2015/07/14 のログ
ご案内:「部屋」に霜月 零さんが現れました。
■霜月 零 > 「あー……」
昨晩、蛇の神格と死闘を繰り広げた剣士。
その剣士は……
「……動けん」
部屋に寝そべっていた。
■霜月 零 > 原因は言うまでもなく、幻想剣技「vorpal sword」の代償。
極限の身体操作を行うために神経を過剰に研ぎ澄まさせ、大太刀による片手突きと言う無茶を行うため筋肉のリミッターを解除した。
そのツケである。
「いかん、マジで動けん」
つまり、全身筋肉痛。ついでに言うとちょっと頭も痛かったりする。
どれもこれも過剰運用が原因なので、休めば解決するはずだ。
と言うわけで部屋に寝そべっているのである。
■霜月 零 > だが、悩みのタネはもう一つあった。
昨日、雪城括流と死合った最後、彼女によって施された魔術。
思考と記憶へ干渉するその医療魔術は、若干の暴走と共に効果を発揮し……霜月零に、己の異能への自覚を与えるに至っていた。
とは言え、大雑把なものではあるのだが……
「……何かへの接続。いや、何かっつーかありゃあ……」
人智の果て、人類の総算。そう言った場所。
正直、自分には間違いなく持て余すものだ。
そして……まだ先があるのも、なんとなくわかってしまう。
「零(れい)。零(ゼロ)か。成程、成程なぁ」
一人納得する。両親は自分の才能に疑問を覚える零に対し、何度もこういったのだ。
『お前には、一つの特殊な才がある。お前の名はそれにあやかったものだ。今はまだ時期尚早だから教えられないが、いつかきっと自覚する日が来る』と。
正直、そんなものは慰めのたわごとだと思っていた。
まだ眠ってる才能があるんだから平気平気……と、その場しのぎの慰めに過ぎないと思っていた。
が……どうやら、本当だったようだ。
■霜月 零 > 名前との関連性も、自覚してみればおおよそわかる。
零(ゼロ)。全ての数字の中央に位置し、全ての数字の始まりの箇所に位置する数字。
若干比喩的ではあるが、そう言う事なのだろう。
のそ、と動いてスマートフォンを手に取る。
最近のスマホは丈夫だ、カバーをかけていたというのもあるが、投げ飛ばしても機能に一切問題がなかった。
電話をする相手は……父親。
「……ああ、もしもし。親父?」
■霜月 零 > 『零か。無事だったか?』
厳格な声で、しかし心配そうに尋ねてくる。そうだ、そっちの報告もせねば。
「ああ、凍月は抜いたが、怪我はしてねぇよ。ちょっと無理した分筋肉痛だけどな」
『そうか、良かった。全く、お前が家宝を抜くと言い出した時は何事かと思ったぞ』
「言ってくれるな、事情があんだよ」
報告と、ちょっとたわいない親子の会話。
だが、聞きたいことは別にある。
■霜月 零 > 「なあ、親父」
『なんだ、零』
「……俺の才能ってのは『根源接続』か?」
『……』
率直に聞いてみると、父親はしばし沈黙する。
が、少ししてから口を開いた。
『……そうだ。零、お前の体は、生まれつきこの世の根源と呼べる場所と繋がっていた。
だが、幼少期からの根源接続は精神に害を及ぼしかねない。何故なら、個人の意識はこの世の全てを記す星の記憶にも、この世全ての人類の無意識化の統合意識と言える阿頼耶識にも耐えられないからだ。
故に母さんと相談して、異能に封印を施して、枷を嵌めさせて貰った。
お前はずっと「才能がない」と嘆いていたが、お前の才能に蓋をしていたのはこの私だ。
……すまん、零』
小さく苦笑する。責めてもいない、ただの確認だというのに謝罪をしてきた。
もしかしたら自分の謝罪癖は、父親譲りなのかもしれない。
「しゃーねーよ。そうしなかったら俺がツブれてたんだろ?だったらそうするのが当然だ。
……つーか、星の記憶?なんだそりゃ。俺が認識してるのは阿頼耶識への接続までだぞ?」
軽く流すが、その一方で気にかかることもある。
自分が接続した先は「この世に記録されているあらゆる剣技」の集合だ。
そして、その先が「人類全ての無意識化の統合意識」と言える阿頼耶識であることまでは理解していた。
だが、星の記憶?流石にそれは吹っ飛び過ぎではないか。
■霜月 零 > 『そうか、お前の接続はまだそこまでなのだな』
電話の先で、父親が小さく溜息を吐く。
『零。お前が接続しているのは、お前の言う通り「根源」と呼べる場所、この世の原初の記憶だ。
あくまで阿頼耶識はその中の一部に過ぎない。本質はアカシックレコードなどへの接続、所謂「この世の全て」の大本への接続だ。
……だが、お前の才にまた蓋をするようで悪いが……自覚したなら仕方ない。
零。お前には「それ以上の深度への接続」を禁ずる。
お前はまだ未熟だ。私達が調べ研究した結果、そこまでの接続を「自我を保っている状態」で行えば、自我が呑み込まれかねないと発覚した。
本来は気付かぬまま、それを受け入れるための「空の精神」を会得して貰うのが理想だったのだが……そうもいかなかったようだな』
ぽかん、とする。いや、何が何でも色々吹っ飛び過ぎではないか。
別にまあ、こんな才能は才能でも色々面倒な才能にキャップがかかるのは別にいい。と言うか、常時そんなものに接続してたら発狂するのはなんとなくわかるし、任意に接続出来たらそれはそれで、この世のあらゆるプライバシーの侵害だ。
だがそれにしても、スケールがデカすぎる。ちょっと自分では想像しきれないほどに。
『頃合いだ。
お前は以後「無念無想剣」の会得を課題としろ。霜月流の到達点だから、難しいとは思うが……到達出来れば、お前は根源接続を制御出来る。
そちらにいる湖城さんを適度に頼るといい、彼の目指している境地は、無念無想に近いものだからな。
腹を切るのは真似しなくてもいいが、参考になる点はあるはずだ』
……そう言えばあのハラキリサムライウォーリア、考えてみれば目指す境地は「夢想剣」や「無念無想剣」と同じなのか。
「……正直色々デカすぎてよくわからんが、取り敢えず了解した。
まあ要するに『あんまり使おうとするな』『無念無想剣を目指せ』『そのために湖城を頼るといい』くらいなもんだろ?」
雑な解釈をしておく。
■霜月 零 > 『はは、お前は昔からそういう所が大雑把だな。
それでいい、健やかに過ごせよ』
電話越しでも苦笑している顔が容易に浮かぶ。が、まあ間違ってはいないようだ。
「おうよ、分かった。親父も長生きしろよ」
『何を、お前らに扶養して貰うようになるまでは生きてやるから覚悟するといい』
「うっせぇ、引退する気もねぇだろ」
『無論。どうせなら私が楽隠居出来る様に頑張って欲しいものだな』
「いいぜ、首を洗って待ってろ」
『はは、楽しみだ』
他愛のない親子の会話。
父親に安心して楽隠居して貰うためにも、頑張らねば。
……そう考えていたところに、ボムを投下された。
■霜月 零 > 『そうそう、そう言えばだな零』
「ん?なんだ?」
『最近、声の雰囲気が変わったな。何かいい事でもあったか?』
ぶふっ!と噴き出しそうになるのを必死に堪える。
畜生このクソ親父、なんでこんなところで鋭いんだ……!
「と、特に何もねぇよ。いつも通り、いつも通りだ!」
言えるか。まさか「恋人が出来ました」なんて実の父親に、口が裂けても言える物か……!
『……今度は分かり易く動揺したな。それでは無念無想の境地は遠いぞ』
「うるっせぇ!」
余計なお世話である。
■霜月 零 > 『お前はこれから無念無想を目指すんだろうが。簡単に人の言葉で動揺するな、平常心を保つ訓練をしろ。
お前は捻くれているようで実は素直な性格なのはわかってるし、それは美点だがな。
父親としては、その性格で損をしないか心配だぞ』
やめてくれ その心配は 手遅れだ。
頭を抱えたくなるも、今は電話を持っている。
額を手で押さえるのが精一杯だった。
「否定はしねぇよ……いいことがあったのも、苦労してるのも」
『さっき思いっきり否定しただろう』
「うるせぇ!」
細かい事を突っ込むんじゃねぇ!!
「と、とにかくだ。それでもまあ、俺には悪い事にはなってねぇよ。
芙蓉にも友達が出来て、基本的にはいいことが多いさ。
心配すんな親父、俺達はそれなりにやってるよ」
……嘘だ。
霜月零に関しては事実だが、霜月芙蓉は一つの悲劇を経験している。
そして……それはまだ、両親には伝えていない。
伝える事が、出来ていない。
『……そうか、それはよかった』
ふぅ、と電話越しに聞こえる溜息。
それは呆れか安堵か、はたまた懐疑なのか。
『ならば余計な事を言うのはよすとしよう。
何かあったら言ってこい、父として家族として、正面から受け止めてやる』
……自然な言葉のはずなのに、見透かされているような気持になる。
もしかしておぼろげにばれているのか。自分の嘘はやはり下手で、あの父親にはある程度はお見通しなのだろうか。
だが、敢えて追求しないという事は……どちらにせよ、無理に聞き出す気はないという事だろう。
「ああ……そんときゃ頼むぜ、親父」
『うむ。夏に時間が出来たら一度帰ってこい、母さんも寂しそうにしてるからな』
「ああ、分かった。そんじゃあな」
『ああ、頑張れよ』
……ツーツー。
通話を終了し、スマホを投げ出してまただらしなく寝そべる。
■霜月 零 > 「あー……」
夏。実家に帰る事自体はやぶさかではないが、氷架との時間が減るのがちょっと嫌だ。
まあ、氷架も帰省はするだろうし、タイミングを合わせれば問題ないのかもしれないが……。
「にしてもなあ」
そして、事ここに至って、己の持つ異能を自覚する。
異能「根源接続」。どう考えても自分には過ぎた力だ。
ならば制御しなくてはならない……奇しくも、恋人である雪城氷架の状況とよく似ていた。
「はっ……やるしかねぇよなあ」
ボヤく。が、今はとにもかくにも体力を回復するのが最優先だ。
料理をする体力もなく、正直腹は減っているが……それ以上に動くのがしんどい。
■霜月 零 > 「くっそー……」
あの場では最善手だったと思うが。だったとは思うが、やっぱり反動のある技は軽々に使うべきではない。
改めて反省しつつ、スマホをちらっと見る。
こういう時心当たりのある相手は二人ほどだが……
「……駄目だな」
却下する。
一人目、妹の霜月芙蓉。
彼女ならば喜んで世話を焼きに来てくれるだろう。
そして喜んで手料理を振る舞ってくれるだろう。
……見た目だけ整って、中身は食の暗黒大陸ことブリテンもびっくりの悲惨な手料理を。
追撃である。トドメである。オーバーキルである。
愛情が深い故に、手料理と言う形式を取りたがることを良く知っている。とてもとても良く知っている。
だからこういう時、あの妹は死ぬほど頼りにならない。寧ろ頼ったら死ぬ。
■霜月 零 > 二人目、雪城氷架。
こちらは、頼る相手としてはベストだ。手料理も何度か食べさせて貰ったが、十分美味い。
何より、疲れている時に恋人に身の回りの世話をして貰うというシチュエーションは、心躍る物がある。ぜひ採りたい選択肢だ。
……が、駄目。
何故なら、彼女も昨日の今日でヘトヘトのはずだからだ。
慣れない全力疾走でそれこそ筋肉痛だろうし、それを差し引いても、今はペットであり家族の雪城括流との時間を優先したいだろう。
まあ、彼女はただの蛇モードになったらしいが。
こう、寧ろその雪城括流は本意としては「こういう時こそ頼りあえ」と言う事を言いたかったのだろうが(手段に文句はあるが)、それにしても流石にちょっと、と遠慮してしまう状態だった。
つまり、この空腹をどうにかする術はない。SIMPLE2000シリーズ、THE・詰みだ。
■霜月 零 > 「くーそー……」
漏れ出る悪態にも力がない。
まあ、とは言え、腹は減ってはいるが、まるで動かないので我慢は出来る。
一日くらいは抜いても大丈夫だろう。寧ろ、稽古を思いっきりサボってしまう方が問題な気もする。
「やっべー……だーりぃー……」
ぼへーっとした顔で天井を仰ぎながら、気の抜けた言葉を漏らす。こういう時独り暮らしは寂しいものだ。
とは言え、それ以外にこれと言った解決案があるわけでもなく……
「寝るかぁー……」
ごろん、と寝返りをうった。
■霜月 零 > ぐてーっとだらしなく横たわりながら、ぼんやりと考える。
昨日の選択は、あれでよかったのか。結果オーライではあったが、もっと割り切って動くべきだったのだろうか。
雪城括流もそれを望んでいたように思える。
自分を殺せ、と。それを誘発するための挑発でもあったのだろう。
それ自体は根源接続の影響でフラットにされた思考によって無視されたのだが、それでもあの場での最適解が何だったのか、今でもはっきりとはわからない。
分かるのは、まあ最善に近い結果を何とか得られた、と言う事だけ。
煮詰めてみる必要はあるのかもしれないが……
「(ま、今はそれで満足しとくか……)」
ダルさと筋肉痛に苛まれた体では、思考もままならない。
取り敢えず当座の状態を解決するためにも、その意識を落とす事にした……。
ご案内:「部屋」から霜月 零さんが去りました。