2015/08/14 のログ
ご案内:「真新しい社」にサヤさんが現れました。
サヤ > 夏休みはもう終わったが、もとよりサヤはあまり授業を取っておらず、今日は午前中だけで終わりだった。
時間を持て余していたところに、以前頼んでおいた社が出来上がったという連絡が端末に届いたので、社に神を降ろす準備をしてやってきたのだった。
緊張した面持ちで、社の前に立つ。これから神を呼ぶのだ、間違いや無礼は決してあってはならない。二度三度、手を握り、覚悟を決める。

サヤ > 社に向かって、深々と頭を下げる。神降ろしの儀が始まる。
髪留めで前髪を横分けにして額を出す、神々は額で人を見るので、出しておかねば無礼にあたるらしい。
指の曲げ伸ばし、足を運ぶ距離、呼吸のタイミングににすら意味があり、全ての動作に敬意を込める必要がある。何度も練習し体に叩き込んだ動きを、慎重にこなしていく。
一、二度深呼吸、真新しい木の香りが心地よい、前もって清めておいた脇差しを、静かに社の中へ収める。

サヤ > その場に正座し、腰に差した刀を両手にのせ、神に差し出すように、前へ出す。鞘に収まっていても刃を社に向けてはいけない、間違えないように細心の注意を払う。
数秒待って、刀を手元に戻し、自分の前に置く。そして、ひどくゆっくりと懐に手を入れ、黄金色の鈴を一つずつ、合計十個取り出す。
短い紐のついたそれを、一つずつ等間隔で鞘に結びつける。左手の指がうまく動かず、手間取る。
すでに神が来ているかもしれない、苛立ってはいけない。深呼吸をして心を落ち着け、ナメクジが這うようにゆっくりと作業を進める。なんとか全て結べた。
出来上がるのは剣鈴と呼ばれる祭具、の代用品。本来なら専用のものがあるのだが、着の身着のままこちらにやってきたサヤが持っていようはずはない。

サヤ > 一度目を閉じ、深呼吸。大丈夫、やり方は覚えている。人刃一刀流の祭神ヒトツルギノカミ、人刃一刀流の広まっていない土地へたどり着いた剣士が、新たな社を作り神を呼び寄せる儀式。
免許皆伝を得、新たな道場を作ることも許されているサヤは、その儀式の作法を体得していた。
だが実際にやるのは初めてだ、間違いは許されない、額に汗が伝う。
刀を手に取り、ゆっくりと立ち上がる。
舞い始める、神を呼び楽しませるための舞い。刀を振るうたび、くるりと回るたびに鈴がシャン、シャンと清音を発し、その音は夏の空へと溶けていく。

サヤ > そして、儀式が始まってから初めて口を開き、朗々と謡う。
「~~~~~。」
翻訳魔法のかかったタリスマンは外してあるために、それはこの国の言葉に聞こえない。
その言葉はこの世界の誰にも理解されぬ言葉、神々が語る人ならざるものの言葉。
ただ神だけに捧げる唄は、訳すればこのようになるだろう。

サヤ > ヒトにしてツルギ、そしてヒトツたる我が流祖、白にして白刃、不知敗の剣聖、掛け巻くも畏きヒトツルギノカミ。
我は御前に請い願う。それは命にしがみつく浅ましき卑剣、生き延びるためにヒトを捨てる悍ましき邪剣。
人刃一刀の下に、我は御前に来たり来たりて此れの神床に坐さんと願うことを。
恐み恐みも白す。

サヤ > 唄が終わり、舞いも終わる。最後に刀を振るい、シャランと音を立てる。
社へと向き直り、背筋を正して、深々と一礼。
こうして、儀式は終わった。舞いも唄も激しいものではないが、全身にびっしょりと汗をかいていた。

サヤ > 終わったが、本当に神が降りたのかはわからない。
放浪癖のある神らしく、長年祀っている社でもしょっちゅういなくなったりするらしい、だから今呼ばれたからといってすぐに来るというものでもないだろう。
また後日来てみよう。そう考えながら髪留めと鞘につけた鈴を外し、もう一度社に礼をしてから、立ち去った。

ご案内:「真新しい社」からサヤさんが去りました。