2016/07/24 のログ
ご案内:「浜辺」に霜月零さんが現れました。
■霜月零 > 「……はぁ」
ぼーーーーーーっ。
普段から覇気を表に出すタイプではない零であるが、いつも以上に覇気のない……もっと言えば疲れ切ったような顔で釣り糸を垂らす。
趣味の一つである釣りであるが、今日はどうにも身が入っていないようだ。
■霜月零 > 「どーしたらいいんだろうなぁ……」
更に溜息。
ここ最近、恋人の様子がおかしい。
いや、様子がおかしいというより体調が悪い。もっと言えば異能を制御出来ていない。
妹の話だと、相当に苦しんでいるようだ……何とかしてやりたいが、異能関係は門外漢。
体系だった『魔術』に属する巫術を扱う零にとって、画一化が出来ずここで原理の異なる場合の多い異能は、どうにも扱い辛いものでもあった。
そんな自分の異能も、大概扱いに困るものでもある。
「異能関係の講義、もーちょい取っとくべきだったかな……」
そんな付け焼刃、学生が軽く触る程度の知識で何とかなるレベルのものではない、と理性では理解できていても、やはり『恋人が苦しんでいるのに何も出来ない』と言う状況は、零の心をむしばんでいた。
ご案内:「浜辺」にルギウスさんが現れました。
■霜月零 > 取り敢えず気分を落ち着けよう……と考えて釣りに出てきたものの、やはり考えてしまうのはそのことばかり。
まるで意識が集中出来ていない。かかった魚に気付かずそのまま逃がしてしまうという事すらあった。
「何やってんだか、俺……」
無力感と、こんなところでこんな事をしていていいのかと言う焦り。
普段なら心を落ち着けてくれる効果のある釣りも、今回は大して役に立ってくれていないようであった。
まさに『心ここにあらず』である。
■ルギウス > どう見ても投網にしか見えないものとバケツを片手に現れる司祭服の男。
似合ってないにも程がある。
サングラスは、日差しがキツイ夏にはとても向いてるのだろうけれど。
断りもなく隣に腰掛け。
「やぁ、釣れてますかぁ?」
■霜月零 > 「……全然だよ」
まーったく集中出来ていないのだから当然である。
一応持ってきているクーラーボックスの中身は空。釣果ゼロである。
そして、見えた顔に……と言うか姿に若干引く。
なんで こいつは 投網と 司祭服なんだ。
■ルギウス > ふむふむ と 海面を覗いて。
「見たところ、場所は悪くないですねぇ。
仕掛けもいい。
魚もそれほどスレてないようですし……さて、そうなると原因はなんでしょう?」
とりあえず、バケツに海水を汲んだ。
無駄に魔術を用いて水辺に近寄りもしない。
■霜月零 > 「知るかよ、運が悪いんだろ」
適当に返答。
流石にいきなり現れた不審極まる相手に、己の心中を吐露するような真似はしない。
内容がデリケートだから余計である。
■ルギウス > 「運は自ら助けるものにのみ微笑みますよ。
神と同じですねぇ」
投網をぐーるぐる回している。
投げるつもりだろうか。
「まぁ、青少年の悩みは だいたい 学業か金銭か恋 と決まっているようなものですが。
ああ、趣味やら進路って悩みもありましたか 一応は」
放り投げた。
魔力を通わせた投網はすごい勢いですっ飛んでいく。
具体的には100m以上先まで。
■霜月零 > 「『天は自らを助けるものを助ける』ってか?
ま、実際そうなんだろうけどな」
もっと言えば、運は行動しないとそもそも影響しない。
運を掴む可能性を得られるのは、何かしらの行動をした者だけだ。それ以外の人間は、そもそも『幸運を掴む権利』を放棄しているのに等しい。
……そんな事は、分かっている。
「進路ってのは重要だろーが……ってのはいいとしても。アンタ誰だよ」
取り敢えず、話を適当に受け流しつつ相手の名前を問う。
なんてったって胡散臭すぎる。司祭服にグラサンで投網持って来て、それを100m以上先までブン投げる奴がいきなり踏み込み気味の話をしてくる。
怪しさしかない。怪しさ100%、そのままではとても飲めたものではない怪しさの原液である。
■ルギウス > 「ああ、一応この島で教鞭をとっております。
ルギウスと申します」
お見知りおきを と言いながら一礼する。
貴方はこの胡散臭い教師の存在を知っていてもいいし、知らなくてもいい。
指をくいっと動かせば、沈んだ投網がザバーと浮き上がる。
結構な量の魚が中に入っているのだろう。
ひょっとしたら鮫とかダイバーとか深きものも入っているかもしれないが。
「まぁ、遠目に見ていても『心ここに非ず』でしたので。
たまには教師らしいことをしようかなぁ なんて思いましてね?」
■霜月零 > 「ルギウス、ルギウス……?
…………あー、魔術関係の」
なんかそんな教師がいる、と言う噂を聞いたことがある。
『心を見透かしてくるようで怖い』『滅茶苦茶胡散臭い』『授業は分かりやすいけど人としてはなんかアレな感じ』と言う、良い評価とは言えないものばかりであったが。
「そりゃどーも……そんなに見て分かりやすかったですかね?」
相手が教師と言う事で口調を変更。しつつ、網を見ると結構な量がかかっている。
なんか魚人っぽいのがいるのはキニシナイ。メニトメナイ。アレヲミチャダメダ。
■ルギウス > 「本来は宗教学なんですがねえ。
まぁ、魔術・法術・式打ち・異能と大抵のことはできますよ」
できるけど自分の楽しみにしか使わないのが問題なだけで。
「ええ、とてもわかりやすかったですよぉ?
“あの”霜月かと言われると……ああ、実にらしいなぁ と思う程度には。
無念無想にはまだまだ遠そうですねえ」
ふむ と頷いて キャッチアンドリリース。
海面から手を振る魚人とかレアじゃなかろうか。
■霜月零 > 「そりゃまた偉く万能ですね……って、あ?」
"あの"霜月、だと?
この世界では認知度の低い霜月家を、知っているだと……?
「霜月を、知ってる……?無念無想まで?」
しかも、霜月流奥義『無念無想剣』の事まで知っているようだ。
秘中の秘であり、また遣い手も歴代で数えるほどしかいない境地、剣境。それが無念無想剣。
それを何故知っている……?
その疑問と驚きで、海面から手を振る魚人にSAN値を減らされることはなかった。
不幸中の幸い(?)である。
■ルギウス > 「ああ、そうやって驚いている顔はますます彼女にそっくりですねぇ。
いやはや懐かしい」
くくと笑って。
投網を大回転。水滴を飛ばしてから回収する。
そしてもう一度 ぐるーんぐるーん。
「彼女は良い剣士でしたねえ。
生真面目で己の知己の不幸を全て背負い込みかねないところなんかは、貴方にそっくりですよ。
己の剣にコンプレックスも抱いていたようですしねえ」
もう一度、放り投げた。
今度は200mくらい飛んだだろうか。
■霜月零 > 「かの、じょ……?」
乗せられている、とどこかで分かりつつも思考を回す。
誰だ。そもそも霜月流の女性は剣士が少ない。ほとんどは薙刀か弓だ。妹がそうであるように。
なので、女性剣士と言えば限られるはずだが……近い世代に女性の剣士はいなかったはずだ。
無念無想など、数世代前にさかのぼる。
「何を、知ってる……?」
驚きで敬語も忘れ、横の刀を意識しながら問い掛ける。
……と言うかなんで投げる距離を伸ばしてるんだ。限界地までの全域の魚をコンプリートする気か。
■ルギウス > 「そうですねぇ」
ニヤリと笑って。
アカシックレコード
「 全て と言いたいですが、まだそこまでには達していませんねえ、残念ながら。
まぁ、少しばかり縁がありましてねえ……霜月と」
再びザバーと投網があがる。
今度はやたらと無機物が多い。
というか、えらく年季の入った瓶とか樽だったものとかが引き上げられている。
満足そうに頷いてから、こちらに運んできた。
「ああ、先に断言しておきますが。
貴方の剣では、まだ私には届きませんよ。
切れて薄皮一枚が精々です」
■霜月零 > 「……誰、とだ?」
アカシックレコード、と言う言葉にすら『根源接続を見透かされているのでは』と懐疑してしまうくらいに疑心暗鬼になりつつ、警戒レベルを引き上げる。
だが……その後の言葉に、ぴくんと硬直してしまう。
「ち……改めて聞くが、何者だ?」
単なる教師、で収まる相手ではないはずだ。
本当に、何者なんだ。
■ルギウス > 「おや、よく知っていらっしゃると思ったのですが。
ええと確か……“今の”評価は。
『最強の剣士』だとか『霜月の完成系』だとかでしたっけ?」
それだけの評価を得ている女性剣士なんてほとんど該当者はいないんじゃないだろうか。
「舞台にうっかり上がってしまった演出家ですよ。
それに納得できないなら……貴方が剣士として現在の課題にしている超越者に近い人間です」
とても深い笑みを湛えた顔。
そして二人の間に投網が帰ってきた。
ほぼガラクタばかりである。
■霜月零 > 「……!『霜氷の剣聖』、霜月雫……!」
その名前は何度も聞いたことがある。
霜月流剣術の全てを極め尽くしたとされる最強の剣士。
それ以降の霜月流剣士全ての目標であり、その型の動画には見惚れると同時に唖然とさせられた。
そして、彼女の為した功績は霜月家に伝わる英雄譚として語り継がれている。
そんな人と、知り合いなのか。
「演出家どうこうは分からねぇが……成程、超越者か。
……霜月雫なら、アンタを斬れるのか?」
混乱しつつも、自分でもなんで問うたか分からないようなことを問い掛ける。
純粋な興味でもあるのだろう。霜月の究極とされ、剣聖の名を欲しいままにした霜月雫。
霜月の行き付く果ては超越者に届くのか。
それは、気になる所だ。
……それはそれとして、このガラクタどうすんだろうか。
■ルギウス > 「……さて、どうでしょうねぇ?
極めた彼女であれば『互いが本気になれば』勝敗はどう転ぶかわかりかねますねぇ」
知り合った頃では、とても届いていなかったが。
もとより、互いの得意とする土俵が違うのだ。
強いて言えば、己の得意分野にいかに持ち込むかの勝負になる気がする。
ガラクタから何かを選別していく。
手元に置いているのは硬く封をされた瓶が数本。
朽ちたラベルから、古いラム酒であるようだ。
「貴方には何よりも経験と、心構えが足りませんねぇ。
決めたらそれがどんな夢物語でもただただ貫く。
それが彼女の剣でしたよ」
ずるり と 掌から骨でできた刃を覗かせる。
そして余ったガラクタを……霜月の剣に似せてバラバラにしてしまった。
「ああ、そうそう。
異能に心が引っ張られるのなら、逆もまた真なりです。
無念無想の境地は、さぞかし影響があるのでしょうねぇ」
バラバラにしたごみを投網に来るんで そのまま ゴミ捨て場にシュート!!
■霜月零 > 「……そう、か」
少なくとも、可能性はあると言った所。
霜月の果ては、超越者にも届きうるのだろう。
……自分がそこに至れるのかは謎だが。
「なあ……霜月雫は、あの剣聖はどんな人間だったんだ。
こっちに伝わってるのは、最強剣士としての英雄譚ばかりなんだ。知り合いなんだったら、教えて欲しい」
いや、知り合いなのは確実だろう。
だって……今、ガラクタを斬り刻んだ動きは、彼女が得意としたとされる『時雨』の動きの模倣だったのだから。
「……心に異能が引っ張られる。心に合わせた形に異能が変化する、って事か?」
……ダイナミックゴミ捨て、いいのだろうかアレ。
■ルギウス > 「普通の人間ですよ、彼女は。
よく笑い、よく悩み、よく泣いき、人を愛した ただの普通の人間です。
剣聖などと呼ばれるとまだ未熟だと辞退するでしょうねぇ……政治的な理由が絡まなければ」
あの人はそういう厄介ごとはスルーできませんでしたからねぇ と笑う。
「異能も魔術も、最後に制御するのはココですよ」
零の胸をトントンと叩く。
「理屈なんてない異能なら尚更です。
できると信じる事こそが重要です……天は己を助ける者のみを助けるのですからねぇ」
■霜月零 > 「……そう、だったのか」
あんな、剣聖と呼ばれるような人間でも。
よく笑い、よく悩み、よく泣き、人を愛する。どこにでもいる、自分と同じ単なる普通の人間だったのか。
「最後に制御するのは心、出来ると信じる心、か……」
彼女もそうだったのだろうか。霜月雫、最強の剣聖も。
自分の限界を規定せず、出来ると信じて突き進んだ先が剣聖の称号だったのだろうか。
そして……心を鍛えれば、自分も、氷架も、異能をしっかりと支配できるのだろうか。
否、やってみないわけにはいかない。
天は、己を助ける者のみを助けるのだから。
■ルギウス > さて、言うべき事は終わったとシーエルダーと書かれたラムを手に取る。
そのまま立ち去ろうとして、ふと思い出したように振り返った。
「ああ、そうだ。
貴方にはこれをあげましょう」
ごく普通のCDに見える。
「ただの音楽データですけれどねぇ……興味があるなら動画版も差し上げましょう」
有無を言わさずに手渡して、胡散臭い男は今度こそ舞台袖へ歩き去った。
ご案内:「浜辺」からルギウスさんが去りました。
■霜月零 > 「…………」
受け取ったCDを見て、なんだろうと首を傾げつつ。
「……ありがとうございました」
怪しい人間ではあったが。
重要な薫陶を受けたのは間違いない。礼をもってその姿を見送った。
ご案内:「浜辺」から霜月零さんが去りました。