2015/06/26 のログ
湖城惣一 >  一匙チャーハンをすくい、口へと運ぶ。
「こ、これは……!」
 鋭く細められた瞳が見開かれる。う、美味い。完璧なチャーハンだ。
素晴らしい出来だ。賞賛されるべき出来栄えではなかろうか。
 思わずスプーンが進みそうになるが、ひとまず、この恩義を返すのが先だろう。
「怪異対策室……」
 なるほど、広義の意味で言えば同業だ。
実力を買われ常世財団に依頼され入学した嘱託委員であるが、その本業は退魔である。
「金はあるが、俺の扱う術が問題でな」
 チャーハンをたっぷり咀嚼しながらゆっくりと話していく。
 まず、自分の立場。風紀・公安に所属しながら、彼らの太刀打ちできない相手にカウンターを仕掛けるための最終的な抑止力であるということ。
 次に、己の術は神に命を捧げることで"神域"へと潜るものであるということ。その際、それによって性能を落とさぬよう生き血を神に奉納する必要があること。
 それが原因となってこのような状態に陥ることがままにある。
「自業自得といえばそれまでの話だな」
 口に物を入れながら喋ることもないし、食事はよく噛んで飲み込む派である男は、たっぷりと時間をかけながら説明していっただろう。

桜井 雄二 > 「美味いか? ならよかった」
無表情に男はシャーペンを持つ。
「……実はチャーハンくらいしかまともに作れる料理がなくてな、肝心のこれも飽き気味だ」

「怪異対策室といっても、公権である一課や二課と違って私設組織だから規模は小さい」
「それでも精一杯、できることをやっている」
男の話を聞きながら、黙って頷くことで相槌の代わりとしながら話をメモに記入していく。
「なるほど、風紀と公安に……それは大変だな」
「生き血を神に捧げるのであれば、体力の消耗も頷ける」
「ここから先は俺の話をする、食いながら聞いてくれ」
男は咳払いをして、どこから話したものかと悩む。
「手短に話すぞ。俺か川添孝一という男に頼めば飯くらいすぐに用意する」
「消耗が激しすぎて命の危機を感じたらこの番号に電話してくれ」
「……まぁ、俺も川添も忙しいからな。繋がらないこともあるだろうが」
「ないよりはマシのお守り程度にこの番号を持っていてくれ」
「これも生活委員会の仕事だからな」
そう言ってペンを一度ノックした。

湖城惣一 > 「ふむ」
 チャーハンしかまともに作れないとはいうが、
このチャーハンはなかなかの出来栄えだ。
ここまでこだわりを持てるならば他のものも作れるのでは?
 そんな思いが脳裏をよぎるが、多くは口にしない。
「川添孝一に、桜井雄二か」
 川添に関しては、委員会の報告で名前だけは聞いたことがある。
実際に遭遇したことはないし、具体的な事項については忘却してしまったが。
「ありがたく受け取っておこう」
 メモを受け取ると、こちらも一枚の紙片を差し出した。
「ならば、俺の連絡先も。……俺は、学生である前に本業は退魔でな。
これは委員会は関係無い故、何か厄介事があれば手を貸すとしよう」

桜井 雄二 > 「ああ。川添孝一は風紀であれば悪名もあるかも知れないが」
「今は更生して真面目に勉強と委員会活動をしている」
「話せばわかる人間だ、頼ってやってくれ」

紙片を受け取り、その連絡先をポケットに入れる。
「退魔か………なぁ、湖城惣一。幽霊の類は退治できるか?」
「怪異対策室三課は怪異への対策・対処を謳っておきながら、幽霊は超ニガテだ」
「もし、湖城惣一が幽霊騒ぎに対処できるなら頼りたいのだが」
ダメで元々、話を聞いてみる。

湖城惣一 > 「承知した。……なに、俺はあまり物事に頓着しないタチでな。
その川添という男の悪名も知ったことではない」
 目を細め、息を吐いてそちらの目を見返したあと。
「実際に会ってみてどうなのか、というだけだ」
 つまり偏見はないのだと、訥々と語る。
あまり喋ることは得意ではない男だが、とにかく真っ直ぐに話すのが男の在り方だ。
「ふむ」
 続く問い。幽霊は退治できるか、という言葉。それには一も二もなく頷いて。
「無論だ。有形無形問わず対処できねば、怪異を相手取るには些か厳しいものがあるだろう。
……どういった対処がいい? ある程度の対処を教示することもできるし、手を焼く物件なら、直接斬りにいってもいいが」

桜井 雄二 > 「そうか、よかった……」
「話は変わるが、俺は友達が少ないんだ」
「川添孝一もその少ない友人の一人だ。湖城惣一が拒絶したら少しだけ悲しい」

満足げに頷いてメモ帳をぱたんと閉じる。
「敵対的怪異であれば斬る、そうでなければ対話がしたい」
「湖城惣一がその手の怪異の対処に協力してくれるなら…とても助かる」
「飯で釣ったようで悪いな、この程度のチャーハンでよければ何回でも何種類でも作るから許してくれ」
シャーペンを仕舞って、無表情に右掌を見せる。
「怪異対策室三課に貴重な協力者、かな」

湖城惣一 > 「生憎と俺も友人が少ないものでな」
 湖城惣一という男は、お世辞にも付き合いやすい人間とはいえない。
しかしながら、目の前の真摯な態度の彼が友人と称する、川添という男には好感が持てる。
「いずれ、見かけることがあればこちらからでも声をかけてみるとする」
 などと言っては、一度頷いた。
「対話か……なるほど。魂を鎮めるのは領分でもある。専門分野ではないがな」
 許すも何も、ない。少なくとも目の前の彼に恩義を感じたのは事実である。
筋を通すか、通さないか。ただそれだけの単純な話で。
「ああ。俺にできることがあれば協力しよう。いつでも声をかけてくれ」

桜井 雄二 > 「そうか、じゃあ俺と友達になってくれ」
唐突に、しかしはっきりとした物言いで告げる。
「友人が少ない者同士だ、きっと馬が合う」
無表情だが、彼は冗談で言っているわけではない。

「ありがとう、湖城惣一」
「実体を持たない怪異に対しては全く手が出せなくて困っていた」
「これからその手の怪異に困ったら遠慮なく連絡するよ」

湖城惣一 > 「――――」
 惣一という男は、直截的な物言いを好んでいたし友人と知人の間が分からない男でもあった。
 しかしながら、こうもすんなりと友人を願い出る相手も初めての手合であった。
「相分かった。これから君と俺は友人同士だ」
 数少ない、常世学園における友人。その中にしっかりと彼の名前を刻む。
「できる限り君の力になろう。場合によっては多少なり対価をもらう必要があるだろうが」
 言いながら、とうとう炒飯の最後の一口を食べ終えた。
「うむ。実に美味かった。馳走になったな、桜井」

桜井 雄二 > 「よかった、それじゃこれからよろしく頼む、湖城惣一」
顔は相変わらず、しかし声音は嬉しそうに言う。
男にとって生活委員会の仕事も、怪異対策室三課の戦いも、友達作りも、そのどれもが大切だ。
「対価なら仕事に見合う分は払えるはずだ」
「怪異対策室三課としても仕事が十全にできるかどうかの瀬戸際だからな」
チャーハンを食べ終わった湖城惣一に満足げに頷く。
「お粗末様だ、湖城惣一。では俺は洗い物を済ませるよ」
「また今度会う時があれば、ゆっくり話そう……友達だからな」
そう言って男はチャーハンの皿とスプーンを持ってキッチンに戻る。
友達という響きに、どこか嬉しさを感じながら。

ご案内:「食堂」から桜井 雄二さんが去りました。
湖城惣一 >  去りゆく彼に挨拶を済ませ、手持ち無沙汰な手で自分の顎を撫でる。
「友人、友人か」
 彼の言葉を咀嚼するようにつぶやくと、ゆっくりと立ち上がった。
幾つかお守り代わりの品を作っておくべきだろう。
 竹刀袋を片手に、無表情な彼が、僅かに笑んだ。

ご案内:「食堂」から湖城惣一さんが去りました。