのいつかまで耐えられなかったんですよ…。」

誰にも言った事の無かった言葉を思いを話始める。
何故この人にはこんなことを言ってしまえるのだろう。
いままで溜めこんでいた思いは言葉が脈絡もなく溢れだす。

「…上手く言えないけどそんな感じです。」

ヨキ > コーラのグラスが、そっと置かれる。
止め処なく噴き出すような言葉を、口も挟まず、相槌も打たず、真っ直ぐに受け止める。
『正義ではない』と断言したことにも、取り立てて落胆を見せる様子はなかった。

「……『正義』とは、遍く人びとのあいだに等しく在るものでもあるまい?
 世間一般の常識からすると『悪党』と言われる者たちが、彼らなりの『正義』を唱えることと同じだ。

 自分で間違っていると感じる考えに従い続けることは間違いなく悪だが、
 君が『自分ならこうする』と貫ける芯があるならば、そこには正義が含まれている……。

 このように話すのは、ヨキもまた『ヨキの正義』に従うものだからさ」

正義の味方だ、と、臆面もなく名乗る。

「世界中すべてを守れるヒーローというものは、残念ながら脚本の中にしかないものだ。
 四角く区切られた世界の中に、善悪だけがある。その天秤は時に拮抗して観る者の手に汗を握らせ、最終的に善が勝つ。

 その一方で、この現実はどうだ?
 善があり、悪があり、そのどちらとも言い切れないものがある。
 法で裁くことの出来ない悪、万人が手放しで称えることの出来ない善行。

 そんな中で『ものみなすべてを余さず助ける』などとは、土台無茶な話だとは思わんか?

 ――それでも君が『私欲』と言いながらも街中を駆ける限り、
 君は間違いなく『正義の味方である』と、ヨキは思うぞ」

目を細める。吐き出された思いの丈に、真へ笑い掛ける。

「『正義の味方』と『善人』とは、同義とも限らんよ」

真乃 真 > 「自分の芯…はい、理解はできます。」

悪党が唱える正義など本当に正義と言えるのだろうか?感情では認められないが理解はできる。
真乃真は考える。自分が自分であること以外に何か芯があるだろうか。
思いつかない。真は自分が考える『真乃真』であろうとしているだけだ。
ならば自分の芯はそこだろう。

「『ヨキ先生の正義』っていうのはいったいどんなものなんですか?
 ヨキ先生はいったいどんな正義を貫いているって言うんですか?」

自ら正義を名乗るならそれを信じぬいているのだろう。
この教師がそこまで信じるそれを真は聞きたかった。

「確かにそうかもしれません。そんなヒーローはテレビの中にしかいないかもしれない。
 世界はテレビなんかよりももっと複雑で訳が分からない。確かに無茶な話ですよ。
 それでも嫌じゃないですか!困ってる人がいるのに助けられないなんて!
 善とか悪とか正義とかそんなのは一旦置いといてでも僕は助けられないのが嫌なんです!
 自分勝手なのは分かってますし、土台無茶なのも分かってます。
 それでも、僕はたとえ無茶でも自分の芯が完全に貫けるまでは自分を正義とは認めません!
 ヨキ先生が認めても僕の心の奥の部分が正義の味方だって認めないんです!」

なんて自分勝手な返答だろう。なんて子供な答えだろう。
素直に認められればいいのにそうすればこれから『正義の味方』として生きられたのに。
それは違うと心が言う。不可能でも無理でもそれがお前の真の芯だとヒーローに憧れた真の心が言う。

「でも、善人でそのうえ正義の味方だったら最高にカッコいいじゃないですか?」

自信あり気な笑みを返した。
 

ヨキ > 「ヨキの正義は――
 『来るべき後世のモデル都市』たる常世島の、『秩序』を守り続けることさ」

グラスを傾け、最後のコーラを煽る。

「秩序とは、そこに暮らす人々がその日一日を、そしてその次の一日、そのまた次の一日と、
 変わらず営むことの出来る状態のことだ。

 ヨキはそれを保つ。
 学生街には学生街の、歓楽街には歓楽街の。そして落第街には、落第街の秩序がある」

公には存在しないとされている『落第街』の名を、教師が正面から口にする。

「そうであるからして、互いの秩序は、互いに侵し合ってはならない。

 落第街の悪事が学生街を毒牙に掛けてはならず、学生街のモラルが歓楽街を貶めてはならず、
 歓楽街の金が落第街を誘惑してはならない。

 街の住人ひとりひとりが、別の街区の人間と付き合ってはいけない、ということではない。
 その街全体の秩序やルールを、破ったり侵してはならんということだ。
 だからヨキは『それぞれの街の中に限り』起こっていることに関しては、一切の関知をしない。
 むやみに街を侵すものあらば――咎めはするがね」

それぞれの街で起こっていること。みなまで言わずとも、『それ』は明らかだろう。
この教師は『それぞれの街中の出来事』として、善行も悪事をも黙認しているのだと。

ヨキの顔と言葉に、迷いや淀みはない。
揺らぐことのない自信に満ちて、深い笑みさえ湛えていた。

「君が自分を『正義の味方ではない』とする理由はよく判った。
 『自己満足で、私欲のために、全員は助けられないけれど声を掛けた相手がたまたま困っていたら助ける』
 君は自分を悪人ではないが、善人でもないと言いたい訳だ。

 もしも君の言うとおりの『正義』を実践するならば、確かに『最高にカッコいい』だろう。
 君は自分の現状を、世間の複雑さを、本物のヒーロー像が虚構に過ぎないことをよく理解してる。

 だからと言って……君の言う『ヒーロー』は、現実でも孤独か?」

真の晴れやかな笑みに、片眉を上げて目を細める。

「君の話す『正義』には、『君』と『困っている人』しか出てこない。
 世がとみに複雑なものと知っているなら、そこに広がるネットワークは活用せんのか。

 人を、学園を、委員会を。

 君ひとりの腕など、たかだか直径170センチの範囲しか救えんだろう?
 真乃君が『風紀委員会で自分の足りなさを痛感した』というのは……

 君が『自分一人の力で』ヒーローになりたかったからか。
 それとも――

 『自分独りだけが』ヒーローになりたかったからか?」

真乃 真 > 「ヨキ先生はこの島が大好きなんですね。
 確かにそれは正義ですよ。そして、それを守るために行動してるんですよね。
 それならヨキ先生は『正義の味方』です。深い部分で正義の味方ですよ。」

秩序の為に何をしているのかは分からないけども。
この教師はその秩序の為ならかなりの事をするだろうその自信に満ちた笑みを見てそう感じた。
自分がいう正義とこの人のいう正義はきっと大分異なるものだろう
ここでの日々が続いていくというのはそもそも自分は前提として持ってる部分なのだ
考えたこともなかったことである。

「『自己満足で、私欲のために、全員は助けられないけれど声を掛けた相手がたまたま困っていたら助ける』
 正にその通りですよ。本当に自分勝手なやつですよね。」

改めて口に出して言うと情けない気分になって来た。
しかし、表情には出さないよう努める。

「僕は、僕は。」

一人の力でヒーローになりたかったのだろうか。
そんなことは無いと言い切ることはできない。
独りだけがヒーローになりたかったのだろうか。
そんなことは無いと言い切ることはできない。
それは遠慮だっただろう、それは目立ちたいという思いだっただろう
それは特別でありたいという願いだっただろう。それは拒否されることへの不安だっただろう。

だけど、結果は独りである。この独りよがりである。

認めるしかない。胸の上の方まで来た嫌な気持ちを冷めたココアで流し込む。

「多分両方ありました!一人の力だけでヒーローになりたかった!
 そして、ヒーローっていう特別が欲しかったんです!」

それこそ、自己満足の為に。

ヨキ > ヨキは笑っていこそいるが、語調は平坦で、トーンの高低を現すこともない。
テーブルの上で、八本の指を組み合わせる。

言い淀む真を見つめる瞳の奥で、金色の焔がぐらぐらと揺れている。
まるで脈動がそのまま表れているかのように。
自ずから光を発する双眸は、控えめな照明の下でまるでロウソクのようだった。

「………………、君は」

真が発した答えの言葉に、目を伏せる。

「ヨキよりもずっとよく自覚しているではないか、自分のことを」

テーブルクロスの平面に少し目を落としてから、再び真を見る。

「ヒーローになりたくて、特別になりたくて――なれなくて。
 委員会を離れても、それでも君はまだ『続いている』」

真へ言葉を届かせんとするように、顔を見る。
年相応のつくりをした相手の、その奥を覗き込むように。

「何かを持続するには、それだけで力が要るものだ。
 授業を出席すること、身体を鍛えること、楽しいゲームを一日一時間で終わること、困った人を助けること。
 確かに自己満足だとしたって、それを君は続けている。君の悪い噂だって、何一つ聞かない。

 ……君には十分にヒーローの資質があると、ヨキは思っているよ。
 委員会という枠を、ある種のしがらみを離れたからこそ、君は今こうして自由に走り回っている。

 君の『見えないものは救えずとも仕方がない』という諦めは、独りであることを自覚するほど強くなるものだ。
 この街は、ヨキや君が想像するよりずっと広い。

 君が救えなかったものを、ヨキや風紀委員会が救う。我々が掬い取れなかったものを、君が拾い上げる――
 君の熱量がそんな類の手管と結びつくとき、君はヒーローの、少なくともその一人として輝けると思うんだがな。

 それでも――ダメか。ヒーローは孤独でなくては?」

真乃 真 > その燃える黄金の瞳から目を逸らさずに言葉を受ける。
一言一句聞き逃さないように言葉を受けとる。

この人は認めてくれた自分の今までの行動をあり方を全て肯定してくれた。
信頼されたことはあってもここまで真乃真を肯定してくれるのは自分くらいなものだと思っていた。

その黄金の瞳を見つめたままで次は自分の言葉を告げる。

「頼もしいです。孤独に一人で行くのよりも他の人がいるって分かってる方が
 やっぱり、安心できます。孤独になるのはテレビのヒーローに任せときますよ。」

それよりもと一度言葉を区切って自信有り気な笑みを浮かべながら

「本当にいいんですか?僕がヒーローの一人で。
 割と自分勝手で、カッコつけで、人の言葉を借りればいつも善人面してるやつですよ?
 後から後悔してあいつなんて仲間に入れるんじゃなかったっていっても手遅れですからね!」

テレビのヒーローのようなカッコをつけたポーズを取ってそんな事を言う。

ヨキ > 深まる笑みに、光が差す。それは紛れもない喜色だ。

「――だろう?
 ヨキは君を肯定する。その迷いも、挫折も、そして自信もな」

剣呑な形の牙が並ぶ大きな口で、ゆったりと笑った。
真の『カッコいいポーズ』にも、ひどく頼もしげな反応を見せる。
彼の問いには、勿論、と頷く。

「君の言うとおり、ヨキはこの島も、島に住む人びとをも愛しているのさ。
 その人らを救うことに東奔西走する君を、どうしてヨキの視界から除けよう?

 正義と悪がぶつかり合うように、正義と正義も時に衝突するものだ。
 ヨキの信じるところが、君の反発を招くこともあるやも知れん――逆もまた然り。
 だがそれこそが、より良い次の一日に繋がると思っている。

 『秩序』とは保たれて然るべきものである以上に、書き換えられてゆくものであるからな」

長い腕を伸ばして、真の肩を叩く。

「『絶対に助ける』……『万が一なんて起こさせない』と断言した君を、このヨキが肯定し続けよう。
 絶え間ない肯定、つまり信頼ということだ」

真乃 真 > 真乃真は肯定する自らの全てを肯定する。その失敗も後悔も決断も。
だが、人に肯定されるのと自分に肯定されるのでは感覚が違う。
悪くないけど…むずがゆい。

「僕が一人でいるままではそうやって正義を誰かとぶつけあうこともなく
 胸の奥の方にしまったままだったと思います!」

肩を叩かれればニッと笑みを浮かべて

「信頼されてるならそれに応えないといけませんね。
 ええ、僕はこれからも困ってる人が僕の手が届く場所にいるのなら、僕の眼が届く場所にいるのなら
 僕は変わらず助けようとおもいます。もし、僕の眼が届かない場所に困ってる人がいるならその時はヨキ先生お願いしますね。 
 僕もヨキ先生を信頼してるので。」

肩の手が離れたぐらいで最後のココアを飲み切ってしまう。

「十分あったまりましたしそろそろ行きますね!」

体は暖房によって暖められて心は今までの話で燃え滾ってた。

「ヨキ先生!今日はありがとうございました!
 凄くスッキリしました。本当にありがとうございました。」

そういって自らの分の会計を払うと軽やかな足取りでその場を去る。
その表情はいつも以上に爽やかな笑みが浮かんでいた。

ヨキ > 「覚悟することだ。
 ヨキの信頼は何より堅固だが、その分君に掛ける期待も重いぞ」

肩を揺らし、悪戯っぽく笑ってみせる。

「学生の期待に応えるのが教師というものだ。
 君の信頼に違わぬヨキで在り続けると、今ここで約束しよう」

席を立つ真の、その顔を見るヨキもまた晴れやかだった。

「ああ、茶飲み話が随分と盛り上がってしまったらしい。
 こちらこそ有難う、真乃君。実にいい時間になった」

手を振って真を見送り、さて、と自分も立ち上がる。

会計を済ませて店を出る頃には、顔の火傷もすっかり消え失せていた。
道すがら、絆創膏をばりばりと剥がし取り――ヨキは独り、鮮やかな微笑みを浮かべた。

ご案内:「カフェテラス「橘」」からヨキさんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から真乃 真さんが去りました。