2015/06/21 のログ
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」にウェインライトさんが現れました。
■ウェインライト > 「ふっ、この美しき僕としたことが……」
燃え上がるような金の髪/融かすような赤い瞳
蕩けさせるような美貌が、ファミリー向けのレストランの安い座椅子に腰掛けている。
あたかもここが高級店であるかのような優雅な所作によってフィンガースナップ。
襟元にナプキンを差し込みながら店員を呼んだ。
店員が駆けつけると、その長いまつげを伏せながらメニューを見遣る。
「君。……このサーロインステーキのAセットと、コーンスープ。あとはオレンジナッツサラダをひとつ。よろしく頼むよ」
以前のカフェでは客が注文するものという認識すらなかったウェインライト。
だが今回はきちんと予習は済ませておいた。ムダもない。
完璧なまでの注文は、実に美しいものといえただろう。
「ふ……」
勝ち誇るような笑みを浮かべる中、ウェイトレスが注文を繰り返した。
■ウェインライト > 「ミス片翼が僕に託した四枚の紙片……あれがまさかこの世界の貨幣だったとは」
見知らぬ人物画が書かれた数枚の紙幣。
ウェインライトにとって金とは硬貨。
きらびやかな金属を使ってこそ、という思想。
「盲点だった」
盲点だった。大事なことなので繰り返される言葉。
陶酔気味に自らの身体を掻き抱くと、運ばれてくる水を手にとった。
■ウェインライト > 「あっ、つめっ」
キンキンに冷やされたお冷は、店内の空調と合わさり正に暴力。
食道を駆け抜けていく冷気とは裏腹に、喉元から駆け抜けていく白い魂。
時代はエコロジーだというのに。
これではお年寄りの心臓も心配だ。
水を飲み込みながら、そっと微笑みを湛えた。
#死因・爺さん二度ビックリ
■ウェインライト > 「こほん」
そのファミレスに居た、全ての人間の意識の間隙。
その合間を縫うようにして、咳払いがひとつ。
対面の席で
いつの間にかそこに居て/最初からそこに居たかのように
死体は消えて、足を組む。
「だが今日のところは完璧だ。ふふ、向上心すらあるこの美しき僕……ッ!」
気を取り直して、己の完璧な予習ぶりに身体を震わせていた。
■ウェインライト > 程なくして運ばれてくる料理。サラダにコーンスープ。
テーブルマナーはどうやら共通のようで、優雅なてつきで食事を進めていく。
コーンスープは熱かったが、それは事前に予想済み。
一瞬死にそうになったが、舌先をやけどするだけで済んだ。
「ふっ……この僕のふつくしい危険予測ひょ……」
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」にビアトリクスさんが現れました。
■ビアトリクス > (安価な南国風ドリアでも食べて小腹でも膨らませようと入店し、
空いている席を探していたら“それ”はいた。
チェーン経営のファミリーレストランには明らかに浮いている
古代の名匠が創りあげた彫刻品のような完全なる美――
立ち尽くしてそれに見惚れていた)
(“それ”がお冷を飲んで魂を抜かれるまでは)
(……一体それに対してどういう態度を取ればいいのか、
測りかねてぼんやりと立ち尽くす)
■ウェインライト > 「…………ふむ」
水とコーンスープを交互に飲むことによって、
口の中を冷やしては熱いスープに臨む。
完璧な戦術。冷静な観察眼。
審美眼が無駄に発揮されながら食事は進んでいく。
「……?」
ふと、視線に気づいて顔を上げる。
流れるような視線。かつて見るもの全てを蕩けさせた赤い光。
謎の変死を遂げたその身では、如何程までに効果があるか。
「ふふ、さてはこのウェインライトの美しさに見蕩れてしまったようだね?
そんなところで突っ立っているぐらいならこちらに来てはどうだろうか」
さっきの死を感じさせないような余裕のある笑みを浮かべながら、くい、と誘うように白い指を動かした。
■ビアトリクス > 「あ……はい」
(自分で自分を美しいとのたまう存在は初めて見た。すごい自信だ。
しかし呆れたりはしない……正しい自負であるのだから)
(夢遊病のような足取りで促されるがままに向かいの席へと。
美貌も夢のようなら先ほどの死に様も白昼夢のように感じられる。
何かの見間違いであった可能性もある)
(……向かいに座ったのはいいものの、
何も話せそうなこともなくて
自信なさげに俯いてしまう。
ただでさえ知らない人間としゃべるのは得意ではない。
目の前のような圧倒的な輝きを持つ存在であれば特にそうである)
■ウェインライト > 対面に座る少女のような少年。普通だったら戸惑うのかもしれない。
だが、美を探求するウェインライトの瞳は、射抜くようにそれを理解。
悠然とした笑みを浮かべる。
サラダを食べ終わり、ナプキンで口元を拭った後、鼻を鳴らして。
「なるほど。芸術を解するものか。
それではこの僕の美しさにひきつけられてしまうのも当然のことだね」
漂う油の香り、彼の仕草。それらを総合的に判断。
安いソファに背を預けながら、コップの淵を撫でた。
■ビアトリクス > (食欲など完全に失せてしまった。
近づいてきた店員にはアイスコーヒーをとりあえず注文する)
「……ほんの駆け出しに過ぎませんが」
(卑下なのか謙遜なのか自身でも微妙なことを口にして、
スカートの端を握り、恥ずかしげに目をそらす)
(中性的な容姿。金色の髪。共通する要素があるからこそ
その差は歴然と引き立つ。
絶世の美であれ、強大な力であれ……
圧倒的な存在はそれ自体が暴力であることを
強く認識する)
(沈黙したままでは押しつぶされそうだ。
何か口にしなければ、と、必死で言葉を探し)
「……どうしてそんなに綺麗な、んですか」
(あまりにもマヌケな質問を放ってしまった。
赤面してテーブルに突っ伏さんばかりにうつむく。
……死にたい)
■ウェインライト > 「美を目指すものに巧拙はあれど、そこに貴賎はないよ。
美しいものを良しとする心に違いはないのだから」
指を組んで余裕を崩さぬその態度。
彼が突っ伏した後もそれは変わらずに。
問われた言葉には己の唇を撫でながら口の端を吊り上げる。
「僕が美しいのは世界の摂理に等しいからね、そこに理由などはないさ」
美しいから美しい。そこには因果すら関係ない。
ばかげた理由。それを心の底から述べる。
「だが」
「僕は美の追求者でもある。在り方も、何もかも。
僕は美しいということを是としているのさ」
だからこそ美しいのだ、と微笑うと。
「顔を上げ給え、少年。自分を嫌うもののもとに美は訪れないよ」
目を欠け月のように細めて少年を見つめる。
■ビアトリクス > 「……。」
(見ぬかれた。
そう。
ビアトリクスは自分のことが嫌いだった。
運動能力も、学業も、絵の才能も、異能も、魔術も、容姿も……
自らのあらゆることに誇るべき点を見つけることができなかった)
(だから、芸術家の卵としてウェインライトの美に惹かれたというよりは、
その自信に自らにないものを見出したのかもしれない)
(テーブルに左手をついて、顔をあげようとして――)
「あっわっ」
(触れた指先から、テーブルに一瞬にして染み渡るように絵が広がる。
油彩風の、ウェインライトの写実的な肖像だった。
二次元情報を改変する異能、《踊るひとがた》の暴走だ。
無様なまでに慌てて右手で左手首を握りしめ、発動を止めると
ゆっくりとそれは薄まり、消えていく……)
「……失礼しました」
(色白なその相貌を、今や真っ赤に染めて、ウェインライトの視線に立ち向かう。
動悸が激しい)
「……では、どうすれば自分をスキになれるのでしょうか」
(――どうすればこんな自分を是と認められるのか)
■ウェインライト > 「ほう」
少年の異能の発現。それは実に繊細で精細な力のように映る。
興味深い。コップを撫でた指を肖像に沿わせていく。
踊る指先/楽しげに微笑う口/覗きこむように、身体を寄せる。
「かまわんよ。面白いものが見えた」
真っ赤に染まるその頬に顔を寄せるかのように顔を近づける。
「自分が嫌いだというとき、大抵は人生を楽しめていないのさ。
羨ましい。詰まらない。ばかばかしい。だが、それは全て自分のせいだ」
「そう感じているのさ。きっとね」
■ビアトリクス > 「あ、わ、わっ」
(呼吸が荒くなる。
これ以上暴発しないように、手首をますます強く握り宙に彷徨わせた。
何か隔てられた世界にいるはずの強大な存在が、
自分に近づき触れようとしている。
僅かにでも触れた瞬間、自分は大いなるものに貫かれて
果ててしまうのではないか。
そんな恐怖すら感じた。
彼らは時として気軽に領域を侵犯するのだ。
それはひどく恐ろしいことでもあり、そして――)
「楽しめて、いない」
(彼の言葉を繰り返す)
(今はどうだろう。何も言えないまま、胸元を握りしめる)
(……混乱した思考では、何も判別ができなかった)
■ウェインライト > 「そう自分の体を傷めつけるものではないよ、色彩の君」
笑みを深めながら、少年の耳元で指を鳴らす。
それと同時に身体を離す。
握る手首にも、羽毛のように一瞬。優しく触れるようにして離れる。
ウェインライトは自らの生き方を狭めない。
ただ美しく生きる。それはあまりに強い自己肯定だ。
だからこそ、良いものは良いと認める。
彼の異能には繊細で美しき芽が見えていた。
遠くからウェイトレスが近づいてくるのを感じながら、
今は目の前の少年を見据えている。
■ビアトリクス > 「……!」
(かすかに触れられて、びくりと身動ぎする。
離れたのを見て、大きく息をつき、椅子に身体をもたれさせる。
触れられたことで呪いが解けたように自由になった細い両腕が、椅子の両側にぶらさがる。
シャツの襟元にのぞく首筋には汗が浮かんでいた。
艶のある唇が震える。蕩けたような視線を、ウェインライトに返す)
(ウェイトレスが運んできたアイスコーヒーを
一口含み、ようやく意識が現実のものへと引き戻されてくる)
「苦手なんです。そういう風に、褒められるのも。
……けれど、いつかは」
(あなたの認めてくれた自分を認めたい、
――そう口に出そうとして、声が出なかった。)
■ウェインライト > 「焦ることはないよ」
運ばれてきたステーキを眺め、ナイフとフォークを手に取りながら片目を閉じた。
片瞳が少年を射抜く。ただ興味深いものを見つけたような、いたずらめいた表情で。
「定命の者はすぐに焦る。結論を出そうとする。だからこそ切羽詰まるのさ」
相手の言葉。それを見透かすように。或いは受け止めるように。
「君は君の生き方を見つけるといい。焦ることはない。
僕の美しさは月のように誰の手も届かない。だが、だからこそ。
時を忘れるように僕の美しさを見つめ、己の位置を定めるといい」
絶対の自信。絶対の美。最も優美で最も華麗なるウェインライト。
傲岸に、自分こそが最も美しいと告げる。
そのまま、優雅な手つきでステーキを切り分けようとして、
「あっ」
鉄板に熱された芳醇な肉汁が思い切り飛び跳ねる。
それはまるでスローモーションのようにも見えながら彼の顔に飛び散って。
熱い。汚い。そんなことが脳裏をよぎりながら――。
#死因・寒いと思ったら熱かった
■ビアトリクス > 「焦る必要は、ない……」
(またも繰り返す。……その通り。
まだわずか十数年しか生きていないのだ。
絶望してしまうのは早過ぎる。
そんなことはわかっている。
けれど……)
(福音のように響く言葉。
それを目を閉じて反芻し……)
「あっ」
(ていたらなんか死んだ)
(さっきのは自分の勘違いなどではなかった――
胡乱だった意識が一気に覚醒する。
見てはいけないものを見てしまった気分だ)
(無表情にアイスコーヒーを飲み干して)
「……お、おじゃましました。
ぼくは……日恵野ビアトリクスと言います。
いずれまた会うことがあれば、ウェインライト。」
(若干遅れた名乗り。
美しき亡骸に、届いているのかいないのかそう告げ、
立ち上がって一礼すると、席を離れそそくさと去っていく)
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」からビアトリクスさんが去りました。
■ウェインライト > ………………。
…………。
……。
色彩の君、ビアトリクスは去っていった。
なんとかギリギリその名前は聞くことができたことは幸いだった。
「ふっ……励み給えよ。そして、僕の美しきを讃えるがいいさ」
去る背を見つめ笑みを浮かべ。
とにかくなんとかサーロインステーキを食べ進める。
途中でうっかり鉄板に触れてしまい熱死したりもしたが
それでも僕は元気です。
美を追求するものとして、今はただビアトリクスの長い旅路に祈るとしよう――。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」からウェインライトさんが去りました。
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に霜月 零さんが現れました。
■霜月 零 > 「あー……」
こんなところが出来ていたのか。そんな思いで溢れる。
病院と、訓練所と、寮の自室。ほぼそこだけしか通っていない時期はそこまで長くなかったはずだが、こう目に見えて変化があると時代に取り残されたような気分になる。
それを払しょくするため……ではないが、ぶらりとそのファミレスに足を踏み入れた。