2015/09/21 のログ
ご案内:「真新しい祠」にサヤさんが現れました。
■サヤ > 夕暮れの宗教施設群の一角、施設と施設の間の僅かな隙間に、その祠は立っていた。
祀られている神の名はヒトツルギノカミ、サヤの扱う流派である人刃一刀流の流祖が神格化されたものであり、この世界には現時点でサヤしか信者が確認されていない。
「やっぱりまだ、草の伸び方は夏ですねぇ。」数日の間にすっかり雑草が生えた敷地を眺めて、サヤはつぶやいた。手には他の施設から借りてきた掃除用具一式。
異邦人街の基本は自分のことは自分でやれ、である。頼まれもしないのに信じていない神の祠を掃除する人間は少ない。というわけでサヤが全てやるしかないのだ。
■サヤ > まずはあまり踏み固められてない柔らかい土に、これ幸いとばかりに繁殖している雑草からである。道具は使わず素手で抜いていく、根っこが残っていればすぐ生えてきてしまう。
あまり広くない敷地だが、まだ双葉が出たばかりの小さいものも見逃さないようにしているため、あまり作業速度は早くない。
■サヤ > 抜いた雑草は持ってきた麻のような繊維で編まれた袋に入れていく。
樹木の神を祀っている施設でもらってきたもので、雑草を袋ごと堆肥にして神に捧げるらしい。
ゴミ捨て場は少し遠いので、サヤもありがたく利用させてもらっている。
雑草をぷちぷちと抜いていると、段々楽しくなってくる。段々と無心になってきて、世界には自分の手と雑草しか存在しないような錯覚にとらわれる。
段々とその極地へとサヤは至ろうとしていた、無言で抜き続ける。
■サヤ > 「……あら。」敷地を見渡して、もう雑草が残っていないことに気付く。
いつの間にか終わっていた。太陽はすっかり傾いて、遠くの空は夜の色をしている。
袋も雑草でパンパンだ。とりあえず口を縛って、敷地の隅に置いた。
バケツを持って近くの水場へ行き、水を汲んだ。
また祠のもとへ戻ると、手を合わせて掃除をする旨を神に念じmスポンジに水を含ませて丁寧に屋根瓦を洗う。
■サヤ > 一段落して水を絞ると、埃と土が混じった黒い水が大地に吸い込まれていく。
またスポンジに水を含ませ、作業を続ける。
手を動かしながら考えるのは、石蒜のこと、そして畝傍さんと千代田さんのこと。
石蒜は表面上はなんでもないように振舞っているが、やはり畝傍さんに会えなくて寂しそうだ。描いている絵も全然進んでいない。
テレビを見たりする以外は表に出てこず、物思いに耽っているようだ。
畝傍さんが戻ってくる前に石蒜が体調を崩してしまうのではないかと心配になる。話を聞いてみても、なんでもないと首をふるばかりだ。
■サヤ > 露骨に態度に出しては居ないけど、石蒜は千代田さんを、目の灰色の炎を見るたびに少し落ち込んでいる。
千代田さんに失礼だと思っているのか、千代田さんの前では特に表に出たがらない。
「はぁ…。」思わず、ため息が漏れる。どうすればいいのだろう、人格の交代のやり方だって、私と石蒜の場合と、畝傍さんと千代田さんの場合では多分全然違う。それにとても感覚的なものなので言葉で教えるのも難しいのだ。
屋根の裏も丁寧にこすって、また水を絞る。
少し黒ずんできたバケツの水へスポンジを浸し、社殿を洗い始める。木製なので強くこすらないように気をつける。
■サヤ > 外側を洗い終える。
手を合わせて、失礼しますと心のなかで呟き、扉を開ける。
ご神体の短刀をそっと取り出して、中は乾いた布で拭く。
また丁寧にご神体を中に戻して扉を閉める。
普段の清掃ならこれぐらいで十分だろう。
背筋を正して、祠に向けて一礼。
随分黒くなったバケツの水を側溝に流して、中に掃除用具を入れると、雑草を詰めた袋を持って、祠を立ち去った。
ご案内:「真新しい祠」からサヤさんが去りました。