2016/10/06 のログ
■暁 名無 > あんまりじろじろ見てたら風紀か公安を呼ばれそうなので早々に資料へと目を向ける。
それは仕事の合間を縫っては転移荒野をはじめとする未開拓地区へ足を運んでそこに棲息する動植物を記録したもの。
どこかの研究所に依頼されて居るわけでもない、完全無欠に俺の趣味な代物であるそれを眺めながらふと考える。
「異種交配ってやっぱこっちの世界の動物と、異世界の動物とでも出来んのかね……?」
たとえばタダのノウサギとジャッカロープと、とか。
そも異世界の動物にも繁殖が必須であるのかどうかは知らないが、まあ大抵の異邦人もヤる事ヤるらしいから同じだろう。
それでもまあ、地球人と異邦人の関係をそのまま当て嵌めて良いものか少しばかり悩む。
■暁 名無 > 「そもそも異世界間種族同士を交配して生まれる子供はどうなる?」
野ウサギとジャッカロープを交配させた場合、生まれた子供に角があればジャッキーで角が無ければ野ウサギか?
それならば複数の身体的差異がある近縁(に見える)種同士は?
そもそも雌雄の概念から通じるのか?単体生殖する生物ももっと居るかもしれない。
人間みたいな形のくせに分裂で増えたらどーすんだ。
「……うぉぉぉ。」
色々と考え過ぎて呻き声が口から漏れた。
学校に居る間は次の授業のことだけ考えて置けば良かったものの、いざそれから解放されたらこの有様。
……きっとガキの頃考えるよりも動いてた反動だな、と俺はコーヒーを再び啜る。 うん、苦い。
■暁 名無 > 手元の資料をぱらりぱらりと捲りながらもある事ない事考え続ける俺。
気が付けばカップは空になっていて、俺は何故かずっとからのカップを手にしたまま資料を睨んでいた。
何時の間に飲み干したのか、記憶がさっぱりない。
俺はそっとカップをソーサーの上に戻し、一度何も考えない事にしようとテラスに面した通り、そしてその上に広がる空を見上げる。
「……ぁ~。何度見ても変な感じだ。」
未だに十数年過去の世界に来ているという実感は無い。
それは多分、十数年後の俺が常世島から離れた場所で生きていたからだろう。
というか、自分が生まれる前ならまだしも自分が今生きている時代に来ても過去っていう認識は強くない。
むしろ現在が二重にダブってるように思えて、妙にそわそわする。
■暁 名無 > 例えば空。
浮かんでいる雲一つ取っても、既に見覚えがある。
実際のところ、十数年前の俺……この時代を元から生きている俺が見ているから当然な訳だが。
流石に昨日一昨日ならともかく、十年以上経ってるとなると鮮明さは失われている。
それでも間違いなく見ているので、同じものを見てしまえば否が応にも「昔見た光景」になってしまうのだ。
毎日が「あ、ここチャレンジで見たことある!」状態でデジャビュすら通り越して来る。
だから極力、俺は昔の俺とは生活の仕方や住所、通学路などなどを被らせないようにしては居るのだけど……。
「……この頃はとてつもなく動き回ってて被らせない方が難しいんだよな。」
飲んだコーヒーが気体になって出て来たんじゃないかってくらいの苦さの溜息が零れ落ちた。
若さに任せて、というか幼いが故のノーリミテッド生活。
体力が切れるまで動き回って動き回って動き回って疲れたら寝る。
そんな生活を送っていた自分が、少し恨めしい。
■暁 名無 > まだ風景や出来事ならうろ覚えや勘違いも含まれるから良い。
問題は人間関係だ。こいつは思った以上に複雑で油断するとすぐに絡まる。意図的に考えない時だってあるくらいだ。
まず俺が俺自身に遭遇した時、俺が未来の自分である事を悟られるのは拙い。
タイムパラドクス……なんて言葉を用いなくても何となく想像はつくと思うが、有体に言っちまうと未来が変わるかもしれないからだ。
……とはいえ、それで困るのは“未来に帰る予定のある人間”だけで、俺は特に未来に帰るつもりは無い。
この時代に骨を埋める覚悟──ってのも変な言い方だが、帰り方があったとしても俺は帰らない。
「……まぁ、未来に心残りが無いかって言われりゃ、そーでもねーけどなー……」
通り掛かった店員にコーヒーのおかわりを注文してから、
俺は再び暮れていく空を見上げた。
■暁 名無 > 新しく運ばれてきたコーヒーをひと口啜って資料をテーブルの上に戻す。
今度はこれらをパソコンに打ち込ん……打ち……うぁぁぁぁ
「もーやだー!!めんどくせー!!」
趣味だけど!趣味でやってるけど!
元々デスクワークなんて出来るような性格じゃなかったのを嫌でも思い出させられている。
こんなことならデスクワーク出来そうな生徒に声を掛ければ良かった、と分かりやすく後悔する俺。
こんな後悔も、十年前にはこれっぽっちも縁が無かったんだけどなあ。
■暁 名無 > それでも嫌々パソコンを立ち上げ、資料作成用のアプリを起動する。
如何せん俺からすれば十年以上前のマシンとアプリなので使いにくい部分が多い。
……いや、文明の発展速度の所為にしちゃいけない。
単純に俺が普段パソコンを使ってこなかったっていうだけのことだ。
「とりあえず、だ。
何事もやり始めなきゃ終わらねえってのは何年経っても変わらねえんだからな。
まず始めよう。始めりゃ何とかなる。どうにでもなる。
ていうかなれ。なれよ。なってくれ頼むから。」
『作成途中』と銘打たれたフォルダの中に入っているファイルを睨む。
睨んでももちろん作業が完了しないし、そも始まりすらしない。
というか俺、作業途中のファイル多過ぎじゃねえの?ひぃ、ふぅ……あ、やめたやめた。
数えても仕方ねえな、と俺は一番最終更新日時が新しいものをクリックした。
■暁 名無 > 「~~~ッ!」
助手(仮)に渡す予定の資料だった。
正直、今一番進めたくないものなのは否定できない。
中身と言えばただの動植物図鑑だ。転移荒野近辺の動植物を記録した図鑑。
正直俺がまとめたっきりのまま渡しても良い様な気がしたのだが、彼女がどれだけ理解できるのかが分からない。
そう思って調査助手の認定のための書類をまとめながら、それとなく彼女の学力調査書を眺めさせて貰ったのだが。
……正直見なきゃ良かったと思った。
「まあでも、案外やる時はやる感じするしな……。」
昔の自分、つまり今の時代の自分が理解出来るレベルなら大丈夫……なんじゃねえかなぁ……。
そんな事を考えつつ、俺は資料を纏めていく。
ポップでファンシーな雰囲気のイラスト素材サイトからイラストを引っ張って解説セリフを付けつつ、出来るだけ冗長過ぎないように。
結局そんな調子でコーヒーをあと2杯追加で注文し、店を後にする時にはすっかり夜になっていたのだった。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から暁 名無さんが去りました。