2015/08/31 のログ
ご案内:「異邦人街大通り/商店街」に三千歳 泪さんが現れました。
三千歳 泪 > 異邦人街の片隅には広場みたいな空間があって、その真ん中には背の高いモニュメントが立っている。
てっぺんには白くて丸い文字盤つき。どこの公園にもある「例の時計」といえばわかるかな。
待ち合わせ場所にはもってこいって感じです。

今日も今日とて大事な仕事。だけど一人じゃ難しいかも?
そんな時には頼れる私のヘイスティングスくんを呼んでみよう。

「あっいたいた! ターゲット発見! あの子がそうだよね。きっとそう。お相手はまだ来ないかなー」

モニュメントの周りで待ってる子たちを一人ずつ眺めていって、どこか寂しそうにたたずむ女の子の姿を見つける。
こう見えてけっこう目がいいんだよね。―――なんと! 両目2.0です!!
あと大事な人がもうひとり。ときどき双眼鏡をのぞきこんで桜井くんの姿を探す。
かくいう私は時計のそばの植えこみの中に、こっそりと身を潜めたりしているのでした。

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」に桜井雄二さんが現れました。
桜井雄二 > 女の子に見つからないように身を隠しながら、あくまで自然体で近くのベンチに腰掛ける。
そして三千歳泪に電話をかけてみる。
いつもの短縮ダイヤル、いつもの操作。

「もしもし、こちらチェリー・ブロッサム」
「所定の位置についた、指示を頼む」

鏡で髪型を確認するフリをしてターゲットを確認する。
寂しそうな女の子。危なっかしくて、放っておけない感じのする、どこにでもいる普通の女子。

「そちらからでもターゲットは視認できるな?」
「……見るからに普通の女の子じゃないか」

三千歳 泪 > 「――――s(桜井くん!!!!!)んぅう…!」

……セーフ!! とっさに口を押さえて彼を呼ぶ声をぐっと飲みこむ。
今声を出したらデッドエンド。今日のお仕事はそこでおしまい。

小さな手鏡を当ててチカチカと光を向ける。私はここだよ!

「予定通りだなチェリーブロッサム。ブランクがあるとは思えん…」
「えっと、じゃあ今日の依頼をおさらいするよ」

今週のとっておき、片耳タイプのワイヤレスイヤホンに向けてそっとささやく。
スパイアクションは気分だけだよ。今日のは秘密のお仕事だからさ!

「今日の依頼者はあの子の友達。それも大親友みたいな子だった」
「しょんぼりしちゃって元気がないから、どうにかできそうな人を探してたんだってさ」
「私たちは影も形もないものを直さないといけない」
「問題はあの子じゃなくて、ずっと付きあってる先輩の方」
「おとといまではすっごい熱々だったらしいんだけど…あの人だよ!!」

首を長くして待つ女の子のもとへ、浮かない顔をした男子生徒がやってくる。
物憂げに気が進まないような顔をして、女の子の前に立っても黙りこくったまま。
挨拶のことばも口にせず、目を合わせるでもなくかすかに顔をしかめて、いかにも居心地が悪そうに見える。

桜井雄二 > 相手の様子を見てハラハラしながら携帯端末を両手で抱える。
とりあえずバレていなかったようなのでセーフ。

「ああ、依頼の内容を再確認したい」

携帯に向かって自然に話す。
万が一内容を他人に聞かれてもふざけて友達と話しているようにしか見えないだろう。
そもそもそこまでスパイごっこをする必要があるのかは知らないけれど。

「一昨日までは熱々だった……?」
「二日で心変わりか、何かあったのか調べないといけないな」

やってきた男子生徒のほうを確認して深く溜息を吐く。

「これ、俺たちが首突っ込んでいいのだろうか…」
「最近、川添孝一の妹の三枝あかりが嬉しそうにしてるけど本人から言い出すまで何も聞かないことにしているし」
「自主性を損なうようなことは、なんと言っていいのか……」
「ま、まぁ仕事なら遂行するだけだ……」

首を鳴らして再び鏡を見る。

「たまにはキューピッドも悪くない」

三千歳 泪 > 「サプライスだね!! ルシファーくんの妹ちゃんかぁ…ふっふっふ、いいことあったんだー?」
「でねでね、昨日の朝からずーっとあんな風なんだってさ。何をいってもダメダメで、取り付く島もないって感じ」
「それで喧嘩になっちゃったりもして、これが続いたらきっと―――――あっ」

女の子の表情がみるみる曇って、今にも泣きそうな顔に変わっていく。
男子生徒の反応はここからじゃよく見えない。
慰めようと肩にかかった手を振り払って、一歩二歩と後ずさる。

痛々しくも傷ついた表情。細い肩が震えて、必死に涙をこらえてる。

……えっと、どうしよ。どうしよっか桜井くん…?

「で、でもさ、仕事を選ばないのが直し屋さんのいいとこなんだから!」

『…………っく……ぐす……ひどいよ…こんなのって……ぅ、あ………ひっ、ぅ…』
『う゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!! けーーーーぐんのばがぁ゛ーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!』

彼氏くんケイって名前だったんだ。

「ターゲットが移動したぞ!! いこう桜井くん! ほっとけないよ!!」
「でも絶対にみつからないでよ? ゲレゲレ!! ナビお願い!」

苦りきった顔をしてよろめくケイくん。すぐに女の子の後を追って駆け出していく。
街じゅうの監視カメラに数理の魂が宿り、ふたりの追いかけっこがタブレットに生中継される。

桜井雄二 > 「いいことがあったのかも知れないな……この話は後だ」
「………なんでだろう…気になるな」
「仕事の依頼なら確認をする必要が……あっ」

女の子の表情が曇っていく。
その姿を見ているのは、一般的感性を持っているなら居た堪れないことだろう。
大半の人は女の子には笑顔にいてほしいものだ。

どうしよっか、という表情に手のひらを下に下げて『様子を見る』のジェスチャー。
とりあえずこれ以上拗れるようなら何か対応を……

「し、仕方ないな……追ってみる!」

逃げ出したなら話は別だ。もう拗れている。彼女のために今は走る。

「泪、ナビゲーションを頼む。俺は路地裏を移動しながら彼女たちを追う」

その場を歩いて離れる。
裏路地が見えた途端に全力ダッシュ。
今日は疲れることだろう、夜はきっとぐっすりだ。

三千歳 泪 > 「……まかしといて!!」

異国生まれの天才AIが今は専属のナビゲーターになってくれる。
こっちはこっちで最短距離を走ったはず。ゲレゲレのナビはパーフェクトなんだから。
でも、今日はレンチがやけに重たく感じる。置いてくればよかったかなとか、思ったりもして。
……後悔先に立たずだね!!

「はぁ………はぁ……追いついたぁ…?」

異邦人街名物のバザールの雑踏の中、桜井くんのそばで肩で息をしていた。
ふたりのターゲットは今、お祭りさわぎの市場の片隅で、休憩用のベンチに座っている。

ぐずぐずとしゃくりあげる女の子をどうにか座らせて、今はちょっとだけ落ち着いたかな。
ケイくんは近くの屋台で変なアイスを買ってきて、女の子に渡そうとしてる。

「見て見てチェリーブロッサム! トルコアイスだ!! のびるやつだよ!」
「私も食べたいなー。装備は現地調達しないとだよね」


―――でも、あの二人は。
こんなに離れてるのに、「そんなのいらない」って聞こえてくるみたい。
払いのけられた拍子に半分くらい地面にこぼれ落ちて、石畳に白い染みが広がっていく。
トルコアイスは二人でひとつ。一緒に食べようと思ってたのかな。
彼氏くんは辛そうな顔をして、女の子もまた泣きだしそうな顔になる。

「桜井くん。あの人、どうして喋らないんだろう? 無視してるわけでもないみたいだし」
「喋らないんじゃなくて、きっと喋れないんだよ。なにか理由があって」

ぢつと手を見る。

「―――あっ」

桜井雄二 > 「ああ、追いついた」
こんなこともあろうかとタオルを3本持ってきている。
一本を泪に差し出して自分も『漢祭』とロゴがあるタオルで汗を拭いた。

「トルコアイスか、俺も食べたいな……」
「この仕事が終わったら二人でアイスを食べ」

そこまで言って絶句した。
払いのけられたアイスが地面に落ちる。
そこまでか。そこまで二人の溝は深いのか。

「……俺たちってアイスがあったら二人でご機嫌になるよな」
「一体、アイスでも修復できない関係ってなんなんだ……?」

彼にとってはシリアスな疑問である。
一体、何があってこんなことに……

「喋れない? 理由があって? 一体、どんな事情が……」
手を見る泪を見て小首を傾げる。
「一体どうしたんだ、泪」

三千歳 泪 > 「ありがとチェリーブロッサム…チェリーくん! 準備万端だねー」

差し出されたタオルには白抜きの字で『白川郷』って大きく書いてあった。……お土産だこれ!!

「えー? 我慢しなきゃダメかな。うーーーーーーーん…君がそういうならしょうがないなぁ」
「でも約束だよ!! 私…この仕事が終わったらチェリーくんとアイス食べるんだ……」

そういう雰囲気でもないしね。がまんがまん…。

「おいしいモノ食べただけでしあわせになっちゃう安上がりな女だよ私は」
「それは君も知ってのとおり……昨日からでしょ? 急に喋れなくなるなんて絶対変だよ!」

好きあっていたはずの二人に居たたまれない空気が漂っている。
このまま絆が壊れてしまっていいはずがない。

「私にいい考えがある!……叩けば直るんじゃないかな?」
「チェリーくんが動きをとめて私が叩く。これだよ!!」

だいたいのものは叩けば直る。だったらケイくんだって直るはず。

「まあ見ててよね。こんなこともあろうかと!」

荷物の中からドミノマスクと般若の能面を出す。

「潜入といえば変装だよね。チェリーくんはどっちが好きかな」

桜井雄二 > 「チェリー君って呼ばれると凄く動揺するのは何故だろう」

ちなみにもう一本のタオルは『機動隊戦士』と書かれた機動隊が大活躍する作品のコラボタオルだ。

「今はアイスを食べている時間はない」
「死亡フラグっぽく言ってるけど今回は危険なミッションじゃないからな」

だよな? いきなり命の危険が降ってきたりしないよな?

「た、叩く……!? そのレンチで、人をか!?」

絵がやばい。レンチで人を殴るという絵が。

「え、ええい! 毒を食らわば皿までだ」

ドミノマスクを取って被る。般若は女性の面だ。
でも泪が般若のように怒っているところを見たことがないけれど。
とにかく相場はそうなんだ。

「いくぞ、般若!」

仮面の男が飛び掛る。
……さすがに街中で一般人相手に異能は使いたくないな。
男を後ろから羽交い絞めにしてしまう。

「い、今だ………俺に気にせずやれぇ!」

三千歳 泪 > 「思ってたよりアグレッシブに行った!? チェリーくんもノリノリじゃんさー!!」

桜井くんは思い立ったら早いんだ。そういうとこも私は好きだよ。
それで、私は般若のお面の方。高笑いしたくなってくるよね。

「ふふふ、くくく。くっくっく…わーっはっはっはっはーー!!!」

般若のお面をつけて人の身長くらいあるモンキーレンチを引きずる私。
風紀のおまわりさんが飛んでくる前に仕留めないと。

「えーっと…なんかセリフあったよね?…やっぱなし、退治てくれよう桃太郎っ!!」

ぱあん、といい音がして彼氏くんがもんどり打って倒れる。
手加減はしたつもり。軽く頬を張っただけだから。レンチは人を殴る道具じゃないよ桜井くん。

『……………え?……え??…けー…くん?…だめっ!! けーくんにひどいことしないで!!!』

『……ってぇ…何なんだよあんたら!?…ん? なんだこれ。痛くないぞ?』

『…ひどい………うぅ、けーくん………ぐすっ……どういうこと?……』

『いやほら、メールしただろ? 口内炎がヤバいことになってて喋れないって……おい都、お前まさか―――』

女の子の方が物凄い勢いでメールチェックをはじめる。その顔がみるみる赤くなっていく。
両手で顔を覆ってあわあわし始める女の子の隣でぐったり脱力する彼氏くん。これはもう大丈夫そうかな。

「んっと、一件落着だね!! 私たちはこれで! お邪魔しましたぁ!!」

騒ぎになる前に逃げないと。桜井くんの背中を押して人ごみの中へと消えていく。
そして舞台ははじまりの広場へ。トルコアイス? 大丈夫、忘れてないから。

「終わりよければ全てよしってことで。今日も大活躍だったね桜井くん」
「……甘い! おいし…甘い!! 甘いねこれ!? 見て見て、すごいのびるよ!」

桜井雄二 > 「そのチェリー君って呼び方なんとかならないか…!!」

「あっ……う…」

これダメだ、どう考えても風紀沙汰だ。
羽交い絞めにされた男の頬がはたかれる。
逃げ出そう!! 今すぐ!! ナウ!!

っと………その前に彼らの問題を見る。
どうやら口内炎が問題だったようだ。
……どれだけひどい口内炎だったんだろう。

「お邪魔しましたぁ!!」

とりあえず逃げ出す。仮面を外すタイミングも抜かりない。
トルコアイスもちゃっかりゲット、二人で食べて今日はおしまい。

「大活躍? 二人を追跡して男を羽交い絞めにしただけだ、イージーだな」
「甘いな……それでいて伸びるというのが面白い」
「……今日は心労もあったけど、これがあればとりあえず解決という気分になるな…」

泪の口元についているアイスクリームを指で拭う。
「隙あり」
それを舐めて笑った。最近は、笑顔にも随分と慣れた。

三千歳 泪 > 「いいんじゃない? 働くのは好きだけどさ、楽して大もうけできたらそれが一番だよ」
「でも大もうけしたら何しようとか、考えてみたことあんまりないんだ」
「仕送りとかは間に合ってるだろうし、欲しいものもなくってさ」

直し屋さんをはじめてそれなりに時間が経ってるはず。
気にした事もなかったけど、数えてみたらけっこう貯まってるかも?

「じゃあさ、桜井くん!! 旅しようよ! ツアーのチラシにのってるのとかでいいからさ」
「岩手県民的にはさー、もっといろんなとこ見てみたいんだよね」
「それでもし、まだまだ余ってたりしたら……どっかに部屋でも借りて―――ふわ!?」
「……そんなに気に入っちゃった? チェリーくんはいやしんぼだなぁ!!」

腰まである三つ編みおさげを前にかかえて、桜井くんをくすぐるための武器にしたりして。
汗が引くまでじゃれあって、笑いあう。おなかが空いたらごはんを食べに行く。

これが私の大切な時間。桜井くんのいる日常で、だいたい平常運転な感じです。
―――なべて世はこともなく。