2017/10/16 のログ
ご案内:「カフェテラス「橘」」に美澄 蘭さんが現れました。
■美澄 蘭 > 「………。」
発表会が近いため連弾の合わせ練習にも力が入る、休日の午後。
蘭は、店内窓際の席に腰掛け(流石に、もう陽光もそこまできつくは感じない)、携帯端末からイヤホンを通じて練習時に録音した通し演奏を、楽譜を見ながらシャープペンシル片手にチェックしていた。
その傍らには、紅茶と焼き菓子。
■美澄 蘭 > 「………んー………」
思案がちな声を零しながら、蘭が一度イヤホンを外して、もう一度楽譜を見つめる。
(…なぞるだけなら、問題はないん、だけど…)
子ども向けに作曲された連弾だ、他のメンバーの伴奏と並行で練習していても何ら問題はない。技術的には、もっと難しい伴奏は普通にある。
「………「マ・メール・ロワ」としては………どうなのかしら、これ」
蘭の感性に引っかかったのは、正確さなどではなく、表現の問題だった。
■美澄 蘭 > 「マ・メール・ロワ」。英語で言うところの「マザー・グース」。
童話に着想を得た、子どものための音楽。
「………。」
紅茶を少しすすってから、再度イヤホンを嵌めて録音に耳を傾ける。
■美澄 蘭 > 「………ぁー………。」
何かに気付いたらしい。録音を聞いている途中の蘭の口から、気まずそうな声が漏れる。
「マ・メール・ロワ」はそこまで長い曲ではない。録音を聞き終えて、蘭は…
「………これ、私のせいだ………」
とぽつりと零して、額を押さえる。
■美澄 蘭 > 蘭は、基本的に楽譜を忠実に読み、右手と左手にあまり主従をつけずに弾くタイプの弾き手だ。
これは、現代的なピアノ演奏を作り上げるのには良いのだが…
(…「童話」じゃなくなっちゃったら、本末転倒よ…「美女と野獣の対話」が滑らかなの、どう考えてもおかしいじゃないの…)
他人に迷惑をかけるわけにはいかないと、正確さを徹底して磨いたことが、裏目に出た感すらある。
組んでくれた相手はそこまで偏っておらず…演奏の性格を引っ張って、引きずり回しているのは自分の演奏だと…そう感じた。
■美澄 蘭 > 実家にいた頃の連弾は、大人に、年長の「お姉さん」達に引っ張ってもらうことが多かった。
今回、自分はペアで「対等に」「一緒に」音楽を作り上げていくのだ。
(…後で通話でその辺相談しよう…)
携帯端末を通じて、通話で相談したい旨のメッセージを送信する。
■美澄 蘭 > 「童話」とて、「子どもだまし」ではない。
「童話」が対象にする世代から、対象にする存在から、自覚的に離れようと、飛び立とうとしている今だからこそ、自分の中の「そういう存在」と向き合い直すためにこの曲を選んだのかも知れないと…蘭は、自分の選択を、少しずつ言葉として積み上げて、自分の心に落とし直している。
「子ども」のための。夢見るもののための。
「子どもだまし」ではない、夢の世界をピアノの音で紡ぎ出すのだ。
一様でないその「夢」を丁寧に表現するために、相談しなければならないことは一杯ある。
蘭は、焼き菓子と少し温度の低くなってしまった紅茶で少しだけ気分を上げてから、勘定を済ませてカフェテラスを後にしたのだった。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から美澄 蘭さんが去りました。