2015/08/19 のログ
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」にクレアルトさんが現れました。
クレアルト > 凡そ常識とかけ離れた物事を知る際、人は「まるで魔法のようだ」と評する事がある。
逆説的に魔法こそ「常識とかけ離れた尋常ならざる存在」の代名詞とも言え
それはクレアルトの常識にもピタリとはまり込んだ。
更に彼女の場合は元々が「魔法」を使う側であったから、此処常世島について諸々の説明を受けた際も
驚きこそすれ然したる混乱は見せず、二つ返事で諸々の事に快く応じることとなる。

……懸念としては、混乱しているのが彼女――クレアルト・シャンフレッテの常なのかもしれなかったが
生憎とそれを知る者は何処にも居ない。
                        バザール
「この街……凄いわねえ……全部が全部魔法みたい。大市以上に色々な物があるし、スイッチ一つで火はつくし、明りもつくし
 口を捻れば水も出るし、お手洗いは綺麗だし、料理は美味しいし、お菓子も美味しいし」
夕暮れ時のレストラン「ニルヤカナヤ」。窓際のテーブル席にて目の覚めるような金髪をシニヨンに纏め、仕立ての良いブラウスに窮屈そうに肢体を押し込めたクレアルトが物憂げそうに溜息を落とす。

「此処じゃあ魔法使いも魔法使いじゃあ無いわねえ……うーん便利でいいわあ。」
手に持った銀色のフォークをフルーツケーキに突き立て、口に運び、その味にまた溜息を落とす。
どちらかと言えば美人の範疇に入る彼女がお菓子を食べながらアンニュイ、或いはメランコリックな様を見せるのは
何処か絵になると言えるのかもしれない。

――テーブルにケーキの皿が塔のように積み重なっていなければ、だが。

クレアルト > 「ねえ店員さん。次はこのプリンとか言う奴を持って来て欲しいの。」
『どちらのプリンになりますか?』
「とりあえず、ぜんぶ。」

ケーキを食べ終えたクレアルトは常なる朗らかな顔のまま店員を手招きしメニューを眺めながら追加の注文を出す。
招かれた店員の顔が少々引き攣っている風に見えたのは、塔のように重なった皿を下げるのに苦労したからかもしれないし
また別の事かもしれない。

店員の顔色を気にする素振りを露程も見せないクレアルトからすれば、どちらでも良い事であり
彼女の心裡はメニューを彩る様々に煌びやかな、見慣れない菓子の写真で満たされていた。

「うーん……絵の技術も細緻に富んで見事よねえ。学校も面白い所だし、こっちに来て良かったわあ。」
クレアルトの元いた世界では、魔法使い、という人物は好奇心旺盛な人柄で有る事が多い。
魔法とは可能性であり、夢であり、まやかしであり、旧き智慧であったからだ。

クレアルト > 夕暮れ時とはいえ客足はまばらな店内において
本来ならば暇を持余す事になりそうな店員が持余せない事態が此処にはあった。
その事態は様々な菓子類に姿を変え、彼らを職務へと急き立てる。

「ん~美味しい。これ、どうやって作ってるのかしらねえ?」
シンプルなカスタードプリンを一口食べ、さも初めて口にしたかのような感嘆の声を溢すクレアルトだが
既に彼女の前にはプリンの空き容器が数個重なっている。
ゆっくり味わって、尚且つそれなりに食べる速度が速い。彼女の食事はそういうスタイルだった。

クレアルト > 「よっし、甘い物食べて満足したしそろそろ御飯にしましょうっと。」

暫くもすればプリンもまた綺麗に片づけられ、残るのはさも今しがたお店に来て席に案内されました。といった風体の女性一人。
遠くで店員達が怪訝そうな顔をしている事に気付いた様子は無く、その糸のように細い眼は眉根が寄る程の真剣さを以てメニューを見詰めている。

「すいませぇーん。このトマトソースのシーフードスパゲティ?を一つくださいな?」
翻訳術式が十全に作用しているのか店員とクレアルトの会話に齟齬は無い。

『ええと……ラージサイズで宜しいのでしょうか?』
で、あるにも関わらず店員が尋ね返す。端正な顔立ちで、少し憂い気に眉でも顰めれば黄色い声がかかりそうな風体が
少しどころではなく眉を顰めて訊ね返すのは、クレアルトの指先がラージサイズを指差していたからに他ならない。

「ええ、勿論!」
返す此方は憂いなど1ミリも感じさせず、ついでに有無も1ミリも言わせない弾むような声。
店員が去った後も暢気に鼻唄を諳んじ、テーブルに頬杖をついて窓外を眺め
夜の帳が落ちつつあって尚明るい街中に興味深そうにしていた。

クレアルト > 「あ、そうだ……食べ終わったらガンちゃんを引き取りにいかないと。」
窓から往来を眺めていたクレアルトが突然の声を出す。
言葉を受けて数人の客が彼女の方を見たが、やはり彼女に気にした様子は無い。

尚ガンちゃんとは彼女が常日頃携え、そして今は携えていない杖の事だ。何がしかの金属製であるのに羽のように軽く、また恐ろしく頑丈。
この不可思議な杖を財団に研究させる代わりに、これだけの大食いをしても平気でへっちゃらな報酬をクレアルトは得ている。

「やっぱり無いと落ち着かないものねぇガンちゃん……今頃どうしているかしら?」
尚、尚ガンちゃんとは彼女がつけた杖の愛称である。正式な名前は当人も覚えていない。

「どうしているかと言えば…街まで案内してくれたあの子……元気にしているかしらねえ。」
但し、自分を助けてくれた少女の事は流石に憶えているのか、ぼんやりと口にした所で
『お待たせ致しました』
運ばれてくる大盛りのスパゲティ。
押し出されるように思考は消えて、暫し銀色のフォークが愛用の杖の代わりに唸るのだった。

ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」からクレアルトさんが去りました。