2015/09/21 のログ
日下部 理沙 > まずは歩み寄る必要がある。
それは何処でも同じこと。そして、その一歩は誰が踏みしめてもいい。
なら、自分でもいいはずだ。
自分でも、大丈夫なはずだ。
そう思って、一歩踏み出そうとは思っているのだが……思うばかりで、中々足が前にでない。
 
元々、逃げるように常世島にまでやってきた理沙だ。
ここでも、どうにも及び腰になってしまう。

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」にコンスウェイラさんが現れました。
コンスウェイラ > 「あ~、ったく…今日も引っかからなかったわねぇ~……時間ムダにしたし…」

悪態付きながら駅から出てくる一人の女。傍から見てもわかるほどの不機嫌な表情だった。

「どしよっかなー、焼き鳥屋寄っててもいいし、あー、やっぱ真っ直ぐ帰ろかな…」

小さく独り言を言いつつ商店街に向けて歩き出すが、視線は別の方向を見ていて、前方不注意だった。
うろうろしているあなたにぶつかるかもしれない。

日下部 理沙 > 「……課題は提出までまだ時間があるし……今日じゃなくても……いや、でも」
 
などと、独り言を呟きながら駅前をうろうろしている理沙。
こちらも立派な前方不注意である。
で、あるが故に。
 
「?!」
 
気付いた時には、目前にその女性がいた。
最早、緊急回避は不可能。
そのまま真正面からぶつかって、すっ転んでしまう。

コンスウェイラ > こちらはぶつかるまで相手の存在に気付かず、やはりというか、ぶつかってお互い倒れる事になった。

「ギャ…ッ  ………いたたた」

と、乙女らしくない悲鳴を上げて尻餅をつく。
すぐに自体を把握したのか、ぶつかった相手を見て怒気を顕にした。

「…ちょっと~?何ぶつかってきてるのかしら~~??」

まだ立ち上がらないまま抗議の視線を飛ばしている。

日下部 理沙 > 「す、すいません……前を見てなかったもので……」
 
こっちもまだ転がったまま、翼をぐったりと地面に横たえてそう返事をする。
痛む身体を摩りながらなんとか立ち上がり、女性の方まで歩いていくと、まずは頭を下げる。
 
「改めて、すいませんでした……立てますか?」
 
そういって、右手を差し伸べる。

コンスウェイラ > 抗議の視線を送る最中、ちらりとその目が少年の翼に行く。有翼人というのに気付いたらしく…

「全くよ。前方不注意にも程があるわ!…焼き鳥屋に行きたいワケ?」

と、ちゃっかり自分を棚上げにしつつ悪態をつく。少年が頭を下げるのを見ればとりあえずはそれ以上何も言わなかった。
差し伸べられた右手はガシッと掴んで……掴んだだけで自分で起き上がろうとしない。

日下部 理沙 > 引っ張って、どうにか立ち上げる手伝いをしながら、困ったように首を振る。
 
「あの、人間なんで鳥肉には……すいません、ややこしくて」
 
ここでも、やはり間違えられるのだろうかと申し訳ない気持ちになる。
理沙からすると、生粋の異邦人である有翼人と自分が間違えられることはいつも申し訳なかった。
当然、そう見る人達にも申し訳ないし、なによりちゃんと飛べる有翼人の人達に申し訳なかった。
自分は、そうではないのだから。
関係の無い自分のせいで彼らの風評が貶められては、それこそ合わせる顔がない。
 
「お怪我は、ありませんか?」

コンスウェイラ > 「そんな羽あるんだから鳥ガラとかいうあだ名で呼ばれてるんでしょ。そういうのわかっちゃう」

と、ある事ない事言う意地の悪い女。そして少年が助け起こそうとしても、びくともしない、抵抗がある。
というか明らかに女の方からも引っ張ったり体重をかけて動かないようにしているのがわかるだろう。

「あー、脚が痛くて歩けなーい!誰かさんが空の散歩をしながら私を家まで送り届けてくれないものかしら~~」

すごくワザとらしく言う。飛べないと知っている訳ではない。ただ純粋に飛べると思った上で人一人ぐらいなんとかなるだろう、
もし無理ならそれでぐちぐち言ってやろうぐらいに思っているのだからタチの悪い女である。

日下部 理沙 > 「いや、特に仇名とかは……」
 
そもそも、友人がほとんどいない。
などと思いつつも、引っ張っているのだが、全然この人動かない。
え、もしかして思ったより大怪我なのでは?
そんな風に理沙が心配して顔を青くした矢先……女性のその言葉が、響いた。
 
いや、突き刺さった。
 
「あのその……すいません、飛んだりは、その、出来なくて……」
 
顔を伏せて、目を伏せて。
それだけ呟く。
今まで何度も言ってきた言葉だ。
慣れている。大丈夫。
自分は平気だ。
そう言い聞かせる。自分に言い聞かせる。
それでも、不自然に高まる心臓の鼓動が、指先を震えさせる。

コンスウェイラ > 顔を伏せても、目を伏せても、この女の目は変わらず少年に向いていた。
草むらから獲物を見つめる肉食獣のように、あるいは冷たい氷像のように…

少年が弱音を吐けば、握った手に僅かばかり感じたであろうその震える手を、ぎゅっと握り締めて止めた。

「なんでできないのよ?そのワケを教えてくれる?」

伏せた顔を覗き込むように、じっと見つめている。

日下部 理沙 > 見つめられても、理沙に見返すことはできなかった。
ただ、小さく肩を震わせながら、問われたことに答える事しかできない。

「私は……異能であとから翼が生えただけで、それだけの、普通の人間なんです。
この翼は……生えているだけ。ただの重りです。
体の構造がそもそも飛ぶように出来てないんです……人間は、翼が生えたくらいじゃ飛べません。
だから……この翼じゃ、飛べないんです。
何度やっても……ダメなんです」

ようやく、そう答える。
周囲の通行人が流石に何事かと目を向けてくるが、それだけだ。
誰も、二人に関わろうとはしない。
 
理沙は、歯を食いしばっていた。
何度もいわれたそれを思い出して、目を瞑っていた。

コンスウェイラ > その少年の答えを女は黙って聞いていた。最後まで聞いて5秒程の空白の後に言葉を紡いだ。

「ふーん、なんだ…だから飛べないんだ。変異術でもないのね~……よいしょっと…」

握った手に力を込めて立ち上がる。それからようやく手を離し、スカートをぱっぱと払った。

「あーあー、服汚れちゃったし、こんな往来で一人でへたり込んでて私バカみたいじゃないの。
 …ほら、シャキっとしな!どうせ人間ってのはお飾りつけて歩いてるもんなんだから、その羽だってコスプレみたいなもんよコ・ス・プ・レ!」

この女なりの励ましだろうか、そう言いながら俯く少年の頭をぺしぺしはたく。あまり痛くはない。

「……ったく、やりにくいわねぇ」

と、聞こえないぐらいの小声で呟いた。

日下部 理沙 > 頭を軽く叩かれても、理沙は顔を伏せたままだった。
痛くはなかった。その女性が励ましてくれたのもわかった。
それとなく、きっと気を使ってくれたんだろうと思う。
だからこそ、申し訳なかった。
 
「ほんと、すいません、御迷惑かけちゃって……」
 
飾りの翼を揺らしながら、そう謝罪をする。
理沙が悪いのだろう。
何故ならここは異邦人街。
こんなところで翼が生えている奴がいれば、普通は有翼人だと思う。
飛べる異邦人だと思う。
なら、女性のその言葉は何も不自然ではない。
ただ、不自然な理沙がいたばかりに、彼女にそういう思い違いをさせてしまっただけだ。
本来いるべきではない場所に、理沙がいたばかりに。
そうなった、だけなのだ。

コンスウェイラ > そんな葛藤も露知らず、俯く少年を呆れたように見て息を吐くと、周囲を見回した。
少年、周囲の人間、少年と、視線を移していくごとに居心地が悪そうな表情になっていって…

「……あー!もう!ちょっと来なさいよ!!」

今しがた握り締めていた手をもう一度掴んで強引にどこかへ連れて行こうとする。

日下部 理沙 > 「え……あ……!」

返事もロクに出来ず、姿勢を崩しながら為されるがまま、つれていかれる。
崩れた重心をそのままに、ふらふらしながらも引っ張られて、どこかへ。
抗う事もできない。
いや、抗おうと思えばできるのかもしれない。
だが、理沙はそれが出来るほど気が強くはないし、力も強くなかった。
だからこそ、ただ、連れて行かれる。

コンスウェイラ > 引く手に抵抗がなければ、実に力強くそれを引っ張った。駅前から脱し、商店街に入ってゆく。
その道すがら、口を開いて…

「まったく、あんな往来で頭下げたままでいて…私が周りの人に"何かコワいけど美人で素敵でカワユイお姉さんが羽生えた男に折檻してる!"とか思われたらどうするワケ?
 …っていうかいつまで手繋いでんのよッ!ちょっとは自分で歩きなさいよね!!」

そう言ってようやく手を離した。それにしても自分から手を繋ぎ取った癖にこの言い様である。ひどい。
実際俯く程度にしか頭を下げていないが、この女はそうは思わなかったらしい。周囲の目を気にするだけの羞恥が残っていたのだろう。

「ほら、ついたわよ。なんか奢りなさいよ。…お金持ってるわよね?」

辿り着いた先は『焼き鳥屋コカトリス』なる店だった。異邦人街に相応しく、店員も異種族からなっていた。
店内にも入れるが、扉の横の窓からも注文して持ち帰れるようになっている。

日下部 理沙 > 「あ、はい、すいません」
 
つい、謝ってしまう。
いやそれは流石に自分が悪いのだろうか?
そう理沙も疑問を抱いたが、そんな疑問を頭に留めている間も与えられず、そのまま引っ張られていく。
今まで通ったことがないような通りを抜けて、ただただ奥へ。
知らない場所へ。
経緯はどうあれ、踏みだしたその先。

見えてきたのは、異邦人街情緒あふれた異形の焼き鳥屋。
並んでいるものはそれなりに尋常なものにみえるが、店員も客も異邦のそれだ。
それはそうと、奢れといわれて理沙はそちらを向いて首をかしげる。
慰謝料替わりということなのだろうか。
まぁ、そういうことなら、それはそれでいいだろう。
 
「じゃあその……お好きなのどうぞ」
 
そんなに持っているわけではないが、焼き鳥屋だ。
それほど高額のものはないだろうと踏んで、そういう。
数万円レベルのものがでてきたら諦めて数週間皿洗いでもしよう。

コンスウェイラ > 悲しいかな、初対面でしかも互いに名も知らない中だというのに物を奢らせるという恐ろしい女の罠にハマってしまったのだった。
少年がいくばくかの金銭を持っている事に鷹揚に頷けば…

「ん、よし!おっじさーん、これとそれとモツとカワとボンジリね~」

と、開いた窓越しに居た竜人だかリザードマンだかよくわからない異種族の店員にそう言った。
金額は全部で500円程度で、諭吉さんがオサラバするような額ではなかったようだ。
しばらく食欲をそそるような肉が焼ける音が響くと、焼き鳥が入るサイズの小さな紙袋で品を渡された。それを早速美味しそうに食べる女。

「ん~うまうま…やっぱ焼き鳥ったらボンジリよね~……」

…この女の容姿は小奇麗な方だとは思うが、食べ方は普通に串を横にしてガブッと食べるスタイルだった。

日下部 理沙 > 地球人の感覚でいえば、爬虫類が二足歩行した類という他ない見た目の店員に硬貨を渡す。
相好を崩しておつりを返してくれる店員に理沙も頭を下げながら、既に商品を受け取っている女性を見る。
気持ちいいくらいに豪快な食べっぷりだった。
 
見てて、理沙も食べたくなったので、先ほどの店員に「同じものを」と頼んで焼いてもらう。
程無くして出てきた焼き鳥をちまちまと食べる理沙。 
 
「あ、おいしい」
 
炭火の香りが程よく漂い、肉のうまみを引き立てる。
それでいて、塩気は程々。
これは、がっつきたくなるのも分かる。

コンスウェイラ > 「でしょ?アンタここ初めて?異邦人街にも中々いい店あるもんなのよ?
 学生街の焼き鳥屋より私は断然こっちね」

ふっふーんと何故だか自慢げな表情。先程のような不機嫌な表情も幾分か和らいだようだった。
一本二本と次々口に入れると、もう最後の一本にまで辿り着いた。
それをもっちゃもっちゃと半分だけ食べてから喋る。

「ん~…私カワはあんまし好きじゃない事に気付いたわ。これアンタにあげる」

と、食べかけの串を少年の持ってる小さい紙袋の中に突っ込んだ。

日下部 理沙 > 「あ……ありがとうございます。駅前までは結構来るんですけど……そこから先はあまりいったことがなくて」
 
カワの串を受け取りながら、そういって周囲を見る。
異邦人街のそこは、来てみれば、なんでもない場所に思えた。
一歩踏み込んだ先にあったのは、陽気なリザードマンのやっている焼き鳥屋で。
そこで美味しそうに焼き鳥を食べている人は、みたところ普通の人間の女性だ。
なんでもない、普通の、日常だ。
ここにはそれが転がっている。
そこには、今、自分もいた。
 
「……」
 
考え込んで、つい黙る。
串を食べる手も止まる。
 

コンスウェイラ > 「ふーん、駅前になんかいい店あったっけか…」

今度探索してみようかなと呟いた後に串と紙袋をゴミ箱に捨てた。

「ふー、食った食ったー……ま、一応礼ぐらいは言うわ」

と、尊大な態度で言えば、呆ける少年が目に映った。
"あ、こりゃ聞いてないな"という表情をすれば少年の目の前で掌をひらひらと振る。

「…っておーい、聞いてますかー?そろそろ私帰るわよ。アンタもちゃっちゃと食べなさいよね」

じっとその瞳を覗き込んでは言うのだった。

日下部 理沙 > 「え、あ……はい」
 
目を、蒼い瞳で見返す。灰青の女性の瞳に映る、空色の理沙の瞳。
見返しあって、そういわれれば、理沙もただ頷く。
 
「お気をつけて」
 
どうにか、かけられた言葉の意味を理解して、そう返しながら、またゆっくり串焼きを食べだす。
少し冷めても、美味しかった。
それもこれも、わかったのは全部、目前の彼女のお陰なのだろう。
だからか、自然と、口に出た言葉はそれだった。
 
「あの……今日は、ありがとうございました」

コンスウェイラ > ようやく気付いたのを見れば、頷いて答えた。

「アンタも歩いてる時には気をつけなさいね。じゃ」

さらりと自分を棚上げしつつ、踵を返しかけた時に投げかけられたお礼の言葉に足を止める。

「…ん?」

それをなんだか不自然に感じたのだろうか、首を傾げた。
そんな事を言われる事など何一つしてないと思う感性は残っていたが、その疑問は黙って飲み込んだようで…

「……そうね、こんなに美味しい焼き鳥屋を紹介したんだから礼の一つも言ってもらわないとね?
 んじゃ、アンタもボサっとしてないでちゃんと前見て歩くのよ?ばいばい」

最後まで尊大な態度で商店街の奥に歩き出していったのだった…。

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」からコンスウェイラさんが去りました。
日下部 理沙 > 去っていく女性の背中を見送って、理沙は思う。
踏み入るか、踏み入らざるか。
恐れるべきは、そこではないのではないか。

恐れるべきは……知らぬままで済ます事ではないのか。
 
まだ、答えはわからない。
それでも、事実として、理沙は一歩踏み出した。
一歩だけ、前には出れた。
なら、理由はどうあれ、結果は残る。
 
今は、それだけでいいのではないか。
それは甘えなのかもしれない。
それでも、今の理沙にはそれは確かな満足で、微かに得られた、安らぎだった。
 

ご案内:「異邦人街大通り/商店街」から日下部 理沙さんが去りました。