2015/10/02 のログ
ビアトリクス > 「どうかなあ。
 彼の最後の絵を見るとあまり楽しそうな人生とも思えない。
 ……まあ、本人がどう感じていたかなんて、現代を生きる
 ぼくらにゃわかるはずもないことだけど」
最後の絵、孤独と絶望を感じさせる、ピカソの自画像。

「自分で自分を破天荒って認識できる人ってどれぐらいいるのかなぁ。
 どちらにせよ、ぼくは芸術家としてはまだ駆け出しだからね……
 そうなる可能性もあるかもしれない」

破天荒な芸術家、と言われれば思い浮かぶのは
かつて落第街で一度会話をしたあの表現者だった。
芸術に携わるものであれば、ああいった狂気や逸脱からは
目を逸らすことはできない。
……ああなってしまう可能性もないわけではないのだ。

「あいにくとないな……。見えるところにも、見えないところにも。
 親もそんな感じだったし。
 そういうきみこそ何か妙な特徴を受け継いでいたりするの?」

子どもたちが散っていくさまをあーあと笑う。
わだち画伯の評価がわかるというものだった。

轍ヒロム > 笑いを消して、意外そうな顔。

「最後の絵はみたことないけど、そんなにひどいの?」

頷き、

「そうだねー、
 ふつうな人ほど自分のことヘンって言ったり、
 ヘンな人ほど自分をふつうだって言ったりするね。
 けど芸術家が平凡だとガッカリされそうだから、
 インタビューのときは破天荒方向にちょっと盛って
 おいたほうがいいかもよ!
 茶色は自分の血をつかってます、とかさ!」

未来の芸術家に、まさに狂気なインタビュー時のアドバイス。

「そうなんだー。
 ひえの君のおとーさんおかーさん、平行世界からきたとか?」

平行世界出身だから違いがないのだろうかと、小首を傾げる。

「私はー、はっきりわかる見た目の特徴はコレくらいかな」

手のひらを相手に向けて指を開く。
人間より発達した水掻きが、そこにはある。

追いかけても離れていく子ども達に、
「チッ、芸術のなんたるかを理解せん子らめ。
 十年後後悔すんなよー!」
と冗談で毒づく。

「ひえの君は、ほかにはどんな絵かいてるの?」

トッキー以外の真面目な?絵も見たいと、無遠慮にスケッチブックを覗き込もうとする。

ビアトリクス > 「ぼくの説明よりも今度自分で確かめてみるといい……
 とてもわかりやすい絵だからね」

ピカソの最後の自画像に関してはそう答え、

「きみの助言のほうがよっぽど破天荒だっつうの!
 そういう機会になったら記事の執筆者のほうが
 適当に盛ってくれるだろ、多分」

気が早過ぎるアドバイスに顔をひきつらせた。

「母はあまり自分のことについては説明しなかったからなぁ。
 平行世界と言ってもいいぐらいに近しい世界出身なんだろう、とは思ってるけど。

 ……へえ、水かきか、面白いね。
 きみの祖母君の星は水が多かったのかな。
 スケッチしてもいいかい、それ」

しげしげと観察しつつ。
他にどんな絵を? という質問に、スケッチブックの別のページをめくってみせる。
この異邦人街の風景や、学生街などの風景がスケッチされている。
街路樹や彫像のような目に留まる派手なモチーフから、
柵や側溝のような誰も目に留めないモチーフまで。
人間や動物の画は少ない。

轍ヒロム > 「ほんじゃ、今みてみる」

スマホを取り出し、『ピカソ 最後の絵』で検索。

「…………うわ」

その焦点の合っていないような、ぎょろりとした目つき。
緑がかった色。稚拙なようにも見えるざっくりとした線。
こわ!と正直な感想を呟く。

「あーなるほど。インタビュアーさんが勝手に、ね。
 けどさ、ひえの画伯は小鳥の血で絵を描いてます、
 とか勝手に書かれちゃったらやじゃない?
 その記事よんだ人に誤解されちゃうよね……」

すごい困った顔で、もしもの話を続行。ますます気が早い。

「説明しなかった、って……
 ひえの君のおかーさん、しんじゃったの……?」

珍しくおずおずと、聞きにくそうに。
水掻きをスケッチしたいと言われれば、嬉しそうに。

「え!!かいてくれるの!!やったうれしい!!
 あれなんだっけ手が有名な絵……そうモナリザ!!
 これカンペキ私モナリザじゃん!!
 ひえの君がディカプリオ!!」

レオナルド違い。惜しい。
きんちょうする!!だのハンドクリームぬっとけばよかった!!だの言いながら必死に手を動かさないようキープ。

スケッチブックのページを興味深げにしげしげと見る。
「おおお……風景がおおいんだねえ。
 あれ、これは…………えっ、柵?柵だよねこれ?」
さらに側溝の絵を見て固まる。
「こ、こっちは、
 どう見てもそのへんの道のはしっこの、
 ドブ……だよね?
 ……え、え、どういうこと?」
なぜそれを描いたのか理解できず、目を瞬かせる。

ビアトリクス > 「逸脱した画家のイメージってそんなんばっかか!?
 きみと話してるとだんだん疲れてくるな……」
辟易した表情。

「いやアレは殺しても死なないと思う。
 単に必要最低限のことしかしゃべらないだけだよ。
 これまでもそうだしこれからだってそうだ」
目をそらす。
母の話題に関してはあまり気が進まないようだった。

「……ありがとう。
 有名な手の絵といえば、他に『祈りの手』とかもあるね」

いちいちはしゃぐ彼女とは対照的に、
許可を得られれば静かな調子で色鉛筆を動かす。
子どもたちのために描いた手慰みのキャラの落書きとは違う、丁寧な筆致。
画用紙に、水かきを有する手が淡く浮かび上がっていく。

「なんでって、そこにあったから描いただけだよ」
ことも無げに言う。
ドブと同じようにスケッチブックに彼女の手が並べられることに関しては、
特に気を払ってはいない様子だった。

轍ヒロム > 「だってさあ、耳切りおとした人とかいるじゃん実際?」
画家≒狂気なイメージ。
話してると疲れると言われれば、よく言われる、と頷いて素直に同意。

「いきてた!!よかった!!」
少年の母親が生きていたことに、ほっと胸をなで下ろす。
母親に対する普通でない批評と、目をそらされたことにあれ?と違和感を感じつつ、
「つか、生きてんのになんで過去形……?」

周りの子ども達を、イェーイ私だけ描いてもらっちゃったぁ~と品なく煽る。
あっさり煽られ、ズルイを連呼しはじめる子ども達。

「祈りの手?」

空いている片方の手で器用にスマホをいじり、
時折フリックしながらしばらく真顔で画面を見つめ──

「ハーーンス!!!!」

涙。
「なにこの予期せぬいい話……!!
 ハンスめちゃくちゃいいやつじゃない!?」

祈りの手にまつわる逸話を読んだらしく、感動している。


「そこにあったら……かくの?」
芸術家の思考はわからない、と呆然とした表情。
「じゃあ私の手も、
 かっこいい!とかうつくしい!とかじゃなくて、
 ここにあったからか……」
ガックリ。でも律儀に手はそのまま。

ビアトリクス > ローマ字読みしかできないのになんでそういう
エピソードばっかり知ってるんだ……と内心思ったが
ツッコミを入れていたらキリがないことに気づいたので沈黙した。

「なにも期待してないからだよ、母には」
そう言ったビアトリクスの声は、
彼自身が驚くほどに冷たいものだった。


「あんまりぼくの感覚は説明しづらいんだけどさ、
 そこに在る、っていうのはただそれだけで奇跡的なことだと思うんだよね。
 たとえばふと目をやったそこに側溝や死んだ鼠がいたりだとか、
 こうやってきみととりとめもない話をしながらスケッチをしている瞬間だとか」

ヒロムの手が描きあがる。
幻と現のあわいにあるような、淡い水色の単色で描かれた妖しさの漂う絵だった。

「美しさというものは遍在しているんだよ」

轍ヒロム > アホだけどおもしろ話は大好きなので、有名人の自分的おもしろエピソードにはわりと詳しいのだった。
アホだけど(2回目)。


冷たい声にぎょっとする。
「……あー、えーと、…………」
どうやら母親とは上手くいっていないようだ。
慰めになるようなことを言いたかったが、歯切れ悪く唸るのみ。
「…………時間がたったら、いまとはべつの角度からおかーさんをみれるようになったり……しないかな?」
慰めにもならない、曖昧な言葉しか捻り出せない。

一生懸命考えて、自分なりに一生懸命感覚を研ぎ澄ます。
「……生きてる奇跡、ならちょっとわかるけど。
 それとはちがうのかな」

絵が出来上がったらしいと気づき、
「できた?」とドキドキしながらスケッチブックをそろそろと覗く。

「………………かっ…………こいい!!」

幽玄な出来映えに、目を丸くする。
己の手をひらひらと動かしてじっと見る。

「これが、」とまたスケッチブックに視線を戻し、

「こうなんのかー!!
 どうみても私の手なのに、イメージが全然ちがう!!
 すげーね画家って!!魔法みたい!!!!」

子ども達も集まって、スゲーだのかっけーだのと賞賛の言葉を口にする。

ビアトリクス > 「そうなればいい、とは思っているけどね。いつかは。
 まあ、時間はかかるだろうな」
返事はどうにも空々しいものとなった。


「……、ありがとう。
 絵描きの仕事は、見たものを見えたままに描くことさ。
 それを魔法と呼ぶなら――誰だって魔法は使えるんじゃないかな」
寄せられる賞賛の声に、少しの間ポーカーフェイスで硬直して。
手の描かれたスケッチブックを、
宝を仕舞うようにパタリと閉じて、色鉛筆や椅子を片付け始める。

「それじゃあまた。
 この手の絵は、トッキーの対価ということで」
なんかやたら増えている子供たちをかきわけて、
広場を去っていった。

ご案内:「異邦人街大通り」からビアトリクスさんが去りました。
轍ヒロム > 「前向きなきもちがあるならきっと、
 わるいようにはならない……んじゃないかな」
人を慰め慣れていないため、掛ける言葉が下手。

「あ、私は学園2年の、轍ヒロムだよー。
 ありがとうねー、ひえの君!」

去っていく少年に貰ったトッキーの絵を掲げ、ブンブンと手を振る。


子ども達と少し談笑し、それから。
いつものように仕事に向かうのだろう。

ご案内:「異邦人街大通り」から轍ヒロムさんが去りました。