2015/07/26 のログ
ご案内:「浜辺(海開き状態)」に狛江 蒼狗さんが現れました。
狛江 蒼狗 > 狛江蒼狗は夕陽を眺めていた。
いや、夕陽など出ていない。深夜の浜辺は暗闇と砂の静寂だけが満ちていた。人の気配はない。
海面上に浮かぶ月を夕陽に見立てて、黄昏ている。
もはや黄昏時というより、逢魔が時だが。

狛江 蒼狗 > 「………………なぜ、こんなに時間が……?」
多忙だったこと、そして抱えていた案件に注力をせざるをえなかった時期であった。
それは自覚もあり自分も納得していることだったが、気がつけば何やら10日がスッと過ぎていて……。

「…………」
浜辺にあった小石を遠投する。
点になったそれは空でぐんぐん小さくなって向こうの水面に波を立てた。
「…………」
虚しい。
狛江蒼狗はビニール袋の上に体育座りをした。

狛江 蒼狗 > 星々に見下されながら思いにふける。
夏の空は大気の揺らぎから天体観測には適さないものだが、灯りもともらないこの砂浜で彼らはとても綺麗に見えた。
はや10日……。
おかしい。
特に記憶がない。
連休前、「台風来て忙しいなー、参ったなー」と思っていたあたりからの記憶が……。
狛江蒼狗は顔を伏せた。
「なんか毎日、寝てた記憶しか……いや……そんなはずは……」

狛江 蒼狗 > 後悔。
そう、自分は後悔を沢山してきた。
一年前のあの事件からもそうだが、その前から気に病む性分だ。
昼食にてAランチとヘルシー定食が売り切れていて、『こんなことなら朝の時点で食券を予め買っておけば』と一日思い悩むのもしょっちゅうである。

「…………こうしていても何も解決はせんか」
ああ、自嘲とはこのような。口角の引き攣るものなのだな。
そう改めて感じながら笑みを浮かべる。
「せめて……失った今日を華やかなものにしたい」
鞄から、コンビニで買ったいくつかのものを取り出す。
それは実に華やかな色彩の紙筒たちであった。
バケツもある。

狛江 蒼狗 > カチンッ、カチンッ。
火花が散って瞬間的な輝きが周囲を照らす。やがて小さな火が灯った。
ノズルの長いライター、ガスは充分だ。星よりも明るい。
おもむろにバケツをぶら下げ、海へ。

ご案内:「浜辺(海開き状態)」にヘルベチカさんが現れました。
狛江 蒼狗 > 水を汲んで、砂浜へ。
ビリバリと開封する。
どうして幾ら時代が進歩しても、開封口がよくわらないポリプロピレンの袋は生き残り続けるのだろうか。
その紙筒のうち一本を手に持つ。
竹ひごよりも細い手持ち部分はなんとも頼りない。
ぶらぶらと先端の火薬の塊は落ち着きなく揺れた。
ライターの灯りを頼りに導火線へ火を近づける。

ヘルベチカ > 夜の海。竿を抱えて訪れれば、水辺、一人背の高い人影が見えた。
己のように、シロギスでも釣りに来たのかと目を凝らせば、
手に持っているのはどうやら釣りの道具ではない。
日中に撒き散らされたゴミを掃除する、清掃員の類だろうか、と思うが、
どうやらそのような感じでもない。
つまるところ、有り体に言うとクソ怪しかった。
風紀でも公安でもなんでもない少年であるが、
流石に目の前で犯罪が行われているのであれば、
見過ごして放置というのも中々に気分が悪い。
足音をなるだけ立てないように、
様子を窺いながら近づいていく。
ライターの明かりを見つめている様子の相手。
闇に紛れていれば、近づくまできっとばれない。
足音も波音が消してくれるだろう。そっと、背後へと。

狛江 蒼狗 > 微細な砂は体重を受け止め沈み込む。
跳ねず波打たない水面を歩くようにすれば音も立たない。
潮騒が聞こえ、星や月の輝きもまた遠く。
狛江蒼狗は手元の火種に集中していて、周囲の気を探ることもしなかった。
よって、到来した誰かが誰であるかも気づかない。

「よし」
ヘルベチカが接近し、両者の距離が一間か二間程度まで近づいたときに。
恐らく、蒼狗の大きな手元に持たれたものがいったい何であるか判別もつかないときに。
火は導火線を伝った。
そして。
しゅごおおおお。
唐突に火花が蒼狗の手元で激しく散る。
そして。
その火花が一際勢いを増したかと思うと。
ぴゅううううう。
と、けたたましい笛のような音を立てて手の中の火は直上へ飛び上がっていく。
音は静寂を切り裂く。光は夜闇を切り裂く。
最後にはぱんと小さな破裂音が響いた。

ヘルベチカ > 相手の背後、2m程。
狛江の恵まれた体格の向こう側、何かがゴソゴソと弄られているのはわかる。
けれど、その身幅に隠されてわからず。
これ以上は、それこそ声でも掛けねば、判断するのは無理だ。
一瞬の逡巡。
そして、少年は手を伸ばし、声をかけようとして。
炎と続いた破裂音。
「うわああああああああああああああテロだあああああああああああああああ!!!!」
花火に切り裂かれた静寂、その裂け目を押し広げるように、少年は叫んだ。
一人で。
海辺で。
花火を。
深夜に。
少年の想定の範囲外であった。少年も似たような部分あるが想定外であったと主張しよう。
だからこそ叫んだ。
振り返った先にきゅうりを目撃した猫の如き反射で、後ろへ飛び退いて。
「風紀!公安でもいい!畜生この時間に―――!!!!」

狛江 蒼狗 > 鬼か。幽霊か。妖怪か。魔物か。
どれも常世島に棲息するもので、風紀の手の行き届かない夜の浜辺などでは珍しくもなく見かけられるものだ。
特にこんな深夜で声もかけずに誰かが背後に忍び寄っているなどとも思わず。
「……。うううううううううううううううううううん!!?」
少年の叫びに呼応して蒼狗も叫び声を上げた。
真上にリフトオフされ落下してきたロケット花火のなきがらが蒼狗の頭にぶち当たる。
そしてパニックを起こし、ブレイクダンサーさながらの大立ち回りを砂の上で演じた。
結果的に、飛び退いた少年と向かい合う。
「な、…………!!?」
ここに来てようやく、声の主が単なる人間──亜人かもしれないし、別の何かかもしれないがとにかく生徒──であることが判明した。
そして、どうやら彼は警察組織の介入を求めている様子。
「俺は────公安、特別捜査部資料整理課特別雑務班-特雑-の狛江蒼狗と言う!
 何だ……事件か!!」
左二の腕の腕章を構えて、高らかに宣言した。

ヘルベチカ > まるで煙幕の如く、砂を撒き散らしながらパワームーブを行う相手。
こちらへ向けて弾き飛ばされた砂、顔の前へ左の腕を掲げて耐えて。
この砂に呪術的な要素、例えるなら砂かけ婆ぁやドイツのザントマンの如き効能があるのであれば、
既に己は相手の術中に在るといえるだろう。
しかし、未だ両足で立っている。
であれば、最悪でも数秒は猶予が在るということだろう。
頭に被った砂を、猫が水気を振るうように身震いし、払って。
右の手、持ったままだった竿。
頼りないが、今はこれで何とかするしか無いのだろう。
藪をつついて蛇を出した形だ。けれど、呪う暇があれば、生き延びる手段を―――
なんか一気にものすごく長い自己紹介が入った為聞き取れなかったが、
コアントロー?
死霊?
最近フルーチェだのなんだの含めて横文字の組織が多すぎて区別がつかないが、不穏な単語が並んでいた気がする。
「事件だよ!!!!ていうかお前だよ!!!!!」
左手人差し指、相手を指さして叫んだ。

狛江 蒼狗 > しかしこの一般生徒(暫定)は何が目的で、独りで夜の海辺へウロウロとしに来たのだろうか。
竿からして夜釣りだろうか。なぜかその竿はこちらへ向いているが。まさか人を釣りに来た訳ではあるまい。
夜釣り。懐かしいフレーズだ。忙しさに追われる前に夜釣りをしてたっけ……。溢れかけた涙もそこそこに、状況を把握する。
「やはり……事件?!」
やはり。
とは言ってみたものの世情には疎い。
海辺で活動するタイプのなんだか名状しがたい組織でも新しく生えてきたのだろうか。
最近蒸し暑かったしそれも有り得るが、情報が少ない。
「…………。俺が事件!?」
少年の発言を咀嚼してみて、人差し指が突き付けられて、ようやく理解が行き着いた。
別に反社会的な行動をしたつもりはない。
ただ、コンビニで定価で買った花火セットを海辺へ持ち込み、一人で火を点けたまでのことだ。
当然外出許可も、外出理由を詳細に記述して公安事務部に提出してあるし、咎められる謂れもない。
だとすると、勘違いだ。
誤解を解く必要がある。
「俺は事件ではない!!!!」
封を開けられた花火セットと、海水の入ったミニバケツを構えて、無害をアピールする。
なぜなら、これが自分がここに居る正当性を示すものだからだ。
レシートだって既に提出してある。

ヘルベチカ > 「そうだよ事件だよ!っていうかテロだろ爆破系の!カップルとか狙ったやつ!」
そういえば組織といえば、エンヴィーなる横文字組織が、
昨年のクリスマスに学生街で大暴れしたことを思い出した。
最終的に死傷者を出したあの事件、もしかすれば残党なのだろうか。
思えば、手が、持った竿が震える。
「そう、あんたが事件!」
相手の示したもの、闇に慣れた視界の中、捉えた。
どうやらあの毒々しい色使い、そして逆の手に持たれたもの、
合わせれば花火のようだ。
けれど、それもカモフラージュに見えて。
逆にこの生死のかかった環境下では、火に油を注いだかのように、
疑いの炎は天高く燃え上がって。
「うるせー!!!!こんな深夜帯に!!!!近所の公園でもなく!!!!
 浜辺で!!!!一人で!!!!花火するような寂しい奴なんているわ……ごめん……」
鎮火した。
主に己の平素の行為と近いという、思春期の少年にとってあまりにも辛い思い当たりが、
DYNAMITEの如く地表周辺の酸素を全て吹き飛ばした感があった。
「ごめん……」
大事すぎたから二回謝った。

狛江 蒼狗 > 花火で海辺のカップルを狙い撃ちする違法部活ならば確かに公安もその存在を把握している。
だが、顔を黒緑の縦縞にペイントし、スイカ割りに紛れ込むことで脳漿をぶちまける自爆テロが失敗したことによりそいつらは先日御用になった筈だ。
「………………!」
落ちてきたロケット花火をミニバケツに入れる。
海辺のゴミ放置問題が騒がれる昨今、この花火は一体どういう遊び方を想定して出荷されているのだろうか。
とにかくそれはいま問題にするべきではない。
設置型花火のように炎を吹き上げる少年をなんとか鎮めねばならない。
なにか、言い返さねば。
「……………………!」
蒼狗は膝をついた。
何一つ反論の材料が浮かんでこない。
全て正論だったし、逆ギレするような気概も蒼狗にはなかった。
自分の行動を思い返し、涙を目に浮かべるころ、突然言葉の刃は止んだ。
「…………?」
シャワーを浴びた気の弱い猫のようになった少年がこちらを見ている。
ざあ、と波音が騒いでいる。静けさを強調するように。
「いいんだ」
自然にそう口をついて、自然に微笑む。
首を横に振りながら。
「いいんだ……」
また首を肯かせて言う。
別に謝るべきことをしているわけではないのだ。
彼も、自分も……。

ヘルベチカ > 膝を折らなかったことだけが、少年に残された最期の矜持だった。
そう、相手はただ、花火を楽しんでいただけなのだろう。
時間も人数も、関係など無いではないか。
楽しむことを禁じるような学則など、この島には無いはずだ。
己を除外して其れを汚した今、少年にできることは謝罪だけで。
そして謝罪というものは、結局の所、相手の為ではなく、
己の為に行うのだと言う者が居る。
其れは確かに、正しいことなのだろう。
いいんだ、と。一言、許しの声を与えられただけで。
喉から、あぁ、と安堵の声が漏れる程に、有難いのだから。
人は分かり合える。
そう、今、類は友を呼んだのだ。
穏やかに吹いた風、波を乱して、波打ち際から聞こえた漣の音。
「花火を……してたんですか?」
それに紛れるように、問いかけた。
おそらくは、己よりも歳上なのだろう相手。
いや、例え年下であろうとも、無礼な態度をとってしまった相手に対し、
少年の頭の上、猫の耳はへにゃりと寝ている。
「俺、猫乃神ヘルベチカです」
そっと、構えたままだった竿を下ろした。

狛江 蒼狗 > それ以上深く問いはしない。
いくら掘り下げてもそこには哀愁の鉱脈が眠るばかりである。
いや、鉱脈と言うよりかは自然に噴き出る水脈であろうか。
「花火をしていた……正確にはし始めたところだ」
かちん。とライターの火打ちを鳴らす。
年功序列を気にしない者も多いこの常世島において、彼は物腰丁寧な部類に入るのだろう。
どちらかというと後輩根性のある自分は高学年生というだけで敬意を払われるのがなんだかむずがゆい気分である。
借りてきた猫のようになっている彼に『いや全然いーよタメ語で! 気にしなくって!』と言えるフランクさがあれば多少は違うのだろうが。
蒼狗は口下手のためそのあたりが上手いこといかない。
「猫乃神か、よろしく」
……獣人だろうか。偸閑な名前である。
もしかするとケット・シー的な何かかもしれない。下の名前も異国風であるし。
ともあれ、点けた火を線香花火の一本に灯す。
ぱちぱちと火は塊り、小さな星になって火花を散らし始めた。
「きみは夜釣りだろうか」

ヘルベチカ > 仰ぎ見ずとも瞬く小星、大柄な男の手元で光る。
ぱちぱちと刹那現れて、形残さず消える、線の集まり。
其れに奪われた視線、問いかけの声に、狛江の顔へと向けて。
「あぁ、はい」
己の右手、握っていた竿を緩く掲げて。
「シロギス、シーズンらしいんで、竿借りて来たんです」
そのまま、つぃ、と視線を海の方へ向ける。
月の光を跳ね返して、幾重にも描かれた線が、
沖から浜へと揺れて、流れて。
「この時期の海、昼間は海水浴の客が居て無理ですけど、夜釣りならと」
思いまして、と。言葉続けながら、再度向いた相手の方。
その腕、巻かれた腕章が、線香花火に照らされて一瞬だけ鮮明に見えた。
「あぁ、なるほど、公安の」
先ほど聞き取れなかった、相手の自己紹介。その文頭。
漸く意味を理解して、緩々と頷いた。
「調査とかじゃなくて、本当に花火に来たんですか?」

狛江 蒼狗 > 線香花火はお得な感じがする。
他の手持ちもそれはそれは綺麗だけれど、それもほんの数十秒のことで長くは続かない。
その気になれば5分くらいじっと輝いている上に本数も多いこちらは、なんとなく性分に合っている気がする。
パッと華やかに楽しもうと思って来ているのに、貧乏性すぎるだろうか。
「シロギス」
シロギス。
「釣れるのか」
知らなかった。自分も自分でたまに釣りに来ている癖に、モノ知らずである。
常世島はやはり豊かなのだ。3年も住んできて今更、沢山の発見をしている。

線香花火は橙に丸く纏まり、光をたたえている。
指先の加減で落ちないように。
吹き込む生温い海風に煽られるそれを守って、パチパチと鳴るそれを保ち続ける。
鉛筆や消しゴムやボールペンは最後まで使い切るタチだが、線香花火は最後までもったことがない。
「……うむ、公安。こんな夜分の砂浜に一人で調査には……そうそう来ないよ」
『本当に』と聞かれると『本当だ』と返すより他ない。
もうすこし隠密性の高い部署に所属しているならば、こういう場所で黙って調査を行っている者も居るかもしれないが。
「俺はそんなに表立った仕事はしないしな」
先程の紹介を一言一句憶えているとは思い難いが、資料整理や雑用が主な業務なのだ。
たまに、風紀よりも先に実行犯を確保するために駆り出される時もあるが、それは本当にたまにだし。

ヘルベチカ > 「釣れる、らしいですよ。俺も先輩から聞いただけなんで、釣りに来たの初めてですけど」
これも借り物で、と揺らした竿。
既に仕掛けは整えられており、餌さえつければ何時でも始められる。
「釣りやるんですか?」
へぇ、と流すでもなく、釣れるのかと問うならば、少なくとも心得は在るのだろうかと。
緩く首を傾げて問うた。

このガタイの人が線香花火大事そうに持ってるとなんかシュールだな、などと
益体もないことを頭の片隅で考えながら。
「なるほど。……あの、大変申し訳ないんですけど、
 さっきの自己紹介、聞き取れてなかったんですけど。
 公安と、シリョー?ってとこはわかったんですが、他は慌ててて」
慌てていたというか、バイアスがかかって偉い聞こえ方をしていたが、忘れることにする。
申し訳無さそうな表情、猫の耳は少し力なく。
「もっかい聞いてもいいですか?あと」
少年は、狛江の手元、花火の袋を指さして。
「どれでもいいんで、一本もらっていいですかね」
少し恥ずかしそうに笑って、問うた。
眺めている内に、羨ましくなったらしい。

狛江 蒼狗 > (釣れるのか)
今度来てみよう。
……なんだかこういう釣り人同士の情報交換というのは心が躍るものだ。両方ずぶの素人らしいけれど。
狩猟採集生活をしていた頃の遺伝子でも騒ぐのだろうか。
「俺も釣れる、と聞いて初めて釣りに来たらアナゴが釣れた」
線香花火を揺らさずそう言う。少々自慢気である。
ビギナーズラックであることは否めないが事実は事実である。

「あの騒ぎだからな。……『テロだー』なんて」
聞き取れないのも仕方がない。喉奥で笑う。
「細かい部署名は置いとくとして。……公安の“特雑”というところに所属している。
 まぁ、ただの雑務係だよ。面倒でこまごまとした仕事が回ってくる閑職だ」
どうしてそんな所に居るのかだとかの説明はとても難しい。
だが、黙っていれば気にもなるまい。
プライベートに土足で踏み入るのが趣味のタイプとも思えないし。
「………………」
続く言葉に、線香花火を差し出しかける。
自分の好みを押し付けるのはどうかと思う。
手を引っ込めて、線香花火の淡い輝きに照らされて微笑みを浮かべながら。
「どれでも、取っていくといい。型紙のついた大きなやつでも、なんでも」
ああいう型紙つきのやつは燃焼時間が短い気がするのは自分の気のせいだろうか。
しかし、大人びて見えた猫乃神少年がそんなことを言うのがなかなか意外だった。
かちん、と。火打ちを鳴らす。ノズルの長いライターに火が点いた。
少年が選ぶと火を差し出す。

ヘルベチカ > 「アナゴ!堤防かどっかで釣ったんですか?」
おぉ、と驚きの表情。羨ましそうに、口を結んでから。
「俺も前に堤防から釣りしたんですけど、黒鯛狙ってたら水中の女児だけ釣れて終了しました」
あれも、一月ほど前の思い出だろうか。
懐かしさを覚えれば、目を閉じて、ゆるゆると頷いてから。
「でも、実績があるのがわかったんで、今度はアナゴ狙いの仕掛けで来ます」
顔に浮かぶ決意の色。

「いや、ほんとにテロだと思ったんですって。勘弁して下さいよ」
口をへの字にしながら、申し訳無さそうな表情で。
「とくざつ」
なんか深夜25時位から放映してそうな発音になったが、数度繰り返して。
「特雑。なるほど。庶務課みたいな感じのところなんですね。公安の役職とかは疎くて……」
しかし、このガタイの人間を雑務に置くとは、公安は余程人出が余って居るのか。
羨ましい、と思いながら。
「あ、ありがとうございます」
差し出された線香花火を受け取りかけた手は、対象を捉えられず。
どれでも、と言われれば、表情が少しだけ、明るくなった。
「いいんですか!じゃあ……」
花火の袋の中。小袋に分けられたそれを、取り出した。
蛇花火である。
砂の上に置いて、狛江の手元のライターで火をつけてもらう。
あぶられて、煙を上げてから、異様な動きを示す蛇花火。
「うわっめっちゃ伸びてる伸びてる!うわっ煙すごっ!めっちゃ伸びる!!!!うひょー!!!!」
歳相応に、というか、伸びる蛇花火を見て非常に楽しそうな少年。
もこもこと増殖する様子に、テンションダダ上がりである。
頭の上、猫耳がぴくぴくと震えている。

狛江 蒼狗 > 「岩場だ。ここから見て北東側の、切り立っている……。?」
黒鯛を狙って釣ってたら女児が釣れて終了。どういう状況だろう。
堤防近くを泳いでいたのだろうか。そういえば常世学園設立当時あたりは人魚が釣り針にかかって社会問題になったとか聞く。
とにかく、猫乃神も釣るのならばミスをせず頑張って欲しいと思う。
たとえばケミホタルを非常用ライトとか間違えるとか、そういう。

「なに、俺も公安については把握していない部分のほうが多い」
委員長はよくもこんな広汎な組織を取り纏められるものだ。
内部のゴタゴタもあるのに公安は機能を停止したことがない。
「……とすると、猫乃神は公安か、風紀以外の何かか」
風紀も公安について一定の知識を持っている者が多い。
なにしろ、公安側から風紀へ指示が飛ぶこともあるし、公安が抱える案件に風紀が完全に絡まない事のほうが珍しいのだ。

「…………」
(え、それ?)
寡黙な青年はそういう表情で、粛々と黒い塊に火を灯した。
控えめな火花というか、どちらかというと単なる火の燃焼が根本で起こって。煙がもくもくと漏れ出す。
そして、うにょおー、と。
効果音をつけるなら、うぞうぞ、だろうか。
“花火”というカテゴリの外側に半歩はみ出した存在は砂の上をのたくる。
そして猫乃神ははしゃぐ。めっちゃはしゃぐ。
(そんなに)
蒼狗はそういう表情をした。
連発花火が空に上がるのを見てテンションが上がる人は見るが。
へび花火でここまで舞い上がっている者を見るのは初めてのことである。
「よ、よかったな……そんなに楽しいのなら残りもやってよいぞへび花火……」
線香花火は鎮火しつつある。寿命を迎えてぽとりと落ちた。
やはり、消えるまで手元においておくことは難しい。
二本目を灯しながらうぞうぞとするそれを見守る。

ご案内:「浜辺(海開き状態)」から狛江 蒼狗さんが去りました。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」に狛江 蒼狗さんが現れました。
ヘルベチカ > 「あぁ、なるほど、岩場の……あっ、いや、女児ってのは別に変な話とかじゃなくて」
相手から届いた疑問の色に、少年はぱたぱたと左手を振って。
えぇと、と一旦置きながら、思い出すように。
「黒鯛狙ってたら、ヒットして、釣り上げたら、女児だったんで、手当して解放しました」
なんの説明にもなっていないが、少年はこれでどうだ、というように、うんうん、と頷いている。

問われた言葉、眉を上げて、笑って。
「あぁ、はい、俺は図書委員ですよ。だから、公安とか風紀の人とはあんまり縁がないですね。
 腕章つけた人と話すのも、半月ぶりくらいですよ」
思い返す、図書館で会話した相手。確か先輩だったか。
「なんか、髪の毛黒くてざんばらで、えぇと……」
公安相手に公安の人間を説明しているため、少し逡巡してから。
「胡散臭い感じの人」
其れ以外に、表現が見当たらなかった。

蛇花火を楽しむ少年を、狛江が珍しいものを見る眼で見ているのにも気付かずに。
一頻り蛇花火を楽しみ、煙と延長が停止してから、はぁー、と深く息を吐いて。
「あー、楽しかった。ありがとうございました」
満足した、といった表情。
しかし視線は、まだ小袋の中に残る錠剤状の蛇花火をちらちらと見て。
やるのかな、やるなら見たいな、というオーラ駄々漏れ状態。
そこにかけられた声。頭の猫耳が、ぴぃん、と立った。
「えっ、まじですか?いいんですか?マジで?残りも全部?うっひょおありがとうございます」
思わず漏れた変な声を気にすること無く、少年はガッツポーズ。
小袋の中から残り三つの蛇花火を取り出して。
三角形に並べて、着火した。
「あー伸びてる伸びてる!こっち伸び悪い、あ、伸び始めた、煙すっごい!
 うわ、めっちゃ曲がってる!ひゃー!!絡まった!絡まってやんの!煙い!めっちゃ煙い!!!」
げらげらと笑いながら、こんなに蛇花火で楽しむ人間がいるのか、という勢いで、
蛇花火を満喫している少年。
そして、砂地の上、もこもこと膨れた黒い物体を残して、
煙も完全に止まった。
「はぁー…………ありがとうございました…………」
楽しみ疲れた感がある表情。満喫、という単語がこれほど似合うのも珍しいだろう。

狛江 蒼狗 > 「うん」
頷いてみるも余計に理解に苦しむことになった。
『釣り針が引っ掛かって少々トラブルになった』を『釣り上げた』と表現しているに過ぎないと考えていたのだが実際に釣り上げたらしい。
(何が起こったのだろう……?)
恐らく質問するにつれて徐々に理解できなくなっていく類のものだと考えた蒼狗はもっともらしく頷いた。

「図書委員か。一応俺は図書館と縁がないわけでもないぞ。学内新聞のバックナンバーを調べる必要があったりするから」
結局、目当てのものは見つからなかったのだが。
図書館と猫というフレーズから、返却口に捨てられて図書館に住み着いた猫の話を思い出す。
なんとなく、図書委員は猫乃神のイメージに合ってる感じがした。
「…………」
腕章をつけた公安委員というと、数が多すぎて誰か断定することはできない。
「あいつか」
だが、その表現でイメージは固まった。
恐らく同じ人物を思い浮かべていよう。

(…………)
そんな、一粒27円(税込み)の物体でそこまで。
なんだかテンションが上り過ぎてよくわからないことになっている。
自分の知るへび花火はこんなにエキサイティングなものではなかった筈なのだが。
こう、花火もたけなわな頃にやって面白がるタイプの……
目を離すとへび花火を中心として円周走をしかねない。
飛び跳ねていないことが不思議なくらいだった。
「う、うん。喜んで貰えたならこちらも嬉しい」
手元を見ると、既に線香花火は落ちていて。
へび花火とそれを実況解説する猫乃神のほうに夢中になっていたらしい。
なんとなく負けた感がある。

「……釣りはいいのか?」
へび花火のみでたっぷり小一時間は楽しんでいた気がする。
よく見れば東の空は微かに明るんでおり、夜釣りというより早朝に片脚を突っ込みつつあった。

ヘルベチカ > 「あぁ、確かにうちなら、新聞のバックナンバーは一定年揃えてますからね」
納得した。という表情で、頷いて。
説明のしづらかった、己のあった人物を、狛江が把握しているようであれば、
わずかに驚いた様子を見せた。
「あ、心当たりありました?なんか授業の課題の本探しにこられてましたよ」
緩く首を傾げて。
「有名な人なんですか?」
もしかすれば、公安の中でも有名人なのかと考え、失礼をしなかったか、と
思い返しながら。

青春に期限なく、探究心に年齢は関係ないのと同様に、
楽しみに金額は関係ない。まさに其れを体現する喜びよう。
額、僅か浮いた汗を拭って。
「いや、めっちゃ嬉しかったですよ」
真顔で頷く。
心なしか、最初に会話していた時に比べて、月明かりの中、血色が良いように見える。
「中々一人で花火する機会もないので、久しぶりに見れて満足しました」

「あっ」
己の当初の目的を完全に逸脱して、蛇花火に盛り上がっていた少年。
問いかけの言葉に、一瞬だけ固まってから、右手の中、持ちっぱなしの竿を見て。
そっと海へ、きっとその向こうにいるであろうシロギスへ視線を飛ばし、
うん、と一度大きく頷いて。
「…………釣りは、また来れば出来ますが、この出会いはきっと一期一会でしょう」
穏やかな波を見つめて、少年は柔らかい声。
「だから、良かったんですよ。蛇花火出来ましたし」
ラストが本音である。

「でも、そろそろ帰らないとアレですね。日中眠くなる……」
気づけば突然、やってくる眠気。くぁ、とあくびをし、左手で口を隠して。
ぱくり、と勢い良く口を閉じると同時、かつん、と歯の触れ合う音がした。
「――……んむ。それじゃあ、蛇花火、ありがとうございました」
深々と狛江に対して頭を下げて。
「今度、アナゴも釣ってみます。では、失礼します」
結局使うことのなかった釣り竿片手に、少年は海辺を後にした。

狛江 蒼狗 > 「うん。しかし、俺の捜してる一年前の……すこしマイナーな、手刷りの学内新聞は見つけられなくて。
 まぁ、その際に図書委員の手も借りたというだけだ」
もし会ったら改めて礼でも言ってくれ、と特徴と名を伝える。
「……ん。有名というより、ちょっと目立つ人だ」
公安と聞いて真っ先に名が候補に上がるような。
気を揉む猫乃神に、常識を弁えていればそうそう問題にはしない人だから安心するといい、と伝えておく。
べつに、そこまで深くを知っている訳でもないのだが。同じ公安だし、無関係でもない。

「…………」
本当に全身全霊で楽しんでいたな。しかも、素で。
蛇花火に対する認識を改めなければいけない気がした。
「そりゃあ、ちょっと花火見たいから一人でやろうという発想にはなかなか」
なったのが、自分だ。今更ながら少々へこむ。

「のんびりと糸を垂らすには遅すぎるかもな」
四半日釣ってボウズということもあるし、釣れたら釣れたで持ち帰るのに手間がかかる。
テスト終わりで日中授業も疎らになる季節であるものの、夜通し釣って昼寝で8時間睡眠したりすると凄く後悔することになるのだ。
なるのだ……。
「うん、そうだな。……ほんとに好きなんだなアレが」
なにはともあれ出会いには感謝しよう。
常世島は広く、ほんとうに一期一会のまま終わる事も珍しくはない。
ただ、それでも無駄ではあるまい。
一人花火よりはよっぽど意義のある時間だったはずだ。

「でかい欠伸だな」
横目で見て笑いを漏らす。薄明かりに眦の涙が照らされて光っていた。
確かにもう眠くある。猫乃神の為草を見ていると、こちらの眠気も誘われてしまう。
花火はまた今度にでもしようか、と考えつつ。
「俺もシロギス釣りに来るかね。……うん。では、また」
ひらひらと手を振り、猫の少年の背を見送るのであった。

ご案内:「浜辺(海開き状態)」から狛江 蒼狗さんが去りました。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」からヘルベチカさんが去りました。
ご案内:「浜辺(海開き状態)」にギルゲイオスさんが現れました。
ギルゲイオス > (昼もややと過ぎた頃合い)

あ゛っづいのである……
(海水浴客でにぎわうソノの一角。
レジャーシートに腰を降ろし、海、あとは水着の女性を眺める長身の男が一人)

我が元居た世界で、魔物にとって海水浴なるモノは一般的ではなかったからな。
まぁ、新鮮な気分、と言えばそうなのだが……
(額と頬を伝った汗が、キメの細かい砂に吸い込まれ、消えてゆく。
ギラギラと輝く太陽と、それを照り返す白い砂浜。
浅黒い肌は、その熱を容赦なく吸収してゆく)

ギルゲイオス > まるで体中の水分を搾り取られるような心地なのである。
熱中症に気をつけろ、との警告は色々な場所で見たが。
なるほど、これは侮れぬのである。
うっかりしていると、魔王ミイラの完成なのである。
(ダラダラと流れる汗、順調に奪われてゆく体中の水分。
傍らに置かれたペットボトルを手に取れば、スポーツドリンクを一口、喉を鳴らし)

ぬるいのである……むしろ軽くホットである。
(眉根をこれでもかと寄せ皺を作る)

ギルゲイオス > 次来る時は、もう少し暑さ対策を考えてくるべきであるな。
ビーチパラソルに、クーラーボックス、辺りか。
もっとも、そこまで準備して一人で来るのも如何というべきであるが。
(プールで良かったんじゃね?という考えも過るが、一応と却下しておく。
人間の文化を自分で体験してみる、というのも一つの理由であるし。
もっとも、周囲は家族連れに恋人連れ、或いは友達連れ。
幾分というか随分浮いているのは間違いがない)

もっとも、景色は中々悪くないのである。
(白い砂浜、蒼い海、水着の女性である。
サングラスのブリッジを、クイッと持ち上げて。
朱い瞳で周囲を見渡す)

皆大胆なのである、俗に言う夏の解放感であるか。
(ぱっと見、下着とそう変わりは無いのだが。
水着であれば、話は別という事なのだろうか)

ご案内:「浜辺(海開き状態)」にミウさんが現れました。
ミウ > その少女は突然、浜辺に現れる。
空間転移してきたのだ。
白いワンピースを着て、白い翼を生やした少女、ミウ。
ミウが少し翼を広げると、風で羽毛が舞った。
ここに来たのは、ただの気紛れである。
だが今のところ、海に入る予定はなし。

転移先で傍にいたのは背中に『魔王』と書かれたTシャツを着ている長身の男。
魔王……?
思わず、首を捻る。

魔王と言えば、多くの人は世界征服を目論む悪の親玉という印象が浮かぶだろう。
膨大な魔力があり、戦闘能力においても最強クラスといったイメージ。

「海の解放感……ね。
 人間なら、それぐらいあるかもしれないわ」
品よく微笑みながら、長身の男の発言に同意してみる。

ギルゲイオス > 人間で、あればか。
とはいえ、あそことあそこ、に居るのは普通の人間とは少々違うようだがの。
(ちょいちょいと指さすのは、幾何と人と離れた姿の存在)

もっとも、それ位の違いは、この街では些細と言えるか。
その辺全部ひっくるめて人間と呼ぶのも、確かに間違いでは――
(不意と聞こえた声、思案を巡らせれば徐々にとややこしい考えにたどり着きかけて)

ぬぉっ!?
(とまあ普通に返事を返していたのだが。
気付けばご近所に現れていた人物の姿に、驚きの声を小さくと上げ。
額にある、もう一つの目を思わずと開き)

目がーー!!
(うっかり太陽を視界に入れてしまい、額を抑えて叫びを上げる)

うっかりびっくりして酷い目にあったのである。
目だけに…………今の無しでお願いするのである。
(視線を横に逸らすと、速攻で撤回を願い出た)

ミウ > 男が指差す方向を見る。
「確かに、人間ではないわね。
 あらゆる種族、異邦人が訪れる島だものね。
 人間の姿に見えて、人間ではない者も、この浜辺にはいるはずよ」
微笑みながら答える。
彼の言う通り、この島では“些細な違い”だ。

普通に話していたと思ったら、男は驚きだす。
そしてなんと、予想だにしていなかった事が起きた。
突然、男の額から目が現れたのだ!

「額から目……!?」
それにはさすがに、こちらも少々驚く事になってしまう。
彼が『目がー』と叫び出すから、尚更である。

ひとまず、落ちつく事にしよう。
「びっくりすると、第三の目が開眼するのね」
とりあえず、元の笑顔に戻る。
そして酷い事に、『酷い目にあった』事に関しては本当にスルー……と思いきや──。
「わたしも驚いて酷い目に合ってしまったわ。
 目だけにね」
と、冗談交じりに言う。

「第三の目という事は……何やら、強力な能力でも秘めているのかしら?」
これぞ第三の目のイメージである。

ギルゲイオス > いや、むしろ本来は此方の目も開いているのが普通なのであるがな。
(ホワイトアウトした視界が元に戻ると、サングラスを外し。
朱い三つの目で相手を見上げる)

此方に来てから、どうも子供達にこの額の目がどうも怖がられるようでの。
普段は閉じておるのだ。
(普通の人間と同じ位置にある二つと、額の二つ。
指でさしてから、額の方は閉じる)

ぬ?
くっ、ははは。
そうであるか、それは申し訳ない事をしたのである。
よろしければ、後でアイスでも奢る故、許していただきたいものであるな。
(ジョークの返しに、一瞬と目を丸くとするも。
僅かな間の後に、肩を揺らし。
たまらずと笑い声を空に響かせる)

我の場合は、『こういう種族である』というのが一番の理由かの。
もっとも、魔族としてはまだ若輩。
力が更にと増せば、何か文字通り力が開眼するかも知れん。
(指で、額の目、その瞼に当たる部分を押し上げる)

……ところで、であるが。
『人間であれば』と語るお主も、やはり人間とは別の存在、なのであるかな?
まぁ、翼をもった人間、というのも早々居ないのは確かであるが。
(ワンピースの少女を見つめながら、ちょいと首をかしげる。
逆に翼を除けば、余り人とは違わない印象だ)

ギルゲイオス > (普通の人間と同じ位置にある二つと、額の一つ、であるな。
四ツ目ではなく三つ目なのである)

ミウ > 「つまり元々、三つの目を持つ種族なのね」
なるほど、と言った感じでこくこく首を縦に振る。

「額の目は、確かに子供には怖がられるわ……」
少々苦笑気味で、答えた。
突然額の目が開かれて、こちたも少々びっくりしてしまったぐらいだ。

「別にいいわよ」
と、許したあと、
「そのアイスで許してさしあげるわ」
現金にも、アイスはおごってもらう事にする。
「そもそも、先に驚かせたのはわたしだものね」

「なるほどね。
 あなたは、魔族だったのね」
魔族……そして、背中にある文字は、魔族の長であろう『魔王』という事を思い出す。
「あなたは、魔王に憧れているの?
 それとも、あなた自身が魔王?」
きょとんと首を傾げた。

翼を広げ、その時に羽毛が辺りに舞う。
「そうよ、わたしは人ではないわ。
 わたしは神よ」
そう笑顔で言ってのける。
「名前はミウというわ。
 あなたは?」
自己紹介を済まし、相手にもそれを求める。

ギルゲイオス > ビームとか出せるようになったら、ちょっと格好いいかも知れぬな。
(喉元に笑みを鳴らせば、口の端が緩くと上がり)

うむ、子供に道を聞いて、泣いて逃げられた時は正直ショックだったのである。
(腕を組み、頷きを数度。
此方の方々は異形に慣れてはいるのだろうが、それでも怖いモノは怖いのだろう、きっと)

ではそれで。
我も暑さにやられて、冷たいモノが欲しくなっていたのでな。
丁度いいのである。
(肩を軽くと動かしてから、ウィンクを一つ)

ふふん、聞いて驚くなかれ。
我は魔王、魔王ギルゲイオス・ホッドケーテ、である。
憧れ云々ではなく、魔王そのものなのである。
親愛と畏怖を込めて、ギルと呼ぶのがよい。
(両腕を広げるポーズをとってから、背後に真っ黒なオーラを纏う。
なお、無害な模様)
もっとも、元居た世界での話であるがな。
(城も領地も臣民もおらず、それを魔王と呼んでいいのか微妙ではある。
自身で落ちをつけると、オーラもいつの間にか消え去っていた)

……驚かせる心算が、コッチの方が驚いたのである。
神、であるか。
(瞬きを数度繰り返した後、じーっと見つめる、じーっと)

にわかには信じがたい話、ではあるが。
まぁこれだけ色々な世界がつながっていれば、実存する神がやってきても不思議はない、のであるか?
(盛大に頭を横に傾ける。
神と自称されて神とサラッと認めてしまうのは、なんだか騙されやすい人そのものである。
当然疑問に思うのだが、さりとて確かにこの都市で言う所の『人』とは違う気配を、感じなくもない)

それは兎も角として、ミウ、であるか。
覚えたのである、我は先に名乗った通りであるな。

ミウ > 「ビームと言えば、目からビーム出している時は、視覚的にはどう映るのかしらね」
目から出すビームで、視界が遮られる気がしなくもない。
第三の目が視覚的にどう映っているかというのも気になる。

「子供は正直と言うけれど、あなたも……苦労しているのね」
少々、同情するような眼差しで男を見る。
「第三の目を閉じたまま、というのも疲れそうだわ」

夏の日差しが強い。
「こうも暑いと、冷たいものに頼りたくもなるわ。
 氷系統の異能者は、好きに能力を使って涼んでいるのかしらね」
ウィンクする男に、優雅に笑ってみせた。

なんと、彼は魔王と名乗ってみせた。
その魔王が海水浴を楽しんでいるというのだ。
さすがは常世学園……なんでもありである。
「魔王ギルゲイオス、ギル君ね。
 よろしくね」
微笑みながら、挨拶をかわす。
君づけだから、親愛はあっても畏怖は込められていない。
彼から黒きオーラが出てくるが、その姿はまさしく魔王らしいと思えた。
この人は、本当に魔王だ。そう思わせるには十分なオーラ。
魔王らしい……という事以外に、特になにもないオーラのようだが。
「元いた世界では、あなたが魔王として魔族を束ねていたという事ね」
魔王の部下や城、領地などを失ってこの地に来たのだろうか。

魔王からじーっと見つめられる。
こちらは神。
神と魔王の邂逅である。
「あなたが信じようが信じまいが、わたしが神である事実は変わらないわ。
 そうね、様々な世界が存在するから、それが集まるこの常世島では信じられない事が起きる事もおおいわよね」
こくこくと頷きながら答える。

ギルゲイオス > 多分、見えなくなるのではなかろうか?
発射位置が近い分、此方の目にも影響が出そうであるな。
(双眸を指さす。
何となく格好良さそうに思えたものの、良く考えてみれば欠陥も多そうだ)

まぁ最近は少しと懐いてくれたようで、『勇者と魔王ごっこ』なんてのもやっているのである。
ちょっとばかりこの辺りの視界(額の上、普通の二つ目では見えない辺りを掌で示し)
が見えぬで落ち着かないが、コレも慣れであるな。
(額を掌でペタペタと叩き……汗でべったりと濡れたそれを、タオルで拭った)

どーなのであろうか。重宝するのは、確かであろうが。
冷やせば冷やした分だけ、疲れるのではなかろうか?
(先から思うが、なんとも外見不相応な笑み、そう見える。
なるほど、そういう意味では確かに神っぽいのかもしれない)

よろしくなのである。
『君』は、まぁ好きにするが良い。
(畏怖が足りない気がするが、寛大に許す魔王様。
緩くと掌を動かして間を置けば、一息とつき)
そう言う事であるな。
我一人でこの世界に落ちてきた故、王という称号も不自然かも知れぬな。
(少々と自嘲気味に喉を鳴らせば、肩を竦めてみせた)

(神VS魔王、と書けばなんだか壮大っぽいが。
実際のところ、クソ熱い浜辺でのおしゃべりである)

『間違いなく神である』と証明するのも難しいであろうしな。
それについては、我が魔王である、というのと同じようなモノであろうし。
個人的な感想を言わせてもらえれば、我がいた世界の神も、ミウのように可愛らしければよいな、と。
(冗談めかしたような口調で、言えば言葉の最後に笑い声を付けたし)

ところで、であるが。
ミウは泳がないのであるか?
我はもう随分とあっついのであるが……
(流れる汗、照りつける太陽。
温いスポーツドリンクにまた口をつければ、顔を顰める)

ミウ > 「確かに、そちらの目にも影響がでないとも限らないわね。
 でも、第三の目がビームを撃っている間そちらが見えなくなっても、双眸で狙いを定める事ができるから、実用範囲ないかもしれないわよ?」
ビームの性能によるところもあるだろうけど。
破壊力が高すぎれば、目からビームは使い辛そうだ……。

「慣れてくれてよかったわね」
同情していた眼差しがが優しいものへと変わる。
「『勇者と魔王ごっこ』ね。
 そんな事をして遊んでいるぐらいだから、あなたはとても子供が好きなのね。
 それにしても、魔王ご自身が『勇者と魔王ごっこ』なんてしているのは、なんだかシュールだわ……」
魔王ご自身が、ごっこ遊びで子供の勇者に着られてしまうのだろうか。
「わたしは目が三つあるわけではないけれど、一つ目がなくなるというのは視界が大幅に削減されるという事だものね。
 慣れれば大丈夫かもしれないけど、慣れるまでそれなりに苦労しそうだわ」

「疲れてしまうのは、日々の鍛錬で補う事ね。
 そうすると、鍛錬で汗をかいて、そして氷の異能で冷やす。
 効率良く、異能を磨きあげる事ができるわ。
 氷系統の異能者の特権ね」
なんとも夏で活用しやすい能力。
冷やし過ぎて寒くなる、なんて事も起きているのかもしれない。

好きに呼んでいいと言われたので、お言葉に甘えさせてもらう事にする。
「つまり、
 あなたは王の資質として必要なのは『臣下』や『領地』と考えているわけね?」
肩を竦める魔王に、そう質問してみる。
魔王もまた王。色々な事情もあるのだろう。

「『間違いなく神である』と証明すると言えば、自分の種族を証明する……というのもなんだか奇妙な話ね」
深く考える事でもないだろうけど。
「わたしは、あなたが魔王である事はひとまず信じていいわよ。
 あなたがそう語るのだからね」
軽く微笑んで、そう言う。
そして冗談っぽく、自分の世界の神がミウのように可愛らしければいいな、という魔王。
「あなたが魔王なら、もしかすればその可愛らしい神と敵対してしまうかもしれないわよ」
こちらも冗談っぽい笑みで返す。
勇者はともかく、神が必ずしも魔王と敵対するとは限らない。
それは世界次第だろうか。

「そうね。
 せっかく海に来たのだから、泳いでいくのもいいかもしれないわ」
水着は持ってきていないが、着衣水泳でいいかな?
 

ギルゲイオス > 顔を覆い隠してしまう様なサイズのビームは、論外であろうな。
みえなくなる以前に、鼻が焦げてしまいそうである。
(そこまでいくと、いっそギャグである。
目からビームが一種のギャグと言われてしまえばそれまでだが。
閉じたままになっている、額の目の辺りから。
指で真っ直ぐに線を引く)

うむ、子供とは次の世代を担う存在であり、宝である。
その笑顔を良しとするのは、当然の事なのである。
(笑みを浮かべながら頷いていたのだが、シュール、という言葉に一瞬と疑問を浮かべ。
そして、納得したように両手を打ちあわせる)

あぁ、此方の世界で魔王がどういう存在として認識されているかは、物語を読んで知っているのである。
悪逆非道、破壊の権化、混沌の使者、そんな所であろう。
我の世界では、大昔ではあるが確かに人と魔の戦いがあった。
しかしながら、その戦いもとうに終わり、今では共存の道を進んでおるのでな。
邪悪なるものの王、というよりかは、魔族という一種族の王、という表現が正しいのである。
(指をくるくると回しながら、よくある勘違いを正すように説明をつける。
もっとも、この世界で魔王が悪者に思われている事自体、別段気にしている訳ではないのだが。
なお、ごっこの最後はお約束として魔王が勇者にやられるのである)

なるほど、日常を鍛錬の場とするのであるな。
(腕を組み、納得す)

(前半なのであーる)

ギルゲイオス > 資質、という表現もいささか違うような気もするが。
そうで、あるな。
王とはつまるところ、その国を統べる者である。
その国とは、領地であり、臣下であり、民衆である。
統治者、という意味の王としては、それらなくしては片手落ちなのではなかろうか?
(確かに、邪悪な魔王であれば、余りその辺は関係ないのかもしれない。
ただし、自身はあくまで統治者としての王である)
こう語っておいて、魔王と名乗るのもいささか不自然ではあるが。
魔王となるべく生まれ、魔王として教育され、魔王となった身であってな。
自己を定義するにあたって、やはり『魔王』という名は捨てれぬのであるよ。
(ややと難しい顔をして唸る。自己矛盾、であるのも分かっている)

ま、考えても仕方ない事、であるな。
我も、ミウが神であると言う事を信じよう。
ミウがそう言ってるのであるし、我も否定する理由がない。
(唇、弧を描いて笑む、が)
む、それは困るのであるな。
可愛い神様とはいえ、我らの世界を破壊するというのならば、魔の為にも人の為にも戦わざるをえぬが。
(喉元から唸り声をもらせば、悩ましげに上半身を揺らす)

うむ、折角である。
海に来て、眺めているだけというのも勿体ないのである。
(ゆっくりと立ち上がれば、首の骨を鳴らし。
手招きしてから、緩い足取りで浪打にまで歩いてゆく)