2016/10/10 のログ
ヨキ > 「異能や魔術の怖いところは、その痕跡も残らんところだよな。
 年長のご婦人などは、整形っぽい、などと見分ける目に長けていた頃もあったようだが……。
 今となっては、いつどこで姿かたちががらりと変わるとも知れん。

 それでもしも、内面まで模倣するような能力があったとしたら……、
 いやはや、自分を自分と証明するのもなかなか大変なことよ」

奇しくも目の前の少年が、それに類する異能を持っているとも知らずに。
何気ない言葉が、つらつらと零れた。

それでいて、目の前の遊馬から実際に“女子の声”が放たれたものだから――
瞠目して、ぱちぱちと瞬く。

「……おや、これは驚いた。
 よほどの役者か……それとも『今の』が、君の異能か?」

カップを片手に、遊馬の顔を冗談めかして見分する。
タネも仕掛けもなかろう、とばかり。

「小腹が空いたときのためのおやつは、職員室や美術準備室の机に密かに常備してあってな。
 だがお腹をしっかりとペコペコにしておいた方が、三食をより楽しめるというもの……。

 ふふふ。いただきます」

運ばれてきたランチプレートを前に、箸を持って合掌。
ごはんに味噌汁、鶏肉と根菜のグリル、豆のサラダにキノコのおひたし。

献立と盛り付けはキャピキャピしているが、口へ運ぶ一口一口の量は男のそれだ。でかい。
だが食べ方はえらく綺麗で、マナーはきちんとしている。

「現実感がないまま、か。
 これだけ毎日、上へ下への大騒ぎをしているような島の学園ではな。

 ヨキはもうずっと教師をやっていて……慣れはしたが、飽きないな。
 人の出入りが激しいから、良くも悪くも、新しいことばかり起こる。

 斉藤君は、異能や魔術を学ぶために常世島へ?」

斉藤遊馬 > あぁ、すみません。はい、これが俺の異能です。
(特に隠し立てするようなものでもないと考えているのか、さらりと言って。)
とはいっても、モノマネできる、ってだけなんですけどね。
例えばさっきのヨキ先生の顔とか。
(軽い調子で言いながら、表情が変わった。明日にでも世界が滅びそうに深刻な顔。)
(顔立ちは全く異なるが、少年と男以外の他者が見れば、”何処か通ずる”と判る表情。)
(暫くやってから、ぱっと元に戻した。照れくさそうに笑う。)
変身の異能を持つやつが、気づいたら自分でも、自分が誰かわからなくなる、とか。
そういう話も、風紀で聞いたことあります。
俺のはそういうやつじゃないですけど、こんだけ色々溢れてたら、身分とかそういうの、あんまり意味ないのかもしれないですね。
(風紀委員が言う台詞じゃないか、と。冗談めかして言いながら、アイスコーヒーを一口。)
(からん、と氷の鳴る音。弄ぶようにグラスを軽く傾けてから、卓上に置いて。)
あ。わかります、それ。お腹めっちゃ空いてるほうがご飯美味しいのは。
でも空かせ過ぎるとお腹鳴るんで、バランス難しいですよね。
夕方とかもう菓子パン食べても晩飯食えるし良いかな、ってなっちゃう。
(小洒落た感じの皿の上の料理たちが、次々目前の男の口の中に消えていく。)
(あまり人の食べるところを見つめてしまうのも心苦しかったのか、視線を軽く逸らして。)
子供の頃、初めて新宿とかに行ったとき、お祭りみたいだと思いましたけど。
この島って、それ以上に、なんだろ。別世界ですよね。
生活の匂いがするのに、ひょっこり変なものが顔出すっていうのか……上手く言えないですけど。
慣れるけど飽きないって、それいいですね。一々びっくりしなくなれれば、楽しいだろなぁ……。
(腕を組んで頷く少年。いつになったら慣れられるんだろ、とぽつり呟いた。)
(問いかけには、不意を疲れたように瞬き繰り返してから、笑う。)
え?あぁ、いえ。そんな志とかなくて。ただ、外に比べても、異能とか普通の島でしょ?
ここで普通に過ごせるようになったら、どこでも生きていけるかな、って。
きっかけはそんなやつです。……でも、来てよかったな、とは思ってます。

ヨキ > 遊馬が見せた自らの異能に、おお、と感心した顔。
自分の表情を再現されると、どこか気恥ずかしそうに口を噤む。
確かに声を掛けづらい顔をしていたらしい。

「なるほど、物真似……。見聞きしたものを、完璧に再現してみせるのか。
 なかなか応用のし甲斐がありそうだな。

 この島へは、外での身分や居場所を失くして流れ込んでくる者も少なくない。
 自分が誰か判らなくなる、という苦しみが、下手をすれば増してしまう訳だからな。

 風紀委員が言うから良いのさ。それを承知してなお、風紀委員を名乗れるくらい骨のある者が好い」

遊馬の軽口に、にやりと笑みを作って返す。
遊馬も遊馬だが、ヨキの方も大概だ。

「仕事の帰りに、学生通りで買い食いをするのが最高に美味くてな……。
 君も今のうちに、どんどん食べておいた方がいいぞ。
 大人になると、ついた肉が落ちなくなってゆくと言うからな」

太らない体質であった頃、散々愚痴られたであろうことが察せられる。
ヨキ先生はいいですね、などと言われたのだろう。

「妙な人やものを集めて、煮凝りにしたようなものだからな。
 君の言うとおり、ここで平気な顔をしていられれば、きっとどこでも図太く生き抜けるさ」

肉を咀嚼して飲み込む。塩胡椒ベースの、さっぱりとした味付け。んまい。
遊馬のささやかな表情の変化に、何だ、と穏やかに笑う。

「“ごっこ遊び”を演じるのは、子どもの遊びの常套だが……君の異能は、それどころではなかったか?」

軽やかに晒された異能。その巧緻さに、含みを思う。

斉藤遊馬 > あ、すみません。本人の前でやるとやっぱり嫌ですよね。
応用って言っても、カラオケとかで役立つくらいですよ。
(頭を軽く下げてから、申し訳なさそうに後頭部を掻いて。)
勘弁して下さいよ。一部の先輩たちに聞かれたら、根性が足らん、とかいって走り込みとかさせられそうです。
(居ないだろうな、と周囲を見回して、見当たらなかったようで安堵の表情。)
(委員会が委員会だけあって、上下関係のしがらみも、それなりにある様子。)
あー…学生通りは完全に、その需要で成り立ってますもんね。
しかも大体競い合うから、普通に美味いし、ある程度安いし……。
懐が許す範囲で食べてますけど、肉がつくより金が尽きるほうが早いから安心…安心かこれ…?
(悩ましいところであった。腕を組んで複雑そうな顔。)
(ご相伴にほいほいと乗ってきたあたり、そこらの学生と同じで、懐にそう余裕があるわけでもないらしい。)
そこに自分たちも入ってるんですから、あんまりその通りです、って言って良いものか難しいですけどね。
卒業までには平気な顔できると良いんですけど。
(どうかなー、難しいかなー、と。首を左右に振りながら考える様、まだまだ慣れるには遠い様子であった。)
(己の力に対する相手の推測には、笑いながら首を振る。)
いや、別にそんなことは無いですよ。
誰かの害にもならないし、テレビでやってるダンスとか真似すると、皆喜ぶし。
新曲出たら覚えてくれよ、とかそういうのはめんどくさかったけど。
俺にとっては、この異能が在ってよかったな、って。そう思ってます。
(その表情歪み無ければ、含むところのない様子、本当にそう思っているようで。)
(一拍置いて、視線を目前のグラスに落とした。外側についた水滴を眺めながら。)
でも、風紀委員やってたら、そういう人間ばっかりじゃないのは、わかります。
多分俺は運が良かったんだ。だから、うん。来てよかったのは、純粋に。
この島楽しいなって。今のところ、そう思えてるからです。

ヨキ > 遊馬の謝罪には、気を害した風はない。
物真似をされる、ということが新鮮だったらしい。

「走り込みか。さすがに風紀は厳しいな。
 ヨキと付き合っておったら、否応なしに口も腹も緩んでしまうやも知れんぞ」

校則に厳しい反面、学生との付き合いは緩やからしい。
親しげににんまりとする。

現状について語る相手の顔には、安心したように微笑む。

「よかった。君が異能を持ったことで、必要以上の負担を強いられていなければそれでいいんだ。
 いろいろな異能があるということは、それだけ無数の使い方があるからな。
 あって良かった、と思えるならば、それに越したことはない」

ほっとして、昼食を食べ進める。
デザートを店員に頼むと、間もなくして三種類と、二人分の取り皿が運ばれてくる。

「風紀委員への風当たりと同じで、自分と相手の出自を比べて強く当たる者も少なくはないからな。
 運が良かった、ということを悪く思う必要はないし、また君が責められてよい理由にはならん。

 ここでヨキと一緒にデザートが食べられるのも、君の運の良さだ。
 君の楽しさと真面目さが続く限り、ヨキは君を応援しよう」

朗らかに笑いながら、てきぱきと半分ずつ取り分けてゆく。
栗にカボチャにさつまいも。柔らかな生地に、しっとりとしたクリームの甘い香り。

斉藤遊馬 > 仕事ちゃんとしてればいいじゃん、って先輩も居るんですけど、しっかりきっかりな先輩もいるんで……。
正しいよなー、と思うんで、別に嫌いじゃないんですけど……先輩の前行くときは口にチャックしときます。
この異能なら、反省した表情も楽々で作 教師の前で言うことじゃないですね。口ゆるっゆるだな俺。
(右の手で、口を叩くように隠して。もごもごと。)
持ってるだけで害になる異能とかだと、本人の性格とか関係なく、本人にも、周囲にも負担になりますしね。
先生なら……先生のほうが長くいる分詳しいとは思いますけど、
そういう人でも、俺たちの立場としては連れてかないといけないこと、ありますし。
(はぁ、と溜息吐いて。本人としては中々に複雑な心模様が垣間見える。)
(しかしそれも、デザートが姿を見せれば表情を変えて。)
(思春期男子である。甘いものが嫌いなはずもなかった。)
ありがとうございます、先生。
色々めんどくさいことも多いんですけど、美味いもの食えたら大体解決します。
(非常に現金な発言しながら、相手の手元、切り分けられるデザートを見ている。)
……やっぱり先生、担当が担当だけあって、器用ですね。
俺が普通にやると、ケーキとかぐちゃぐちゃになるんだけど……。
(相手の手元をじぃ、と観察するように眺めているのはきっと、”次”に使うためだろう。)
(しかし、ふわり香った甘く香ばしい匂いに、その表情も緩んで。)
あ、やばい。お腹鳴りそう。

ヨキ > 「風紀委員にも、模範になるような者から幽霊までさまざまだ。
 君が『反省した顔の作り方を教えてくれる』いい先輩、ということにならないよう信じているよ。

 葛藤を知れば知るだけ、君はきっといい風紀委員になれる。
 そうすれば“履歴書にいい内容が書ける”以上に、君を大人の男にしてくれるはずさ」

だから頑張りたまえ、と。
いかにもお腹を空かせた思春期男子の面構えに、取り分けたケーキをさらに一口分ずつ多めにサービス。

「甘ったるいのは今回だけだからな。
 次からは、自分で食べた分はしっかりと自分で払ってもらおう」

空になったプレートは下げられて、あとはデザートが輝くばかり。
自分の手元を見る遊馬の視線に気付くと、ちょっとだけ色気を含めてみせる。
どこからどう見ても、「女と食事をするとき用」だ。

「ふふ。参考にしなさい」

しれっと一言を添える。

そうして支度が整ったら、あとは満喫するだけだ。

「それでは改めて――いただきます」

フォークを手に、大変幸せそうな顔。
甘味にでれでれと頬を落としそうなほど緩める表情は、きっと初めに地獄のような顔をしていたヨキからは想像もつかなかったろう。
女子からの差し入れも、こんな顔をして食べ切っているに違いなかった。

ご案内:「カフェテラス「橘」」からヨキさんが去りました。
斉藤遊馬 > 途中で折れた先輩の話も聞きますし、同級生でも途中でやめたやつもいます。
(視線が不意に遠くなる。脳裏、思い出している光景を見ているのだろうか。)
……俺もいつまで続けられるかわからないですけど、できることなら体が動く限りは、続けて、
先生の言う大人ってやつに、なれると良いんですけど。
(瞳の中に、少し滲む不安の色。目を閉じて開いたときには、消えていた。)
了解です。今回は、ご相伴に預かります。
(少しばかりこちらの皿の分量が多いことに、一瞬申し訳無さそうな顔をしたものの。)
(その表情の端に笑みが滲んでいるあたり、嬉しいという感情が溢れている。)
ん。
(ケーキが器用に切り分けられるのを見る中、途中で相手の手つきが変わったことに気づいた。)
(しかし二つの動作が”どう”使い分けられるべきものなのか、少年にはまだわからない。)
(問いかけるのも違う気がして、ただ、記憶する。)
(その異なる二種類、再演した時に指摘されて初めて気づくのだろうか。)
(そして互いの前に並んだケーキ。もう、限界であった。)
いただきます!
(ぱしん、と両の手を合わせて。意気揚々とフォークでケーキを崩し始めた。)
(その後に少年の浮かべた表情については、特に異能で真似をするでもなく目前の教師に似ていたであろうことは、想像に難くない。)

ご案内:「カフェテラス「橘」」から斉藤遊馬さんが去りました。