2017/05/08 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に美澄 蘭さんが現れました。
■美澄 蘭 > 午後。白い日傘をさして、日本人にしては全体的に色素の薄い少女がカフェテラスにやってくる。
梅雨がくれば一旦落ち着くけれど、そろそろ、この少女には日差しが眩しい季節だ。
「こんにちは」
店に入りながら穏やかにそう言った少女は、窓際のテーブルを避けて席に着いた。
■美澄 蘭 > 日中はうっすら暑いくらいの陽気だ。
(…そろそろ、今年も「あれ」の出番かしら)
そんなことを考えながら、メニューを見る。
(冷たい飲み物だけにするか、それとも冷たいデザート…アイスなんかも美味しそうよね)
メニューを見ながら口元に指を当てて、思案顔。
■美澄 蘭 > (…今日は飲み物だけで良いか)
決断したらしく、少女は店員を呼んでフルーツアイスティーを注文する。
注文を済ませて気持ちの楽になったらしい少女は、ブリーフケースを開けて、印刷された楽譜と筆記用具を取り出した。
■美澄 蘭 > 「〜♪」
楽譜を辿り、音楽的な注意事項を書き加えながら、かすかな鼻歌をその唇から零す。
楽譜のメロディーラインを辿っているのだろうか、零れる旋律は随分音が細かく、そしてその割には音程が正確だ。
…と、そうこうしているうちに、頼んだ飲み物がやってくる。
「〜♪………あ、すみません。ありがとうございます」
鼻歌を聞かれたと思って焦ったのか、少しだけ頬を赤らめながらも、運んできてくれた店員に礼を言って、テーブルにグラスを置いてもらう。
店員は、至って平静に蘭の席の側を離れていった。
■美澄 蘭 > 「………。」
焦りで真っ白になってしまった感情を吐き出すように、少し長めに息を吐いてから注文した飲み物に口を付ける。フルーツの香りと甘酸っぱさが喉と嗅覚に心地良い。
飲み物をある程度味わってから、蘭は再び楽譜に向かいだす。
同好会の夏の演奏会は、メインではソロで出ることにした。
自宅練習が厳しい今、連弾でパートナーときっちり合わせるところまでもっていく自信がなかったのだ。
■美澄 蘭 > 部室棟でそのことを伝えると、ピアノ仲間は笑って頷いてくれた。
そして、自分がやりたい曲を話すと、目を丸くして…
『あ、フランスものじゃないんだ。意外。
それに、去年の常世祭で、もっとずっと難しい曲やってたのに…いいの?』
と。
それについても、自信を持ってこう返した。
こういう、シンプルな現代風の曲も好きなのだと。
そして…実技授業の発表じゃないからこそ、技術的にシンプルだけれど魅力的な曲もやりやすいのだと。
こういう曲を丁寧に仕上げるのも楽しいし…それを発表する機会が持てるのは楽しみなのだと。
『美澄さんのそういう丁寧な考え方、とても素敵だね』
相手は、蘭の語ったことを、朗らかに笑って、とても肯定的に受け止めてくれた。
■美澄 蘭 > 実家にいた頃は決して理解してくれる人ばかりではなかった。ひとたび家の外に出てしまえば、どちらかといえば少数派だった。
けれど、きちんと受け止めてくれる人はいるのだ。
(…いつか、私もそういう風に、他の人を受け止められるようになれるかしら)
対等になりたい人がいる。軽やかに、でもしっかりと、自分のことを受け止めてみせてくれた人。
それだけの人ではないのは、知っているけれど。
■美澄 蘭 > (私は器用じゃないから…一つ一つ、積み上げていくだけね。
音楽のことも、勉強のことも…人との間のことも)
そんな風に考えて、再び楽譜に向かい直す。
参考音源も大事だが、楽譜に向かい合って得られるものもあるのだ。
そうして、アイスティーをお供に楽譜研究をしっかりと進めて…
陽が少し翳りの気配を見せ始める頃、蘭はカフェテラスを後にしたのだった。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から美澄 蘭さんが去りました。