2015/09/03 のログ
ご案内:「食堂」に平岡ユキヱさんが現れました。
ご案内:「食堂」に倉光はたたさんが現れました。
平岡ユキヱ > トントントン、と小気味よい包丁のリズムでもってネギを刻みながら、
食堂の調理場に立つ金髪の何か。
割烹着を着た、我らが平岡ユキヱである。

どこか懐かしい、いい夕飯の匂いというものが漂うであろうか。

「…ちと薄いか?」
味噌汁の味見。首をひねる。

倉光はたた > 「…………!」
匂いに誘われたのか、白い髪の少女がひょこ、と食堂に顔を見せる。
……しかし、さっと柱の陰に隠れてしまう。
翼のようなものがはみ出した。身を隠してなんとやら。

病院から戻って以来のここ数日、ユキヱを避けるようにはたたは動いていた。
……いざ顔を合わせようと思うと、克服できない小動物の臆病さが顔を出してしまうらしい。
顔を出しては隠れてを繰り返していた。

平岡ユキヱ > 「…」
刺客か。おたまを静かに握りなおす。冗談のようだが武器になるらしい。
タカのような鋭い目で振り返り…一気に緊張の糸が解けた。

「なんだあのでっかい翼…」
はみ出てるじゃないか。と困惑する。

「って…倉光センパーイ!? 帰ってきてたんですか!?」
なんだかすごく久しぶりな気がする。おわあとたまらず嬉しそうな声を上げた。
ご飯食べてく? と近所のおばちゃんみたいなノリで適当な席への着席を促して。わたわた配膳とかを始める。

倉光はたた > ダンボールに隠れていたら見逃してもらえたかもしれない。
一瞬走る緊迫した気配に翼っぽいものがピンと伸びる。
名前を呼ばれてぎこちない動きで姿を露にする。

「ん、たべる……! いただきますします……!」
どう言葉を発するか悩んでいたようだが、促されるままに
ぴんと背を伸ばしかくかくと手足を動かして着席する。
ユキヱが配膳を済ませていくのを、ちょっと居心地悪そうな面持ちで眺めていた。

平岡ユキヱ > 「…」
いろいろ聞きたいことが沢山ある。ああ、しかし、何を、どう、聞けばいいのか。
小器用に立ち回れないユキヱは、ともかくごはんを食べるという決断を下す。
皿に料理を持っていき、はたたの前へ。

「ご飯、豆腐とわかめの味噌汁、秋刀魚にたくさんの大根おろし、漬物…等々!
 お代わり自由!」
ドン、デン、バン! と渋めのラインの夕飯が並んでいく。
三角巾をしゅるりと外し、自身もはたたの対面に着き。

「…いただきます」
ピンと伸びた背のまま、軽く手を合わせる。
祈るように、無駄のない動き。

「…。それと…。おかえりなさい、倉光センパイ」
ニッ、と歯を出して少年のようにユキヱは笑った。

倉光はたた > 「おかわりじゆう……!」
力強さを感じる言葉だった。
いただきます、とはたたも真似るように手を合わせた。

「……」
笑うユキヱを、澄んだ表情でまっすぐに見つめる。
意味を考える。嬉しそうな声。笑顔。その言葉。……。

「……ただい、ま」

噛みしめるような声。

食べる時のはたたは無口で、ただ食べるだけに一生懸命であった。
しかし普段の野生的な言動が嘘のように行儀はいい。
いかにもな日本の夕食を夢中で箸で運んでいく。
どこで知ったのか三杯目のおかわりはそっと出した。

……

箸を置いて、人心地ついたところで、
はたたは呟くような声で切り出した。

「びょういん、いってきた。
 はたたのこと……おしえてもらった」

平岡ユキヱ > 「礼節を知るものに不覚なし」
三杯目の下りに微笑むと、ほい、と大盛りで。

―――

お茶を入れて一息。いよいよか、とはたたの言葉に静かに耳を傾ける。
一言一句、聞き漏らすまいと。ただ真剣に。

「…センパイの事か。どうでした?」
わずかに首をかしげて、言葉を促す。
揺れるユキヱの毛先は青白く、ホタルのように淡く輝いていた。

倉光はたた > 「……ん、――」

そのうちのいくらかはユキヱでも知っているだろうこと。

自分が落雷を受けて一度確かに死んだこと、
しかしどうしてか生者のようか振る舞えていること、
その理由は医学的に解明できないこと、
記憶を失った同一人物か、完全な別人か判然としないこと、
しかし今後は法的にも、倉光はたたとして生きていくことになるだろうこと、
今は休学扱いになっていることなど――そういったもろもろの状況が、
はたたのたどたどしい口調からでも理解できただろう。
少し時間はかかったにせよ。

「わたし、きっと……
 にんげん、ちがう」

天井を仰ぎ、腕を上に伸ばした。
食堂の天井を指さしているわけではなく、そのずっと上。

「もっと、おおきくて、ふわふわ……だった」

それが何なのか、どうしてなのか、示せるような根拠を、はたたは持ち合わせていなかった。

平岡ユキヱ > 「…」
知っていることだった。

彼女が一度死んでいたことも、行方不明であったことも。
知っていて、その上で、学園から一時的に独断で匿ったのだ。
動いた根拠はただ一つ、何も知らないもの、怯えるものを放っておくのはとても悪いこと也。
ただそれだけの矜持からだ。

「そうですか…。」
人間ではない。という言葉に静かに頷く。
だからどうしたというのだろう、ただあるがまま、受け入れるのみだ。

「いいじゃないですか。それでも。
 …それとも、倉光センパイは今の状況は嫌ですか?」
どうしたい? と栗色の瞳で相手を見た。

倉光はたた > 「……」
毅然とした表情で、ユキヱに相対する。
いいじゃないか。
ユキヱなら――なんとなく、そんな答えを返すだろう、
はたたはそう予感していた。ゆえに、さほどの驚きはなかった。

ここからは誰にも口にしたことのない、
はたたの理由の説明できない確信に基づいた考え。
こうして喋っているはたたが、人間でない別のものであるとするならば。

「わたしは…………」

起きないすずめ。炭になった蝉。

はたたの“家族”の視線。

「わたしは、“はたた”を……
 しなせた」

それは、誰も裁くことのできない罪だった。

「はたたを、おきないように、した。
 はたたを、いないように、した……」

座ったまま、斬首を待つ死刑囚のように、項垂れる。

平岡ユキヱ > 「…えっ」
割烹着のまま、机を挟んで相対する相手の口からこぼれたのは。

はたたをいないようにした、という本人からの独白。

「何を…」
ドクンと急激に脈拍が上がる。背に嫌な汗が流れた。
もし全てが事実だとすれば。

 ―私は風紀として、超常の者が起こした殺人事件として、今の「自称」はたたを

「…」
苦悶の表情が出そうになるのをグッとこらえた。首を横に振り、まさかと落ち着く。

「…まだ完全に、別の存在だと決まったわけではないんでしょう?
 ならば、今はまだ結論を出すのは早すぎる」

倉光はたた > 「うん……」

身を震わせて小さく頷く。まるで人間のように。

そう、ユキヱの言うとおり。
『以前』と『以後』が、別の存在だと認められたわけではない。
そして、誰も認めることを望まない。
猫箱の中の不確定な『倉光はたたの死』を、決定してしまうことになるから。
だからきっと、結論は永遠には出されないまま。

「でも……」
動揺を見せたユキヱを、目をそらさずに正面から見据える。
知性の宿った瞳。

「おしえて。もし、“そう”だったら。
 ユキヱは……どうする?」

平岡ユキヱ > 「…人に害をなす存在は、斬る」
ぎゅっ、と己の両こぶしを握り締め、凛としたまなざしでそう短く言い放った。
断々固という決意、そんな言葉が合いそうなほどの、静かで壮絶な断言である。

「…だが」
ある種近寄りがたい程の気配が、ふと収まる。

「生きようと懸命にあがく者を斬るのは、人道に反する。
 人は生まれは選べない。だからそれについて罪だ何だと追及するのは私は間違っていると思う」
そして、と一息、茶をすすってから。

「そして生き方は選べる。倉光センパイ…。不詳の後輩は、過去のことよりも、
 今、これからどう生きるかについて考えた方がよほど建設的かと愚考します」
肝心要はこれからだ、と愚直に述べる。

倉光はたた > 「…………!」
その研ぎ澄まされた刃のような、凛然とした気魄を感じ、
しかし、はたたは微動だにしない。
続く言葉に耳を澄ませる。

「あ――」

「あ――りがとう。
 ……ありがとう、ユキヱ。こたえてくれて」

無表情のまま頭をぺこりと下げ、確かな声で、礼の言葉を告げた。
問いに明確な答えをくれたこと、それだけで嬉しい、というように。

「これから……」

目を伏せる。ぽつぽつと声を落とす。

「わたしは……もっと、知りたい。
 にんげん、じぶん、がくえん、いろいろなことを……」

少しぬるくなったお茶をすする。
そして再び顔を上げ、ユキヱへと向き直る。

「ユキヱ……。
 また、わたしの、“しらない”を“しってる”にすることを、
 てつだってほしい」

控えめな声でそう乞うた。

平岡ユキヱ > 「よろこんで!」
快活な声で吠え、ニッと笑う。いつもの不敵な、
悲しみだの何だのをを吹き飛ばしてやろうという顔つきだ。

「…これから先はどうなるか、わからない。ですがゆきましょう。
 何、この島は結構、おせっかい焼きと善人があふれていますよ。何とかなります」
いけばわかるさー! と、かの有名プロレスラーのような事をいいながら、空いた食器を片付ける。

「お粗末さまでした。そういえば…倉光センパイ、今はもうご自宅のほうに
 戻られているんですか?」
たまには泊まって遊びに来てくださいよー。と後輩的なノリで絡む。