2015/07/19 のログ
■奇神萱 > 劇団『フェニーチェ』。その名が聞こえた。紫の女が口にした。
かつて一糸乱れぬ指揮のもと、悪徳を高らか歌ったものたち。
『団長』亡き後は、横糸を失ったようにいとも容易く解れてしまった。
なにか感じるものがあっただろうか?
―――いや、そうか。忘れていた。無意識に選んでしまったのだ。
この曲は。かつて我らの。
Fis-D-A-D-Fis-H-Cis-D。
騒ぎ立てる様子もない。トラブルを呼び込む類の反応ではない。
悔悟の一幕。悪徳と知りながら享楽の限りを尽くした日々。清算したい過去がある?
それはどうだろう。後悔はあまりないが、心の底にそういう欲求が眠っている可能性はある。
しかしな。タイスは死んでしまうのだ。
タイスは救いを得て死んだ。修道士と結ばれようなんて、過ぎた望みを抱きながら。
そこまで気にするカップルはいないだろうな。すまない。こいつは不吉だぞ。
鳴り止まぬ拍手に照れながら、深々と頭を上げた。今日はここまで。アンコールはなしだ。
小銭の山がまた増えた。まずは冷たいものでも買うか。
キンキンに冷えたサイダーを二つ。大きなビーチパラソルの下、紫の女のそばに腰かけた。
「お邪魔さん。ずっと見てたよな」
■アリストロメリア > 多分、きっと
彼女の小さな囁きは、その見事なヴァイオリンの音色に掻き消され
誰一人として、気付く者も居無ければ、その一言を耳にしたものは居ないだろう
水面に小さな小石を投じたに等しい其れは
水面に小さな波を立てた程度で――……それはきっと彼女の
或いは彼の心に小さなざわめきを立ててしまったかもしれないのだけれど
決して、彼の思う通りに騒ぎ立てる様子も無ければ
その一言も、投じた小石の一石程度のトラブルで――……
詰まる所、彼の演奏を邪魔した一言として聞こえたのは
『彼或いは彼女』と『紫の女性』二人だったのが、不幸中の幸いかもしれない
タイスのオペラはとても激しさを秘めた内容で
それは、少し演奏している彼女と、其れに内包されているとでも言うべき様な
『彼』の存在に似ている様な気がするのは何故だろう……?
舞台は、エジプトの砂漠にある修道院
そこに旅に出ていたアタナエルがボロボロの姿で戻ってきて、こういうのだ
「私の心は苦しみでいっぱいだ。故郷アレクサンドリアは
娼婦タイスによって堕落し、男たちは地獄に墜ちている!」
そして修道長にタイスを神の道に導きたいと願い出るのだった
けれど、修道長は「我々は決して俗人と交わってはいけない」と許さない
その晩、タイスが艶やかな姿でアタナエルを誘惑する夢を見て、アタナエルは驚愕する
「神よ、どうぞお助けください私は彼女を救いたいのです。彼女をお預けくだされば、あなたの許へお返しします!」
と、アレクサンドリアに戻る決意をするのだ
アレクサンドリアに着いたアタナエルは、町の様相を嘆きながら
旧友の元へと行き、ニシアスの館へと足を運ぶ
そして、夜会が始まり大勢の客人と共にタイスが現れれば――……
その華やかな美しさに賞賛の声があがるのだ
そんな彼女に「会心させに来た」というアタナエルと
そんな彼を鼻で嗤うタイスと客人達で一度幕は閉じられる
場面は変わり、宴が終わり自室に戻ったタイスが鏡に告白するのだ
いつか自分が老いていく恐怖を――……
そこへアタナエルが入ってきて、彼女の美しさに動揺しながらも
『キリストの花嫁になり永遠に生きる事』を説くのであった
娼婦の身に虚しさを感じていた彼女は、動揺し、葛藤しながらも
挟まれる間奏曲の『タイスの瞑想曲』により、彼女の心の変化を美しく描写して
最後には彼女は信仰の道を歩み、修道院へと入り、神の名を呼びながら死んでいくのだ――……
目の前に居るのは彼女一人なのに、何故だろう……?
そんな、タイスのオペラが目の前で開催されているかのように鮮やかに映るかの様に感じるのは――……
きっと、巧みな腕だけでなく、その可憐な一面からは似つかない
突如垣間見えた、男性性の影響なのだろうか?
演奏が終われば、その素晴らしさに心を奪われて
拍手を喝采に贈る――……
そして、彼の姿が一度海の家に消えたかと思えば――……
ひんやりと、瓶まで氷の如く冷やされたかのように冷えたサイダーを持って
自分自身の隣に現れ、腰をかけるのだった
「……ええ」
静かに――……静かに頷く
若干の動揺を、胸に秘めながらも――……いいえ。それすらもばれているでしょうけれど
けれど……
「実に素晴らしい演奏でしたわ
あんなに、見事な腕前の方のヴァイオリンが聞けるだなんて贅沢な時間を過ごせましたわ」
ヴァイオリンに酔いしれて、心を奪われたのは本心で
彼女のヴァイオリンの音色に対して与えられた感動を、言葉にして
素晴らしい演奏のお礼を、ささやかながらに返すのだった
ご案内:「浜辺(海開き状態)」にアリストロメリアさんが現れました。
■奇神萱 > 聴衆はケータイのカメラを向けて撮りまくっていた。
動画を撮ってたやつもいたから、その内どこかに流されるかもしれない。
アナトール・フランスの諧謔もアタナエルの絶望も、そもそも悲恋の歌劇さえ知る由もない。
綺麗な旋律に惹かれる素朴な感性。
驚嘆すべき技巧に目を丸くするだけの観察眼。
美しいものに対する畏敬の念も。
俺は多くを求めない。今得たものだけでも十分すぎるほどだ。
奏者は公人に片脚をつっこんでる様なものだ。強く止められない立場でもあるが。
軽く睨むと歓声がかえってきた。だめだこりゃ。どうにもならん。
紫の女は『フェニーチェ』のことをどこまで知っているのだろう。
パトロンをしていた女たちや馴染みの客だったなら、当然覚えていたはず。
昔の俺のことも目と鼻の先から見ていただろうし、こんないい女を見逃していた?
まさか。梧桐律に限ってそれはあり得ない。
「お粗末さま。この辺じゃあまり演らないんだが、気に入ってくれたなら何よりだ」
「なあ、前にどこかで会ったか?」
「よく覚えてないんだが。こっちが忘れてる可能性もある」
プラスチックのパーツをあてて押しこむと、ガラス瓶のくびれた部分にビー玉が勢いよく落ちる。
噴出したサイダーを慌ててうけとめ、咥えてもう片方のサイダーをすすめた。
「奇神萱(くしがみかや)だ。お前には俺がどう見えた?」
■アリストロメリア > 聴衆は、最先端の技術の結晶である携帯で彼を撮影していたが――……
生憎、彼女にはそれの用途や、何をやっているかもよく分かっていない
もしかしたら、後日彼女の動画が上がっているのを発見して、驚くかもしれないのだけれど――……
それもまた、後日の話
挟まれる演奏曲の方は、きっと誰しもが一度は耳にした事があるだろうが
悲恋のオペラを知っているものはどれだけ存在するのだろうか……?
自身でさえ、多少オペラを鑑賞する事があった為に存じてはいたけれど……
この街に来て、早3か月
その間、これだけ街は娯楽やた様なものに溢れているとはいえ――……
溢れすぎており、オペラ鑑賞等する人はあまり居ないように思えたのだから
彼が観衆を睨めば、それですら一種の彼の表現とでもいうかのように
黄色い声が周囲から沸き上がる――……まるで一種の魅了を受けたかのように
最も――……彼或いは彼女の演奏は、それだけ魅力に溢れていたのには賛同するのだけれど
それ以上に、何処か彼に狂信し、陶酔しているかのような狂気の鱗片が垣間見えるのは……?
フェニーチェの事は、何も知らない
――……いや、その名前すら知らないと言う事を『嘘』なのだと言うのであれば
フェニーチェに対しては『演劇集団であると同時に犯罪集団』程度の知識で
それも、その一言そのもの以上の事は、何一つ知らないのだ
勿論、パトロンをしていた女たちの知人でも、馴染みの客でもない
初対面であった
「いえ、そんな……あの音色は、ヴァイオリンを鍛錬し磨き抜いた音色でしたわ
音楽はほんの少し……それも、聞く側程度で、大した知識や聞きわける耳も無いのですけれど……
それでも、貴方程の素晴らしい腕前のヴァイオリンの音色は、中中耳に出来ない素晴らしいものだと思いましたわ」
と、心から――……それは、紛れもない本心で
また、彼女自身多少オーケストラを耳にした事がある程度と言っても、元々は貴族の令嬢である
故に、上質な物を聞きなれている為に、その経験から一介の演奏者では無い
素晴らしい技術であることだけは、少しばかり悟る事が出来た
「いいえ。初対面ですわ……それなので、きっと貴方が覚えて居なくても
忘れている可能性も無いでしょう
……こんなに美しい旋律を奏でる奏者であるのでしたら、私自身もその奏者を決して忘れず
その演奏が心の中に残っているでしょうから――……」
ビー玉入りの瓶を、どうやって飲むのかと思ったら
プラスチックのパーツを押して『ボンッ』と、小気味良い音と、シュワシュワと音を立てて
中身が勢いよく出てくる所を押さえるのを見ると
少し面白がるような、その様子を始めて楽しむ少女の様な反応を見せた
そして、サイダーを勧められれば……
「まぁ?宜しいんですの? ありがとうございますわ」
と、にっこり微笑み 瓶を手にして彼の見よう見まね通り、プラスチックパーツを押し当て
そのまま中身の噴出が収まるまで、押さえてから一口口へ運ぶ
爽快な喉越しと、甘い炭酸水は この真夏の海水浴にぴったりな飲み物であった
「美味しいですわね」と、喜びながらも 改めて彼の名を耳にすれば――……
先程までのはしゃぎようから、静かに
「奇神萱…萱様、で宜しいでしょうか?
私には、貴方が始めは『朝の歌』の音色と演奏に相応しい清廉な少女に見えましたわ
……けれど、今は――……姿形は思春期の少女そのものなのに……
何故、かしらね?……やや乱暴な男性の様に 思えますの」
先程、サイダーで喉を潤したばかりだと言うのに……緊張で喉が渇く
それは、目の前に犯罪集団だと耳にしているフェニーチェの存在が、在るからか
或いはやや乱暴な彼の性質が、圧迫感があるからか……?
■奇神萱 > 「光栄だな。だが、今日だけだ。解釈は演るたびに変わる。何か一番良かったか、答えはどこにもないからな」
「過去の先達は大勢いる。手本にするかどうかは奏者の自由だ。自分が気に入ったものを選んで、あとは信じるしかない」
「感性も変わる。物の見方の変遷も、理解の深まりも考慮にいれれば無限のバリーエションがあるといっていい」
「二度と同じものは聞けない。生きた人間の演る音楽としてはそうだ」
賞賛を受けるに値することをした自負はある。だが、そのために奏でたのではない。ましてや慢心など。
「自慢じゃないが、楽器もいいぞ。この島に運び込まれた中でも相当のものだ」
かつて世界に200本程度存在するといわれた名器も、20世紀以降の動乱で壊滅的な被害を受けた。
バルトロメオ・ジュゼッペ・アントーニオ・グァルネリの1742年製。
俺が使っているのは、奇跡的に守り抜かれたグァルネリ・デル・ジェスのひとつ。
弓も選り抜きのオールドフレンチボウ。どちらも俺の親父が深く愛した仕事道具たちだ。
「お近づきになりたいもんだ。美人に褒められるのは気分がいい。誰だってそうだ」
「お前はしかも特別だな。わかってたんだろ? ひとりだけ違う顔をしてた」
「話のわかるお客に恵まれる機会は滅多になくてね」
「初対面ならよけいに好都合だ。覚えておいてくれると嬉しい」
「乱暴かどうかは意見の分かれるところだな。どちらかといえば紳士だぞ」
「言葉遣いはどうしようもないが、失礼がない様にはしているつもりだ」
紫の女も凶悪犯だと思ってる口か。短いあいだに悪評が立ちすぎた。俺のせいじゃないぞ。
印象はマイナスからのスタートになるのか? 実に心外だ。
ゼロからのスタートなら構わないが、自分に無関係のことで責められるのは筋が違うと言いたい。
「劇団絡みじゃないのか。それならどうして?」
どうしてその名を口にしたのか。女は目に見えて緊張している。よせばいいのにつついてしまった。
■アリストロメリア > 「恐れ入りますわ……そんな素晴らしい演奏を聞けて、私も光栄な上に幸運でしたわね」
その後の続く彼の言葉は、音楽に手を染めない者ではあるのだけれど
その身に魔術を、少しばかり染めるものとしては……少しばかり通ずるものがあった
過去の偉大な先人が大勢いる事。彼らの思想や手段をどう真似し、どう取り入れるかも魔術師の自由であり
魔術を行う者も……『魔術』という行為を通して、結果は信じるしかないのだ
感性や、物の見方の変還も。それは思春期という一番感性の豊かな時期に人の感性は成熟され、完成すると同時に成長が止まり
それ以前と以降では、手を染めるものに対しての感性に大きな感性の違いが生じるのだ
同時に、それらを含め物の見方も。自身の成長・精神の熟練度、知識の豊潤さ等によっても、機敏にそれらは変化する
最も機敏かつ変化に富んでいるのは……『その時の自身の感情』そのものかもしれないけれど
人の演奏するものなのだ。些細な差であれ、決して、二度と同じ演奏を聞く事は出来ないのは理解できる
其れはどんなに巧みにコピーされた絵画や、等しく演じる演劇等の芸術作品も、同じ事
その上、今日の様に会場が違えば――……同じものでも一層、その場の音の響きという物は変わるのである
塩自体、楽器にも悪いが――……特に塩は、楽器の音を変えてしまう悪影響も生じてしまう
にもかかわらず、あんなに美しい音色を正確に奏でられると言う事は
彼の腕自体もそうだけれど、楽器の丁重な手入れも、そして楽器自体も明記に相応しい代物だろう
同時に、称賛を受けるに値する巨匠の腕にも関わらず、それに自負を……いや、自尊心を持ちながらも
慢心せず、己の腕をストイックに磨き上げる腕や姿勢の垣間見える様子は、職人として一流であり、また好ましい
バルトロメオ・ジュゼッペ・アントーニオ・グァルネリ――……
世界三大ヴァイオリンの一つであったか
ストラディヴァリウスが最も有名かつ、繊細な音色のヴァイオリンの王だとすれば
対するグァルネリは、武骨で野生味がありつつも、哀愁を帯びて渋い音色は
ヴァイオリンのノートルダムの背蟲男の様な、或いはバンディットの様な音色の性質であろうか?
奏者の技術以外にも、精神がその音色に乗る様に
芸術家や創作者の『魂』とでも言うべきだろうか?その性質の鱗片というものは
作品とは切っては切れないものであり、影響を与えるものである――……
それは、まるで親の性質を子供が受け継ぐように
ストラディバリウスの創作者が、非常に優秀な弟子たちに恵まれ、また王侯貴族に気に居られ
贅沢かつ、秀でて優秀な者、高貴なものに囲まれた彼の性質が
その王者に相応しい音色を演出するように
グァルネリの創作者もまた、その音色の表現者であるように、何処か哀愁の漂う悲壮な人生であり
ある時は喧嘩をし、ある時は牢獄に入りながらも――……このヴァイオリンを作成したと言う
きっと、其れを好み、演奏する彼もまた そのような性質を何処かに持っているのだろうか
或いは、其れに惹かれ選ぶ理由が――……何処かにあると知れば
悲壮や哀愁の部分なのだろうか?
「まぁ……お上手ですわね。恐れ入りますわ」
美人と褒められれば、お礼を返す様に、小さく会釈して微笑む
きっと、こんなふうに素直に女性に対して物を申す彼の実直さや清々しさは魅力であり
その性格自身も……きっとヴァイオリンの腕だけでなく、女性を魅了する性質の一つに思えた
「そう言って頂けるととてもありがたいですわね……けれど、私は楽器を演奏しない為に
聞いている側以上の枠からは出られませんが……
偉大な音楽家の方に、話が分かっているという感想を頂けるのであれば……本当に光栄に存じましてよ
ええ。こちらこそ宜しくお願い致しますわ」
そう言って、正式に優雅に一礼する
今は着ておらずとも、ドレスの裾を持つようにして手を添えて
成程。確かに口調は……少なくとも自身が貴族だった為に、丁寧な人が多かったせいもあり
乱暴だと感じたのかもしれないが――……
彼の態度自体に乱暴さは見えないし、初対面の女性に話しかける時に
サイダーをわざわざ購入し、手に持ってきてくれるのは此方に対して配慮してくれたからだ
一つ一つ丁寧に解きほぐしていきながら、気付いたのだ――……
一見乱暴に感じた、その物言い
素直に自身の感性で感じたものを、そのまま話す性質は――……
『芸術家』そのものなのだ
フェニーチェであるとか、ないとか。それ以上に彼の根底自身が『演奏家』そのものであり
純度の高い芸術家故の性質が、時に粗野に。或いは時に狂気めいて映るのかもしれない
――……いや、きっとそのような性質を持つからこそ
彼の演奏は熱を帯び、人を引き付け魅了し、こんなにも人の心に染みわたり、感動を与え
その対価として、彼に称賛や狂信にも似た愛が贈られるのだろう
フェニーチェの事も、まだ出会ったばかりの男性の事も……深くは分からない
けれど、彼の口調から、その言葉の端々から
……耳にする、凶悪犯罪集団としての狂気は、あまり感じないのだった
もし、感じるとするのであれば ストイックに追求するあまりに感じる音楽家としての魂や
狂気の方で――……
先程よりは、少し心が解れ、穏やかになった口調で答える
「劇団絡みではありませんわ。生憎、ただ私が存じている事も根も葉もない噂以上の事は何一つ
……それよりも、演奏している貴方の中身が変わっている様に思ったのは
芸術家の描く絵に、その人の本質が絵に宿る様に
演奏者の演奏する曲に、その人の性質が音に宿る様に
演劇者の性質が、その演劇の全てに表現されるかのように
……貴方の演奏していた曲が、朝の歌の時は完全に可憐な少女の様な繊細な音色だったのに関わらず
『思い出』の途中から……まるで人格が変わったかのように、重厚な曲ながらも、一層重々しさが増しましたので
同じ曲ながらも、違う人が演奏を始めたかのような雰囲気があったからですわ」
そう、感じた変化を偽り無く心のままに述べる
きっと、嘘を付いた所で彼には見抜かれてしまうでしょうから
「私の名は、アリストロメリアと申しますわ、以後 お見知りおきを」
静かに頭を下げて、名を遅れながら彼に伝えるのだった
■奇神萱 > 「世辞は言わない。見たままのことを言っただけだよ。綺麗なものを綺麗だと言った。いい女だ。素直にそう思う」
「噂に流される自由もある。その自由は勝手とも言い換えられるし、怠慢と同義だが」
「それも個人の判断だ。知ったことじゃない。ありのままを見てほしいが、強制はできないからな」
どこまで見抜かれているのだろう?
少なくとも、この口ぶりは同性に対するものではない。
奇神萱には奏者たるにふさわしい容姿を与えた。非の打ち所のない調律をしているつもりだ。
仕事道具と同じだ。常に最善の状態に保っている。一度は死んだ身体だと誰が思うだろう。
奏者だって人間だ。飯を喰うし風呂にも入りたい。生きている限り、喜怒哀楽もついて回る。
そういう些細な心の機微は音に現れる。大気の震えは自分自身を映す鏡であって、バロメーターだ。
秀でた耳を持つ者ならば、人の心の機微に通じたものなら手に取るようにわかるのだろう。
「怖い女だ。アリストロメリア」
戦慄している。
『思い出』の途中から何かが変わったという。俺の本質を感じたというのか。
サイダーの炭酸が喉を抜けていく。ガラス瓶の中、ビー玉が跳ね転がって透明な音をたてた。
「さっきも言ったとおり、一番いいと思ったことをしただけだ」
「迫力が足りないと思えば手を加えるし、俺自身、演ってるうちに感情がノることもある」
当たり障りのない言葉で逃げてしまおうか。それは主義に反することだ。
この身体に合わせてボウイングを変えた部分もある。昔の手癖が戻ってきたのか?
「一度身についたものはなかなか抜けない。隠してるわけでもないが、お前が感じたのはそれだろう」
「聞き違えじゃない。その通りだ。よく気付いたな」
この女、魂の内側まで斬りこんできた。寒気がするほどの洞察力だ。理屈や推理の賜物じゃない。これは感性の問題だ。
アリストロメリアは俺の本質を見極めようとした。上っ面に騙されるやつばかりなのに、この女だけは違った。
聴衆に恵まれた。もっと言えば、俺は理解者を得たのかもしれない。
こんなに嬉しいのはいつ以来だろう。親父に初めて褒められた時以来か?
「パトロンを探している。売り出し中の身でな。考えておいてくれると嬉しい」
笑ってしまった。にやけてしまった。みっともない。
■アリストロメリア > 「恐れ入りますわ――……重ねて、ありがとうございます」
真っすぐであるから故に、心に響く彼の言葉に、やや頬を紅潮させ
照れた様子を見せながらも、褒められれば嬉しい。小さく頭を下げて礼をした
「噂を鵜呑みにする、という事は結局は人の意見に流されて、自身でその本質を見ようとはしない事ですものね
そうですわね……他者を判断する時にも、自身の感情を添えるか。それらを排除して客観視するか?等によってもそれは変わりますけれど……
どちらにせよ『その人そのものの本質』はなるべく見るようにしたいですわね
……それすらも『自身の目に映るその人自身の投射』であって、完全な本質は見抜き切れないかもしれないのですけれど」
けれど、術師としては常に必要な目線であり
また、人としても相手の事をなるべく正確に捉える事は、やっぱり必要だと思うのだ
人は、他者を見る時に様々な感情や印象を持つけれど
そのような好き嫌い・快不快を極限まで覗いて、自身の持てる限りの客観視という事は非常に大切である
なぜならば感情ありきで人を見ると、眼が曇るからだ
自身の感情でその人を判断しては、その人の真価に気付けないかもしれない
どうしても、人である故に感情を完全に排除をしきるのは難しい行為ではあるのだけれど
どのような人にも欠点があれば、等しく美点は存在する
そして、同時にその人特有の人生観や思考、感情の持ち方も――……
人というのは、等しくその性質や人生そのものが星空の宝石箱なのだ
生まれ持った感情や性質を始め、刻まれて吹きこまれた運命が、その人特有の命の煌きに等しい
星の輝きとして存在する――……
今の彼女は『術者』として、彼を見つめていた――……
それは、同性を見る目では無く、限り無く傍観者に近い目線で彼を見る
演奏の華やかさもそうだが、それに引けを取らず……いや
きっと男性などにはその演奏の技術以上に人を引き付け、魅了する容貌
常に一流を目指し、其れに慢心せず音楽の道を追求する姿勢からも、非の打ちどころはなく
道具の手入れや、品質も最高級品――……
当然、彼の事を一度死んだ人間とも、何一つ気付かない
……けれど、何かに違和感を感じる
其れは何か?――……と言うと、言いきれない……いや。掴みきれていない――……
ただ、一つ言える事は
彼が『二重人格者に等しい程に』その性質が、演奏している曲が、他人の音色の様に全然違う音を醸していたからだった
例えるならそれは、同じく『上手い絵師』とて、女性と男性の絵のタッチで全然違うかのように
……もっと言えば、別人のものなのだ
話しているのは彼とだけであるから……上手くは言えないのだけれど
始めの朝の歌の演奏にて垣間見せた、自身に向けた微笑みと
彼の喝采を浴びせる観衆に対して浴びせる苛立ちを含んだかのような睨みも――……
表情すら、別物なのだ
「……そんな。恐れられるような者では……」
小さく、頭を下げた
彼女は、魔術師であった。強いて言えば――……名家の生まれで、多少なりとも魔術に対しての知識と訓練を受けた程度の
魔術というのは、小さな変化――……それも周囲の人が気付かない、見落としてしまいそうな程に些細な変化に対して敏感だ
其れが時に、大きな変化の前触れで在る事や、重要な鍵で在る事もあるのだから
『些細な感じ方、些細な変化』
それは大いなる鍵の知識に等しい――……
巧みに磨かれた音色であるならば、尚更に
調教された音色に、その人の音色が乗るのだ
一つ例えるなら、モーツァルトの曲には情緒が乏しく
逆に情緒的な演奏の得意な演奏者がモーツァルトの曲を不得手とするように
瑞々しい少女の、朝日の煌きに等しい清楚な音色と
思い出の途中に深みを一層増し、それは年端の行かない少女には到底出せない様な
過去に対する想いを始め、様々なものに対する思い出が磨き抜かれ、美しいカッティングの施された宝石の輝きと等しく
重厚ながらも美しく輝きを放つような、秘められた音色の音を引き立たせたのは――……
『一番いいと思った事をしただけだ』――……と
真っ直ぐに言い放つ言葉も、音楽の探求に向かい より完成度の高い演奏へと
高みを目指すものだからこその発言だろう
少しばかりではあるのだけれど、彼は言葉を重ねるほどに『完璧な』『演奏者』であり、マエストロなのだ
「詳しくは存じませんし、音楽を嗜む方からすれば乏しい知識となってしまうでしょうが――……
本当に少しだけ。足元にも及びませんが、ピアノをしていた経験からすれば
自身の身に付いた、誤った癖を含めて、自分の弾き方特有の音色等の、癖という物は抜けきれませんわね……
恐らく、萱様の仰る通り、その些細な違いを感じたのかもしれませんわ
……それに気付けたのもきっと、萱様の演奏がそれだけ美しく、私の心を捉えて魅了し
聞き惚れさせて頂き――……私自身も感銘を受けたからでしょう
だからきっと。同じく巧みな音色には変わらないと言うのに、その違いに違和感を持ったのだと思いますわ」
自身は魔術師である
それ故に、常人と比較して感性は敏感かもしれない――……
それでも。
初めての……彼に対して不躾になる発言になるが
初対面では『一介の音楽家』に過ぎなかった彼の音色は
突然海に現れ演奏を始めた、一介の音楽家の領域のものではなかったのだ
それは、自然と周囲の人々が聞き惚れて、あの海の空間そのものが
彼の為に開かれた演奏会だとも言うかのように――……
人々をとたんに惹きつけ、観客とし、彼の世界を一瞬にして表現し、作りあげたのだ
どんなに巧みな音色でも、機械的で詰まらない音色という物は存在する
人が演奏しているというのに、驚くほど正確過ぎて機械的な――……
彼は、その巧みな音色に加え、身に付けた癖、少し荒々しさの感じる様な感情を含めて
酷く魅力的で人を弾きつける演奏なのだ
――……いや。もしかしたらあの演奏は、人だけでなく
一瞬にその場を支配し、海そのものを彼のステージへと変化させるほどに作りあげてしまったのだ
もし、海や大気に至るまで。自然の全てに感情があったとしたら
きっと、彼の演奏に大自然すらも見惚れた賜物ではないだろうか?
ギリシャ神話に、オルフェウスという音楽の巧みな才人が居る
彼の音楽の腕は、あまりに巧みで人だけでなく、自然すらも魅了したと言う――……
そんな一節を連想させるかのような、完成度なのだ
同じく巧みとはいえ、仮にオルフェウスと――……アルテミスが演奏したら
きっと、同じ演奏でも全然違う物と化すだろう
強いて言うのであれば、そんな明らかな違いが、彼の中に存在していたのだ
――……ただ、そのどちらも音色の違いがあれども美しい事には変わりない
笑う、にやける彼の口元が……何処か無邪気な少年の様に思えたのは何故だろう?
「パトロンを?……恐れ入りますが、それほどまでに素晴らしい腕の持ち主であるのでしたら
既にいらっしゃると思いましたわ」
驚きを隠せない様子で、尋ねてしまった
そして、小さく頭を下げると こう返した
「……かしこまりましたわ。生憎私自身に資金がある訳ではございませんが――……
お父様に、お伺いをしてみましょう
その音色、売り出し中の身として放浪する者となるのも、惜しい程ですもの
ソーダ、御馳走様でしたわ。面白い開け方も初めてで、非常に楽しめましてよ
……では、今日は失礼して。御機嫌よう」
そうして、丁寧に恭しく彼に最後の一礼を
重ねての、彼の演奏に対する心からの称賛と
今度出会った時にその返事をする旨を、礼に託して
――……そうして、その場を彼女は去って行った
あまりにも素晴らしい演奏に、海水浴に来たと言うよりも
完全に、オーケストラの生演奏を海で聞いた気分になりながら
彼の申し出と、演奏の事で胸を一杯にするのだった
■奇神萱 > 「はは。有難い話だ。そいつは女だと言っといた方がいいぞ。悪党に騙されたと思われないようにな」
「ご明察。昔なじみの関係もまだ続いてる。ただ、過去は過去だ。もう一度やり直す方法をさがしてる」
「パトロンが多いに越したことはないぞ。手入れひとつにも何かと入用だ。何より―――」
「いつも理解がある人間ばかりとも限らないだろ?」
少し前にもたらされた迫害の惨禍を思い返す。亡霊の名を出したばかりに血が流れた。
過去が追いかけてきたようなものだ。おかげで少なからざる理解者を失った。申し訳の立たない事態だった。
傷痕はまだ癒しきれずに、痛みが埋火のように胸に刻まれている。
「音楽に限った話じゃないが、芸術が当局のお気に召すことはなかなかない。弾圧がつきものだ」
「俺は弱い。自分自身の身を守ることさえできない人間だ」
「降りかかる火の粉を払う力さえない。いざって時に傘を差しのべてくれる、奇特な人間が要るのさ」
「もしもの時に口添えをしてくれたりとか、そんなところだな」
目礼を返した。紫の豊かな髪が潮風に揺れて、ほかにも何というか眼福だ。
ソーダが美味かったとさ。本心からの言葉らしい。育ちのよさを感じる。このご時世には珍しいことだ。
「まずは友達づきあいからだ、アリストロメリア。俺はそっちの方がいい。親父どのによろしく」
汗が引いていた。潮風を浴びて、肌が少しべたついていた。
場所を変えよう。それか一旦戻るかね。ガット弦が何本か切れそうになってるのが気がかりだった。
ソーダを飲み干し、大きく伸びをして浜辺を後にした。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」から奇神萱さんが去りました。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」からアリストロメリアさんが去りました。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」に佐伯貴子さんが現れました。
■佐伯貴子 > (深夜の浜辺である)
(濡れた制服のまま波打ち際に倒れている)
う…
(やがて目を覚ます)
ここは…どこだ…
今は…今日は何日だ?
ご案内:「浜辺(海開き状態)」に久藤 嵯督さんが現れました。
■佐伯貴子 > 確か…外国人の船に閉じ込められて…
(身体を起こしながら思い出そうとする)
光が見えたから海に飛び込んで…
(ハッとする)
いや…私はそんな無謀な性格だったか?
島影も見えないのに海に飛び込むような無謀…
しかし…
(ふらつきながらブツブツと呟いている)
■久藤 嵯督 > 海開き真っ只中の浜辺。当然ここも、警備巡回区域に入っている。
至って静かな浜辺の様子を見て、さっさと帰ってしまおうとしたその時、制服のままずぶ濡れになった女子生徒を見つけたのだ。
夜目は効く方なので、その正体にもすぐに気が付く。
「……おい! 佐伯貴子、風紀委員がこんな時間まで何をしている?
と言うかお前、今までどこで何をしていた? もう四日も無断欠勤だぞ?」
佐伯のもとへ駆け寄る。
最近見ないと思っていたら、こんな夜更けに着衣泳とは。
……いやしかし、彼女の性格からして考えにくいところがある。
何かトラブルでもあったのだろうか。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」にメグミさんが現れました。
■佐伯貴子 > 久藤か!
(聞き覚えのある声にハッとする)
ということはここは…常世島、だな!?
今日は何日だ!?
(相手の問いには)
外国人の船に誘拐されたようなのだが…
どうも何か記憶がおかしい…
(軽く頭を押さえる)
■メグミ > 「あら、久藤さん、一体――?」
荒げた声に気付けば遠方から二人へ近寄る。
恐らく、同じ区域の警護に当てられていたのだろう。或いは。
■佐伯貴子 > 君は…?
(メグミに声をかける)
(こんな深夜にいるということは彼女も風紀委員なのだろうか)
私は2年の佐伯貴子。ちょっとトラブルに巻き込まれたようでな…
■久藤 嵯督 > 「そりゃそうだが………今日は7月19日、もうすぐ日を跨ぐところだ。
……誘拐だと? 外の人間にか?」
こうも迂闊に、常世島に対して明確な敵対行為を示す連中がいるものか。
それも弱水の海を越え、おまけに人質には逃げられて。明らかに可笑しい、矛盾している。
記憶を操作されているのか、はたまた佐伯貴子が錯乱しているだけなのか。
「……ああ、お前の言う通りだ。その記憶は明らかに可笑しい。
今すぐに学園の医療設備で、メディカルチェックと精神鑑定を受けて来い。
……いや、その前に身体の調子は?」
まくし立てるように尋ねていく。
鬼のいぬ間に、とんだ事をやらかす者がいたものだ。
近寄ってきたメグミに気が付けば、そちらの方を振り向いて。
「メグミか……丁度良かった。至急護送隊に連絡を入れてくれ。
佐伯貴子は敵性存在の攻撃を受けた可能性がある」
■佐伯貴子 > なるほど、確かに四日間だな。
そうなのだ、このような警備が敷かれている時期に、海外の船がここに近づくのはおかしい。
それに、制服姿だしな。
(スカートの端を持ち上げる)
わかっている。精神鑑定はちょっと嫌だがな。
体の調子は…少し体力が消耗しているといったところか。
空腹だな。何も食べていなかったようだ。
(空腹感のない空腹)
(胃腸には何も入っていないだろう)
(メグミに)
すまん、携帯を何処かへやってしまったようでな。
連絡を頼めるだろうか。
(久藤の態度から同じ風紀委員だと察した)
■メグミ > 「はい。最近常世学園、ひいては風紀委員会へ復帰させて頂きましたメグミと申します。
……それよりも、お体の方は……」
不安げに貴子の様子を伺いながら、さりげなく体温の確認をする為に身体に触れようとしたり、
唇が蒼くなっているかどうかなど、どれ程長く海に浸かっていたのかを把握しようとするだろう。
本職程ではないが、初歩的な知識は持っているのかもしれない。
少し、と聞いて、訝しげな様子を見せたが、そこで思考を切り上げ。
「はい、ただいま。」
工藤から指示を受けると、スマートフォンを取り出し、手際よく護送隊へと連絡を入れる。
機械音痴と云う訳では、なさそうだ。
「関係各所への連絡は終わりました。
……今は情報を蒐めるよりも、貴子さんの療養が先だと思われます。
夏とはいえ夜の海に飛び込みっぱなしとなれば、どれ程体力を消耗しているか、分かりませんから。」
最後の一点に少し疑問を抱きながらも、そう提案を示す。
■佐伯貴子 > メグミか、よろしくな。
(処置には黙って従う)
(それほど長時間水に使っていたわけではないようだ)
(体温も空腹という割には下がっていないことから栄養補給などを受けていた可能性がある)
(そして、元々体力は多いほうだ)
助かる。
記憶が確かなら、船の上…にいたはずなので、四日間潜っていたわけではなさそうだ。
(肩をすくめ苦笑する)
(元気だというアピール)
■久藤 嵯督 > 「助かるよ……本当にな」
嵯督は致命的な機械音痴なので、本当に助かっているのだ。
連絡を終えたメグミを労うと、佐伯の方へ向き直る。
「現状判断するのに必要最低限な情報は得られた。
それに、今のお前の記憶には疑わしい点がいくつかある。
込み入った話は後で聞かれる事になるだろう。メグミの言った通り、今はゆっくり休め」
流石に四日も水に浸かっていれば、もっと衰弱しているはずだ。
水から離れていたというのは本当の事だろう。
「生憎だが、俺は固形物か劇物しか持っていないか。空腹の方はしばらく我慢してくれ」
■佐伯貴子 > ああ、すまない。
休んだら自分で捜査にとりかかる。
…迷惑をかけたな。
(感情のこもった声で)
断食の経験はある。
4日程度では死にはしないさ。
水分は摂れていたようだからな。
(自分の指で肌をなぞる)
(海水を抜きにしても最低限の水分は与えられていたようだ)
(そんなこんなで、砂浜の向こうにライトが見え始めるだろうか)
■メグミ > 「ええ、私も固形物しか呼べませんから、然るべき場所で。然るべき手当を。
……貴子さん、初対面なのにごめんなさい。
でも。問題解決を自分だけでやろうとすると、ひどい目に逢います。
……いえ、この話は後にしましょう。いきなりごめんなさい。貴子さん。」
彼女らしく ぺこりと頭を下げ、ライトに向けて手振りで一を示す。
先程から貴子の名前を言っているが、久藤とのやりとりより其れを把握している。
自己紹介の余裕は、あんまりないだろう、と判断した故に、おっとりとではあるが、
やや強引に話を進め、休ませる事を意識しているのだろう。……が、余計な事を口走る。
理性でそれをとどめ、思案を始めた。
(問題――a、本当に誘拐、海上輸送の場合)
1.海上輸送は真。海上の輸送中に処理を行い、
用済みになったから捨てた。もわざと見逃す、あるいは記憶操作後に捨てている。
……後処理が中途半端すぎる。なし
2.本当に海上に拠点を持っている。
……一応書類は漁るつもりだが、いまいちピンと来ない。
海上を得意とする組織から、逃げ出せるような隙があるのだろうか?
同じように潜られて、回収されるがオチだ。
(考えるのは後、にしましょうか。)
■久藤 嵯督 > 「風紀委員として当然の事をしたまでだ。
いいか、今は余計な事を気にするんじゃない」
どうでもいい事で一々悩まれても迷惑だ。
言い捨てるような言葉の後に、近付いてくる光にいち早く反応する。
「おーい! こっちだ! さっさと来ーい!」
相変わらず風紀委員とは思えないような口の悪さである。
彼らを呼んでいる途中で謎の頭痛に頭を押さえるが、すぐに平静を取り戻して呼び続けた。
■佐伯貴子 > …そうだな。
その言葉に従うとしよう。
私の出来る限りの報告はあげておくから、手が空いたら捜査してもらえると嬉しい。
(最悪の場合、CTFRA評価EXの異能者が生まれていてもおかしくないのだ)
(慎重に操作する必要がある)
>メグミ
くっ…
(心配してくれないのが悔しいのではないが、もう少し人情味というものがないのだろうか)
二人共に謝罪と礼を言っておく。
すまなかった、そしてありがとう。
これからもよろしくな。
(笑顔でそういうと、担架に乗せられ護送車で運ばれていった――)
>久藤
■メグミ >
「私も一度、一人で勝手に突っ走って、酷い目に逢いましたから――」
貴子を見送った後、視線を地に落とし、表情を隠して呟いた。
ともあれ、見送ったのならば。
「……私は報告に向かおうと思います。現場の警戒、お願いしても大丈夫でしょうか?
病み上がりの私では、追っ手が居た場合の奇襲に上手く対応出来るか分かりませんので――
いえ、"海からは多分無い"、と思うのですけれど。」
久藤へ向けて、頭を下げるだろうか。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」から佐伯貴子さんが去りました。
■久藤 嵯督 > 「……これも仕事だと言っとるだろうに」
護送車で運ばれていく佐伯を見送った。
それからメグミの方を向いて。
「先輩がそんなに頭を下げないでくれよ。それが妥当な判断だ。
少なくとも”彼女が回復するまでは大丈夫”だろうが、念には念を入れてな。
ちゃんと任されてやるから、お前の方も頼んだぞ」
頭痛はもう収まっているので、単独行動も問題なく行える。
■メグミ > 「ええ、ではそのように。」
頭を上げ、姿勢を直す。
「とは言え確証がありません。ただ、ぶっちゃけ――
『4日間も船の上に居た』なら『海に飛び込んで流され』て『アレほどの軽い疲労で済む距離』なのは怪しいですし。
『海上に拠点を置けるような組織』なら『例え飛び込んでも逃さない』でしょう。
……もし本当に海からだとしたら、その程度の存在か、それでまかり通る大物のどちらかかになると思います。
そうでないとしたら、海以外で見ているかもしれません。万一もありますから、気をつけてください、久藤さん。」
癖なのだろう。
再びぺこりとおじぎを以って頭を下げ、その場を去った。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」からメグミさんが去りました。
■久藤 嵯督 > 「泳がされているのか、それともただのマヌケか……まあいいさ、俺に油断は無い。
お前もな、メグミ」
深夜の浜辺からメグミが去って行ったのを確認すると、頭の調子を念入りに確認する。
またぶっ倒れてしまう可能性を考慮して、いつでも回収して貰える様にしておかなければならないのだ。
前に倒れた時は、偶然通りがかったライガが運んでくれたというのが保険委員から聞いた話だ。
一つ借りが出来てしまったなと………舌打ち。誰が心の中ではにかんでやるもんか。
■久藤 嵯督 > 脳内物質及び第七感に至るまで全て異常なし。
細胞結合全て安定。無形化の兆候……ゼロ。
タ ガ
『限定』も四つ完備。警備巡回に支障をきたす確立は0%だ。
少なくとも今は大丈夫だろうが、また発作的に引き起こるかもわからない。
しかし今回はボタン一つで救難信号を出せるよう準備しているので、
敵にばったり出くわした状態でもなければ死にはしないだろう。
まったく、生まれてこの方一度も病気になったことの無いこの身体を
こうも念入りに気遣うことになるとは思いもしていなかった。
普通の身体を持つ人間は、いつもこんな苦労をしているのだろうか。
■久藤 嵯督 > それからも警備巡回を続けたのだが、何も異常を見つけられないまま時間が過ぎていく。
『糸』を用いた広域かつ精密な探知を行っているが、引っかかるものは何もない。
(……そろそろ規定ルートに戻らなければ、今度は向こう側が手薄になるな)
糸による探知は行ったまま、徐々に本来巡回すべきルートへと戻っていくのであった。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」から久藤 嵯督さんが去りました。