2016/05/13 のログ
美澄 蘭 > 「あ、ありがとう」

和菓子を差し出されれば、そこは素直に、自然に礼を言う。

「これからしばらく、湿度が上がっていくものね…
私は、湿度よりも眩しいのが苦手だけど」

「日傘出さなきゃ」と、伏し目がちに呟く。
一際目立つ淡い空色の左目はいうまでもなく、蘭は全体的に「日本人としては」色素が薄い。
強過ぎる日差しは、肌にも目にも障るほどの刺激となるのだろう。

「………大げさよ」

歯に衣着せぬ物言いには、少し頬を赤らめながらも、硬い表情で顔を背ける。
読書趣味を軽く扱われているような違和感と、容姿を褒められて悪い気はしない気持ちとが、心の中で混沌を織り成していた。
…が、男の視線を集めて喜ぶタイプではない、という旨に理解があった様子に、顔の紅潮を落ち着かせるとともに表情を和らげて顔を背けるのをやめる。

「中学校の頃は、男の子との付き合いは全然なかったし…
それよりは、自分のやりたいことをやれる方が大事ね」

そんな事を言いながら、傍らのブリーフケースに手をやる。
…やっぱり本が気になるらしい。

烏丸秀 > 「なるほど、肌かぁ。確かに、白くて綺麗だし、日焼けに弱そうだね」

でも、小麦色の君もちょっと見てみたいなぁ、などと軽く流し。
これまたオッドアイには触れない。
さて、興味が無いのかそれともわざと避けているのか。

「中学生とはいえ、何をしてたんだろうねぇ男たちも。
――本から君を奪い取るくらいの気概を見せるの、一人も居なかったんだねぇ」

くくっと笑いながら、ちらりとブリーフケースに目をやる。
興味はあるが、彼女が言い出すのを待っているようでもあり。

美澄 蘭 > 「ええ、だからもう少ししたら日焼け止めが欠かせなくなるの。
…黒くなる前に、炎症になっちゃうから」

そう言って、自分の手の甲に触れる。
オッドアイに触れられない不自然さには、まだ思い至らない。

「そんなものよ…人間関係も、趣味も、考え方も違う相手を魅力的だなんてなかなか思わないでしょう?
…それに、本を取り上げるようなことをされたら、流石に許さないし」

華奢な身体からは想像もつかないような、強い言葉が飛び出す。しかも、本人は、至って普通かのような表情をしている。
…と、目の前の青年も自分のブリーフケースに視線をやっているのに気付けば、

「…今読んでるのはね、「女の文化人類学」って本なの。
《大変容》よりずっと前、前世紀に書かれた本だけど、色んな社会や文化についての記述があって、面白いわよ。
…編纂者のジェンダー観が、時代のせいもあって残念だけど」

と、本の説明。
その本を目の前で広げていい相手なのか、試すかのように。

烏丸秀 > 「そっかぁ、小麦色の君は見られないのかぁ」

残念、と肩を竦めてみせ。
軽くお茶に口をつける。

「そうかな。人間は、同じ物を許容し集めたがるけど、結局全ての人間は『違う生き物』だからね。
人間関係も、趣味も、考え方も、『違う』人間を愛する事が出来るよ」

同じと錯覚してるだけかもしれないけど、と付け加える。
『唯一無二』を尊ぶこの男にしてみれば、違うという事はそれだけで愛する事であり――また、収集したくなるものなのだ。

「いつの時代も人は男と女で分けられる。社会や文化が違っても、それだけは変わらない、って事かな。
ボクとしては、男女に関しては、百の本よりひとつの経験だと思ってるクチだけど」

ちょっとからかい、また試すように本について意見する。
否定的な言葉だが、さて、彼女はどう反応するか。

美澄 蘭 > 「季節によって似合う色味が変わらないから、服装を考えるのはある意味楽だけどね」

小麦色にならない素肌にはもう慣れた、と言いたげに、軽く肩をすくめてみせる。
…が、次の言葉には別のニュアンスを込めて、やや強めに肩をすくめ。

「『違う』人間を愛せるのは、その『違い』が自分にとって都合が悪くない時だけよ。
社会制度は、都合の悪い『違い』もしぶしぶ認めながら、適性距離を保って共に存在出来るようになくちゃいけない………って、おじいちゃんとかお父さんの受け売りだけど、あながちでたらめじゃないと思ってるの」

都合の悪い『違い』を前に、「人」はどうするのか。
その負の面の、実感を持っているかのような口ぶりだった。

「文化人類学の本だから、性別の枠組みも基本的にはシンプルになるわね。
………別に、男女の機微を求めてこういう本を読んでるわけじゃないわ。社会の枠組とかに興味があるだけ」

「そういうのに触れたくなったら小説にいくわよ」と、ちょっと眉を寄せて。
蘭は目の前の青年を「読書趣味のあり方に理解の乏しい人物」と考えつつあるかもしれない。

烏丸秀 > 「そうだねぇ、人間は『みんな違ってみんなイイ』なんて建前で言うけど、都合の悪い『違い』は『異端』として迫害するからね」

そこは認める。人間が愛するのは基本的に『都合の良い』ものだ。
都合の悪い物は『異端』として迫害し、都合の良いものへと変化させるか壊そうとする。

「けど、それはドライすぎる考え方じゃないかなぁ。
君や君のお父さん、おじいさんがどんな経験をしたのか、ボクには知りようがないけど」

と、前置きして。
彼女に向かい、視線を向ける。烏丸の金色の瞳が、少女を見定めるように、妖しい光を放つだろうか。

「ボクも興味があるんだよね、色々な『人間』にさ。
だからこうやって、『違う』人間と話す機会を作ってる。
読書もいいけど、君はもう少し実体験としての人間の生々しさに触れてみるといいよ」

きっとその方が、読書で得られるものも多くなるよ、と付け加え。

美澄 蘭 > 「…お父さんもおじいちゃんも、人文科学というよりは社会科学系の人だから。
個別にはともかく、一般論としてはそういう話になるんだと思って納得してるわ。

………それに、この島なら本土ほど『違い』の都合の悪さは表に出ないしね。
学園もクラスで固まってどうこうとかないから、気楽よ」

そう言って、ブリーフケースに手を伸ばし、本を手に取る。
父や祖父の高等教育の専門分野を娘も認識しているあたり、かなり文化資本の豊富な家庭でこの少女は育っているようだ。
…と、次の言葉に手が止まる。露骨に眉間に皺が寄り、

「………確かに、まだまだ薄くて頼りない繋がりかもしれないけど。
私なりに「違う」人との繋がりはあるし、向き合ってるつもりよ。「選んでる」ことを、否定はしないけど。

………「こうあるべきだ」みたいな言い方、しないで。」

そう、少女らしいソプラノに、強い語気を込めて言い切った。
瞳には、憤りの色も垣間見えるだろう。

烏丸秀 > 彼女の少女らしい怒り。
そして憤り。

烏丸はそれを素直に美しいと思う。
穏やかな物腰や趣味、態度ではなく、むしろこちらの強さこそが彼女の本性なのでは、と思えるくらいに。

だが、それを表には出そうとせず、再びおどけたように両手をあげ手を振り

「ごめんごめん、怒らせるつもりはなかったんだ」

瞳の妖しい光を消し、再び軽薄そうな態度を身に纏い

「君があんまりにも真剣に本の事を話すからさ。
つい嫉妬しちゃった。少しはボクの方を見て欲しくてね」

くくっと笑い視線を合わせる。
まぁ、その意味では成功しているのかもしれない。本末転倒だが。

美澄 蘭 > 読書やクラシック音楽を好む品の良さも、まっすぐに表明される憤りも、蘭の本質としては矛盾なく同居している。
その根源は、知識や文化への欲求、そして自我の追求だ。
ただ、表れ方に幅があり、それが年相応の未熟さとまっすぐさを備えているというだけである。
軽薄そうな態度を纏われても、まだ打ち解けた様子には戻らず。

「…そんなつもりじゃなかったのよ。
ただ、若い女の子が社会の枠組の話をしたり、興味を持ったりするのを嫌がる…特に男の人って、いるでしょう?
だから、本の内容ざっくり話して様子見たかっただけ」

そう言って、疲れたように息を吐くと、それでも差し出されていた和菓子を、本を支えているのとは反対の手を使って口に持っていく。
笑う相手に怒りのエネルギーを若干削がれたのと、一応謝ってもらったので多少態度は軟化しているようだ。

烏丸秀 > 好奇心が強く、何にでも興味を持ち、そしてそれを愛する。
根は素直なのだろうか。

「あ、なるほどねぇ。
ボクはそういうの気にしないよ。社会の枠組みとかそういうのに一切興味が無い――というよりも、そういう枠組みと決定的に合わない人間だから、ボク」

烏丸は少女を嬉しそうに見ている。
どちらかといえば、一挙手一投足に今までとは違う反応が出ているのが嬉しい。
つくづく自分は、書による知識よりも人間との接触を好むのだな、と考えつつ。

「さてと、それじゃそろそろ失礼しようかな。君と本との逢瀬をこれ以上邪魔すると、馬に蹴られそうだ」

美澄 蘭 > 「………この世界の歴史って、多少の揺り戻しはあっても「枠組みと合わない人間を受け入れていく」方向に進んできてると思うけど…
それでもまだ「決定的に合わない」となると、色々大変そうね…」

蘭は苦笑を零すが、その空気は先ほどよりもかなり軟化している。
蘭はお世辞にもマジョリティとは言えないが、「学園都市」という性質の空間であれば蘭の気質はそれなりに好ましいものであり得る。
…しかし、目の前の青年はそういうわけでもないようで、「学園都市」という枠組みにはまれずに苦労があるのかもしれない、と考えたのだ。

…どうも、青年の人となりを、「双方にとって」都合が良い方向に誤解している節があるかもしれない。
…と、青年が立ち去るそぶりを見せれば、少し逡巡の表情を見せながらも。

「………ごめんなさいね、気を遣わせちゃって」

そう言って目を伏せがちにするに留めた。
様々な価値観の違いが2人の間に断絶として横たわっており、それをこの場で無理に縫合することが、さほど益のあることだと思えなかったのだ。
だから、せめて気遣いに対しての謝意だけを述べる。

烏丸秀 > さて、彼女が自分の本性を知ったらどうなるか。
そんな日が来るのが楽しみでもあり、もしかしたら永遠に来ないかもしれない。

が、今は良い。
かわいい子とおしゃべりできただけで十分。
そして――

「ボクの名前は烏丸秀。
次に会った時には、君の名前を教えてね」

最後まで彼女の名前すら聞かず、烏丸は伝票を持ち会計を済ませ、カフェテラスを去って行った。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から烏丸秀さんが去りました。
美澄 蘭 > 「………ええ、また」

「断絶」は認識しながらも、再会と会話の可能性を、蘭は否定しなかった。
小さく手を振って、青年を見送る。

(………何か、私らしくないところあったなぁ。
注文相手任せだったりとか…)

全面的に自我が抑えられたとは流石に思ってもいないが(久々に反感を爆発させてしまったのは個人的には反省点である)、序盤にはかなり相手のペースに呑まれてしまっていたのも事実だ。

(…とりあえず、おごられっぱなしだけは良くないわよね)

そんなことを考えながらも、本格的に読書を始める前に自分で追加オーダー。緑茶ベースのブレンドティーだ。

(今度会ったら、軽いお返しくらいはしないと)

そんなことを考えながらも、本格的に読書開始。
たっぷり1時間ほど本に没頭してから、自分で頼んだ分の会計はきっちり自分で済ませ、カフェテラスを後にしたのだった。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から美澄 蘭さんが去りました。