2015/08/18 のログ
遠峯 生有子 >  夏になったというのに、何かが足りないと思っていた。
 さすがに学園だけの島には花火大会のようなものはないのだと。

 掲示物にはこのように記されている。

『ちびっこ花火大会開催のお知らせ』

「なんだぁ、ちびっこ大会なんだ。」
 すこしがっかりしつつも、かわいいなあ、と思いながら、
 とりあえずそれを最後まで読み進める。
 そしてふとあることに気がついた。

「あれ、私、ちびっこ?」

遠峯 生有子 >  口元で両手を合わせ、
 少しゆっくり考えながら、もう一度読んでみる。

 明確にそうとは書かれていないが、
 どうみても、大人の範囲に入るためには半年ほど足りない。
 遠峯生有子15歳の夏である。

「ん、んー。ちびっこっていうほどじゃないと思うんだけどなー。」
 無料で遊べてラッキーと思うには少し複雑なお年頃だった。

 この学園に来て以来、
 大変歳若い同級生もいるにはいるが、
 いくらか年上の同級生もいて、
 学年にこだわらなければかなり大人に見える学生もいるために、
 自分もがんばらなければと、思うこともある一学期だったのだ。

遠峯 生有子 >  しばらくそうしてうーうーと唸っていたが、
「まあ、しょうがないかー。」
 眉をきゅっと寄せながらも、そう呟いて、受け入れた。

 この主催者には主催者なりの理由もあるのだろう。
 15歳も含めてしまうと誕生日の早い中学生相当の者も含まれてしまうし、
 そもそも自分をまだまだ子供だといわれても
 反論できないことも多い。
 つい先日まで実家に帰って思うさま親に甘えてきたところでもある。

 手を下ろしてふーっと息を吐くと肩の力も抜けた。

 その時、肩にかけていた編み籠の鞄のなかから、
 ちろりん、と電子音が鳴る。

遠峯 生有子 >  携帯端末を取り出して、双方向メッセージアプリを立ち上げる。
「えっ休講?明日の?帰りに見たときにはそんな掲示なかったけどなー。」
 友人からのもののようである。

 マイクをオンにして、
「今日、帰りに学内掲示板見たけどなかったよ。」
 送信。

 すぐにまた、ちろりん、と音が鳴る。
「噂?ええ、なにそれ。んんー。」
 しばし考えて、

「私は初耳。明日一限あるから、何か貼ってあったら見といてあげるよ。」
 画面をタップして台詞にあったアイコンを添え、また送信する。

遠峯 生有子 >  次の電子音が鳴るまでの間、
 掲示板の根元、わずかな段差に腰を下ろしてちょいちょいと端末の操作をしていたが、

「そういう情報何処から拾ってくるのかなー、みんな。」
 諦めた。

 こういった操作はあまり得意ではないだろうと、
 推測できる台詞である。
 実際、目新しい情報は軒並み友人頼みである。

遠峯 生有子 >  ちろりん、と端末が告げる。
 気温が下がってきたと見えて、電子音に似た虫の鳴く音が鎮守の森から聞こえる。
「今は神社。でもお参り終わったし、もう帰るよ。」
 送信。

 ちろりん
 しばし間を置いて、
「ありがとう。気をつけるよー。」
 送信。

「生有子は危ないんだから、ってどういう意味かな、よっちゃん。」
 二択で悩んで、却下したほうの返事を、思わず零して天を仰いだ。
 心配してくれるのは嬉しいけれど、
 自分はそんなに頼りないのだろうか。

遠峯 生有子 >  いくらか腑に落ちないものを感じながらも、
 端末を鞄に仕舞い、
 立ち上がってスカートの埃を払う。

 寮へ帰ってご飯を食べて、
 カリキュラムの確認をして、
 明日、休み後初めて顔を合わせる友人へのお土産を準備して、
 お風呂へ入って読みかけの本を読んで、
 寝ておきたら明日でそこまででもけっこうすることがある。

 そんな毎日を一つずつ過ごして
 長い長い半年を終えたら
 振り返ればあっという間だったと思うのだろうか。
 今、4月を振り返って思うように。

 そして長い一年を越えて、二年を越えて、
 いつか大人の自分に辿り着けるのだろうか。
 辿り着けばあっという間だったと思うのだろうか。

遠峯 生有子 > 「帰ろっと」
 あまり先のことを考えても仕方ない。
 考えてしまいはするけれど、
 ひとまず、帰ろうと、ひとりごちて、
 その場をあとにした。

ご案内:「常世神社」から遠峯 生有子さんが去りました。