2016/10/19 のログ
■化野千尋 > 特に意図があったわけではなかった。ただなんとなく、この時期の海に行きたかった。
そんな理由で、化野はサクサクと浜辺を踏み分け、散策をしていた。
「わ、」
誰もいないだろうと思っていた秋の海。
何やらしゃがみ込んでいるような、捜し物をしているような人影。
そうっと歩み寄り、人懐っこい笑みを浮かべながら、彼に話しかける。
「何か落とし物でも、されたんですか。」
■飛鷹与一 > 「……え?…ああ、いや。ちょっと黄昏てただけです」
まさか誰か来るとは思わなかった。砂浜を踏みしめて歩く足音は聞こえていた筈なのだが。
何か発散したり感傷に耽ったり、色々してたら聞き逃していたらしい。
だから、急に声を掛けられて少し驚いたように…が、表情や目付きは覇気の無さ全開で振り向く。
…私服姿の裸足の少女が居た。死んだ魚のような瞳で少女を眺めてから、遅れたように緩く会釈を一つ。
「…と、まぁそんな訳で落し物とかそういう訳じゃないんで大丈夫っすよ」
と、何処か気だるそうな声色。普段の調子がコレなのだ。
■化野千尋 > 「砂を落としました、とかじゃないならよかったです。
……黄昏、ご一緒しても構いませんか?」
会釈には会釈を返し、同じようにしゃがみ込む。
返答が返ってこなくても勝手に横に並ぶあたり、聞く意味はあったのかと疑問が湧くが。
少年の茫洋とした瞳を、ふたつの赤色が伺うように覗き込んだ。
「何かお悩みなんです?
海のバカヤロー、って、そんな調子だったりするのでしょうか。」
砂を指先で手遊びながら、なんでもないようにまた質問を。
■飛鷹与一 > 「…砂粒落としたらここじゃ二度と見つからない気がしないでもないすけどね。
……ああ、ハイ。俺みたいなのと相席で良ければ」
本来なら断るべきなのかもしれないが、別に人嫌いでも何でもないのだ。
異能の懸念はあるものの、ついついそう言って了承してしまう訳で。
むしろ、既に隣にしゃがみ込んでる彼女の行動力が地味に凄い気がした。
茫洋としたままの視線を、赤い綺麗な瞳と重ね合わせて。
「…や、『平凡』に生きるって難しいんだなぁ、と思いまして」
そう答えるが間違いではない。『特別になりたくて結果的に平凡に生きる』のではない。
『最初から平凡であろうとする』。これはとても難しい。ある意味で異常者だ。
少年は後者を理想としているが、それも早々叶いそうに無い。
「……そちらさんは、またなんでこんな秋の夜更けの海岸に?」
と、今度はこちらからそう尋ね返してみようか。なるべく会話は途切れさせないようにという配慮。
まぁ、沈黙したままの空気でもそれはそれで構わないのだけれど。
隣に誰か居る状況で、無言を貫き通す理由も特に無い訳で。
■化野千尋 > 「平凡」
オウムのように、少年の言葉を繰り返した。
特別の集まるこの島で、平凡だなんて言葉が出るとは思わなかったから。
少年の言う平凡がどういったものなのか、理解しきれずに思わず口を開く。
「平凡となると、どういった意味でしょうか。
実は世界を股に掛ける財閥のお坊ちゃまだったり、
神様業に飽きてしまったどこぞの神様だったりするのでしょうか、おにーさんは」
『特別な人間が平凡について考えている』ものだと、そう取った。
この常世島という地球上でも平凡とは程遠い島に、平凡な人がいるとは思わなかった。
だからこそに、そんな質問を放り投げた。
「わたしです?
なんとなーく、海が見たくなったんですよ。秋なら、誰もいないかと思って。
ほら、そういうのって、ないです?」
ぽつぽつと、会話のキャッチボールは続く。
こういう、なんでもないような会話は好きだった。
目的なく、偶然出会った人と、目的なく話をすることは、どうにも楽しい。
■飛鷹与一 > 「…そう、平凡。凡人、凡庸、人並み。まぁ色々あるっすけど…俺はそれに憧れてるんです」
特別な力など要らない。特別な武器など要らない。特別な魔法など要らない。
ただ、『普通に暮らして普通に死ぬ』。当たり前のようで難しいそれが少年の理想だ。
だから、彼女の問い掛けには首を横に緩く振ってみせる。
「…や、本土の都会出身すけど普通の中流家庭すよ。凄い背景も何もないっす」
神様なんて程遠いし、そんな存在は自分には必要無い。あるとすればこの異能を消し去って欲しいくらい。
無論、厄介な異能を持つ以上、この少年も結局『特別』になってしまっている。
――だが、それでも。『平凡』を生きたいのだ。面白みがなくてもそれの何が悪い。
「…ああ、気分的にそういうのは偶にあるっすね。俺も結局似たような感じですし」
彼女がここを訪れた理由を聞けば、相変らず覇気の無い表情ながら納得した、という風に頷いて。
少年としても、変に緊張せず肩肘張らないこういう空気は落ち着くので好きだった。
■化野千尋 > 「なるほど、人並みということは。
神様でもなんでもないけど、おにーさん、特別なひとなんですね。
……異能とか、魔術の類でしょうか。」
ふむ、とひとつ頷いてみせて。しゃがんだままに、脚が先に耐えられなかった。
砂に腰を下ろして、体育座りで座る。砂は冷たかった。
首を振る少年をじっと見つめて、小首を傾ぐ。
「気持ちがどうにも落ち込んでるときとか、あと――。
そう、思わず叫んじゃいたくなるときとかって、来たくなっちゃって。」
とんとん、と、指先で砂浜を叩く。
少年の表情には、やや気の抜けたような笑みを返して。
ゆるりとした時間に、潮騒は更に緩やかな空気感を醸し出す。心地いい。
■飛鷹与一 > 「…まぁ、うん。ちょっと『面倒な』異能持ちっす。それのせいで本土に居辛くなってこっちに来たんですよ」
隠してもしょうがないし、そもそも嘘をついてもしょうがないのだから素直に肯定する。
自分には何も起きないのに、周りにだけ面倒な影響を及ぼす。そんな力だ。
「……別に異能そのものが悪いだとか嫌いだとか言いたくはないんですけどね。
ただ、俺の持ってる異能は俺にはただの重荷にしかならないんで。
かといって直ぐに消せる手段がある訳でもないし、制御もしようがないしで。
…どのみち、自分の力をどうにかしないと平凡な生活なんて程遠い雲の上の存在っすよ」
と、呟くように口にしながら体育座りをしている少女を一瞥してから、何となく夜空を見上げて。
「成る程…俺は叫ぶとかあんまり柄じゃあないけど、気分が沈みがちってのは該当するかな…」
実際少し沈んでるのは間違いではない。しかし、彼女の空気は自然体で緩い。
それが幾ばくらこちらを楽にしている。言葉にするのも難しいのか、内心でこっそり感謝だけしておく。
「……ああ、そういや自己紹介してなかった。俺、1年の飛鷹与一っていいます」
袖摺り合うも他生の縁。名前をこちらからまず名乗っておこうかと。
■化野千尋 > 「ははあ、面倒な。
……差し支えなければ、教えてもらえたりとかってします?
わたし、異能に興味があるんです。勿論、魔術も、ですけれど。」
割れた貝を手に取り、砂に線を引く。引いた線は、サラサラとすぐに砂がまた埋める。
ぽいっと貝の欠片を遠くに投げながら、彼の話を聞く。
異能が重みである、という言葉を、胸中で何度も繰り返す。
「わ、すみません。名乗りもせずに失礼しました。
あだしのです。化野、千尋。同じ一回生で。もしかしたら、どこかですれ違ってるかもですね。
《大変容》の頃の話とか、そういうのを選んで勉強してます。
それから、魔術も少し勉強できたらなと、思っておりまして。」
慌ただしくばたばたと、正座で座りなおす。
砂が気にはなったが、特に躊躇することなく身体ごと彼に向かう。
■飛鷹与一 > 「…一言で纏めると、『自分では何もしなくても無意識に周囲を狂わせる』って力です。
正確には狂わせる、というよりも調子を崩したり何かを変化させたりとか。
制御も力のオン/オフも全く出来ないんで今こうしてる間も発動してる感じすね。
とはいえ、力の発動している気配すら殆ど無いんで、集中しても多分誰も気付けないと思いますけど。
まぁ、何と言うかトラブルメイカーな力だと思って貰えれば。」
別に詳細を語る必要も無いのだけれど、矢張り溜め込んでいると吐き出したくなるもので。
大まかな異能の効果をそう語りつつ。だからこそ、重みでしかないのだ。
自分にも周りにも恩恵が無い。むしろ自分には何も無く、周りに面倒しか振り撒かない。
「…ん、化野さんすね了解。…あー多分。俺、割と目立たないようにしてるんで気付かずにすれ違うとかはあったかもですね。」
平凡に憧れる以上、必要以上に目立つのも苦手だ。実際目付きや雰囲気以外は地味である。
慌しく正座で座り直す化野さんに視線を戻しつつ。
「魔術は…俺は座学は平均はキープしてるっすけど実践が才能が無いのか駄目駄目なんすよね。
未だに初歩的な魔術の一つすら使えないですし」
■化野千尋 > 「『何もしなくても周囲を狂わせる』。
……それはなんとも、大変というか、その、大変ですねえ。
すみません、ずけずけと聞いてしまって。
その、その異能って、いつからひだかさんはお持ちなんです?」
彼の口から語られたその詳細に、そんなありきたりな言葉を溢した。
というよりも、それ以上の言葉を実害を受けたりしていない彼女が述べられるわけもない。
実際問題、とんでもない重みの、とんでもなく迷惑な異能だと思う。
誰かに害意なく害を与えてしまえば、自分も苦しい、という二重苦。
「あ、おなじですね。……いや、座学も平均ないので、わたしのほうがダメかも。
……どうにも、超常ってものに縁がないみたいで、全然。
興味があっちいったりこっちいったりするんです。集中して勉強、できなくて。」
ご案内:「浜辺」に飛鷹与一さんが現れました。
■飛鷹与一 > 「…まぁ、子供の頃からの付き合いなんで。身内に他に異能持ちは居ないんで、突然変異ってヤツすかね。
大変容があってからは、そういう人も結構多いみたいなんで珍しい、って訳じゃないんでしょうけど」
ただし傍迷惑な力を持っても全然嬉しくない。そもそも、役に立つ方向性を見出せない。
子供の頃から異能持ちだった事を語るが、その異能のせいで家庭を『潰した』事は流石に語らない。
ありきたりな言葉は特に問題は無い。聞かれて答えたのは自分なのだし、大変なのはもう慣れた。
ただ、『自分は何もしていないのに他者に害を与える』というのは、異能というよりもただの呪いか何かだ。
「んー…俺も異能持ちっすけど超常にはそんな縁が深い訳ではないっすよ?
異能学と魔術学はまぁ、平均点くらい取らないと補習とか面倒だってのもありますし」
肩を竦めてみせる。座学は取り合えず補習しない程度には真面目に。
しかし、実践となるとからっきしだ。魔力そのものは人並みにはあるらしいのだが…
それを外に魔術として発現させる事が全然出来ないのだ。
■化野千尋 > 「後天的に現れたりもするみたいですし、ね。
……異能はやっぱり、わかんないものですねえ。
わたしはそういう悩みがなくってよかったな、なんて思ってしまいます」
どうにか良いようにその異能に対して言おうかと思ったが、言葉は見当たらなかった。
誰にでも害しか与えないその異能の持ち主に対して、慰めなんて出来るはずもなく。
ただただ、思ったことを率直に言うくらいしか出来やしなかった。
「なんていうか、異能持ちは魔術に適正がない、みたいなケースも多いって聞きましたよ。
それで、異能学を取ってるひとは魔術学を取ってるひとが少ない、みたいな。
また逆に、魔術学がすごいわたしの友達とか、異能学は取ってないですし。
……補修ギリギリな成績も、どうにかしたいんですけれど。」
肩を竦める少年に、困ったような笑顔を向ける。
優れた人が身の回りに多かったせいか、妙な親近感を感じる。
そうして、口を開こうとしたところで無味な携帯の着メロが鳴る。
「すみません」、と断ってから着信を取った。
「ああ、ごめんなさい。買い物、ちょっと寄り道してしまって。
それじゃあ、早めに帰りますね。炒飯、久々に食べたかったんですよう。」
通話を切る。頭を小さく下げて、少年に緩く笑い掛ける。
「すみません、あに――兄に早く帰ってこいって言われちゃって。
買い物の途中だったの、忘れてました。
もしよかったら、携帯、教えてもらえませんか。お昼でも一緒に、いかがでしょうか」
■飛鷹与一 > 「俺のは多分先天性、なのかな…物心付いた時は無かった気もするから、一定年齢で目覚めたような感じかもしれないけど。
…うん、異能は持ってない方が俺はいいと思う」
便利な異能や人の助けになる異能も数多いだろうが、自分のようにタチの悪い異能だって多いだろう。
だったら最初から持たなければいい。…とはいえ、自然に目覚めたりするから異能はわからない。
「あー…じゃあ、俺は魔術の適性やっぱり低いのかもしれないなぁ。
俺は異能が言ったとおりアレだから、魔術の方を多少学んでおくつもりだったんだけど…。
まぁ、うん。実践がからっきしな時点で適性が無いのかもしれないっすね」
死んだ瞳がちょっと沈んだ。とはいえ、積極的に魔術を覚えたいか?と言われたらそれも少し違うのだが。
「…補習にならない程度の成績はキープしないとね。今度勉強教えようか?」
と、申し出てみるがあまり人と過度に関わらないようにするべきなのだ。異能のタチの悪さからして。
が、彼女の将来を考えると少し教えておいてもいい気はする。
とはいえ、補習しない程度の平均学力だ。決して頭が良いとかそういう訳ではない。
と、そこで着信が鳴った。「どうぞ」と、こちらも頷いてから視線を彼女から一度外して。
どうやら家族からの電話らしい。家族…壊れてしまった自分の家族はもう戻らない。
少しだけ羨ましいと思った。が、それだけだ。あまり感情を乱すと異能の作用が強まる。だから抑える。
「…ああ、お兄さんからすか。じゃあ早く帰らないとですね…え?ああ、俺のでよければ構わないっすけど。」
と、言いつつスマホを取り出してアドレスを教えておこう。
さて、彼女も引き揚げるようだし己も帰るとしようか。
ゆっくりと砂を払いながらその場から立ち上がりつつ化野さんを見て。
「じゃあ、俺も帰るとします。途中まで送るっすよ。一応夜道で危険だとは思うんで」
と、そんな申し出をしつつ。彼女が断らないならそのまま二人して歩き出そう。
お昼ごはんをご一緒するのは特に問題ないので、普通にオッケーしていたとか何とか。
ご案内:「浜辺」から化野千尋さんが去りました。
ご案内:「浜辺」から飛鷹与一さんが去りました。