2016/08/07 のログ
ご案内:「常世神社」に糸車 歩さんが現れました。
糸車 歩 > 「心地よい森の氣……やはり避暑はこういうところでするべきですね」

目を細め、腕を広げて。
空気を一杯に吸い込むと、ふう……とゆっくり吐き出した。
ここは糸をかけやすい樹も多い、偶にはハンモックなど作ってみてもいいだろう。

「ええ、勿論荒らしたりはしませんわ。陰の私でも受け入れてくださるのなら、こちらも波風を立てたくはないですし」

顔を上げると、誰にともなく独り言のようにつぶやけば、視線をそっと横へ向ける。

「……どうやら、先客がいるようですね。ええ、それではまた後ほど」

ベンチに寄り掛かるようにして、アイスを咥えている男を見つけたようだ。
身を翻して音もなく歩き、その姿をまじまじと見つめると、首を傾けて声をかける。

「どうも。……お隣、いいでしょうか?」

ヨキ > 若い女の声を聞いたように思って、不意に振り返る。
ベンチに座り直したところで、やってきた歩と目が合った。

「やあ、こんにちは。今日はまた一段と暑くなったな。
 ……隣? ああ、もちろん良いとも」

横へずれ、歩が座れるだけのスペースを開けてみせる。

「君のその綺麗な肌は、その長い袖で保たれているのかな。
 日焼けすることを知らなさそうだ」

この季節、袖の長い上着で日を避ける女性は珍しくない。
何気ない調子で微笑んで、最後に残ったアイスの一口をぺろりと完食した。
棒に「あたり」の文字はない。

糸車 歩 > 「それでは、失礼しますね。
ふふふ、そういう配色の浴衣ならば熱を吸い取ってなお熱いでしょう」

ふわりと一言断りを入れると、ゆっくりとベンチに腰掛けた。
わずかに白檀の香りが漂い、それは直ぐ隣に居る男の鼻をくすぐるやもしれず。
肌について褒められると、口元をゆるくほころばせる。

「あら、それはお世辞ですか?
素行がずいぶん派手だと、評判には聞いていましたが、やはりおだてるのがお上手ですわね」

そういいつつも、敵意も嫌厭するそぶりも見せていない。冗談のつもりのようだ。
くすくすと笑い、何も書かれていない棒を、少し残念そうに眺める。

「『アタリが出たらもう一本』ですか。まだその手のアイスはあるのですね。
あ、いえ。普段あまり外で何かを食べるという事をしないものですから」

ヨキ > 「色は焦げ付きそうだが、生地が涼やかなのが救いさ。
 着心地が良くて、いちばんの気に入りだ」

嗅覚に聡いヨキの鼻が、歩の纏った上品な香りを察して、小さく微笑む。

「おや、ヨキのことをご存じでいてくれたかね。
 ふふ……世辞などとは心外だな。
 君の聞いた評判の中に、『ヨキという教師は嘘を吐かない』とは含まれていなかったか」

言外に、単なる事実を口にしたに過ぎない、と。
しゃあしゃあと言ってのけ、歯に咥えたアイスの棒を上下に揺らす。

「それほど多く見かけるものではないがね……小さな運試しだが、楽しくて。
 言われてみれば、君はあまり買い食いに慣れていそうなタイプではないな?
 学内でも、友人と食べに行ったりはせんのかね」

糸車 歩 > 「ええ、確かに……
改めてみると、布地自体は薄く風通しの良い、それでいて丈夫な素材でできていますね。
帽子が、アクセントとなっていると同時に、日差しも軽減しているので、考えてみるとそれほど焼けるようなものではありませんでした」

身をわずかに乗り出して、よく見ようとする。
身体同士の距離など、まるで気にしたふうでもないといった感じで。
もしくは、一つの事が気になりだすと周囲を忘れてしまう性質なのか。

「それはもう、風の噂にいろいろと。
幸いにしてといいますか、未だ色恋沙汰からの血みどろ修羅場は聞きませんけれど。
でも、こうして目にしてみると、なんとなくですが感じますわ。貴方が欲望に対しては正直な方だろうと」

そういって、意味ありげに右目をつぶった。

「おみくじ、みたいなものですね。確かにその気持ちは分かります。
ええ、買い食いよりもどちらかというと映画を見たり、本を読んだりする方が好きです。
美術書などは異文化の色彩感覚が垣間見えて、漁るのも楽しみですね」

そういえば、と思い出したように。

「美術館で個展を催されているのでしたね。今度行ってみますわ。
彫刻・細工物はそこまでではないのですけれど、異能を用いた工芸というものは、決して模倣のできない、完全な独自感性だと考えておりますので」

ヨキ > 身を乗り出されたとて、たじろぐ様子はない。
異性に距離を詰められることに、とうに慣れた男の調子だ。

「君、服飾に興味でも?
 美術をやっている人間が何となく判るのと同じで、『服が好きな人』の見方をしているように見えてな」

“風の噂”については、素知らぬ風に笑って肩を竦める。

「血みどろなんて、とんでもない。
 ヨキはこの常世島の正義を司る番人さ。親しい女性に血を見せるだなんて、薄情者のすることだ」

首を振って、片目を瞑る相手の顔をまっすぐに見る。
話の合間に自分の個展について触れられると、軽薄に笑っていた顔がいくらか照れ臭げに和らぐ。

「有難う、個展のことも知っていてくれたのか。
 ああ。異能もほんの少し使いはするが、ヨキは作品をほとんど手で作るのが好きでな。
 金属を操る異能を持っているくせに、どうして、ともよく尋ねられるがね。

 手でも、異能でも、『模倣してもし切れないもの』がそこに含まれているはずだ、とヨキは考えているよ。
 ヨキの感性が、君に何かしら響いてくれるといい。
 もし君の反感を買ったとしたって、それこそ君を知りたくなるからね。

 作品を見てくれて、それについて話す、というのは、ある意味で腹を割って話すようなものだ」

指先に、まるで煙草のようにアイスの棒を挟み、鷹揚に立ち上がる。

「ヨキのことを知っていてくれて有難う。しとやかな人、君の名前は?」

立ち上がった長身が、木漏れ日を遮る。
名前が知れようと、知れずとも。小首を傾げてみせ、最後に歩へ顔を寄せて笑い掛ける。

「ではね」。それは歩が聞き知ったとおりの、女に慣れた軽やかさだ。

ご案内:「常世神社」からヨキさんが去りました。
糸車 歩 > 「ええ、お察しの通り、
趣味程度ですが、衣服を縫ったりしております。
好きなことには、どうも没頭したくなる性質でして」

身に着けるもの以外でも、気分次第ではつくったりしているので、厳密には服飾で片づけられないが。
眼を瞬き、ちょっと驚いた顔をする。

「あら、正義の番人とは大きく出ましたね。
でも、個人的な評価は個展へ行ってからにしますわ。
作品を見ることは、それを通して透けて見える作者の事を知る手掛かりになりうる。
それは時として、本人の言葉よりも雄弁である。
私も、そう考えていますから、うふふ、楽しみにしてます」

男が立ち上がったことで、木漏れ日の中に、長い影が差す。
少女はそれに向かい、答えた。

「3年の、糸車 歩です。
“あゆむ”ではなく“あるく”ですわ。お間違えになさらないよう。
ええ、ではまた、時が許せば」

そういって立ち上がると、軽く会釈をし、見送る。

ご案内:「常世神社」から糸車 歩さんが去りました。