2015/09/02 のログ
ご案内:「浜辺」に倉光はたたさんが現れました。
倉光はたた > 九月ともなれば海水浴シーズンも終わりである。
夕暮れの浜辺にははたたの他に人の姿もない。
特にあてのあるわけでもない、いつもの探索の果てに辿り着いた。

「うみ……」

ぼーっと水平線の向こうを眺める。
多分来るのは初めてだ。
砂浜に足を踏み出して、

「ぐえっ」

べしゃっと派手に尻餅をついて転んだ。

ご案内:「浜辺」にヨキさんが現れました。
ヨキ > (波音の合間に、砂を踏む重い足音。気紛れの散歩。
 脱いだブーツを、片方ずつ両手に持った裸足の格好。
 ブーツの中には、畳んだストッキングが押し込められている。
 潮風に衣服の長い布地を躍らせながら、一歩ずつ歩む)

「……――む」

(視界の向こう、白い髪の少女が尻餅を突いたところ。
 会話を交わすには些か遠い距離から、様子を見ながら歩み寄る)

倉光はたた > 靴と足の間に砂が入った。
だいぶ人間としての歩き方に慣れたはたたではあったが、
どうもこの砂浜というのは難しい。
へろへろと立ち上がる。

「うぉーたー……」

Water。
後ろから近づく誰かには気づかず、海へと向けて前進する。
靴に波が被る。

「んっ…………!」
数歩歩いたところで、やわらかい泥がはたたの左足を取る。
はたたは失敗から学ぶこともできる。今度は絶対尻餅をつかない!
ばたばたと腕を動かし、右足を前に出し――
結果として前のめりに海面へと水音を立てて勢い良く着水した。

ヨキ > (少女が起き上がる。
 その動作に、ようやく少女が『他と違うらしい』ことに気付く。
 年の頃にしては、子どものように覚束ない足取り……)

(水音。)

「!」

(ぎゅむ、と砂を踏み、早足でははたに近付く。
 とは言え常に爪先立ちをしているような獣人のこと、その歩調もたかが知れたものだったが)

「大丈夫かね――君?」

(身体を金気に蝕まれ、金属を操るヨキは、もともと海がそれほど得意でない。
 それでも構わず、はたたに向けて手を伸べる。
 足元の砂を、寄せては返す波が浚ってゆく)

倉光はたた > がぼごぼ。息が苦しい。
「…………」
でたらめに手を振り回すと、たまたまヨキの差し伸べた手にぶつかる。
それをつかみ、引っ張り……なんとか起き上がる。
上半身はずぶ濡れになっていた。髪や服から滴り落ちる海水。

「……だいじょうぶ」
無表情にそう応える。開いた口からもだばーと海水が落ちた。
そして首をかしげる。
「どちらさま?」

ヨキ > (はたたの掴んだヨキの腕は、体重を掛けられてもびくともしなかった。
 ずぶ濡れのはたたに問われると、穏やかに笑って口を開く)

「ヨキだ。学園のせんせいをやっている。
 怪我がなくてよかったよ。――君の名前は?」

(はたたとは逆の方向へ、小首を傾げてみせた)

倉光はたた > 「ヨキ」
つかんでいない方の手でヨキを指差す。ついで自分を。
「くらみつ……はたた」
倉光はたた、そう名乗る時――わずかに釈然としない表情を浮かべた。

「がくえん…………せんせい……」
ヨキの発した単語を拾い、噛み含めるように復唱する。
そして、すぐに慌てたようにぱっと手を離してしまう。
べしゃ。
再びの尻餅。
背中で翼状突起が広がる。
ほんの少しだけ警戒を視線に混ぜ、ヨキを見上げる。

ヨキ > 「はたた、」

(瞬く。目の前の顔を、僅かばかり不思議そうに)

「――『倉光はたた』?」

(その発音は、名を知っている者のそれだった)
(かみなり、らいさま、はたたがみ――落雷事故で死んだ女生徒の、皮肉な名)

(逡巡は一瞬。
 ブーツをまとめて小脇に挟んだ格好で、再び転んだはたたへ今一度手を伸ばす)

「……そうだ。ヨキだ。
 何もしやしない。濡れていると風邪を引くぞ。

 『先生』は嫌いか?」

倉光はたた > 名前を復唱されて――さながら教師に責められた生徒のように目を伏せた。
ぷるぷる、と濡れた獣よろしく顔を振って髪についた水滴を払う。

「きらい、ちがう……」

そろそろと手を伸ばし、つかみ……もう一度立ち上がる。
ややおぼつかない足取り。唇をかたく結んでいる。

「わからない……わからないは、こわい」

ヨキ > (たどたどしいはたたの言葉を、余さず拾い上げるように聞く。
 掴まれたはたたの手を柔く握り返して支えながら、笑って頷く)

「わからない。
 そうか。そうだな。判らないものは、こわい」

(中腰になって、はたたの顔を覗き込む)

「ヨキも、倉光君のことは何も判らないよ。
 でもヨキは、君のことを怖いとは思わないな。

 ヨキについて判らないことは、何でも教えてあげる。
 それじゃあダメかい?」

(ヨキからは、はたたを問うことはしなかった。
 低くゆっくりとした声で、穏やかに話す)

倉光はたた > 「こわい、じゃない……」
漠とした表情でヨキの言葉に耳を傾ける。
こわい、そういうふうに思われる可能性がある、という考えが、はたたにはそもそもなかった。

「だめ、じゃない。だいじょうぶ」

問いに応え――背で広がっていた翼状突起が、へにゃりとしおれる。
ついで、じっとヨキを上から下まで観察する。
がくえん。きょうし。ヨキ。いずれもわからない。
なにがわからないか、なにをきいていいかも、わからない。

はたたの視線がある一点で止まる。

「……みみ」
垂れ下がった耳朶がどうにも気になって仕方なかったらしい。
それに触れようと背伸びして手を伸ばした。

ヨキ > 「大丈夫?よかった。
 倉光君にダメって言われたら、ヨキはきっとさみしかったから」

(自分の耳をじっと見る視線に気付く。
 微笑んで、波打ち際から少し離れた砂の上でしゃがみ込む。
 視線の高さが、はたたのそれよりも低くなる)

「耳。
 こういう耳、見たことある?犬の耳だよ。
 何でもよく聞こえるんだ」

(はたたの手が触れるままに、顔を傾けて耳元を相手に向ける。
 ヨキの耳介には、柔らかなヒトの皮膚の感触があり、それでいてハウンド犬の形をしている。
 垂れ下がった耳介の下には、人間の耳と同じ溝や窪みが隠れている)

「倉光君は、犬は好きかね?」

倉光はたた > 「いぬ……」
抱きつくように身を寄せて、
くぼみの形を指でなぞったり、つまんだりこねまわしたりして
無心でヨキの耳に触れる。

「すき……?」
好きか? と、問われ、目をぱちくり。
すき。多分はたたが知っている言葉だ。ぐるぐる、と髪を振り乱す。
焼き切れた脳に検索をかけた。
イノセントな眼を向ける。

「……ん、ん……
 いぬ、おいしい?」
出てきた検索結果がそれ。

ヨキ > (はたたの背をゆったりと抱き止めて、ただじっと触られるままにしている。
 くすぐったい、と小さくくすくす笑う)

「うーん。ヨキが食べた犬は、あんまりおいしくなかったなあ。
 中にはおいしいやつも居るんじゃないかな」

(好き、の語意が判然としないらしい様子に、はたたの澄んだ目を見つめ返す)

「『すき』――そう、好き。
 うれしくて、ふわふわして、気持ちのいいことだ。
 君がそうなっちゃうもの、何かある?」