2016/08/02 のログ
ご案内:「浜辺」にセシルさんが現れました。
セシル > まだ陽も上り始めるか否かという早朝。
日が昇れば海水浴場へと変貌する浜辺を、疾走する細い人影があった。セシルだ。

暑さに負け、走力訓練も室内の施設で行っていた、ここ一ヶ月半。
周囲の「幻術(VRをセシルはそう認識している)」を動かしたりはしてくれるものの、空気が停滞している事実は動かしようがなく。

外で走れるようになるその日を、セシルは待ち続けた。
風紀委員の職務に励み、黙々と室内訓練を繰り返しながら、こつこつとお金を貯めた。

そのおかげで手に入れた、冷却魔術の魔術具が、今、剣を差す左側とは反対側に提げられていた。

セシル > 無論、せっかく外での走力訓練を再開するのだから、以前と同じコースを走りたかった。
この島に来てからの鍛錬で、自分がどれだけ成長したか…あるいは、鈍っていないかを確かめたかったし。

…しかし、季節は夏。昼間はもちろん、夕方もかなり遅くまで学生達は海辺でのレクリエーションを楽しんでいる。
一応、事前に今の浜辺の利用スケジュールを調べて…安全に走るならば、陽が上り始めるか否かの朝方だとセシルは判断したのだ。

そうして今、セシルは浜辺を走っている。
ここを抜ければ、常世港を横目に未開拓荒野の入り口付近に出る。そこを走り抜けて、居住区を通り…学生街の常世公園が、スタート地点にしてゴール地点だ。

(…空気が鮮やかに移り変わっていく様が…久々に味わうと、ここまで気持ち良いものとはな)

既に、結構な距離を走っている。
それでも、セシルの口元には充実した笑みが刻まれていた。

セシル > この世界には、「砂地トレーニング」という言葉もある。
地面を蹴ることによる反発を十分に得られない砂地で運動を行うと、下半身の筋活動が多くなる。また、バランスを上手に取ることも求められるため、下半身や体幹の筋力アップや、コーディネーション能力…ざっくりいうところの「運動神経」…の向上に役立つのだそうだ。

無論、平常と違う反発の地面で長時間運動をするとフォームなどが崩れてしまう危険もあるため、多用は厳禁だ。
セシルも、あくまで浜辺はランニングコースの一部であり、全てではない。

それでも、海の見えない地で生まれ育ったセシルにとっては、広大な碧を横目に走るのもまた、しばらくは飽きることのないと思われる喜びだった。

海は、微妙にその表情を変えながら、そこにある。
同じ顔をしている日は、意外とないのだ。

セシル > …と、不意にセシルが、走りながら浜辺とは反対側に視線を投げる。
その遥か向こう…海底遺跡群の方に思いを馳せながら。

(…遺跡の怪物駆除と修復のアルバイト、か…)

一応、委員会に「副業禁止」の類の規約はなかったと記憶している。
無論、委員にはそれなりの権限が付与されており、それを職権を超えて濫用することは許されないが…

(………とても、心惹かれるのだが………)

セシルの冒険心はどうにもうずくのだ。
別に調査隊にいっちょかみしてどうこうしたいわけではない。…もっといえば、委員会の権力との兼ね合いが問題になるならバイト代だってなくて構わない。

(…この世界の「秘境」…どうにか、足を踏み入れられないものか)

そんなことを考えるが…走りながら明後日の方向はいつまでも向いていられない。
正面に向き直り、走る、走る。

セシル > (…とりあえず、昼間に委員会街の方に行って確認をしておこう。
無断で応募するよりは、問題も起こらんだろうからな)

セシルは、最終的にそう決断した。

そのためには、まずはこの早朝ランニングを終わらせることだが…気が逸るあまりペースを乱しては意味がない。
一生懸命気を鎮めながら、安定したペースで走り続けるセシル。

…そうして、その姿は朝方の海岸から消えていった。

ご案内:「浜辺」からセシルさんが去りました。