2016/06/09 のログ
ご案内:「異邦人街」に迦具楽さんが現れました。
■迦具楽 >
【昼も盛りを過ぎて、おやつ時も過ぎた頃。
迦具楽は異邦人街の上空で、赤い軌跡を描いていた】
「ちがう、もっと――」
【両腕の補助機でサポートしつつ、左右上下へと空を泳ぐように軌跡を残していく。
背筋を使った上昇、きつい前傾姿勢を保つ下降、体の傾きと体重移動を使った左右への機動。
そのどれもがスムーズな動きを見せるようになっていたが、迦具楽自信はまだ、納得できないでいた】
「もっと早く……もっと綺麗に……!」
【まぶたの裏に焼きついた白い軌跡。
コーチ――八雲咲雪は、もっと早く、美しく飛んでいた。
速さを生み出すために適した綺麗な飛行姿勢を維持し、風のような速さで空を白く染めていた。
まだ足りない。
早さも、機動の滑らかさも、人を魅せるだけの美しさも。
だからずっと、練習を続けて――】
「――うん、やっぱり無理か」
【諦めるように呟くと、上半身を急激に起こして急減速。
そのままゆっくりと降下して、地面に腰を下ろした】
■迦具楽 >
【エアースイム、という競技には、S-Wingという道具が必要になる。
迦具楽が用意したS-Wingは、足に装着する赤い靴型のものと、赤い色をベースにした両腕に着ける肘までを覆うグローブ型の補助機の二種類。
足は必須のものとして、腕の補助機は主に安定性を上げ、小回りが利くようにするものが多い。
もちろんメーカーや製品によって違うものもあるし、チューニングによっては最高速をあげるようにも出来る。
しかし、それでも、迦具楽が魅了された姿のようには、飛ぶことはできない】
「そもそも、足と腕ってファイター向けよね。
最高速を出すなら背中か腰の大型S-Wingを用意するべきだし……」
【用意したとしても、あの姿に追いつけるような気がしなかった。
たとえば、同じ道具、同じ設定をしたとしても、恐らく同じようには飛べない。
そもそも相性が悪い。
背中や腰に余計なものを着けるのは、どうにも合わなかったのだ】
「やっぱり私にスピーダーは無理ね。
設定変えなくちゃ……」
【両手両足、四つのS-Wingを外して、端末を使い最高速に振りきっていたパラメーターを修正し始める。
さて、とは言ったもののどう調整したものか。
ぶつぶつと呟きながら、地面に座って液晶画面とにらめっこしていた】
■迦具楽 >
【無理とは言ったものの、性格や好みを除けば迦具楽はスピーダーとして恵まれているといっても良い。
小柄な体はスピードを出しやすく、当然空気抵抗も少ない。
また姿勢を維持するだけの筋力も、人ならざる者だけあって十分すぎるだけあった。
だから、そういった点を生かすとしたらやはり、スピードを生かすスタイルなのだろうが】
「とりあえず、初速と加速は高めにして
最高速は……まあいっか」
【少し考えながら、数値を調整していく。
S-Wingの設定項目は、主に三つ。
動き出しの速度に関係する初速と、加速性能、そして最高速の三つだ。
この三つのバランスが取れているほど扱いやすく、どれかに偏るだけ扱いづらくなる代わりに、尖った性能を発揮するようになる。
本来スピードを生かそうとすればスピーダーの設定となり、初速を犠牲にして加速と最高速の二つに割り振っていくのが基本だ。
しかし、ファイターとなると話は違ってくる。
主に初速が重要となり、最高速を犠牲にする事が多いのだ。
そうする事で小回りの効く機敏な動作が可能になる】
「まさか、この体でよかったって思う事があるなんてなあ」
【少し遠い目をしながら、調整した数値を眺める。
初速と加速が高い数値になっており、申し訳程度の数値が最高速へと割り振られている。
しかし、これでも恐らく、迦具楽が飛べば数値以上の速度が出るのは間違いなかった】
■迦具楽 >
「えーっと、設定したら術式に反映して……」
【S-Wingは魔道具であるため、設定を変更したならその術式に反映する必要がある。
これを忘れると、意図しない設定での飛行となり、危険なのだ】
「これで、よしっと。
はー……お腹すいた……」
【作業を終えると、腹の虫が盛大に鳴り出した。
S-wingを扱った飛行は、飛行中常に魔力を消費することになる。
燃費がとにかく悪い迦具楽としては、最近の必要カロリーが増えて困った者なのだが、この仕組みのおかげで、迦具楽は体格分速度を得しているのだ。
S-Wingは、競技としての公平性を保つために、レギュレーションによってS-Wingに一度に流し込める魔力量の上限が決まっているのだ。
そのため、どのS-Wingも、部位ごとの最大出力の限界は決まっているのだ。
これまでの設定は、その出力の割り振り方でもあったのだが、最大出力が同じという事は、重量が軽い分だけ当然速度は出る。
つまり、最高速をある程度犠牲にした設定をしても、迦具楽のように小柄でかつ、S-Wingも手足だけという軽量のものを使っていれば、最低限の速度は確保できる……というわけだ】
「初速と加速で、常に最高速を維持して飛ぶ……うん、これなら私にも出来そう」
【設定が反映されるのを待ちながら、楽しそうな笑顔を浮かべた。
とはいえ、今日はもう飛ぶのは終わり。
燃費の悪いからだが食料を求めて鳴きっぱなしである。
こんなところを人に見られたら、いくら迦具楽でも恥ずかしくて、目撃者を食べかねないのだ】
■迦具楽 >
「……そういえば、途中で見たお店が大食いチャレンジやってたような」
【たしか2kgの大盛りカレーを二十分で食べれば無料、というものだったなと思い出す。
2kgのカレー、その何割がルーなのだろうと気になるところだが。
二十分もあればちゃんと味を楽しむ余裕もありそうである】
「うん、帰りによっていこうかしら」
【2kgもカレーが食べられれば、一食分としては十分。
夕食はまた用意しなくちゃいけないだろうが、空を飛んで消費した分は十分に補えそうだった】