2016/07/12 のログ
美澄 蘭 > (防御術式、強さは十分だったけど…
ちょっと、歩き回るのには範囲が不便だったかしらね)

後輩から教えてもらった防御魔術の範囲や強度を、友人の協力を得て試した。

結論から言うと、強度はまず十分そうだった。
よほどのことがなければ、あの魔術が効力を持っている間に逃走すれば何とかなりそうに思える程度には。

(…あの音、ほんと怖かった…)

実験の時のことを思い出しながら溜息を吐きつつ、巻物を開いて、ノートに術式構成を書き写す。

美澄 蘭 > 強度が十分であれば、何が問題だったのか。
それは、防御魔術の展開範囲である。

元々は、「雨を防ぐため」に教えてもらった術式だ(それにしては高度だし強度が高いが)。
なので、日常で活用するのに支障のあるような展開範囲では、意味がないのだ。
基礎となった展開範囲では、狭い道等の往来が少々不便そうだったため、改造を試みているのである。

…問題は、蘭がルーン文字にはさほど明るくないことだ。
念のため、先日借りたファンタジー小説を読み終えて、図書館に返却するついでにルーン文字のテキストを借りて来たのだが…どこまで自力でいじれるか。

そう、術式構成とテキストの睨めっこを始めようかと思ったところで、頼んだデザートと飲み物が届く。

「あ…ありがとうございますっ」

大慌てで、テーブルの上を片付けて、置いてもらった。

美澄 蘭 > とりあえず、アイスティーに口を付けて、一息。
そこで、ふと我に返った。

(…と、いけない。完全にお勉強モードに入るところだった)

普段なら特段気にしない「お勉強モード」への没入だが、今はそういうわけにもいかなかった。

今日学生街を歩いているのは、別に理由があるからだ。
自分の、誕生日が近いのである。

美澄 蘭 > (…何で、誕生日プレゼントの希望聞かれてあんなこと口走っちゃったかな…)

母との音声通話を思い出して、冷却魔術を身に纏っているにもかかわらず頬が熱くなる。

『今年の誕生日プレゼント、何が欲しい?』
「うーん…あんまり良いの思いつかないなぁ。高いのばっかり」
『例えば?』
「………自宅練習用のキーボード。やっぱり、練習棟まで通うのそれなりに手間だから。
24時間使えるとはいっても、夜中あんまり出歩きたくないし」
『あー…それは確かにきついわねぇ』

自分と声質の似ているらしい(実感はそこまでない)母の、朗らかな苦笑いが耳に思い出される。

美澄 蘭 > 「でしょ、だから気にしないで」
『…でも、誕生日のお祝い出来ないって寂しいわ。私もだけど、お父さんもね』
「………ぅ」

そこで、畳み掛けて来た母の言葉。

『何か、これから新しくやりたいこととか、ないの?
蘭だってもうそっちで1年以上過ごしてるし、生活にも慣れて、新しいこと始めたいと思ってるんじゃないの?
それこそ、バイトとか』

「………」
「………今年の夏は、海にも行ってみたい」

そう、返してしまったのが大変だった。

いや、海で遊びたい気持ちも無いとは言わないが(インドア派とはいえ、蘭は運動がそこまで苦手ではない。泳ぐのも特に問題はないのだ)、海水浴場の対応係として詰める保健課の活動に参加して、手当を得たいというのが主だった。
…今年の学園祭の演奏会で、自分の得たお金でドレスを借りるために。

美澄 蘭 > 母の…雪音の、弾む声が思い出される。

『海?日焼けが痛いからって、小学校卒業してから全然ご縁がなかったのに…!
でも、そっちに水着持ってってないわよね?』
「そうね…中学校指定の水着、卒業してまで着る気にならないし」

蘭にだってお洒落心の一つや二つはあるのである。
そして、母の心は決まったようだった。

『それじゃあ、私とお父さん、2人分のプレゼントのお金送るから、それで新しい水着買いなさいよ』
「えっ」

会話の流れからすれば、当然の帰結である。
「海に行ってみたい」と口に出したのは自分で、水着を今は持っていないのも事実なのだから。

それでも、当時の蘭は相当慌てた。
…いや、今もこのことを考える時の蘭は、あまり平静とは言えない。
正直、「お勉強モード」に逃げている方が楽なくらいには。

美澄 蘭 > 結局、押し切られてしまったのが、この間公園の近くを歩いていた時の出来事だった。
それで、誕生日が近づく今日学生街の店をあちこち回ってみたのだが…

(…結局、まだ決まらないのよね…)

去年の演奏会のドレスも、大人の意見を聞きながら頑張ってみてはいるものの…
どうしても、一人で服を選び、決めることにまだ慣れていない蘭なのだった。

(七夕の短冊の願い…前途多難だわ)

深い、嘆息を吐き出した。

美澄 蘭 > そのまま、どこか気の抜けた調子でアイスティーをすすり、チーズケーキを口に運び。
その中で、「忘れ物」を思い出す。

(…あ、とりあえずアンダーショーツだけは買っとかないと試着に困るわね)

どんなものを選ぶにしろ、水着自体は今のところ調達するつもりでいるのだし。

(…もう一回、下見ついでにお店に買いに行っときましょ)

再度店に足を運ぶ英気を養うべく、前向きにアイスティーとチーズケーキを楽しみ。
それが終わると、会計を済ませて店を歩き去った。
店を出る際に、白いレースの日傘を軽やかに広げて。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から美澄 蘭さんが去りました。