2018/01/23 のログ
■鈴ヶ森 綾 > 「ええ、大丈夫…。」
彼女が店員に注文する横で、こちらもようやく少し冷静さを取り戻してきた。
実際は精神状態は相当に悪く、先程店員に注文した内容も朧気になってしまう程だった。。
そしてそれはどうやらココアだったらしい。
コーヒーのつもりで機械的に手にしていた砂糖袋の封を着る前に気づけのは運が良かった。
何食わぬ顔でそれをそっと元の位置へと戻し、ソーサーごとカップを手元に引き寄せる。
「そういえば…貴方の事はあまり聞いていなかったわね。
寒さには随分慣れているようだけれど、故郷はどこなのかしら。
ロシア、カナダ、イギリス…それとも北欧の方かしら。」
冷えた指先をカップで暖め、中身にちびちびと口をつけながら寒さで連想される国名を幾つか上げていき、
正解はあるかしらと小首を傾げて相手を見た。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「大丈夫という割には……その、心ここにあらずって様子ですが…
寒さのせいですかね?」
砂糖に手を伸ばす彼女を見逃すほど、注意力がないわけではない。
封を切る前に戻した様子だったが、果たして。
ようやっと落ち着きを取り戻したという感じの彼女の様子は、
見た目だけで言えば依然と同じか、それ以上に深刻そうだ。
「ふふ、ちょっと惜しいですね。
隣国はロシア、料理のレベルはイギリス、広がる森の形相はカナダ。
私はフィンランド出身です」
彼女が挙げた国の名前はどれもフィンランドと縁があったり、
比べられたりする国ばかりだ。
同じ雪国なのだからそれもある意味では当然なのだが。>
■鈴ヶ森 綾 > 「…あなたのせいと言ったら?
こんな所で思いがけず出会ったものだから、つい浮かれて惚けてしまったの。なんて。」
原因が彼女、というのもあながち間違いではない。無論後半はたんなる冗談だが。
そうと分かるように笑って、いつものように手を伸ばして彼女の前髪に触れようとする。
「あら残念。あと一歩届かなかった感じね。
それにしても…フィンランド。随分遠くから来ていたのね…。
知識としてしか知らないけれど、寒さに強いのも納得だわ。」
雪と森の国、この国を出たことがない自分には馴染みのない地だが、想像する事だけはできる。
少し姿勢を崩して満足そうに頷き、さらに言葉続けた。
「何にせよ、あなたの事をまた一つ知れて良かったわ。後は…そうね、ご家族は健在?」
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「ふふ、また綾さんはそうやって。私だっていつまでもドギマギしませんよ?
……できれば、あまり隠し事はしてほしくないです。
何かあれば行ってくださいね?」
彼女から返された言葉は拍子抜けするものだった。
さすがに今更テンパることはないが、それでも言われるとこっぱずかしい。
それと同時に、彼女がこういう茶化したことを言う時は、
何かを誤魔化そうとするときだということも、うすうす感づいていて。
「そうですね。この国の人にとって、あまりパッと思いつく国ではないかもしれません」
自然に囲まれ、いつも大国の板挟みにあい、
それでも成長しようとする国。それが自身の故郷だ。
その様子はどこか誇らしげだ。
「私の親はまだまだ元気ですよ?
親の仕事にくっついてくる形でここに来たわけですから。
私ばっかりずるいです、いつか綾さんのことも聞かせてくださいよ?」
いつか。あえてそう言ったのは、
彼女が抱えるものがこの場所では到底明かすことのできないものだと
知ったうえでの配慮だった>
■鈴ヶ森 綾 > 「……参ったわね。もうこの手は使えないかしら。」
どうも軽く受け流されてしまったようで、少しばかり唇を尖らせた不満顔を浮かべる。
隠し事を、という言葉には返事を返さず、ただ黙って彼女の髪を優しく撫で付けてから手を離した。
「良いわねぇ…私はもうどこで生まれたかなんて忘れてしまったから。
そういうの、少し羨ましく思うわ。」
彼女が母国に誇りを持っているというのは少ない言葉からでも感じ取れた。
自分に無いものに惹かれるのは人でも妖怪でも変わらないらしく、そんな彼女の様子が少々眩しく見える。
「あら、そうだったの。てっきり一人異国の地で留学の身だとばかり。
私の事…そうね、話せる事なら話しても構わないけれど。」
そこで一旦言葉を区切り、軽く周囲を見回す。何時もよりだいぶ空いているとはいえ、人がいないわけではない。
座席を少し動かし、椅子ごと隣の少女に身体を寄せて耳に顔を近づけて囁く。
「で、私に何か聞きたい事があるのかしら?」
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「もう、私のことをからかってるんですか?
でも、ここよりもきっと、温かいところなんでしょうね。
種族としては、少々条件付きでも居場所を提供してくれた国ですから。
今となっては私を含め、母国にこだわる必要は薄れつつありますけど」
きっと彼女の回答を聞くまでもなく、私のことをからかっているのだろう。
もしかしたらその裏には、後ろめたさがあるのかもしれないが。
そして彼女が故郷について少しだけ口を開くと、
どんな場所だったのか想像を巡らせる。きっと、ここよりもずっと暖かいのだろう。
「さすがに一人では。軍を抜け出してここに来るのは、結構ハードルが高かったんですから。
あ、えっと、いや、すぐに聞きたいことがあるとかでは無くて……」
彼女の顔がぐっと近づいてきて、耳打ちされる。
背筋を撫でられるような感覚に身体をこわばらせて、周囲の目を気にしてしまう>
■鈴ヶ森 綾 > 「ごめんなさいね、こういう性分なの。
…恩に報いる、とでも言うのかしら。義理堅いのね。」
悪いと思っているような風には微塵も感じられない謝罪の言葉はさておき、
義理堅いと評したその言葉には肯定的な色が含まれており、彼女の心情を好ましいものと受け取ったようだ。
「故郷の事だけど…なんとなく、雪が降っていたような気はするの。
昔のことは、本当に何もかも忘れてしまって、朧気にしか覚えていないのだけれど。
でも…何故かしら、思い出す必要がある気がするの。
私の様子がおかしく見えたとしたら、それで少し疲れているせいだと思うわ。」
身体を寄せたまま、声をひそめてぽつぽつと語る。
なんとなく、そう言いながらも胸中には確たる予感のようなものがあって。
今の自分を知るために、忘れてしまったものに目を向ける必要がある。
さらに何事か耳打ちしようとした時、コーヒーを持って店員が近づいてきたので話を中断し、距離を離した。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「今に始まったことじゃないので、今更とやかくは言いませんが、
やられる身としてはとてもその……恥ずかしいので。
私としては、居場所を口実に軍に押し込まれたという捉え方もできますけど、
先達はそうは思っていない物もいるようです」
先達、父や、先祖という意味ではない。
いま、自身の中に流れる血が、過去を記憶している。
「雪……でも、この国の気候なら、温暖でも冬に雪が降ることも……」
きっと、そう言うことではないのだろう。
自身で言葉を並べていて、そう感じた。
彼女が思い出そうとしているのは、もっと大事な事柄の断片なのかもしれない。
コーヒーが運ばれてきたことで、お互いの会話は一度中断してしまう。
彼女がなにかを言いかけたが、それを聞くことは叶わなかった>
■鈴ヶ森 綾 > 「あら、やる側としてはとても楽しいのよ?」
やはり、と言うべきだろうか。
悪びれるどころかむしろニコニコと楽しそうにしていて。
「……先達、先達ね。」
その独特の言い回しが何を意味するかは今は想像することしかできなかったが、
その先達が彼女の思想信条に深く影響を及ぼしているのは間違いないようだ。
今は深く追求はしなかったが、興味の一つとして心に留めておく事にした。
「だから少し無理をして、こんな雪の日に出歩いたりしてみたの。
特に成果はなかったけれど。」
当たり障りのない言い回して話を締めくくり、少し温くなったココアを一口啜る。
結局、彼女の隠し事はしてほしくないという言葉にほぼ従った形だ。
肝心要の部分は伏せたままではあったが。
その後もココアとコーヒーを楽しみながら話に花を咲かせたが、その日はそのことにそれ以上言及する事はなかった。
■ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「もう、あまり度が過ぎるようだと、後々痛い目を見ますよ?
で、その結果心ここにあらず、ですか?」
悪びれるようすのない彼女だが、その表情をみて少し安心した。
彼女が何を求めてこんな日に出歩いているのかは分からないままだった。
そもそも本人にもわかっているのか怪しい。
だからあまり深くは聞かなかった。
「あまり焦らなくても、良いような気がしますけどね。
今日明日で答えを出さなきゃいけないモノじゃないなら、
ゆっくりでも良いと思うんです」
そんなことを言えば、少しでも明るい話をしようと、
飲み物を交えて会話に花を咲かせるのだった>
ご案内:「カフェテラス「橘」」からラウラ・ニューリッキ・ユーティライネンさんが去りました。
ご案内:「カフェテラス「橘」」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。