2016/08/19 のログ
ご案内:「常世神社」にカラスさんが現れました。
カラス > バサバサバサ―――。

鳥居の上に羽音と共に1羽の鴉が止まる。
辺りを小さな赤い瞳で見回した。

参拝客はちょうど途切れたところだろうか。
遠目に見えるヒトもあるが、鳥居の下には今、誰も居なかった。

それは小さな足で少しばかり鳥居の上を歩いたが、
そのうち下へと降りてきた。

カラス > 降りてきたところで、羽音はその身体相応の音から急に大きくバサリと音を立てた。
近くに居たならばその差は思わず目を向けるほどであろう、
十分に辺りを見回してから降り立った…はずである。

鴉が降り立ったはずの場所には、背に黒い翼を持った青年が立っていた。

「……ふぅ。」

耳の部分から生えた羽を揺らしながら、鳥居を見上げている。

カラス > 青年は制服を着ていた。常世学園で一部使用されている服だ。

羽や首輪、鱗に包まれた足等の異質な部分が目立つが、
彼もれっきとした学園の生徒なのである。

ご案内:「常世神社」に白泉椿丸さんが現れました。
白泉椿丸 > 神社の階段を上がり、鳥居の前で一礼。
オカマは作法に乗っ取って手水舎に行くと、両手と口を清めた。
そしてふと、大きな黒い翼を持つ少年を見る。

なんだか別の意味で大きいのがいるわネ…。あれにボール投げたら捕まえられるかしら…。

社の鈴がガラガラと鳴る。

「二重にご縁がありますようにって、最初に誰が考えたのかしらねェ~」

そう言いながらオカマが賽銭箱へ入れたのは、ぽち袋であった。
中身は2千5百円。元日のお参り以外は、来るたびに同じ金額を入れているようだ。
ぽち袋をよーく見ると、達筆で【神恩感謝】と書かれている。

しっかりと挨拶を済ませると、オカマは一歩下がって背伸びをした。
太い枝を折った様な、ボキッという音が響く。

カラス > 響いた音に黒翼の青年がびくぅっと背のそれを揺らした。
誰も見ていないと思っていただけに驚いたようで、
ぐるぐると見回した挙句に近くに居た1人の人間に目線がいった。

なんかすごい大きい…自分の背とかなりの差があった。

「………ぇ、…え…?」

しかしだ、背丈以前に格好に思わず声が出てしまった。
背がすごく高くてガタイも良いのにその人間はスカートであった。

…お父さん、男のヒトってスカート履かないんじゃなかったっけ…。

白泉椿丸 > 「夏の神社は緑が綺麗に見えて良いわねェ。
 今日はちょっと陽ざしがキツいのが難点だケド…」

見知っている神職の者がいればにこやかに笑い、そちらへ小さく手を振る。
巫女たちの中にも知り合いがいるのだろう、仕事の邪魔はしないものの、キャピキャピとしたやりとりだ。
二言三言喋った後、液晶型の携帯を取り出して素早く指を動かし、何かを確認。
あらやだホントだわァ!と声をあげ、巫女たちへヤッダーアリガトーとお礼を言っていた。

そしてようやく、翼の生えた少年の視線に答える。

ウィンク、バチコーン。である。

カラス > なんというか、至って普通にしているオカマさんであった。
巫女さんとも馴染んでいる様子を見る限りに、
びっくりしているのは自分だけなんだろうか、という状態になってしまう。

と、目線が合った。

ウィンクがバチーンと飛んで来ると、一瞬フリーズした。




……しばらくの後、はっとしたように軽く頭を下げた。

「こ、こんにちは…。」

白泉椿丸 > こちらを見ている子にウィンクをしたら、固まっちゃったわン。
もしかしてこういう挨拶に慣れてない子かしら……。
ヤダ、見た目とは裏腹に純白なハートの持ち主?純真なのネ…。

携帯機具を片手に、ゆっくりとした動きで少年に近づく。
近づけば分かるであろう、オカマの大きさ。そして、逞しさ。
少年は背中に黒い翼を持っているが、このオカマは白い翼を模した肩掛けをかけている。
腰に下げたベルト部分にある小瓶たちが、小さく鳴った。

「こんにちは。アナタも参拝かしらン?」

鼻につくオカマボイスではなく、通りの良い低音である。

カラス > オカマさんが近づいてくると、無意識にか肩を竦めていた。
誰にでもこんな調子ではあるのだが、
相手の逞しさと身長差にことさらに威圧されているようにも見える。

耳から生えている羽が、ぴこぴこと忙しなく動いている。

黒い翼は少年を覆えるほど大きいが、それよりも更に彼(?)は大きく見えた。

「あ、は、…はい。遠くから、見えたから…。えっと、その」

普通の声で話しかけられれば、少年も答えた。
いささか相手よりは高い声。
異質な部分を抜きにした、少年の見た目どおりの声をしていた。

何を話せば良いのかとぐるぐるしているようだ。

「お、お兄さんは、ここ、よく来るんですか…?」

白泉椿丸 > お兄さんと言われると、まさに鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべた。
プッと吹き出し、手の甲で口元を隠しながらあははと声をあげる。

「ウフフ、そんな風に呼ばれたのはいつぶりかしら!
 残念だけど…アタシはお兄さんじゃなくてェ、お・ネ・エ・さ・ん」

少年のおどおどした態度を理解した上で、いつも通りに振る舞う。
眉をひそめることは一切なく、笑いがそこそこ落ちつけば、
イエロールージュが美しく輝く唇で、ニコニコしたまま言葉を続けた。

「そうねェ…足繁く通うってワケじゃないわネ。
 月に1度くらいかしら?気持ちの切り替えついでに、ごあいさつさせて頂くのよン」

カラス > 急に笑い出してしまった相手にまた耳羽を動かす羽目になるのだが、
続けられた言葉に耳羽を疑った。

そんなに意外なことを言っただろうか、見た限り男のヒトに見えるのだけど
……スカートやお化粧以外は。

「お姉さん…???」

正しくはおネエさんなので若干違うのであるが、
聞こえた中での少年の知識に合わせるとお姉さんになったのであった。

声が男のヒトで、身体も顔も男のヒトっぽいのに…お姉さん…??

混乱してはいるが、敵意を持っていない笑顔なので逃げることはない。

「そう、なんだ。
 ここのヒト達と仲が良さそうだったから…ごあいさつ?
 あ、えっと、俺、カラスっていいます。」

ご挨拶ってなんだろう、と聞きかけたところで
そういえば名乗っていなかった、と思い出した様子。

白泉椿丸 > 「カラスくん、カラスくんね。
 アタシは白泉椿丸。学園の方で教師をさせてもらってるわァ」

ジュディって呼んでも良いのよ!と、顔の横でピースサイン。

「ごあいさつは~…
 そこの拝殿――祀られている御神体様にあいさつをするのよン。
 神社は初めてかしら?カラスくん」

携帯機具をしまいこみ、(無駄に)可愛く首をかしげる。

カラス > 教師、と聞いたところでカラスは目をぱちくりとさせた。
何度か教員室には足を運んでいるが、逢った記憶があっただろうか。
…いや、逢っていたらこれほど強烈な相手だ、忘れないだろう。
タイミングが悪かったのかもしれない。

「白泉…ジュディ先生?
 俺、学校ずっとお休みしてたから…先生逢ったこと無い…かも…?」

可愛い効果音がしそうな相手の首かしげに頷く。
先生と聞けば多少緊張も和らいだ様子で、竦めていた肩から力が少し抜ける。

「いつもヒトが多そうだったから、ちょっと、怖くて。」

白泉椿丸 > 「会ったこと無くても仕方ないわよォ。
 アタシも、ちょっと前まで島の外に居たのだものン。
 夏季休暇が終わったらアタシの担当科目である魔女薬科が動くから、興味がわいたらよろしくネ」

さりげなく、というものではない。しっかりと自分の教科をアピールである。
ニコニコしていたが、カラスの言葉を聞くと眼を少しばかり大きく開く。
怖いというのは、どういうことかしら…。

「ここはお祭りが無い限りは、そうそう混んだりしないわ。大丈夫よン。
 ……カラスくん、知らない人がたくさんいるのが苦手なのン?」

カラス > 「お父さんが外は危ないからってしばらくお休みしてた。
 最近は大丈夫そうだから、学校行ってもいいよって。…まじょやくか?」

とはいえすぐに夏季休暇になってしまったのだけども。
そして聞き慣れない科目だ。ジュディ先生が作った科目なのだろうか。

じーっと相手を見上げていたが、目を見開かれると、
敏感に反応して身体を竦めるように跳ねさせてしまった。

「…じゃあ、前見た時はお祭りの時だったのかな…。
 うん、苦手……羽、は、隠せないから…目立っちゃうし…。」

困ったように目線を下げて頷いた。

白泉椿丸 > 「ええ、魔女薬科。魔力を使わなくても作れる、魔女のお薬よ」

しばらく休講していただけなので、知っている生徒は知っている。
そんな程度だ。魔法や魔術を学びに来ている者ならあまりピンと来ないだろうし、
学園自体を休んでいたカラスなら、それもなおさらか。

ちょっとした表情の変化でもビクビクと反応するカラスに、流石の椿丸も内心驚いていた。
こんなに繊細な子が一人で外に出ていては、缶が落ちた音で気絶してしまうのではないかと。

「声をかけられるでも無く、ただ見られてしまうのが嫌なのかしら。
 ……ウゥン、すぐにピンと来ることじゃあ無いと思うけれどォ……、カラスくん。
 人の視線を集められるっていうのは、そう簡単にできる事じゃないわン」

その声は先程よりも低く、それでいて聞き取りやすい。
緑の瞳をカラスにまっすぐ向けて、優しげに目元を綻ばせる。

「そうネ、ちょっとずつ他人に慣れていって…本当に、ちょっとずつよン?
 知らない人に声をかけられてもビックリしない時が来たら――目立つのも、そう悪くないって思えるとおもうの。
 アタシは好きで目立っているから、カラスくんの悩みをまるっと見通しての話じゃないし、
 沢山の知らない人に馴染むのだって、すごい勇気のいることよ! …でも」

「カラスくんは、自分から挨拶してくれたじゃない?
 アタシはウィンクしただけだものォ。
 ちゃんと声をかけてくれたのだから、アナタならきっと、皆に馴染んでいけるわ」

カラス > 「魔力がいらない…?」

角があったり、羽だったり、足元を見れば、深緑の鱗の足だったり。
魔力が関係していそうな身体をしているのだが、
『魔力を使わなくても』という部分に反応を示した。

椿丸は魔力を判断することは出来るのだろうか。
出来るのならば、少年の魔力はほぼ感じ取れないと分かる。
その代わりに――首輪に魔力を感じるだろうが。


――上から降ってくるような、心地良い低音に目線を再び上げる。
どこか不安を抱えた、縋るような表情だ。

自分の身体は好きじゃない。
だって、一番目立つ黒い羽は、自分の何よりの『失敗の証』だから。

「ほんと…?」

皆に馴染める、と聞けば、耳羽が不安げに揺れる。
下向きに下がったままの耳羽は、本来ならばもっと上を向けるはずなのだ。

白泉椿丸 > カラスの姿だけが特殊では無いと、椿丸は考えている。

全国行脚をする前から、様々な姿の生徒や、迷い込む異界人を見てきた。
翼を生やしている者もいた。全身に鱗をまとうものもいた。人の形をしていない者もいた。
島全体で見れば、少年の姿は非常に人間に馴染みやすいはずなのだ。
彼の魔力の流れが首輪で滞るその姿すら、彼が企むわけでないならば、ただのファッションとも言えてしまう。
種族も人口も入り乱れるここで、個人の背景を想像すれば、とてもじゃないがきりがない。

故に、椿丸は学園で学びあるもの全てを【生徒】という形で平等に見ている。

「もちのロンよ、カラスくん」

んまっ。なんて不安そうな眼をしているのかしら、この子…。
こんな表情をしている子は、いつぶり?数年…そうネ、もうずいぶん前になるわねェ。
コンプレックスを抱えているのか、家庭背景かはまだ分からないケド…。
良いのよ、カラスくん!人と接するのがどんなに怖くても、アタシが全部受け止めてアゲるから…。

「誰彼かまわず挨拶を投げていたら、ちょっとヤンチャな人と当たってしまうかもしれないけれどねン。
 アナタが焦らず、出来る限りで丁寧に返事が出来ればなんてことはないわ。
 
この学園はカラスくんが思っているよりずっと、親切なお節介焼きが山ほどいるんだからン!」

不安を吹っ飛ばさんと、椿丸はとびきりの笑顔を見せた。

カラス > きっと、本人が考えているよりも、少年の姿は異質ではないのは確かだ。
意思疎通が可能で、少なからず人間に似た形を作ることが出来る。

それでも、少年は己の姿に劣等感という固執をしている。

足と角だけが、少年が本来成るはずの姿の欠片なのだから。

「…――…、あり、がとう、ございます…。」

…お父さんが、『挨拶』と、『ありがとう』と、『ごめんなさい』は
大事なことだ。って、言ってた。

うまく言えない…。きっと、今、俺の顔…真っ赤な気がする…。

「お父さんに、外で、色んなヒトと接しなさい、って、言われたけど…。
 結局、ずっと……どうしたらいいかわからなかったから…。」

少しだけ少年は嬉しそうな表情をしたように見えた。
椿丸の笑顔に釣られたのか、口角が上がったような、
でも、それ以上は無意識に表情を抑えるようにしているようにも見えた。

白泉椿丸 > ありがとうという言葉を聞けば、椿丸の笑みはますます絶えない。
空で輝く太陽のような印象と、満月を思わせる柔らかな雰囲気。
ぎこちない微笑みを指摘するようなことはせず、にっこりしたまま

「きっかけは様々よ。難しいけど、とてもシンプルねン。
 挨拶から始まったり、落し物からだったり、天気だったり…」

指折りしながらきっかけの一部を語り、

「視線があって、睨まれるわけじゃないなら…きっと誰とでもお喋りできるわよ。
 授業に出るのなら、隣になった子に声をかけてみても良いしネ。
 それこそお昼ごはんを一緒に食べよう、でもいいのよ!

 ……まあ、一番簡単なのは……。
 誰かに挨拶をされた分、カラスくんも誰かに挨拶をする事かしらン」

挨拶を返されれば、それは小さな自信になるだろうし…。
うまくいけば、楽しいお喋りに発展できるかもしれないしネ。

カラス > 時折目線を外すことはあるが、少年はがんばって彼を見ようとしていた。
血色の虹彩、縦に細い瞳孔。丸くて大きな眼だ。

「きっかけ……。」

椿丸の言葉を短く復唱した。
今までは遠くから眺めたり、ヒトではない姿で居たりする方が多く、
きっかけを自分から作るのを怖がっていた節があったのを、多少なりとも自覚する。

何度か呟くように復唱し、頷く。

しかして話しているうちに、日が傾いて来た。
空は茜色と青色のコントラストを描き始め、太陽は彼らを照らし、長い影を作った。

白泉椿丸 > カラスが何かしらを得た声色で頷くのを、微笑ましく見守る。
あとは本人が踏み出して、実感を得ていくしかない。

椿丸は、そっと空を見上げた。

「アラッ、陽が傾いて来たわねン。今日の夜は涼しいと良いのだけど」

傍に寄ってきた蚊を叩く――わけでなく、
オカマはデコピンの風圧で数十メートル分彼方へ蚊を飛ばす。

「…それじゃあ、カラスくん。またどこかで会うか、学園でネ。
 何か困った事があれば、頼ってくれて構わないわよン」

先程と変わらないウィンクをバチンと飛ばし、その場を後にする。

ご案内:「常世神社」から白泉椿丸さんが去りました。
カラス > なんか今さらっと蚊に対してすごいことが行われたような気がした。
とはいえ、魔法の要領なのかな…と、考えつつ、椿丸が去っていくのを見送る。
もう一度ありがとうございます、とたどたどしく礼を言い、頭を下げた。

不思議な先生であった。
見た目の印象はあてにならない、と思い知った日でもあった。

それは自分にも言えることなのだろうが、
自覚するのは少年にとってはもっと先のことだろう。



椿丸が見えなくなるまで見送った後、空を見上げた。

カラス > いつの間にか少年の姿はなく、1羽の鴉が夕暮れを飛んで行く。
ご案内:「常世神社」からカラスさんが去りました。