2015/09/15 のログ
ご案内:「異邦人街大通り/商店街」に日下部 理沙さんが現れました。
■日下部 理沙 > 「よし」
異邦人街大通り入口にて。
小さく己を一喝、息巻いて、新入生、日下部理沙は放課後の異邦人街に挑もうとしていた。
何故、『挑む』などと大仰な表記をするのかといえば、以前、理沙は此処で大いに迷子になった経験があるからである。
故に今回は、リベンジマッチなのである。
■日下部 理沙 > 背中の大きく白い翼を小さく揺らし、目指すは有翼人専門の洋服店及び日用品店。
最低でも服屋には確実に辿りつきたい。
後天的な異能の発生によって翼が生えた理沙にとって、自分で背中に穴をあけなくていい服の存在は正にカルチャーショックそのものであった。
異世界からの稀人たる異邦人達にとっては背中に翼が生えていることもただの個性やら種族差でしかないのかもしれない。
だが、少なくとも普通の日本の片田舎出身の理沙にとってはそれは個性なんて言葉を逸脱した障害であり、あらゆる意味で由々しき問題であった。
特に身嗜みの側面が大問題である。理沙は翼の手入れも自己流でしか知らない。
だからこそ、専門家の意見もきける有翼人専門の服屋並びに日用品店には何としても辿りつきたいのだ。
■日下部 理沙 > そんなわけで鼻息荒く、図書館で借りてきた異世界語のハンドブックをいくつか片手に意気揚々と理沙は進む。
今回は一応地図も持ってきてある。店のだいたいの場所もインターネットなどで確認済みだ。
携帯端末はまだ契約してないので持っていないが、まぁこれだけ準備したのだ。
アナログだけでもなんとかなるだろう。
いざとなれば人に聞けばいいのだ。
幸いにも此処は異邦人街。背中に翼があるくらいは珍しくもなんともない。
そして、彼らの多くは常世学園での公用語も容易く操れる。
最悪通じなくても手元にハンドブックがある。
今回ばかりは万全の布陣である。今の理沙に隙はない。
恐らくない。
■日下部 理沙 > いざ、出陣。
完全装備で日下部理沙は今再び異邦人街へと挑む。
準備できることは概ねしてきたはず。
今できることはこれで多分全てのはず。
見落としはあるかもしれない。
だが、理沙がいま思いつく限りだと多分この程度なものだ。
ならば挑むしかあるまい。
最早、賽は振られたのだ。
なら、出来る。出来る筈だ。自分には出来る。
自分を信じてみよう。
今はそれをするべきときだ。
■日下部 理沙 >
そんな風に思っていた時期が、理沙にもありました。
■日下部 理沙 > 結果から言えば、店には辿りついた。
とりあえず服屋には辿りついたのだ。
流石に地図もハンドブックも持った上に事前リサーチまでした完全な布陣だ。
辿り付けないはずもないとはいえる。
だが、だがそれでも理沙は立ち往生していた。
店の前で店に入れず困り果てていた。
ただひたすらに己の無力を噛み締めていた。
挑んだ果ての結果に打ちひしがれていた。
信じても何でもできないものは出来ないのである。
そんな気持ちで一杯だった。
何故なら目前のその店は、階段の崩れた雑居ビルの二階が入口になっているのだから。
そりゃ有翼人専門店である。
普通はそれで困らないのだろう。
だが、理沙は後天的に翼が生えた普通の人間である。
つまり、飛べないのだ。
故に、この店にはこのままでは入れないのである。
思わず、理沙は頭を抱えた。
■日下部 理沙 > どうしたものか。
体力に自信があるなら外壁をよじ登るという手もあるのかもしれないが、理沙にはそんな力も度胸もない。
回り込んで非常口やら他の入り口やらを探すという手もあるが、さっきパッとみた限りではなかった。
もっと念入りに探してもいいが、忍者屋敷宜しく隠し扉でもない限り結果は多分同じだろう。
大人しく諦めて帰るのが一番いいのだろうが、流石に目の前に甘い葡萄をぶら下げられて帰れるほど理沙は潔くなかった。
故に今、この場でどうにかなるまいかとただ悩み、唸る。
■日下部 理沙 > 結果として理沙はその場で通行人を待つことにした。
有翼人の店であるし、このへんで待っていればあの店に用がある有翼の異邦人が誰かしら現れるであろう。
現れたら、その人にとりあえず店について聞けばいい。
もしかしたら飛べなくても入れる方法はあるやもしれない。
言葉が通じなくても今はハンドブックやら簡易辞書やらもある。
最低限の意志疎通は恐らくはかれるはずだ。
そう信じて、とりあえず店を眺めながら、降りてくる人はいないかと、もしくはここから飛んでいく人はいないかと届かぬ店の入り口を見上げる。
■日下部 理沙 > ただぼさっと待つこと十数分。
理沙は別に待つことやら茫とすることには慣れていたので、それは別段苦痛ではなかった。
翼を畳んだまま壁に背を預け、ただ届かぬ天の戸を眺める。
平素、空を眺める事が多い理沙にとって、見上げるという行いは至って日常的な行いであった。
ときたま首が痛くなることもあるが、十数分程度なら別にどうということはない。
故に、それが店の二階入り口から客がでてきたとき、それ自体は別になんとも思わなかった。
ただ、想ったより早かったなと心中で嘯いた程度であった。
■日下部 理沙 > だからこそ、理沙は期待していた。
降りてきたその人物と話すことを。
その店ではどういうものが売っているのかと尋ねることを。
今買ったものはどんなものであるのかと聞くことを。
そんな会話がこれから展開されることを期待していた。
あわよくば、思わぬ縁から友人になれるかもしれないとワクワクしていた。
そういう、淡い期待を抱いていた。
身勝手で都合が良い、年相応な期待を。
■日下部 理沙 >
だからこそなのかもしれない。
勝手な事を期待なんてするから、容易くそれは裏切られるのだと。
少なくともそのとき、理沙はそう思った。
■日下部 理沙 > 「あ……」
それは、でも当然のことだった。
二階の入り口で遥か天を眺めるその客。褐色の翼を持つ有翼人。
そんな人と友達になれるかも。
喋ることができるかも。
そんなわけがない。理沙なんかが喋れるはずもない。
何故なら、雄々しく逞しい褐色の翼をもったその有翼人が降り立つことは、ないのだから。
彼らには翼がある。本物の翼が。
理沙のような出来損ないのそれではない。
ならば、『降りる必要』など、ない。
■日下部 理沙 > その有翼人は、そのまま飛び立った。
足元より下にいる理沙になどそれこそ一瞥もくれず、飛び去った。
友達になるだの、話すだの、それどころの話ではない。
顔すら、見て貰えなかった。
いや、まず気付いてもらえなかった。
でも、それも当たり前の話だ。
彼らにとっては、今理沙がいる場所などそれこそ、店の前ですらないのだろう。
地べたにいる理沙が、勝手にそう思っていただけで。
■日下部 理沙 > また、彼方から、一人の有翼人が現れた。
その有翼人もまた、そのまま空から店へと飛来する。
地べたにいる理沙には当然気付かない。
気付く必要もないのだろう。
彼らの仲間はそもそも、今理沙がいる様な所にはおそらく――いないのだ。
■日下部 理沙 > ただ、空を眺めて。
飛び交い、すれ違いざまに会釈をする有翼人達の姿をみて、理沙は踵を返す。
ここは、自分の居場所ではない。
自分の居ていい場所では、ない。
真っ白な翼。
一度だって空を舞ったことがないそれを揺らして、理沙は帰路についた。
ただ、顔を伏せたまま。
ご案内:「異邦人街大通り/商店街」から日下部 理沙さんが去りました。
ご案内:「異邦人街大通り/商店街」に茨森 譲莉さんが現れました。
■茨森 譲莉 > アタシはポケットに入れた手に触れる人肌の黒鉄の感触を確かめながら、斜め上を見上げた。
ここは異邦人達が多く暮らす区画の大通りだ、アタシの視線は忙しなく動き回る。右を見る。左を見る。
商店街も兼ねている事もあって、買い物袋を持った人外の
―――いや、人外、と言っては失礼なのかもしれない。
と、先日出会った教師の事を思い出して考え直す。
とはいえ、辺りにいるのはおおよそアタシとは違ったビジュアルのお客さん達で、
そこで語られる言葉や口から漏れている音もまた、アタシの発する声とは違ったものだ。
ぶるり、と体が震えて。縋るようにポケットの中に入った小型の拳銃を握りしめる。
ひんやりとした温度を返していたそれは、アタシの手の温度に温められて人肌の温もり。
そしてかきつづけた手汗に濡れたぬるりとした感触を返してくる。
………アタシは斜め上を見上げる。
その場所に立ち並ぶ奇妙な形の建物の数々は、
まるでテーマパークに迷い込んだかのような錯覚をアタシに与えていた。
■茨森 譲莉 > ガチガチと音を立てるばかりで一向に噛みあわせられない歯を食いしばる。
足を、足を動かさなければと、引きずるように足を前に進めた。
何故、こんな場所に足を踏み入れてしまったのだろう、という後悔が後ろ髪を引く。
あるいは、進もうとする足にドロリと絡みついて進ませまいとする。
それでも、アタシはこの異邦人街を見に来たかった。
ポケットの中で拳銃を握りしめ、全身から冷や汗を流して歩く事になったとしても、
この異邦人街を自分の眼で見てまわりたかった。知りたかった。
とはいえ、何しろ「異邦人は人を食べる。」
というような言葉が真実として出回っているような場所から出てきたアタシには、
この異邦人街という場所はいささか刺激が強すぎたようだ。
道を歩く異形の人達はスプーン一杯の激辛スープのようにアタシの口に運ばれ、
そしてアタシはそれが口に入る度にがたがたと震えてポケットの中の拳銃を握りしめる。
先ほどから延々とこの繰り返しで、異邦人街を見学して異邦人の事をもっとよく知ろうという、
そんな短絡的思考によって導かれたアタシの目的は、残念ながら一向に達成される気配が無い。
せめて、安心して見て回れるように強力なガーディアンの一人でも連れてくるべきだったのだ。
筋骨隆々のボディーガードを想像して、それは寧ろそのガーディアンが怖いな、とため息をついた。
―――現実逃避ばかりでは仕方がない。
そう、アタシはこの街を見て回らなければならないのだ。アタシの為に。
ご案内:「異邦人街大通り/商店街」にヨキさんが現れました。
■茨森 譲莉 > この場所に居る事がどんなに怖い事か、というのは、恐らく常世学園の人間には分からないのだと思う。
その証拠に、先ほどからアタシは「大丈夫ですか?」と頻繁に声をかけられては、
「ひゃん!!」だとか「うぉうっ!!」だとか「きぇえええ!!!」だとか、延々と無様な悲鳴を響かせ続けている。
その度に怪訝そうな顔をして(表情が伺えないのも居たが)去って行く異邦人を呆然と見送って、
再び死にそうな顔をしてまるでゾンビのようにこの異邦人街の商店街を進んで行く。
縋るようにポケットの中のソレを握りしめ、アタシは再びあたりを見渡す。
学生街とは違った様式の建物が立ち並ぶそこは、先にも思ったようにテーマパークのようだ。
そう考えると、街を歩くソレらも着ぐるみかコスプレか何かだと考えれなくもないかもしれない。
いや無理無理、どう考えてもそんなレベルの話じゃないです。
異世界に迷い込んだかのような錯覚を覚えながらも、
ぺた、と近く建物に手をつく。材質的には、さほど変わらないように見える。
RPGのラスボスのダンジョンだとかのようにぶよっとした感触を返してくるとか、そんな事は一切無い。
ただ少しばかり建築様式が違うだけ、ビジュアルが違うだけなのだ。多分、人と同じように。
■ヨキ > (硬いヒールの重い足音。
人波から頭ひとつ分飛び出した長身の、規則的な歩調。
ショップで買い求めたドリンクの、紙製のタンブラーを片手に歩きながら、時おり響く悲鳴に瞬く。
なんか不慣れな日本人が居るらしいよ、とは、通り掛かりの亜人の言だ。
慣れた様子で通りを進んだその先で――見覚えのある後姿を見た。
決して小柄ではない少女の、その背後。彼女の頭上に、低い声が振る)
「――もしかして、茨森君か?」
(見ればこの異邦人街にはむしろ不自然なほどの、地球人めいてカジュアルな格好をしたヨキが立っている)
■茨森 譲莉 > その甘い声にアタシの身体はビクリと震える。
ポケットの中のソレに手をかけ、しっかりと握りしめて、振り返ってその顔を確認すると、
思わずアタシの口からほぅ、と安堵の息が漏れた。
目の前に立っていたのは異邦人だった、だが、
見覚えのある異邦人で、ある意味今一番見たかった顔な気がした。
二重の意味で止まらない動悸をもう片手で押さえるように胸に手を当てる。
大きく深呼吸をするんだ、譲莉、と自分に言い聞かせるように深呼吸をして、
ゆっくりと、引きはがすように手をポケットから出す。先生相手にポケットに手を入れていては失礼だろう。
そしてほっぺたに手を当ててぺちぺち、と軽くたたいてから、
客観的に見ておかしな挙動だったかもしれないな、と考えながら返事を返す。
「…ヨキ……先生。こんにちは。」
自分の口から漏れた只管にか細い声に自分で驚きながら、
相変わらずお洒落なその先生の頭の先からつま先までを確認する。
今日は随分とカジュアルなコーデだが、そのファッションセンスは間違いなくヨキ先生だった。