2016/11/04 のログ
マリア > 「あ……っ!」

真剣に悩んでいたらしい少女も、貴女に気付けば視線をあげて、
この学園における数少ない知り合いとの出会いに、表情を緩めた。

「もちろん構わないわよ!
……けど、蘭、何だか、ちょっと疲れてるみたいね?大丈夫?」

対面する席を示して、にこりと笑う。

美澄 蘭 > 「ありがとう」

そう言って、優しく微笑むと、マリアの斜め向かいあたりの椅子に腰掛け、自分の隣の椅子にブリーフケースを置いた。

「…そうね…ピアノの発表会が近いから、最近はそっちにかかりっきりなの。
もちろん、最低限の勉強は続けてるけどね」

そして、近くにきた店員を呼び止めて

「すみません、ホットのアールグレイにミルクをつけて…あと、焼き菓子のセットを」

と注文をする。
店員が立ち去れば改めてマリアの方を向き、

「…でも、最近急に冷え込んできたでしょう?
マリアさんの方こそ、体調は大丈夫?」

と、世間話のように、何気ない感じでマリアの近況を問うた。

マリア > 「あぁ、それで……。」

疲れ顔の理由を聞けば、くすっと笑った。
貴女のように一つのことに打ち込めれば幸せだろうな、と、少しだけ羨みつつ。
自分にはそんな物が一つもないということを、内心に自覚しつつ、

「たけど、あんまり無理しちゃ駄目よ?
身体を壊しちゃったら何にもならないものね。」

「私は何も変わらないわ。ただ……。
……ずっと勇気が出なかったけど、そろそろ本気で授業に出てみようかって。」

美澄 蘭 > 「ありがとう…睡眠時間はちゃんととってるから大丈夫よ。
頭と身体両方使うから…どうしても、エネルギーは勉強よりずっと使うけど…でも、それだけ」

相手に気遣われれば、礼は述べつつも、困った笑顔で手をひらひらと振り。
「大丈夫」アピールのつもりらしい。
相手が自分へ向けるある種の羨望に、気付いた風もなく。

「………あれ、今までほとんど授業に出てなかったの?」

…が、マリアの決心を聞いて、驚いたように目を瞬かせる。
最初に委員会に案内したのは、何ヶ月前だっただろうか?

マリア > 「ふふふ、私は頭を使うのが苦手だから、両方使ったら倒れちゃうわ。」

くすくすと楽しそうに笑いつつも、貴女が見せた「大丈夫」というサインをしっかりと受け止めた。
頑張ってね、なんてエールを送りつつ、

「なかなか切欠も無くて……あ、でも、ちゃんと学生証とか保護の手続きとかはしてもらったわよ。」

貴女がマリアを委員会に連れていってから、だいぶ紆余曲折を経たのだが、そこまでは言わなかった。

美澄 蘭 > 「そう?ぴったりハマった時なんか、気持ち良いわよ?」

こちらもくすくすと楽しげに笑い返して、音楽のススメ。

「…きっかけ…そういうものかしら…。
でも、こうしてここでお茶が出来るくらいだし、生活は何とかなってるみたいで良かったわ」

「学園」という場で、「切欠」がないと授業に出られない、というのは蘭にとっては不自然に思えて、首を傾げる。
…しかし、こうして再会出来ていることの方が大事かと考えて、傾げた首を戻すと、後半の言葉をかけて柔らかく笑んだ。

「………と、そういえば…」

ごそごそと、ブリーフケースから封筒細長いを取り出し(その過程で、ノートやら難しそうな本やら、楽譜らしきものやらが垣間見えるかもしれない)、

「はい」

と、この少女らしからぬ押しの強さでマリアに押し付けた。
中にはお金が入っているのが、手に持った感触から伝わるだろう。

マリア > 「もちろん、聴くのは好きよ。
……ほら、演奏を聴いて拍手する役も必要でしょう?」

さらりとそう告げたが、その言葉に嘘はなかった。
少なくとも、人を感動させるような音楽があることは知っているし、自分がそれを生み出せないことも知っている。

「お陰で何とかね……飛ばされてきたのがこの島で本当に助かったわ。」

なんて苦笑しつつも、サンドイッチを頬張るマリア。
貴女が傾げた首にも気づいたのか、私って、けっこう臆病なのよ……?なんて、笑って見せた。

「…………??」

突然手渡させる封筒。
そのなかに入っているお金。

理解が追い付かない、という顔で貴女を見る。

美澄 蘭 > 「演奏家が別の場面では観客なんて、珍しくも何ともないけど…
まあ、無理にとは言えないわね」

寧ろ演奏家の方が「良い」観客という側面すらあったりするが、そこは掘り下げず。
マリアが乗り気でないなら、あまり押すのも迷惑か、と、それでも少し悪戯っぽい笑みで引く。
その表情からは、「もったいない」という心情が読み取れて余りあるだろう。

「この世界の他の地域だと、ここまでのサポート体制はなかなかないしね…

…臆病にしたって、手続きとかを放っとくのもそれはそれで怖くないかな、って思って。
でも、この世界の窓口とかを理解してる人間の発想かもしれないわね、これは」

マリアが臆病を自称して笑えば、そう言って苦笑する。
…と、マリアが封筒の意味を理解しないのを見て、その苦笑いを晴れやかな困り笑みに変えて。

「…ほら、前にここで会った時、私の分のお代まで置いてったでしょう?
その分と、お釣り。

人に甘えっぱなしなのは好きじゃないのよ。…それが、慣れない環境で苦労してる相手なら、尚更ね」

ほら、とこの少女らしくない強かな笑みと共に、封筒をマリアの手前に置いて手放す。

何ヶ月前の話かは分からないが、わざわざ取っておいて機会を伺っていたらしい。
何とも真面目な話ではあるが、頭に余計なカタカナ二文字がつきそうだ。いや、間違いなくつく。

マリア > マリアは首を横に振ってから、

「ほんと、こんなことならもっと早く手続きしておくんだったわ。
でも…何もわからない場所に飛ばされるって、意外と怖いのよ?」

そしてそれは、授業もまた同様だった。
上手くやれるのか、それさえ分からないのだから、不安になるのは当然でもあった。
……それにしても、少々何かを恐れすぎているようにも感じられるだろうが……

「えっ、あ……あぁ!!
もしかして、あの時の?」

やっと思いあったマリアは声を上げて、

「……気にしなくてよかったのに。
ていうか、まさか戻ってくるなんて思ってもみなかったわ。」

封筒を受けとれば、申し訳なさそうに頭をかいて、そうとだけ告げた。

美澄 蘭 > 「…そうね…私はこの世界で生まれ育ったから、体験したわけじゃないけど…。
自分の常識が通用しないところで、どう振る舞えば良いのか。それを誰に教われば良いのか…
考えれば、きりがなさそうだもの。そもそも「学校」って仕組みだって、どこにでもあるものじゃないんでしょうし」

「それでも、どこかで覚悟を決めないと生きてけないんだとは思うけどね」と、苦笑する。マリアに、というよりは、自分に言い聞かせているようであった。
そんな思考の結果故か、蘭はマリアの臆病さを追求することもなかった。

「そう、あの時の」

思い当たったらしく、声を上げるマリアに満面の笑みを向け。

「さっきも言ったでしょ、「慣れない環境で苦労してる相手なら、尚更」甘えてなんかいられない、って。
…あ、ありがとうございます」

と、マリアに奢られた分を返す意思を改めて強調したところで、蘭が頼んだ紅茶と焼き菓子がやってきた。

マリアの仕草が以前に会ったときと若干異なっていることに、蘭はすぐには気付かないようだ。

マリア > 「ふふふ、蘭はほんとに真面目なのね。
そんなに難しく考えることなんてないわ。

……怖がらないでみんなに聞けばいいんだけどね。」

貴女の様子を見て苦笑しつつ、そんな風に希望を告げる。
口ではそう言っても、なかなかそうはできない。

「……ほんっとに、蘭って真面目ね。」

そして満面の笑みを自分に向ける蘭を見て、くすくすと笑う。

「分かったわ、これからも、奢るとかそういうのは無し!
でも、私ももう、あんまり困ってないから、奢られる理由は無いわよ?」

食べ終わった食器のトレーを持って、

「……蘭に前聞いた魔術の授業、見に行ってみるわ。
また会いましょう?」

すっと立ち上がり、マリアは会計を済ませて立ち去ろうとする。
カフェを出る前にもう一度視線を貴女へと向けて、手を振った。

ご案内:「カフェテラス「橘」」からマリアさんが去りました。
美澄 蘭 > 「真面目、ねぇ…自分ではそこまでのつもりはないんだけど。

…でも、そうね…さほど気負わず人を頼れて、頼られた人も背負わず、出来る範囲だけやるのが当たり前なら…もっと、皆生きやすくなるでしょうね」

まずはストレートで楽しむつもりらしい。伏し目がちに、少し寂しげに微笑みながらティーカップを手に取ってそう言うと…香りを束の間楽しんで、一口。
それから、ティーカップを置いて、マリアの方を改めて見る。それから、

「…まあ、私は「学園」にいて勉強のことなら割とハードル低く感じちゃうから…そこはマリアさんと違うところかも」

と言って、軽くおどけるように肩をすくめて笑った。
それから、紅茶にミルクを注ぐ。

「ええ、そうしましょう。
お互い、その方が気が楽でしょうし、シンプルで良いわ。
…あ、でもお金以外のことで困ったことがあったら、私に出来る範囲で相談には乗るからね?」

マリアの「奢り奢られはもう無し」という提案に、笑って頷く。
しかし、それ以外の点でのサポートはまだする、という付け足しは忘れなかった。
…そして、マリアが授業に対しての前向きな希望を口にすれば、安心するかのように和らいだ笑みを浮かべて。

「マリアさん、魔術に興味があるのね?
一緒に、頑張りましょう」

と、声をかけ。
手を振りながら立ち去るマリアに手を振り返して、見送った。

美澄 蘭 > 相席していたテーブルの一方が席を立ち、「彼女」が頼んでいたものの皿やカップが片付けられる。
テーブルが少し広くなったが…同時に、先ほどまで会話をしていたことを思えば、寂しさの方がやや勝った。

(…マリアさんも、マリアさんなりに頑張ってるのね…
私も、頑張らないと)

そんなことを考えながら、小振りのフィナンシェを口に運ぶ。
バターの香りと柔らかいフィナンシェの甘味が、少しだけ心の隙間を埋めてくれた。

美澄 蘭 > (…せっかくなら、マリアさんに発表会に来てもらって、それで考えてもらっても良いかもしれないわね…音が出せるだけでも、結構楽しいものだし。

………連絡先、知らないけど)

焼き菓子を食べながら、ふとそんなことを。

今回の発表会で、自分の将来を「定める」つもりでいた。
自分の選択次第では、今回の発表会の後、舞台に乗る機会がしばらくないということだってあり得るのだ。
マリアに限らず、自分のことを知ってくれている人間には、発表会の日時を知らせても良いかと思うのだが…

(連絡先知ってる人はそんなに多くないし…異邦人の人とか、そもそも端末も持ってなかったりするわよね。代わりの連絡先を教えてくれてる人もいるけど…)

自分の交友範囲の狭さ、浅さを改めて突きつけられたような気になって、微妙な顔でミルクティーを啜った。

美澄 蘭 > 表現する快楽も、音楽の身体的な快楽も、第一に自分のものではあるけれど。
自分の中の「人に影響を与える喜び」を随分過小評価していたものだと、蘭は改めて考えていた。

(…私、結構欲張りね?)

何とも言えないきまりの悪さに襲われ、微妙な顔のままミルクティーを啜り続ける蘭。

勉強に対する貪欲さなどを第三者から見ればすぐ分かることではあったのだが、本人はことここに至るまで無自覚だったのだ。
本人は抑制的に振る舞っているつもりでもいたが…逆に言うと「抑制的に振る舞」う必要性がある程度に、彼女自身の中には、エネルギーというか欲というか、そういうものが渦巻いていたのだ。

美澄 蘭 > (…元々「イイコ」のつもりなんてなかったけど…こうして改めて考えると、ちょっと生々しいわね)

ミルクティーが大分減ってしまったので一旦ティーカップを置き、気恥ずかしさを誤魔化すようにクッキーを頬張る。
お世話になっている先生もそれなりにいるし、それなりに親しく言葉を交わせる同年代の者もいないことはないが…自分の「そういう」部分までしっかり見てくれている人は多くないな、と改めて思った。

(…まあ、わざわざ出していいようなものでもないし、少なくとも先生以外の相手に出してもしょうがないっていうか…寧ろ出さない方が良いものではあるけど)

そこまで考えて、中学校時代の「悪夢」が脳裏を掠める。
それを振り払うように軽く頭を振ると、焼き菓子を頬張るペースを少しだけ早めた。
品がないな、と自分で思いながらも。

美澄 蘭 > そう、自分は「イイコ」なんかじゃない。
文字を読むのが好きで、物事を知るのが好きで、出来ることが増えていくのが楽しくて。
それを、楽しみながら続けてきただけだ。
これからも、きっとそれは変わらない。

(…理解してくれる人、ねぇ…)

少なくとも、家族はよく分かってくれているし…お世話になっている先生方も、いわゆる「イイコ」と毛色が違うのは、きっと感じてくれていると思う。
けれど、それ以外は…

(ただの「イイコ」じゃないだけならともかく、それ以上の理解を求めるのは…怖い、わね)

焼き菓子がなくなってしまったので、ティーカップを手に取り、残った紅茶を飲み干す。
そして…自分の「本性」を自覚してしまった重苦しさに、深く長い息を、1つ吐いた。

美澄 蘭 > お茶もお菓子もなくなったので、席を立つ。
集中してピアノに向き合う気分では、なくなっていた。

(…訓練施設で、軽く気分転換してから練習に戻ろう…)

伝票を持ってレジに向かい、精算を済ませると…やや早足の、どこかいてもたってもいられないような風情を漂わせてカフェテラスを後にした。

ご案内:「カフェテラス「橘」」から美澄 蘭さんが去りました。