2016/01/23 のログ
ご案内:「小さな祠」にサヤさんが現れました。
■サヤ > 夜、参拝客も減り静かな宗教施設群の一角で。
「はっ!!せいっ!!」掛け声が響く。
片手で持った木刀で素振りや型らしき連続した動きを繰り返す少女の名はサヤ。
人刃一刀流と呼ばれる剣術の使い手である。
その腕は数え年で15という若さにして免許皆伝というほどであるが。
「はぁっ!!やっ!!!」その動きはどこか精彩を欠いていて、それを本人も分かっているのか、浮かない表情である。
「はぁ……はぁ……。」剣を振るうほど、足を踏み込みほどにわかる。自分の腕が落ちている実感。
今、この世界に来た直後の自分と戦えば、100回やって1回勝てるかどうかだろう。それほどに自分は弱くなっている。
だからといって、鍛錬を止めればもっと腕が落ちる。嫌な気分を振り払うように、遮二無二木刀を振るい、空き地を駆けまわる。
「やぁ!!てぇぇい!!」
ご案内:「小さな祠」にステーシーさんが現れました。
■ステーシー > 木刀を合成皮革のケースに入れてトボトボと小さな祠にやってくる少女。
猫耳に猫の尻尾。一目でわかる亜人である。種族名、フェルパー。
そんな彼女が夜の祠にやってきたのは、剣の練習のため。
先日、私闘にディバインブレード『旋空』を使い、そのことを上司に叱られたために最近は木刀で剣の練習をしている。
いわゆる謹慎の身。自然と歩く姿に覇気もなくなる。
「……あれ、誰かいる…」
空き地のほうに足を向けると、木刀を持って剣の練習をしている少女の姿。
「あのー、剣の練習かしら?」
勇気を出して話しかけてみる。
女剣士なんて、親近感が沸く。
■サヤ > 声をかけられても、一瞬そちらに目を向けるだけで、しばらく型を続けている。右手で木刀を振るい空いた左手で攻撃を防ぐ、基本はそれの繰り返し。
一通りを終えて、木刀を腰に差し、祠に一礼してから、相手に向き直る。
「すみません、お待たせしてしまって。」
まずはすぐに対応出来なかったことに頭を下げる。
「ええと……。」何を聞かれたんだったか、そうだ、練習かどうか。「あ、はい。型の確認をしていました。」
見れば相手も木刀を持っている。もしかすると?
「あなたも、剣士でしょうか?あ、私はサヤと申します。ええと、常世学園の一年生です。」軽く自己紹介をして、もう一度頭を下げた。
■ステーシー > 巫女装束の少女の型は、流麗だ。
だがその表情はどこか不満そうにも見えた。
「ううん、気にしないで。型の最中に話しかけたんだもの」
手をひらひらと振って、大丈夫だと告げる。
「ええ、私も剣士。常世学園の一年、生活委員会兼怪異対策室三課のステーシー・バントラインよ」
「女の子で、一年で、剣士で……色々親近感を覚えるわね」
「よろしく、サヤ」
にこやかに握手を求めて。
■サヤ > 「練習は途中で止めるな、と教えられたので……そう言っていただけると、良かった。」
ほっと胸を撫で下ろす。
「生活委員会…の、かいいたいさく、さんか…の、ステーシーさんですか、よろしくお願いします。」
差し出された手を、少し躊躇いがちに握る。握手という習慣には慣れていないようだ。
握った手は、マメやタコでゴツゴツしていることだろう。
「色々同じで、少し不思議ですね。えと……不勉強で申し訳ないのですが、かいいたいさくしつ?というのは、どういったものなのでしょうか?」
伺うように、少し上目遣いに質問する。
■ステーシー > なんかいい人そうで安心する。
最近は自分の進んできた剣の道すら曖昧に感じてきたところに、良い出会いになるかも、そう思った。
相手の手を握る。相当練習してきた手だ。
自分の手も同じだけれど、積み重ねた努力は嘘をつかないし嘘がない。
この手には嘘がないのだ。
「怪異対策室三課というのは、こう……異世界と繋がるゲートからやってくる招かれざる訪問者である…」
「人類に敵対的な怪異を退治するのがメインの仕事な、生活委員会の下部組織よ」
「とはいっても最近生まれた組織だから権力も規模も小さいのだけれど」
腰に手を当てて胸を張る。
「そして私が貴種龍を倒す使命を持った怪異対策室三課期待の新人!」
自分で期待の新人とか言っておどけて見せちゃったりして。
「それで、サヤ。あなたも木刀で型の練習をしていたようだけれど。私と一緒に練習試合でもしてみない?」
「きっとあなたとなら、良い修練になると思うのだけれど」
■サヤ > 同じ、女の子には似合わない固い手。数えきれないほど剣を振るってきた手だ。
なんとなく通じあったような気持ちで手を離す。多分、悪い人じゃない。手に残った感触を確かめるように、何度か手を開いたり閉じたり。
「なるほど、確かにこの島には、色々な世界からの門が開きやすくなっていると聞きます。
それへの対処も生徒の方が行っていたんですね。そしてステーシーさんは、怪異対策室の期待を一身に背負っていると、凄いですね!一年生なのに。」
それが冗談の類とは思わず、サヤは鵜呑みにしてしまう。尊敬に目が輝いていた。
「練習試合、ですか……。」その言葉には一瞬、迷う。自分で釣り合うかどうか、何せ相手は期待の新人様なのだ。
しかし、実践の中で何か、今の自分の不調を解決するきっかけが見つかるかもしれないと考え。
「わかりました、私でお相手になるかはわかりませんが、よろしくお願いします。」と頭を下げた。
少し下がって、お互いが正眼にかまえて切っ先が触れ合う程度の距離に立つ。
「あ、始める前に1つ。私の流派はその…いささか、というか結構卑怯な技がありますので、その辺り、ご了承お願いします。」
一度何も言わずに試合をして大変怒られたので、事前に伝えておくことにしたのだ。
■ステーシー > 「うっ…………」
冗談を真に受けられてしまった。
「じょ、冗談よ……? さすがに入ったばかりで多大な期待を受けるほど大層な人間じゃあないのよ…?」
あわあわと慌てて訂正する。
「ええ、こちらこそ。よろしくお願いします」
同じく頭を下げる。猫耳がふにゃんと垂れ下がった。
「私こそ、胸を借りるつもりでいくわ。あなたの動き、綺麗だったもの」
まず正眼に構える。基本中の基本、攻撃にも防御にも早めに動ける。
「ええ、構わないわ。私のバントライン一刀流も卑技邪剣の類がたくさんあるから」
「それじゃ、いざ尋常に……」
剣気を膨らませる。
木刀である。抜刀術はできない。
だが、それでも他流試合に胸が躍らないわけではない。
「勝武ッ!」
そう言って薄く笑う。まずは後の先を狙う。動かない。
■サヤ > 「あ、あ、そ、そうなんですか。すみません早とちりしちゃって……。」
両手の指先を合わせて恥ずかしそうに口元を隠す。おどおどとした仕草。
大きく息を吸って、吐く。するりと木刀を右手で抜き、構える。先程までの気弱そうな少女ではなく、一人の剣客の姿。
左手の平を前に突き出し半身になり、体の奥に木刀を隠す。脇構えに似た独特の構え。
剣と同調する。握る手から木刀に神経を巡らせ、一体と…まではなりきれず、一瞬顔をしかめた。
「流派は人刃一刀流。」「
いざ、尋常に。」二人の声が重なる。
「勝負…!」低く、呟いた。
相手は待ちに入ったようだ。狙いは後の先だろう。
人刃一刀流は守りの剣、基本は左手でいなし、右の剣を叩き込む。
数秒か数分か、睨み合う。
恐らく地力では負けている。ならば、狙うは短期決戦!
先に動いたのはサヤ、姿勢を低くし、左手を盾のように掲げながら一気に駆け寄る!
倒れこむように飛び込みながら、足元を狙い横薙ぎの一撃を打ち込んだ!
外れようと当たろうと、そのまま前転して後方に回りこんで立ち上がりながらの切り上げを見舞うつもりだ。
■ステーシー > 一瞬、相手の気配が薄れたように見えた。
いや、違う。相手が木刀と一体化を図ったのだ。
完全ではないものの、それで木刀の気配のみが先んじて感じられたのだろうか。
手強い。生兵法で敵う相手ではないだろう。
ならばバントライン一刀流の教えを、堅実に守る。
技は体が覚えている。この試合、判断力が勝敗をわける。
「……っ!?」
相手の攻撃は、低い。足元を痛打してくる。
恐らく、連係攻撃の布石、だがこの低きを攻撃する手段はあまりに少ない。
「くっ!」
真上に跳躍して回避、猫の身のこなしで体の軸にブレは一切ない。
だが、以前に竜人と戦った時に攻撃を叩き込まれた、空中の愚。どう出る。
■サヤ > 木刀が空を切る。前転とともに回る視界の端で相手が飛ぶのが見えた。
綺麗な跳躍、バランスが崩れていれば即座に追撃に移れたが。
一瞬迷う。カウンターのための罠にも思えた。
前転を終えて体を半回転させ、相手に向き直りながら左手で地面の土をすくって小石を拾う。
日和見とも言える安全策、指弾を放とうとして……指が動かず、小石を取り落とす。
「~~~ッ!!」攻撃の機会を逃した苛立ちを露わにしながら、後方へ飛んで距離を取る。
「……。」タタミ2枚ほどの距離で、また構える。最初と同じ、土で汚れた左手を突き出した構え。
「お見苦しいところを……。」声から、わずかに憤りを覗かせる。明らかに本調子ではないのがわかるだろう。
■ステーシー > 左手一本で着地するとそのまま身を捻って相手から離れた。
「いいえ。お互い、本調子とは程遠いようね」
「だからこそ、試合で少しでも復調できればいいと思うわ」
竜人との死闘の後、戦うことに迷いを持った自分。
彼女はやはり、自分と似ていると思った。
「ディバインブレードなくともッ!」
刃を下げ、相手に向けて歩き出す。
その姿が相手からブレて見えているだろうか。
独特の歩法と緩急をつけた動きにより、自身の影と一体化する幻惑の剣術。
「連影撃ッ!!」
ゆらりと動きながら相手に迫り、袈裟掛け、逆袈裟、袈裟掛けの3連閃。
■サヤ > 「そう、ですね…。」
眩しいものを見たように目を細める。復調は出来るのだろうか、落ち続ける剣の冴えと、時折いうことをきかなくなる左手が、元に戻る日が。
「ふっ。」小さく息を吐いて思考を切り替える。今は勝負の最中、悲観している時ではない。
近づいてくる相手に視点が定まらない。幻惑する足運び、いかなる方向からの攻撃にも備えられるように、盾である左手をゆらゆらと揺らす。
振りかかる袈裟斬りを左手でなんとかいなす、だが間髪入れずの逆袈裟に、弾かれた左手は間に合わない。
「っ!!」脇腹目掛けて襲い来る軌道に、木刀の柄を合わせてこれも逸らす。
今度は右手が大きく弾かれた。三連撃の3つめ、もう一度袈裟斬りが来ると見て、左手を握り、勢いが乗り切る前に木刀に拳を打ち込んだ!
「疾ッッ!!」
一瞬の後、腰のひねりのみの最低限の動作で木刀による突き!
■ステーシー > 「ッ!?」
こんな破り方があるだろうか。
相手の左手はまさに盾、師匠がこの技を使えば四連閃であったが、自身の未熟さを嘆いている暇はない。
拳に木刀が弾かれ、その隙に突きを受ける。
「ぐっ…」
咄嗟にプラーナでダメージを治したものの、痛い。
「蛇ッ!!」
相手が次の動きを起こす前にと攻め手を緩めない。前進。
「バントライン一刀流、天笹ッ!!」
相手の木刀を狙った、武器弾き狙いの一閃。
振りはコンパクトだが全力、これならば腕を使った防御も困難であろうとの思索の結果である。
■サヤ > 真剣だったら使えない手だったろう。今やっているのが練習試合で、木刀だから出来た。
それに、あともう少し相手の力が強ければ、初撃をいなすことも不可能だったろう。
一撃入れられたが代償も大きい。左手が痺れ、しばらく使えない。
相手の動作はこちらの予想より早い。何らかの手段でダメージを軽減したように見える。
「く…っ」伸びきった腕と、片手で保持していることが重なり、強烈な打撃に木刀が手から離れる。
弾かれ飛んでいった木刀へと右手を伸ばす。サヤの異能《剣との絆》によって、木刀を吸い寄せる。
木刀が戻る数瞬の間無防備だ。痺れた左手を盾として掲げるのが先か、相手の追撃が先か……
■ステーシー > 「勝っ……」
武器を弾いて勝利を確信する。
後は相手の喉下に木刀を突きつけて終わり。
が。
「なっ!?」
相手の木刀が右手に納まる。
異能? もし、そうだとしたら。
この直後に何かが来るかも知れない。
迷いが切っ先を鈍らせる。中途半端な構えのまま動きを止めるステーシー。
■サヤ > そのまま、突きつけられていたら、動きを止めず木刀を掴もうとした手を打たれていれば、サヤは負けを認めていただろう。
だが、そうはならなかった、手元に戻った勢いそのままに、相手の木刀を弾き、こちらが代わりに突き付ける。
「はぁ……はぁ……。私の、勝ち、ですか……。」
どこか、自分でも驚いたような顔で、サヤが告げた。
あまり喜びはない。お互いに迷いがあって、異能に相手がたまたま警戒したから勝てただけだ。もし、元の世界に居る師匠に見られたら、とんでもなく怒られることだろう。
「お付き合い、ありがとうございました。」姿勢を正し、服についた土や埃を払ってから、頭を下げて、木刀を腰に差した。
「申し訳ありません…まだまだ、私は未熟なようです……。」勝ったというのに、表情は暗い。自分の実力を思い知らされたような心地だ。
■ステーシー > 「………!」
切っ先を突きつけられて、息を呑む。
まさか相手の異能に驚いて勝ちを落とすとは思わなかった。
「ええ、私の負けね」
視線を落とす。相手の剣はまさに予想を超えた剣術、それを警戒しすぎた結果だ。
「ありがとうございました、サヤ。今回は良い教訓が得られたわ」
「お互い、未熟さが先んじたわね……」
「でも、連影撃を破ったり、素晴らしい動きもあった」
「それは、嘘じゃない……」
ふっと微笑んで、ケースの中に木刀を仕舞う。
「お互い、迷いを振り切ったら再戦しましょう」
手を振って空き地を後にする。
「次は負けないから」
そう言うステーシーの表情は、晴れやかで。
ご案内:「小さな祠」からステーシーさんが去りました。