2015/09/12 のログ
ご案内:「教会」に鏑木 ヤエさんが現れました。
■鏑木 ヤエ > (ひゅう、と一筋の風が吹き込んだ。
その風はぐわんと朽ち始めた教会に佇む少女の髪を揺らした)
「かみさま」
(祈るように。されど彼女の神様が何であるかも知らない。
ただその言葉に縋って、言葉に祈るように両の手を握った。
目を閉じる。目つきの悪い紫水晶が瞼の下に隠れた。
先日の喧嘩でつけた頬の傷がじわりと色素の薄い肌で自己主張している)
「かみさま、かみさま。お願いですよ」
(目を閉じる。
果たしてそれがどんな宗教の神様に対して祈っているのか。
果たしてそれがどんな人々が祈ったあとだったのか。
知らない。されど、何かの夢の。何かの羨望の跡であるなら、と。ただ祈った)
■鏑木 ヤエ > 「やえです、やえですよ。
やえ、いい子にしていますから。おねがいします」
(何時も通り、起伏の少ない単調な言葉。
それでもどこかいつもとはやや表情が違っていて。
ぼう、と目元に涙が滲んでいて。それから───)
「やえは死にたいんです。それでもやえは死ねないんです。
だって、やえは臆病ですから。逃げてしまうんですよ。
死ねそうなのに、やえは逃げてしまうんですよ。死にたくねーですから」
(告白。
人の子も異界の子も存在しない、ただ華奢な少女がいるだけの教会で落ちた告白。
誰に聞かせるでもない。許しを乞うのと似たその告白は、宙に溶ける。
ちかちかと陽の差し込むステンドグラスが色彩を瞬かせた)
「なあんで、やえはこんなに弱いんですかねえ」
ご案内:「教会」に声さんが現れました。
■鏑木 ヤエ > (落ちた水滴を拭った。
赤いカーディガンの袖口がやや深い赤色に変わる。
血のように赤々としたそれは、彼女の肌の色とは正反対で)
「……臆病なのは考えられるニンゲンの優位性です。
それでもやえは臆病さというのは何の得にもならないと思います。
優位性を持つゆえのマイナスであると、やえは思うんです。
かみさま。やえは臆病でいてもいいんですか。
かみさまかみさま。やえをあなたは許してくれるのですか」
(カラコロ零れ落ちる軽口とは対照的なそれ。
重々しく、それはそれはこの教会という重苦しい場に沿っていた。
一見すれば贖罪を求める聖女にも見えるが実際はそんな綺麗なモノではない。
記憶がない、と前置きして好き勝手に生きているだけの二級学生だ)
■声 > 「―――はたして」
【ふと、声が落ちた。】
「諸手を差し伸べる神に死を請うとは、いったいどうしたことでしょう」
【天より声が降りた。優しくやわらと声は尋ねる。
不思議そうに問う声は娘を咎める風を含まず、しかし好奇に満ちるわけでもなく。静かに淡々と尋ねた。
誰もおらん筈の名無しの教会に、声が降りた。】
「人間は臆病だと肯定しましょう。故に臆病でいたいのなれば、それもまた善しとすべきでしょう」
【雪解け水のようなしっとりとした声で天はただ言葉にした。】
■鏑木 ヤエ > (からんころんと落ちた言葉は。
文字通り頭の上から降って落ちた言葉は自分の声ではなく。
ああ、まさしくかみさまでしょうか。
ああ、もしや天使でもありますでしょうか、と)
「やだなあ、かみさまっていうのはですね。
直接は人の子の前に現れてはいけねーものですよ。
それこそやえは巫女さんでもシスターでも聖女でもありませんし。
安売りをするモンじゃあねーですよ」
(ゆたり、頭を持ち上げた。
それが一体何者なのかも、果たして神様であるのかどうかすらわからない。
鮮やかな紫色の瞳がちらりと覗いた)
「なるほど。
自分の好きなように好き勝手しやがれ、ってオハナシですか」
(それはそれは無礼に。
神だか天使だかはたまた悪魔だか妖だかもしらないそれに問いを投げた)
■声 > 【神様のような高位は、果たして誰もいない教会で鎮座しておられるのでしょうか。
いえ、けれど天使とは的を得ている、よな。】
「姿は現してはおりません。安売りなどと仰っても、わたくしはこの名もなき教会の者。
啓示とて安売りしても、宜しいのでは」
【あぁ、ヘリクツでしょうか。けれど夢の中でお告げを伝う神様とていらっしゃいます。
神格の低い神様は意外とフランクなのやもしれません。】
【僅かな空白。 広い聖堂の中に谺する余韻が消え掛けた頃、声の主は娘に見えない首を傾けた。】
「聖歌にも聖書にも、神を讃え神に媚びる歌の中には救いなんてありません。罪も罰も、裁くのは人でしょう」
【汝、好きなように好きにしたら良い。その発想は悪魔のようでもあり、神様からはズレた――天使のような告げ言でもあり。
無礼だろうと語気を弱めず、強めず。ただ淡々と紡ぐ。】
■鏑木 ヤエ > (かみさまは応えないからこそかみさまだ、と。
それが鏑木彌重にとっての神様であった。
無責任に救済を遂げ、無責任にその糸を切り落とし。
無責任極まりなくニンゲンを嗤うからこその神様であろう)
「声もなんでもオンナジですよ。
いるんだかいねーんだかわからないからこそのかみさまでしょうて。
そんなにあたかもここにいますよ、なんて言われちゃあ信心深いやえも聞いて呆れます」
(はあ、と肩を竦めて溜息ひとつ。
「盗み聞きは関心しねーですよ」、と憎まれ口をひとつ放った)
「それはどのシューキョーのオハナシですか。
世の中には沢山沢山あるんですよ。八百のかみさまがいるだとか。
それともこの島にある神社でも誰かのかみさまが祀られているだとか。
やえのかみさまはですね、救ってくれるんですよ。
迷って、なにも出来ない子羊を導いてくれるのがやえのかみさまなんですよ」
(その正体知れず降る声に幾らか呆れた様子で言葉を並べる。
神の定義も多々あろう。その中のどれかであるのかと思案を重ねるも、落ちるのは溜息。
天使だか悪魔だかも知ったことではない。困ったようにかぶりを振った。
羊を思わせるもこもこの濁ったクリーム色の髪が揺れる)
■声 > 【――神は所詮偶像に過ぎない。
神を為す声はさもそこに神たるものがあるように、呆れの声に対して口元を緩ませた。
嘲笑うなんてとんでもない。神はそも、人を見ているのだろうか。】
「それはそれ は。 神を信じ、己の価値に重きを置く娘。
盗み聞き、とは――なればあなたは何に祈り、何に問い、何に告げるのでしょう」
【そうして続けられる、子羊のような娘風貌からの言葉は、己の信ずる神と。
色濃いクリーム色の髪はかぶりを振って揺れる。】
「あなたの求める結末。終末。来たる未来」
【滔々と言葉を重ねる。】
「貴女の救い、導きとはどのようなものでしょう。ただ貴方の紡いだ『臆病』を懺悔と赦しを聞いてもらうだけの偶像でございましょうか」
■鏑木 ヤエ > (偶像であり、全ての原因をそこに求めることが出来る存在。
さながら舞台装置の絡繰人形であるかのような存在。
不定であり、不遜であり、不屈であり、ある種不死である存在。
果たしてどうやら、神は人間を見ているのだろうか。
かの作家の蜘蛛の糸では釈迦は気紛れに罪人を見下ろしていたのみだ。
それはいったい、人間に知ることはできなければ知ることができない故の神であり、偶像なのだ)
「やえのかみさまに祈っていただけですよ。
よくあるハナシでしょうて。あなたの神に祈りなさいなと。
少なくともアンタに祈っていた訳でもアンタに問うた訳でもなくアンタに告げた訳でもありません。
ヒトチガイですよ」
(目つきの悪い紫のそれが覆い隠れた。
瞑目。ただ何を考えている訳でもなく、ただ目を閉じた。
ゆらり、思案の海に揺蕩うような感覚)
「シラネーですよ。
ただ謝って許してもらった気になっているだけですから。
やえのかみさまは何時だってやえに都合のいい存在ですから。
そういうものでしょう、かみさまなんて。ニンゲンの優位性の原因の終着点です。
………、求めるケツマツ、ですか。
特にねーですよ。
実際問題ありませんが誰かもしらねーアンタに言うハナシでもないでしょうて」
(呆れたように、目を開かないままにただ言を落とした)
■声 > 【カラクリは物言わぬ。紡ぐ言葉は必要ない。ただ黙って話を聞いてくれる役割があれば良い。
神も同様。しかして神の形は人が話を聞いてほしいからと作り出した"像"に過ぎない。
声の主は変わらず、幻想じみた、水に揺れるような言葉を広げる。】
「それは、ご無礼を」
【不遜な態度が彼女という人格形成のひとつ。ヒトチガイ。カミチガイ。
けれどその答えに応答する声は鈴を転がすよに揺れていた。
それもまた咎めるよな言動はない。為したいようにとするのは先の通り。
思案にふける姿を天より眺め、沈黙を作り出す。少しの間をおいて破る、声。】
「自己満足、逃避、陶酔、停滞、終着―――
姿形さえ、人の好きなように象られ、如何なる存在かも分からない。
えぇ、えぇ。確かにたまたま声を拾っただけの気まぐれ。その言葉を紡ぐ理由はありません
願いを叶えてあげられるランプの精でもございません。
ただ、黙ってお言葉に耳を傾けて荷物を降ろす。その軽減こそが本懐。手助けしているに過ぎません」
■鏑木 ヤエ > (故に、)
「アンタは一体何をしたいんですかね。
カワイソーな子羊たるやえに何をさせたいんですか。
罪の告白ですか。それとも贖罪ですか。それとも────」
(嘲った。
ただそれだけ。果たして誰とも知らぬ声に対して、不遜に嗤った。
下らない、とでもいうようにゆっくりゆっくりとかぶりをふる。
胸中、「かみさまなら謝ってんじゃねーですよ」、と独り言ちた)
「やえはやえのかみさまに聞いてもらいに来たんですよ。
特に誰とも知らないアンタと話すことはこれ以上ないでしょうて。
かみさまであるならば。それ以外であったとしても。
子羊を導きたいのであれば自分が迷子になってしまっては元も子もねーですよ」
(ぐしゃり、幾らか落ちたステンドグラスをストラップシューズの底が踏みにじった。
はらはらと舞う欠片をぼんやりと眺めれば、そのまま興味を失ったように背を向ける。
こつりこつりと人の居ない──果たして先刻の声が何だったのかは知ったことではないが──
教会を後にする)
「やえは祈りに来たんですよ。押し問答をしに来たわけでもないでしょうて」
(溜息だけが、その教会に落として残された)
ご案内:「教会」から鏑木 ヤエさんが去りました。
■声 > 「あなたの境遇も、あなたの理由も、あなたの理論も、わたくしにはとても理解の難しいものなのでしょう。 わたくしとてあなたを理解出来るとは思っていません」
【神様の名を謀る天使なぞに、罪を吐かせたところで何になるというのか。
神であって神でない。高位であり高位でない。地に堕ちたとも異なるモノに。
嘲笑いを享受した。最後まで、最後まで神は穏やかに。去り際までは波のよに穏やかに。】
「さて――」
【祈れるものが神だと想えばすれば神のようでもあったかもしれない。恨めるものが悪魔だと想えば悪魔のようであったかもしれない。
声は聖歌も悪魔の囁きも吐かなかった。】
「人同士であれば、理解しあえるのでしょうか」
【理解が及ばずとも、感情の共有が叶わずとも、手をさし伸ばして触れ合うことの温かささえあれば――だなんて、綺麗事。
教会から去る娘。溜息と共に紡がれた言葉。
再び訪れた静寂の後、夕刻に現れる若き三本足の生命体が動き出す。
やがて教会には誰の姿もなくなった。】
ご案内:「教会」から声さんが去りました。