2016/02/08 のログ
ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」に秋月文海さんが現れました。
秋月文海 > 帰り損ねた。

別に学生寮までの電車がもう出ていないというわけでもなければ、雨や雪に通せんぼをされているという事もない。
ただ、なんというか、まだ帰りたくないなあ、もう少し座っていたいなあとぐずぐずしていただけで。
そうこうしている内にもうこんな時間になって、冷え込んでしまったであろう外に出るのに勇気が必要になってしまったということだ。

「……はぁ」

少女は小さくため息を吐くと、手元のコーヒーをマドラーでくるくるとかき混ぜる。
その横には大量のスティックシュガーとシロップが置かれており、それらは全て封が切られている。
よく見るとコーヒーには僅かに砂糖が浮いているようにも見えるため、よく見ない方がよさそうだ。

秋月文海 > 窓の向こうをぼんやり眺め、外を歩いている人に目を向ける。
案の定というべきか、マフラーやコートで重装備した体を縮こまらせて、一刻も早くという風に歩き去っていく。
その様子を見ると、ああやってしまったなあ、ゆっくりするなら家でするべきだったなあという後悔が強くなる。
あんな様子を見て外に出たいと思う方がきっとおかしいのだ。誰が外に出るものか。
悲しいかな、ここが外であるという事実は変わらずそこにあるのだが、できるかぎり現実逃避していよう。

「……なかなか溶けない、です? うーん……」

溶け残りの浮くコーヒーを不満げに見つめながら、少女は一人ごちる。

秋月文海 > 「ま、いいかな、です。お腹に入れば全部一緒、です」

あまり年頃の少女のものとは思えない発言の後、彼女はカップを持ち上げて、糖分マックスのコーヒーを口に流し込む。
そして、少し飲んだところでぴくりと固まり、それからゆっくりと、深刻な表情を浮かべながら机にカップを置いて。

「……冷たい、です」

絶望に打ちひしがれたという様子で、そう呟く。
ああそうか、ずっとこの一杯をちびちび飲んでいたから、すっかり冷めてしまったのか。
何が悲しくて、寒さから逃げるためにいるファミレスで、ぬるい飲み物で心を冷やさないといけないのか。
……というか次の一杯を頼むにもこれを飲み干さないといけないんだろうか?

秋月文海 > なんだかあまりにも救いがないので、考え事でもしようか、と。
もう一度少女は窓の向こうの凍えそうな世界に視線を遣った。

二月。
行く逃げる去るという言葉があるように、慌ただしく過ぎていくはずの時間。
もう少しで来るであろう春を、今か今かと待ち始める頃。
あと二か月もしないうちに、きっと桜が咲き始めるであろうという、そんな季節。

……昔から部屋の中にいることが多かった自分には、あまり関係のない話だったが。
そんなことを考えながら、もう一度コーヒーカップを手に持った。
すっかり冷たくなったそれは暖を取るには向かないが、思考を冴えさせるにはちょうど良さそうだった。

秋月文海 > 彼女の白とつつじ色の髪が、どこかやるせないように、遅々としたリズムで明滅する。
寒いと気分が落ち込んでくるんだったか、確かそんなことを本で読んだ記憶があった。

二月。卒業式まであと少しという時期。
この学園は学ぶ時間という物に対しては緩く、四年という規定された就学期間を超えても在学することができる。
それは未だに学習が足りないという殊勝な理由であったり――あるいは。

「……まだ、桜が咲くには遠そう、ですね」

重苦しく息を吐く。コーヒーの水面がかすかに揺れる。
電車が通り過ぎていく音が、長く、長く耳に残り続ける。

秋月文海 > 「……」
「よし。考えていても仕方ない、です」

やっぱりこんなに『寒い』中にいても、どうしたってろくな事は思いつかない。
ここらで一つ勇気を出して、外に出てみようじゃあないか。

目をぎゅっと閉じて、すっかり冷めきったコーヒーを一気に口の中に流し込む。
空のカップを軽快な音とともに机の上に置くと、引っ掴むように鞄を持ち、席を立ちあがった。

ご案内:「ファミレス「ニルヤカナヤ」」から秋月文海さんが去りました。