2016/10/15 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に美澄 蘭さんが現れました。
■美澄 蘭 > 平日の放課後、やや遅めのティータイムくらいの時間帯。
どこかぼうっとした足取りで、カフェテラスを訪れた蘭。
「こんにちは…」
少し弱った声でそう言って(律儀なことである)店内に入ると、窓際の席に腰掛ける。
最近は一頃の暑さが嘘のように涼しくなり、時折肌寒ささえ感じさせるほどになっている。
強い日差しもないし、蘭も日だまりが恋しくなる季節なのだった。
「………すみません、チャイお願いします。もちろんホットのやつで」
メニューをほとんど確認もせずに店員を呼び、そう注文すると…
「………はぁ」
テーブルの上で、潰れた。勉強道具を出す様子はもちろん、端末すらいじり始めない。
■美澄 蘭 > 平日、勉強の合間を縫って最低2時間。
休日、日が出ている間で6時間。
発表会前の追い込みとはいえそれだけのピアノ練習を毎日続けていたら、たまには何も考えない、ぼーっとする時間を作りたくもなるのである。出来れば、夜以外で。
楽器を正確に、音にきっちり表現をのせながら奏でるというのは(本当の意味での)運動神経が問われるものだというのは大前提ながら、「今どこまで出来ているか」のチェック、「今より良くするためにはどうすればいいか」の思考に頭も使う。
音楽というのは、一般で思われている以上に全身を使うのだ。特に、ピアノにはペダルが存在するのだから。
…と、蘭がそうしてぐったりしているところに、チャイが運ばれてきた。
「あ、ありがとうございます」
身体を起こして、受け取る。
店員が去った後、器に手を伸ばして、口元に運ぶ。
スパイスの香りが、身体の中にじんわり染み通るように感じられる。そして、口の中に運ばれてくる温かさと、ミルクと砂糖の甘味。
「………はぁ」
同じ溜息ではあるが、この店にやって来たばかりの時よりは、大分幸せそうなトーンだった。
■美澄 蘭 > 追い込みで疲弊はしているが、別にピアノの練習それ自体が嫌になったりはしていない。
…少なくとも、今のところは。
(…最悪、来年からピアノに触れないまであるわけだし…
後悔だけは、したくないわよね)
蘭は現在、ピアノの練習環境を音楽実習棟に完全に依存している。
しかし、ピアノ実技の授業を来年以降も取り続けることはほぼ「音大受験希望」を意味することになるため、そうなると一般教養や、魔術関連の講義に割ける時間がかなり減る。
逆もまた然りだ。一般教養を更に積んで本土の大学に入るにしろ、魔術専攻にするにしろ、ピアノの練習時間は減らすことになる。当然、より上級のピアノ実技授業は受けていられない。
…しかし、「授業履修を条件に自由に使える場所」に練習環境を依存している以上、こちらの選択は、最悪ピアノそれ自体との別離になり得た。
「………。」
チャイという、寒い時期にほんわかするためには最適な飲み物の一種を口にしながら、この上なく難しい表情をしている蘭がそこにいた。
■美澄 蘭 > 「………ダメね、落ち着かないわ」
溜息を吐くと、一旦チャイのカップをテーブルに置く。
それから、ポケットからイヤホンの刺さった携帯端末、ブリーフケースから楽譜と筆記用具を取り出した。
楽譜を開き、筆記用具を手に取り…イヤホンを耳にセットすると、端末を操作。
自分の演奏を録音したものを、チェックするつもりのようだ。
■美澄 蘭 > 「………。」
そうして、自分の演奏を録音でチェック…しながらも、蘭の顔がますます微妙になっていく。
たっぷり練習しているということは、たっぷり録音も聞いているというわけで。
蘭はもはや、気分の切り替え無しには「何が良くて何が良くないのか」の判断にすら困るようになってしまっているのだ。
録音を聞き終え…イヤホンを外す。
「………はぁ」
振り出しに戻ったかのような重い溜息を吐いて、少しだけ温度の下がったチャイを飲む。
■美澄 蘭 > (弱ったなぁ、週末は先生に見てもらえないし…)
無論、時期が時期なので実技の教師は頼めば授業時間以外も見てくれる。
しかし、時期が時期だからこそ、見てもらえる時間の予約は競争の様相を呈しているのだ。
蘭は全く取れていないわけではないが、練習時間と比較すると、圧倒的に足りない。
甘いはずのチャイに口を付けながら、渋い顔をしている蘭。
■美澄 蘭 > (………何かこの感覚、前にも覚えがあるかも)
カップに口を付けながら、ぼんやりと考える。
どうしようもない焦燥感。出口が見つからなくて…
(…そういえば、10月に入ってから、瞑想の頻度がくっと減ってたかも)
この焦燥感は、「魔力の暴走」に悩んでいた頃に似ていると、蘭は思った。
どうにかしなければという気持ちだけが逸って…逆に、上手くいかないような感覚。
■美澄 蘭 > (…とりあえず、最低限ミスを減らすための練習はやるとして…
たまには、ピアノと勉強から頭を離してゆっくりする時間作った方がいいのかしら)
そんなことを考えながら、チャイを味わう。
…とはいっても、飲めないほどではないが結構ぬるくなりつつあって、スパイスの香りも随分飛んでしまっているのだが。
「………ふぅ」
そんなチャイを飲みきってから、息を一つつく。
重々しい気配は、大分遠のいていた。
■美澄 蘭 > 「…よし」
チャイのカップをテーブルに置き、楽譜や筆記用具を片付け、ポケットに端末をつっこむ。
立ち上がって、レジのところで会計を済ませ…店を出る間際、
「ごちそう様でした」
と言って、カフェテラスを去っていった。
声のトーン、表情、足取りからは、疲弊感がかなり抜けていたという。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から美澄 蘭さんが去りました。