2018/09/02 のログ
ご案内:「異邦人街」に竹村浩二さんが現れました。
竹村浩二 >  
ゾンビ鰐との戦いでアーマード・ヒーロー、イレイスのボディは深い損傷を負った。
あれだけの大火力に二度遭遇すれば命がないかも知れない。

今、やるべきは。
イレイスの強化フォームを作ることだ。

強化フォーム。気が進まない。
変身ヒーローが最強フォームになれるのに最初は中間フォームで戦ったりするのにも理由がある。
コストがかかるからだ。

強力なパワー! 堅固な装甲! それを支える人口筋肉!
考えただけで怖気が走るレベルの莫大な費用に支えられているに違いないのだ。
全く、気が進まない。
でも材料集めはしておこう。

まずは外装甲からだ。異邦人街で素材を探す。

竹村浩二 >  
ぼんやりと異邦人街の金物を取り扱う商店街を歩く。
錬鉄、モリブデン、セラミック、ミスリル。
様々な金属が並ぶが、これといったものは見つからない。

それにしても寒くなった。
俺は寒いのが苦手だ。
何度だって言ってやる。俺は、寒いのが、苦手だ。

ずっと夏ならいいのになぁ。
そんなことを考えながら異邦人街をぶらついた。
探索が終わったらラーメンでも食うか。

竹村浩二 >  
ふと、足を止めた店でミスリル鋼のインゴットを見つけた。
ミスリルねぇ。加工しやすくていいんだけど。
純度がねぇ。

インゴットを店の人に許可をもらって手袋を嵌め、持ち上げる。
うん、重い。
こりゃ混ぜ物のしすぎだぜ。
純度が高い、あるいは質のいい合金のミスリルは驚くほど軽い。
現在のイレイスの外装甲はほとんどミスリル合金で構成されている。

でもこんな粗悪なものは使い物にならない。

「悪い、やめとくよ。こんなもの買っても文鎮にもなりゃしねぇ」

店番の罵声を背中に浴びながらポケットに手を突っ込んで歩き出す。
こんな調子で良質な金属なんて手に入るのか?
だんだん不安になってきた。

竹村浩二 >  
煙草をくわえて、火をつける。
歩き煙草をしながら金物の並ぶ商店街を歩く。
鍋、フライパン、フライ返し、スプーン、エトセトラ、エトセトラ。
だんだん、所帯染みたものが増えてきた。

たまに鍛冶師の作った包丁なんかが並ぶが、どれも一瞥に終わった。
そもそも俺は料理をしない。
家にメイジーが……あの野良メイドがいたなら。
そんな考えを顔を左右に振って追い出した。

その時、古美術商のエリアまで来て引き返そうとした時。
ふと、目に付いた。
見事な甲冑。だがあの色は?
まさか、ウソだろ。

「……オリハルコン製の鎧……か?」

トランペットに憧れる少年のように古美術店のガラスにぴったりくっついて凝視。
間違いない、オリハルコンだ。レアすぎて金を積もうが売ってないレベルの金属。

竹村浩二 >  
思わず煙草を落としそうになって慌てて携帯灰皿で火を揉み消す。
これは。これを鋳潰してイレイスの強化フォームの外装甲を作れたら。
いや待て、値段……書いてない。
そもそも予算的に買えるかどうかわからん。
落ち着け、落ち着くんだ。

呼吸を整えて店内に入る。
口ひげを蓄えた店主に声をかける。

「どうも、俺ぁここら辺に住んでる者なんですがね」

ふと、店に並んでいる品を見る。
唐津焼があった。すげぇ、20万するこれ!?
確かに気品っつーか、オーラっつーか、そんなものを感じる一品だった。
ひょっとしてとんでもない値段をふっかけられるんじゃないかとおっかなびっくり。

「あの……表に飾ってる甲冑、おいくらで?」
『いやいや、お客さん目が高い。あれはお気に入りの品でしてね…』
「はぁ、わかります。大層素晴らしい……」

腹の探りあいの始まりだ。ぜってーあのオリハルコンはいただく。

竹村浩二 >  
とりあえず値段の提示だ。
相手もそれを望んでいるに違いないのだから。

「……これでどうです?」

へらへら笑いながら指を二本立てた。
二十万。あの唐津焼と同じだけ出そう、という意思表示。
すると、店主は首を左右に振って右手のひらを見せた。
五十万っすか!?
さらに笑いながら左指を三本立てる。
は、八十万!?

こ、こりゃとても手が出ない。
異邦人と思しき店主は、それでも一切動揺していない。

「すいません、現品を見せていただいてもよろしいですか?」

そう言って背を向けて汗を拭う。
オリハルコンたっけぇ!!
信じられねぇ!! 一介の学園用務員には手が届かねぇ!!

で、でも同量のオリハルコンインゴットを買おうと思ったら三桁万円いく。
ひょっとしたら店主はあの甲冑の素材がわかっていないのかも知れない。

まだ、チャンスは、ある。

竹村浩二 >  
成分検査機の先端をこっそり西洋甲冑の裏に押し付ける。
間違いなくオリハルコン。それも純度99.999999パーセント。
俗に言うエンドレスナインというやつだ。

息を呑む。
ほ、欲しい。
ヒーロー業のために。さらなる力のために。

「いやぁ、業物はヴァンブレイスに力がありますな」
『そうでしょう? 私の元いた世界の職人が造った逸品です』
「い、いーい仕事してますねぇ」

ええい、ダメでも仕方ない。
ギリギリまで交渉してやる。

指を三本立てた。
三十万。はっきり言って相手の提示した金額の半分にも行ってないが、俺の全力だ。
それに対し、店主は何言ってるんだこの小僧、目利きができていないんじゃないか?という顔で高笑い。

嫌な汗が噴出してきた。
八十万は出せない!!
今まで雑に生きてきた自分を呪う。
なんで自分はケチな賭博や商売女を買うために無駄遣いしてきたのか。

もっと貯金しとけよ、俺ぇ!!

竹村浩二 >  
わなわなと震えながら、最悪土下座で分割払いを許してもらうか?
と考えた。
八十万。地に足をつけた生活をしていれば、何年かかけて支払えないだろうか。
だが、だが。
そこまでする必要があるのか、自分の価値は、そしてつまらん矜持は。

青褪めた表情で立ち尽くしていると、店主は。

『八万円、用意できたらまたおいで』

と冷徹に言い放った。

は?

はちまんえん?
オリハルコンの甲冑が?
この世界に許された奇跡の残り香が?
はち、まん、えん?

「…やっぱ買います」

と言って財布から金を出してぺこりと一礼した。
店主は満足げに、毎度ありと言った。

こ、こいつ……鎧の素材がわかってねぇー!!
ただの板金鎧だと思っている!!
だが、だが。ごっちゃんです。いただきます!!

竹村浩二 >  
『ニイちゃん、この街の人かい? 重いだろ、家まで輸送させるよ』
「いえ! いえ! いいです!! 持って帰ります!!」

がっちがちに緊張した様子でオリハルコンの鎧を異能で異空間に収納。
何とか収まった。
あとは帰るだけだ。

『ニイちゃん』
「はいぃ!!」

後ろから声をかけられて、ビクッと立ち上がる。
だらだらと汗を流しながら振り返る。

『ありがとうね』

そう言って店主が頷いた。

「は、はい!! こちらこそありがとうございました!! では!!」

そう叫んで逃げるように店を後にした。

せっかく素材が手に入ったことだし。
…強化フォーム。作ってみるか。

ご案内:「異邦人街」から竹村浩二さんが去りました。