2016/10/19 のログ
ご案内:「常世神社」に加賀智 成臣さんが現れました。
■加賀智 成臣 > 「………はぁ…。」
昼過ぎの常世神社。この時期は日が傾き始める時期だ。
オレンジ色の太陽が、木々の葉の隙間をすり抜けて目に染みる。
今日は授業が昼上がりであったのは良いのだが、だからといって何をするというわけでもない。
何をしたいというわけでもない。…要は、この場所に来たのは『なんとなく』である。
そんな『なんとなく』が集積した結果、加賀智成臣はベンチに座り、頭を抱えるようにして縮こまっているのである。
ご案内:「常世神社」に比良坂 冥さんが現れました。
■比良坂 冥 >
青少年がベンチで黄昏れている後方、神社の奥まった木陰から
「───……」
じっ…とその背中へ視線を注ぐ処女の姿があった
真っ直ぐ見ているかどうかもわからないほど光を介さない
暗いくらい視線を
■加賀智 成臣 > 「…………。」
鞄を漁り、中からカッターナイフを取り出す。
それを手首に当て……引こうとして、辞めた。
「(……一体いつになったら僕は死ねるんだろう…?
僕の不死のルーツって、なんなんだろう……?)」
そんなことをぼんやり考える。
冥の姿に気付いている様子は一切ない。
■比良坂 冥 > カッターナイフを持ち出してそれを手首に当てる、そんな様子を見て僅かに目を細める
がさがさと僅かに散り始めた草葉を踏み分ける音を隠しもせず、ベンチへと歩み寄って──
「……引かないの?」
小さく後ろから声をかけると共に、その首を傾げた
■加賀智 成臣 > 「……うわっ。」
唐突に後ろから声が飛んだことに驚いたのか…
…それとも会いたくない人物に会ってしまったからなのか、驚いたような声を上げる。
「……引いたって無駄ですよ。何回繰り返したかなんて数えてませんし。」
そう言って、カッターの刃をしまい、鞄に戻した。
ちらっと見えた鞄の中身には、学生らしい教科書類ばかりが入っている。
「……それで、何でこんなところにいるんですか。」
■比良坂 冥 > 「………無駄って?」
首を傾げるままにそう問いかける
質問に答えるつもりはまるでないように、じぃっとその顔を見つめている
なぜココにいるかの答えはないものの、
よく見ればその手には湿った土のついた小さなスコップが握られている
■加賀智 成臣 > 「……死ねないんですよ。僕は、何をやっても死ねないんです。
頭を吹き飛ばしても、臓物を抉り出しても、太陽に突っ込んでも死ねなかった。
カッターで手首を切るなんて、真っ先に試しましたよ。」
相手が質問に答えないことに特に言及する様子も見せず、ため息を吐いた。
「……土遊び、っていう雰囲気でもないですね。
大体理由は分かりますけど……」
くるりと振り向く。
相変わらず、眼鏡の向こうの瞳は黒く濁っている。
■比良坂 冥 > 「………そう」
彼のもつ異能のことは知っている
無駄、という言葉が気になったけれど、本当に問いたかったのはそこよりも…
「……無駄だってわかってるのに、まだ試そうと思ってる?
でなきゃ、こんなところでカッターナイフ持ち出してみせないよね。
……………ああ、もしかして」
傾げていた首を戻して
「成臣クンは、死にたいんだ」
そっか、と納得したように小さく首をこくんと頷かせる
土遊び、と向けられた言葉には、ちらりと自分の持つスコップに視線をやって、それを後ろ手に隠した
■加賀智 成臣 > 「………。そうですね。さっさと死にたいです。
無駄でも、もしかしたら変わってるかもしれませんから…昨日まで死ねなくても、今日死ねるかもしれませんし。
どうせ生きてたって誰かに迷惑をかけるだけですしね……貴女みたいに。」
顔を正面に戻す。
嫌味なほど眩しい夕日が、目にやたらとしみる。
「…………。死にたい、ですね。」
再びその言葉を反芻して、頭を抱える。
■比良坂 冥 > 「………」
死にたい
そう呟く青年に顔に夕日の影が落ちる
死にたい、なんて嘯く人間は少なくない
でもそれは大体が一時の気の迷いや、周りへの助けを求めるためのもの
でも目の前のこの人は、きっと違うのだろう
「……成臣クンは随分と欲張りなんだね」
そう小さく呟きながら、特に何か遠慮する様子もなくベンチの隣にちょこんと腰かける
「人に迷惑をかけるから、死にたい……それだけ…?」
少しその顔を下から覗き込むように目線を下げて、問いかける
■加賀智 成臣 > 「………。」
横に座り込んだ女性に、ちらりと視線を向ける。
だが、だから何だというわけでもなく、夕日に染められて赤くなる街へ視線を戻した。
「……欲張り、ですか?」
欲張りとはどういう意味だろう。
自分は死にたいだけだと言うのに。……死にたいから、死のうとしているのに……?
「…………。何が、言いたいんですか。」
じろりと覗き込むその目を見つめ返す。
■比良坂 冥 > 「……キミが生きていると人に迷惑にしかならない、だから死にたい…って」
一旦言葉を切って、以前の印象とはまるで違う微笑みをその口元に称える
「裏を返したら迷惑をかけたくない人がいるってことだよ…?
そんな幸せものが死にたい死にたいって……我儘にしか聞こえないなぁ…」
くすくすと小さな笑みをこぼして、その視線を外す
「他人に迷惑がかかったってどうでもいい…。
迷惑をかけたくないと思う人間がどこにもいない…。
……そういう正しく孤独な人こそ、死ぬべくして、死ぬべきだと思わない…?」
■加賀智 成臣 > 「………。そりゃあ、居ますよ。
この世の全ての人間にとって、僕は迷惑なんですから。」
そう言って、視線を軽く落とす。
「僕は、生きてる理由もなく生きてるんですから。
死にたくないのに死んでいった人はたくさん居るのに、僕だけは何があってものうのうと生きてる。
それは、『僕が死ねないから』です。…最低じゃないですか。」
死にたくないと思った人が死に、そうでない人間が生き続ける。
まるで、命を食って生きているようだ。そうとすら思えた。
「……そういう人は、死ぬべきだとは思います。
けど、その命を奪うのは僕じゃないし、誰でもない。……死ぬべき人は、死ぬべき事で死ぬんです。
死ぬべきことが、事故か、極刑か、誰かに殺されるか…それは、分からないけれど。」
■比良坂 冥 > 「……私は別に迷惑に思ってないけど」
かくん、と首を傾げる
この世の全ての人間の中に自分はカウントされていないのかもしれないけど
「……わぁ、すごい妄想…私よりも凄いんじゃないかな、キミ…。
病院の死亡報告書には全部『死因:加賀智成臣生存の代償』なんて書かれてると思ってそう…」
そういうところも欲張りさんだよね、と
少女にしては珍しく僅かに呆れたような表情を見せた
「そう、そうだよ。
……キミは、自分意外の誰かに死ぬべきだって言われたことは何度くらいあるの…?」
■加賀智 成臣 > 「………。どうせそのうち迷惑に感じるようになりますよ。」
つっけんどんな言葉が出てくる。
何故だろうか、この言葉がなんだか嫌な感じに聞こえるのは。
「……似たようなものでしょう…
生きてても益にならない人間が生きてるなんて、誰かを殺してるのと同じようなもんですよ…」
がしがしと頭を掻く。
少し苛ついているようにも見えた。
「…………………………。」
無い。
そんなことを言われたことなど無い。
だが、これまでに自分が受けてきた仕打ちを考えれば……そう思わざるをえない。
今まで……
「………。」
■比良坂 冥 >
「……人が将来的に考えることまで勝手に決めつけてるの?本当に欲張りだよね」
細まった瞳の闇が深くなってゆく
「ほんとうにそうならキミを断罪しようとする人で此処も溢れかえるよね…。
……ほら、答えに詰まった……キミは今まで誰にも『死ぬべき人間』なんて言われたことがないんだよね…?」
少女の口元に、嘲笑が浮かぶ
「ただただ、自分でそう思い込んで思い込んで……
死ねない自分に対して、死ぬことを正当化する理由を『迷惑になるから』と周りに押し付けて…?
そっちのほうが、遥かに迷惑なことでしょ…あはは」
■加賀智 成臣 > 「…………。」
そんなことはない ないはずだ。
自分は死ぬべき人間で 自分は死にたい人間で……
「…ぼ、僕は……」
言葉が出てこない。代わりに、頭が割れそうなほど痛い。
「僕は、死にたいのに……」
ちかちかと目の前が白く点滅する。
■比良坂 冥 > 「うん、うん……。そうだよね…死にたいよね……。
じゃあ、まずキミ自身の存在を殺さなきゃダメだよ、成臣クン……」
まるで年下とあやすような、優しい声色へと変わって……
「キミが死ねたって、キミと言葉をかわした人達はキミのことを忘れられない…。
キミが死ねたって、もしかしたらキミに見えなかっただけで、キミに好意をもっていた人がいたら…キミの死を呪う。
キミが死ねたって、色んな人にたくさんの迷惑がかかる……。
迷惑かけたくないんだよねえ…?だからキミは、死ねないのかもね…?」
緩い、緩慢な口調で言葉を紡いでゆく
「キミはね…死ねる方法を見つける前に、自分を周りの人間から消去する手段を見つけなきゃいけないの。
そう…キミがキミの望む死を遂げるためには、それが第一条件だよね…ふふ、あはははは…頑張ってね…?」
■加賀智 成臣 > 「 」
自分の口から出た言葉は、自分でも聞き取れなかった。
冥にも聞き取れなかっただろう。
その音は、ガコン、というけたたましい音で遮られたのだから。
その音の発生源は、頭上。
工事現場で足場の組み立てに使われる鉄パイプが、冥の頭上へ向けて落ちてきていた。
常世神社は補修工事をしており、その足場のパイプが降ってきたようだ。
しかし、その現象は元来ありえないものだ。
冥や加賀智がこの場に来たとき、『そんな物は存在しなかった』のだから。
改修工事どころか足場すらなかったはずのものが、その場に唐突に現れたのだから。
兎にも角にも、このままでは直撃してしまうだろう。死にこそしないが、怪我は大きいかもしれない。
■比良坂 冥 > 「?」
突然の大きな音に、少女は視線を上に向ける
斜めから差し込む夕日に細長いシルエットとして眼に移るそれは
「……え」
何が起こったのかを少女に悟らせるよりも早く、その頭上へと落下する
フィクションに聞こえるような派手な衝突音とは違う、生々しくも鈍い音を頭部から発して少女はごろりとベンチの下へ転がる
白い髪を染め上げるように紅い赤い血が、地面を黒く塗りつぶしてゆく
少女は、動かない
■加賀智 成臣 > 「…………あ?」
目の前でなにかが起こった。
初めは、それ以外理解できなかった。
しかし、数瞬後に目の前で起こったことを理解して。
そして、辺りに響くゴトンという重い音が、どちらから鳴ったものなのかすら理解する間もなく。
「…………!!」
駆け寄って、その体を抱え上げる。
何故こんなことが?工事?パイプが落下?
いつの間に?いつから?なんで?どこから?
そんな疑問が渦巻く頭を置いて、体だけが目の前の女を案ずるようなポーズを取る。
■比良坂 冥 > 「───……」
抱えあげられる体に力はなく、手がだらりと下がる
が、抱えあげれば確かに感じる鼓動の振動、喘鳴音
ぼんやりと開かれた瞳、無言のままに小さく開かれた口は
生きてはいるが意識がないことを確認するに十分足りえる
■加賀智 成臣 > 「あ、え……」
体が震える。
目の前の女性を、自らが傷付けたのかもしれないという推論は、この現象に説得力を持たせるに十分なものだった。
仮に第三者がこの現象を引き起こしたのだとしても、まずは……
「…ッ!」
生きている。が、意識はない。
病院に連れて行かなくては。だが、どうやって?そんな力はない。
背負っても、ここから病院まではかなりの距離がある。もしかしたら、間に合わないかもしれない。
では、どうすればいいのか。どうすれば……どうしてこんなことに……
「……っ、そ、そうだ……!
あった、こ、これで、なんとか……!」
走ったのは、詰め所。そこには読み通り、救急箱が置いてあった。
中からガーゼと包帯を引っ張り出して、手当をする。前にされた時の見よう見まねだが、なんとかなってくれと願う。
■比良坂 冥 > 頭部からの出血は多く、ガーゼの下からどんどんと溢れるように流れ出る
傷自体は打撲裂傷、深くはなくともこのままでは出血によって───
「………あ」
唇から小さな声が漏れる
焦点をなくしていた瞳が僅かに揺らぐ
「…………なに、してるの…?」
最初に視界に入ったのは、青年の余裕のなさそうな顔だった
自分の身に起こったことをまだ思い出せていないように、そう尋ねる
■加賀智 成臣 > 「……っ!だ、大丈夫ですか!?
ああ、えっと、待ってください、動かないで…治療したら、119番を……!」
一応、包帯まではなんとか巻き終わる。
見よう見まねで不格好だが、止血程度にはなるだろう…なってほしい。
「その、いきなり鉄パイプが落ちてきて、頭に……
変ですけど、本当で……!」
慌てて鞄を漁り、携帯を取り出す。
■比良坂 冥 > 理解した
さっき何か振ってきたように見えたのは、そういうこと
でも
「………」
そうだとしても
なぜ 彼の基準でいう『死ぬべき人間』である自分を助けようとしているのか
衝撃で頭がぼうっとしていたのもあって、深く考えることはしなかったけれど
───と、119番よりも早く、救急の車両が神社の近くへと停車した
…風紀委員の腕章をした男が慌てたように保険課のスタッフへと支持を飛ばしている
比良坂冥の保護観察官だったのだろう、程なくして担架を抱えた保険課の職員が駆けつける
■加賀智 成臣 > 「あ、え……」
どやどやとやってきた数人の職員が、せわしなく指示を飛ばしている。
それを一歩引いた場所で見ているしかなかった。
何故、助けたのか。
それは自分でもよく分かっていない。しかし、助けなければいけないと感じたのは確かだった。
誰にも死んでほしくないと感じたのは、間違いなかったのだ。
「……………。」
しかし、何も出来ずにそのままその場で立ち尽くしている自分が、ひどく小さく思えた。
■比良坂 冥 > スタッフによって手際よく車両へと載せられる少女
応急手当を見た職員が成臣への謝辞を述べると同時に、
風紀の腕章をした男が一歩前へと歩み出る
保護観察官として、突然神社近くで姿を消した冥を探していたらしいということ
やがてその姿を発見した時には冥が倒れた後だったということ
そして、状況があまりにも不透明すぎるということ
それらの事情を説明した後、男は成臣も一緒に救急車に乗ってほしいと要請する
色々と話を伺う必要があるようだった
■加賀智 成臣 > 「……はい。」
断る理由もない。とは言え、自分でも何が起きたのか全く理解できていない。
ただ目の前でいきなり足場が現れたというだけだ。
それを正直に言っても信じてもらえないだろうとも思ったが、言うしかない状況である。
救急車へ乗り込み、その車の中で事情聴取を受けた。
当然ながら、有益な情報はない。事件性は少なく、事故であると考えられる。
異能を使った事件だとしても、例えば磁力などを操る能力で鉄パイプを足場から引き寄せたとしても、その痕跡は残るはずである。
しかし、その痕跡も見当たらない。
あとに残ったのは、足場と、事故の要因になった鉄パイプのみ。
足場にかけられていた幕には、工事担当の会社名が書かれていたが…そんな会社は、常世島には実在しなかった。
■比良坂 冥 > 二人と監察官を載せた車両は常世病院へと急行
監察官からの連絡を受けたであろう風紀委員が神社を一時封鎖、調査をしたものの、
以上のこと以外は何も掴めず、調査もすぐに行き詰まってしまったという
ご案内:「常世神社」から比良坂 冥さんが去りました。
■加賀智 成臣 > 「……………。」
その後、加賀智は何事もなく解放される運びとなった。
特に事件性はなく、加賀智や周囲に居た人間の異能を鑑みても、事件と関連性があるとは思えない。
そういった理由で、この事件は事故として処理される事となった。
「……。僕は……」
それで納得していた。…当の本人である、加賀智以外は。
あの時、自分は……一瞬だけだったが…
そう、ほんの一瞬だけだったが。
冥に『死ね』と思い、『消えてしまえ』と叫んだから。
生まれて初めて、心の底から悪意が湧き上がった瞬間だったから。
そして、その願いを叶えるかのごとく、『それ』が起きたから。
そんな感情と、行き場のない問題を引きずりながら、加賀智は帰路へ付いたのだった。
ご案内:「常世神社」から加賀智 成臣さんが去りました。