2015/07/13 のログ
ヘルベチカ > 「緑茶に氷……なんていうかその人、夏場溶けてるんじゃないですかね……」
うえぇ、と声を漏らした。猫耳が少し寝る。
徐々に気温の上がり始める季節。
日除けの向こう側を見れば、照りつける光に焼かれた地面は、いかにも暑そう。
「引きこもって冷房してるとしたら電気代大変だわ……」
届くであろう電気料金の請求を想像したか、ぶるぶる、と首を横に振った。
「女子は隠し撮りとか好きですからね……別に悪い写りじゃなかったですよ。
 それに、もしかしたら異能で獲ったのかもしれないし、気づかないのも無理なかったのかも」
ぴっ、と右の人差し指を立てて、そんな台詞。言ってからストローを吸った。
この島であれば、そのようなこともありうる。
「いや、仕事をしばらくしたら覚えられるだけですよ。先生たちみたいに、新しいもの作ってるわけじゃないですし。
 俺なんか、手先器用なわけではないんで、先生たちが羨ましいです」

ヨキ > 「本当にな。今日などは一段と暑くなったし、どうにか冷ややかな異能の持ち主であることを願うばかりだ。
 君はといえば……その耳と来たら、猫はやはり暑さ寒さに弱いものなのだろうか?」

(ヘルベチカの頭上の耳を見遣る。
 それから人間の耳を。交互に見て、目を見る)

「どれほどの種類の異能があるやら、とても把握しきれたものではないものな。
 ヨキもこの島へ来た頃には写真というものに随分と驚かされたが、慣れれば慣れるものだ。

 それと同じで、図書館という場所についても興味が尽きなくてな。
 手ずから作る訳ではないにせよ、新しいものを柔軟に取り込んでいる。
 ふふ。君の不器用さが、一体どれほどのものやら。
 だが頭の器用さがなくては、勤まる仕事でもないと思うぞ。
 ヨキにはヨキの、君には君の器用さがあるのさ。
 ……もともと本が好きで、図書委員に志望したのかね?」

ヘルベチカ > 「いや、まぁ、人並みですよ、暑さ寒さには」
右手を上げて、自分の茶虎の猫耳、その先端を摘む。
前後にゆらゆらと手を揺らして、耳を動かしながら。
「別に猫みたいな身体能力が在るわけでも無いですし。これ以外は普通の人間です」
視線は見えぬ己の頭部を見るように、上に向けられいて。
それから、ヨキの頭を見て。
「先生こそ、夏場はどうなんですか?」
相手の尖った耳へと視線を当てたまま、ゆるりと首を傾げた。
「でも、デザインやる人は、あんまり人のを見ると影響されるから面倒くさい、とも聞きます。
 そういうところ、大変そうですよね。
 俺は単純に、えぇ、先生が仰るとおり。本が好きなんで、図書委員やってるんです。
 だから、読みたい本を読みたいように読めばいい、ってだけなので、有難いです」

ヨキ > 「ほう、文字どおりその耳以外は人間と……、そういうこともあるのだな。
 耳が四つとなれば、聞こえる音の広がりも幅がありそうなものだが。

 ヨキに毛皮のあった頃は、ひどく難儀をしたものだ。
 元の世界も、この日本に似て蒸し暑かった。
 だがこの人間の姿となってから、毛のない肌が涼やかに思えてな。
 日陰に潜むしかなかった獣の頃と比べれば、涼を取る手段も増えた。
 格好が暑苦しいとはよく言われるが、それでも気楽なものなのだ」

(両手を見遣る。
 毛のない、人間とは幾分か形の異なる手を表裏と引っ繰り返す。
 しっとりと滲む汗と飲み物の結露とに冷たく濡れて、言葉のとおり心地は悪くないらしかった)

「影響か。ヨキはむしろ、教職に就くまでものづくりに全く縁のない身であったからな。
 人間が作り出す芸術にも、言葉にも、食物にすらも、いつも新鮮な気持ちで驚かされているのだ。
 なるほど、君は本が好きで……。
 一冊の本とて計り知れない発見に満ちているというに、それが数万と収められているのだからな。
 本好きにはたまらない場所という訳だ。
 では……たとえばこの街なども、未知の書物のように楽しいものなのか」

ヘルベチカ > 「あー、耳は、ちょっとだけよく聞こえるかもしれないですね。
 なんていうか、どこから喋ってるのかわかりやすいっていうか……えっ。
 先生、元々毛皮あったんですか?」
少し驚いた表情をして、しげしげと相手のことを眺める。
人によっては少し失礼に感じられるだろう仕草。
首を傾げつつ、頭を左右に動かして見る。
「なんだろ、てっきり、いや、うん。すみません」
元からその姿と思ってました、という言葉は、場合によっては失礼だと思い当たったらしい。
言葉を途中で止めて。目を伏せて首を振った。
「なるほど。でも、食べ物は俺も新鮮な気持ちですよ。この店とか。
 まぁ、そこまで熱い思いを抱いているかって言われると、本好きだから、程度なので申し訳ないところなんですが……
 そうですね。毎日ページを捲ってるようなものです。
 本と違うのは、残りのページ数がわからないところで、それもまた楽しいんですけど」

ヨキ > 「上と……横に耳が付いているのだものな。
 三つ四つと目玉を持つ者などと同じで、どのように見えているか、聞こえているのか、とても想像がつかん。
 ――む?謝ることなどあるものか。
 ヨキは人前に出てこそだ。思ったことをそのまま口にすればよい」

(相手からの視線や質問にも平然としている。
 平たい耳を摘み、ひらひらと動かして)

「ヨキはもともと犬であったのだ。
 それがあるときこの姿と異能を得て、『門』を潜った。
 ……この島に辿り着いて、人間として生きることにしたが、未だ人間そのものとは程遠いところもあるだろう。
 君の聴覚をヨキが体験出来ぬのと同じで、ヨキの目や鼻の捉えるものが、人間にはどう感じられるやら」

(気にした風もなく、穏やかに話を続ける)

「残りのページ数がわからない、か。面白い喩えだ。
 街の営みは、とても行間に収められるものでもないからな。
 この島がなくなりでもしない限り、ページはどんどん増えてゆくのだろうよ。
 とんだ大著だ。

 ……それでな、」

(肩に羽織った上着の陰で、後ろ腰に手をやる)

「こういった風に会話を楽しんでいると、つい動いてしまうのだよ……尻尾が。
 君の猫の耳と同じだ」

ヘルベチカ > カップを己の横に置いて、両手で猫の耳の先端を摘んで。
「こういうのは、”そうなって”ないとわからないですもんね。
 目が増えるほどには、普通の人と変わらないと思いますけど」
続いて、人間の両耳、耳朶を引っ張ってから、手を下した。
「あぁ、すみません、それじゃあ、最初からそういう姿なのかと思ってたんです。
 犬、ですか。得たってことは、元の姿は失ったんですか?」
なんとなくもったいない気がしたのだろう。
口を少し尖らせて、首をかしげて。
「もしも本であれば、残りのページがこれだけあるから、って予想もできるんですけどね。
 でも、現実だと、次の瞬間に死んでても、何十年続いても、おかしくない」
視線をそっと、街路へやった。それから再び、相手の顔へと戻して。
「そういうところ、なんていうか、怖いし、楽しいです。
 それに、そう、こうしてる間にも、色々な人が色々なことをして、ページが増えていく。
 本は本で楽しいですけど、この町は街で楽しいと、そう思います―――……?」
上着の中、もぞもぞと動いたヨキの姿に不思議そうに。
それから、言葉を聞いて、少年は笑って。
「あはは。先生、そりゃ女子に人気出ますね」

ヨキ > 「ああ、ヨキや君の目で見ているものが、相手にもそう見えているとは限らないだろう?
 想像の余地があるし、答えは知れない」

(ヘルベチカに問い直されて、うむ、と顎を掻く)

「犬は犬で、まともな獣の姿には戻れなくなってな。
 今のヨキが人間に似て非なる姿をしているのと同じで、元の犬とはかけ離れてしまったのだよ。
 過ごしやすく居心地のよいのが、圧倒的にこちらの姿であるのでな……。
 結果的に、人間の姿を選んだという訳だ」

(こんなことだってヨキには楽しめる、と、ストローから飲み物を吸い込んでみせる)

「本のように楽しい街は、詰まるところ君の紀行記でもあるからな。
 君の見聞きしたことが、本のように君の中に蓄積されてゆく。
 図書館が『成長する有機体』とはよく言ったものだ。
 館も司書も、絶えず成長して止まない」

(目を細めて、悪戯めかした調子を含ませる)

「尻尾など、普段はこの分厚い上着の下に隠しているからな。
 隠し撮りをリークしてくれた君に、特別に教えてやったのさ」

ヘルベチカ > 「前に『昆虫の見え方』ってのを本で見たことありますけど、なんかものすごく大量に同じ図が並んでて、
 『いや見え方って』ってなったんで、説明はできても理解は出来ないものでしょうね……」
目を閉じて、軽く肩を竦めて、首を振る。
頭の猫耳が、ぴくぴくと震えた。
「あー、なるほど。人間の姿と犬の姿、両方が両方に混ざっちゃったんですね。
 そうなると、なんだろ。もしそれを完全に寄せられたら、
 それこそ本当に人間と犬の姿、完璧に変身できるようになるのか……」
ふむふむ、と頷き、顎に手を当てながら、相手の顔をじぃ、と見る。
犬の要素が抜けたらどうなるか、と想像するような目線。が。
おどけた様子でストローから飲み物を吸う相手の姿に、少年は笑った。
「そうですね。俺の本には、俺のことしか書かれません。
 そういう意味では、この島自体が図書館みたいなものなんでしょう。
 先生の本も蔵書の一冊なので、危ない島ですけど、本を損傷しないようにしてくださいね」
冗談交じりにそんな台詞を吐いて。
「その尻尾外に出せば、多分今よりもっと、人気出ますよ、先生。
 ただ、完全に自由に操れないと、中々きついでしょうけど。
 それじゃあ、先生が他にばらすまでは、マル秘情報としてもっときます」

ヨキ > 「全くだな。……理解といえばここの店主も、我々より腕が多いようであるからな。
 あんなところに付いている腕を動かすというのも、なかなか理解が及ばん」

(真っ直ぐに自分を見るヘルベチカに、ふっと笑い返す。
 まるで答えを知っていながら、さも秘密だと言わんばかりに)

「もしそれが叶った暁には、都合の悪いときには犬になってみせるとするか。
 そうすればもしかすると、完璧な人間を目指すより過ごしやすいやも知れん」

(ちょうどカップの中身を飲み干した。
 指先で人間らしく唇を拭って、)

「図書委員にそうと念を押されれば、気をつける他にないな。
 教師が蔵書の弁償をするというのは、些かヨキの正義に反する」

(後ろ腰から手を離す。
 頃合いとばかり、ベンチから徐に立ち上がる)

「少なくとも、犬派の娘たちには喜ばれよう。
 ふふ。図書館に携わる君ならば、利用者の秘密をさぞかし大切にしてくれるのだろ?

 ――君、名前を何と言うのだね。
 次も君のもとへ辿り着けるように、『書名』を覚えておかねばな」

ヘルベチカ > 「肩甲骨動かすのに近いんですかね……いや、それじゃ、天使の羽か」
肩を後ろへと引いて、肩甲骨を狭めるように。
羽もない少年では、只のストレッチにすぎないけれど。
「都合の悪い時に犬の状態になんかなったら、そのまま風呂なりで身体洗われちゃうんじゃないですか?
 人間の姿の先生にならなにもできないですけど、犬の姿ならわしゃわしゃとやられちゃうかもしれないですよ」
どうします?などと、悪戯交じりの表情で首を傾げる。

「えぇ。図書館の図書の管理は、俺達の仕事なので。
 しっかりと管理はしますし、傷んでたら補修もしますし。
 利用者が何を借りたかも喋りませんし、それに、
 推理小説のラストなんかの秘密も、しっかりと守りますよ」
からからと笑って、少年は座ったままで教師を見上げた。
先ほどおかわりした飲料が、まだ僅か残っていたからだ。
「あぁ、すみません。俺は猫乃神ヘルベチカです。
 とりあえずそれで、棚探せば出てきますよ。
 先生は、ヨキ先生、でいいんですよね?」

ヨキ > 「人間の姿になって十年も経つとな、好き嫌いも様々に変わるのだ。
 例えば体臭を消すために過ぎなかった入浴が、気持ちいいから好き、に変わったりだとかな。
 人間と犬の美味しいところを取って、女子からの人気も出る。想像するだに悪くない」

(目を細め、冗談めかす。
 どうということはない、と、手を広げてみせた)

「頼もしいものだな、図書委員よ。
 『ネコノカミ』……『ヘルベチカ』。覚えておこう、猫乃神君。
 特徴的な書名は助かる。類書が交じってしまうこともないからな。

 ああ、ヨキはヨキだ。他に名はない。
 ほんの二文字――名は検索殺しだが、この嵩張る書影はそうそう忘れるまい?」

(自分の背丈に併せ、ひらひらと手を翳す)

「ヨキの書架は『7門』だ。
 くれぐれも『動物学』を探すでないぞ。

 ――ではな、話に付き合ってくれて有難う。
 また学園か……、街で会おう。君の話は、どこでも楽しく読めそうだ」

(片手を緩く挙げたのち、日除けの布を上げて屋台を出てゆく。
 店主の見送りの声が、小気味よく響いた)

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」からヨキさんが去りました。
ヘルベチカ > 「かといって、女子に風呂でも入れてもらおうもんなら、どう考えても
 風紀委員会に捕まりますからね先生。その辺りは気をつけて……
 犬だからOK!ってのは、先生の立場的に多分無茶理論なので……」
想像したのか、一足早く手を合わせて。なむなむ、と祈った。

「えぇ。今のところそれで覚えててもらえば、俺が出ますんで。
 確かに2文字だと、中々混ざりやすいですけど、うん、
 先生特徴多いですし、ヘタしたら名前なくてもわかるんじゃないですかね」
背丈といい、格好といい、下手に名前で調べるよりも、随分と特徴が多かった。
棚から探すのに、検索機すらいらないんじゃないか、と少年は顎に手を当てて笑う。

「大丈夫ですよ、先生。ちゃんと芸術の棚に割り振っておきます。
 こちらこそ。ありがとうございました。それじゃ、本を汚す不届き者に、気をつけて」
少年は、去っていく教師の背中へと、ぱたぱたと手を降って見送って。
おかわりした飲料を飲み終えれば、続いて去っていったのだった。

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」からヘルベチカさんが去りました。