2018/02/01 のログ
鈴ヶ森 綾 > 「舌を噛まないように、口を閉じていなさい。」

その手が握られると、前置きなしにその身体をぐいっと抱き寄せる。
そして少女の耳元に囁いた数秒後、二人の身体は宙を舞っていた。

人一人を抱えて跳躍した女は軽々と拝殿の屋根に降り立ち、腕の中の少女を解放する。
御神体のある本殿でないとは言え、社を踏みつけにするとは神様に対してだいぶ礼儀を知らない行為と言えるが、
女はそれを気にした風もなく、瓦を踏んで屋根の上を少し進むと適当な所に腰を下ろした。

アリス >  
抱き寄せられると、良い匂いがした。
そんなことをぼんやり考えていると、自分の身体は月夜の中へ。

「……!」

言われるがままに口を閉じていると、拝殿の屋根の上だった。
…鼓動が早鐘を打っている。

「ビ、ビックリしたぁ……身体強化系の異能? それとも重力操作?」

おっかなびっくり屋根の上を歩くと、女の隣に立つ。
巨大な月は光を取り戻し始めていた。

鈴ヶ森 綾 > 「どちらも外れ。ふふ、私の事より、月の方を見たほうが良いんじゃないかしら。」

そんな話をする内にも、少しずつ月の様相は変わっていく。
この程度の高さでは観測するのにさして影響があるわけでもないが、
少なくとも余計なものが視界に入り込むことはない場所だ。

「………」

そうして屋根の上に座り込んだ女はと言えば、
今しがた自分が発した言葉とは逆に、隣に立つ少女の方に視線を向けていた。
その首から胸にかけて晒された白い肌を見つめる瞳は、先程の優しげなものとは異なり、冬の空気のような冷たさを伴っていた。

アリス >  
「あ、そうだった!」
「激写チャンスだけど、撮った場所はSNSに書き込めないわね」

存分に写真を撮っておく。
今宵の月は血のように赤く。
夢中になりながら携帯デバイスからシャッター音を響かせた。

そして、自分を見る視線に気付いて。

「ありがとう、私はアリス。アリス・アンダーソン。あなたは?」

と微笑みかける。

鈴ヶ森 綾 > 「それはそうね。神社の屋根に登って撮りました、なんて書いたら、随分派手に燃え上がりそうだわ。」

くっくっ、と愉快そうに笑い、辺りに響くシャッター音を聞きながら少女の横顔と、時折空の月を見上げた。

「…私はね、実はこの神社に祀られてる神様なの。」

名を聞かれ、しれっと不遜極まりない嘘をつく。
神を名乗って起きながら、そもそも何が祀られているのかすら知らないのだが。

「こんな時間に来客なんて珍しかったから、ちょっと出てきてみたのよ。
 でもそろそろ家に帰って寝る事にするわ。ご乗車のお客様はお早くどうぞ」

それ以上の追求を打ち切るように立ち上がると、縁に向かって屋根を下っていく。
そして少し進んだ所で振り返り、先ほどと同じように少女に向かって手を差し伸べる。

アリス >  
「フォロワーも大していないのに炎上で有名になるのは嫌ね…」

そして語られた女の素性は。
なんと、神様。

「……!? し、神秘的なヒトだと思っていたけれど…」
「まさか神様だったなんて……」

ビックリしながら、何となく信じてしまう。
でも家に帰るって言ってるし? うーん?

「あ、うん!」

携帯デバイスをしまって女性の手を握る。
また空中散歩の時間だ。
あれはあれで刺激的でいい。
…それにしても、謎の多い女性。これも魅力のうちということなのかな?

鈴ヶ森 綾 > 「そ、神様。ご利益は主に縁結び。今度来る時はお賽銭も出してくれると嬉しいわ。」

さして深い意味もなくついた嘘だが、こうしてみると案外楽しいものだ。
少女が驚いたり納得したり頭に?を浮かべたりと、ころころ表情を変える様を見て妙に満足気で。

「それでは、発車します。」

先程と同じように少女の細い体を抱き寄せ、
電車かバスの運転手を思わせる戯けた台詞を吐いて屋根の上から身を躍らせ、境内の石畳に降り立つ。
しかしその着地際、バランスを崩したように見せかけてその唇を少女の首筋に触れさせようとする。
もし触れたなら、その部位から軽く精気をいただくつもりでいて。

アリス >  
「ええ! あんまりお金持っていないわ、私」
「困ったわね……でも縁結び…友達が増えるなら……」

縁結びっていうくらいだから人と人との縁を結ぶご利益なのだろう。
そんなことを考えながら着地する際にバランスを崩して倒れそうになる。

「わわ……」

首筋に触れた柔らかい感触よりも、少し疲労した感じが印象に残った。
そのまま立ち上がって頭を軽く振って。

「ご、ごめんね。二人分だとさすがに重かったかなぁ?」
「……ちょっと、疲れたみたいだからもうパパとママの会社に行くわね」

気丈に笑って小走りに石畳を駆けて。

「またね、神様!」

そう言うと手を振って階段を駆け下りていった。

鈴ヶ森 綾 > 「ふふっ、別に金額は幾らでも構わないのよ。大事なのは神様に捧げる気持ちなの。」

とは言え、ここの神様に本当にご利益があったとしても、このままでは願いを叶えてもらえそうにはないが。

「ごめんなさいね、少しバランスを崩してしまって。怪我は…なさそうね。」

抱きとめていた彼女の身体を解放すると、怪我をした様子のない事にほっとしたように微笑む。
無論、それは作られた微笑みだったが。

「ええ、気をつけてね。」

手を振って去っていく彼女に、こちらも小さく手を振って見送った後、少しばかり後ろを振り返る。
何か本殿の方から怒気を感じるような気もするが、きっと気のせいだろう。
そして彼女に遅れること数分、自分も階段を降りて神社を後にした。

ご案内:「常世神社」からアリスさんが去りました。
ご案内:「常世神社」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。