2015/06/16 のログ
ご案内:「歓楽街第六大通り『神室』」に九十九 十六さんが現れました。
■九十九 十六 > 懐古趣味のネオンサインの看板がギラギラとさんざめいて。
気の抜けた人々がしまってあった本能を取り出してぶらぶらと遊んでいて。
全くもって騒々しく、
全くもって不道徳で、
全くもって生物的に腥い。
そんな夜は、昼間と流れの違う時間に突き動かされるように。
「ゥヨロッセイミャース」
そこに少年が一人。
フードを被った少年は虚ろな赤青の瞳を眼窩にぶらさげ、手の平サイズのビラを配っている。
■九十九 十六 > 英語でもなくドイツ語でもない。
中国語でもなくフランス語でもない。
エスペラントでもなければログランでもなく。
「イャラッソイモェース」
差し出したビラは通り過ぎる無数の掌に収まらない。
十六の細い掌に収まったままひらひらするばかりである。
「ゥヤロッシァイスエース」
■九十九 十六 > 「ガンダムエース」
申し訳程度の粗末な素材のポケットティッシュ。
常世島で使用される携帯端末キャリアではどれでも簡単にデータをインプットできるミニチップ。
まぁまぁ悪くはない容姿の配り子。
それを受け取ってさぁお店に行こうとはなるまいが、
誰もが受け取らないことはない程度の条件は揃っていて。
それでもなお誰もが手を伸ばすどころか近づくことすら忌避しているふうがある。
「ヨグソトース」
■九十九 十六 > 「ちくしょうめ。別にちょっと受け取ってくれるぐらいいいじゃないか。なんでだよも~……やってらんないよ~……」
凍りついた営業スマイルを溶かして地団駄を踏む。
足元に積み上がった3つの段ボール箱を怨めしげに見下ろした。
ちょいちょいとパーカーの紐を触りながら、溜息をつく。
溜息ごとに幸せが逃げるのならば、きっともう25mプール一杯分は幸せが逃げている。
ご案内:「歓楽街第六大通り『神室』」に松並 和紗さんが現れました。
■九十九 十六 > 「何が悪いの~……わっかんないよぉ。これじゃ僕永遠にビラを差し出し続ける機械になっちゃうんだけど~」
持参のペットボトルから飲む。水を。
茶ですらない。そんな金もない。
「…………やっぱ経営母体が問題かなぁ」
ぴらりとポケットティッシュからビラを取り出して眺める。
『ニコニコ学資ローン“楽大”』とある。
良心的な利子で生徒に金を貸し付けるという、歓楽街にひっそりと存在する消費者金融である。
■松並 和紗 > ブラウンのロングヘアを揺らし、一人の女性がふらふらと歓楽街を歩く。
その目に、ビラ配りの少年が留まった。
「こんばんは。……なんの営業かしら?」
女性はゆったりとした足取りで近づいてくる。
■九十九 十六 > そういえば少々前に公安のガサ入れが来て営業所を幾つか潰していったとの噂。
幾らバイトがないからといって職を選ばなさすぎた。
だってしょうがないじゃん……時給1200円って言ってるし……。
そんなのカフェテラスでニコニコしてるよりずっと楽だし……。
「オヨロッセイマース……ん?」
あれは何だ。近づいてきている。
「えっ、えぅ、僕!? 僕っすか!? あっ、どうも、ヨロッシクオネガイシマース」
焦躁にしどろもどろとなり、笑ったり顔を顰めたりしながらワタワタとする。
「あっ、その──────架空の業者のビラを入れたストレンジなポケットティッシュの試供品を配ってる最中……カナ?」
首を傾げて笑顔。
この人は、普通っぽい。
“楽大”に関わってはならぬ。
■松並 和紗 > 笑顔を向けられ、笑顔で返す。
笑顔のまま少年の持つビラをちらりと見る。『ニコニコ学費ローン“楽大”』……。
「アヤシイわねぇ。」
笑顔のまま続ける。
そして少年の顔に視線を移し……。
「あらぁ?君、この前もこのあたりでアヤシイお仕事してなかったかしら?」
見間違いだろうか。
■九十九 十六 > そうなのである。怪しい。
落第街と歓楽街の狭間に位置する生徒を食い物にする会社なのだから、怪しいというか、そういう次元の問題でもなく。
「怪しくてもティッシュはティッシュですからぁ。人助けだと思っ……」
視線がかち合う。
硝子のコップが当たったような音が脳内で響いて。
十六の表情はすこぶる固くなった。
「ん~~~~~?? 存じませんね~! 僕こういうお仕事初めてですしい?
そこの先日風紀に取り潰された店でキャッチをしてたって? 知りませんねそんなの! ねぇ!」
あからさまな反応をし、人違いを主張する。
アレか、それともアレか。
前科が多すぎて思い当たるフシを一つに絞り切れない。
■松並 和紗 > 固い表情で不自然な反応。
どう見ても関わると厄介な人種である。
(『先日風紀に取り潰された店』……。あのお店かしら……。)
思い当たる節はあったが、彼女は笑顔で応えた。
「あら、人違いだったかしら!ごめんね。」
厄介ごとにはあまり関わりたくない。躱しておこう。
おもむろに、少年の持つビラ付きティッシュに手を伸ばそうとする。
■九十九 十六 > 痛い所に触れぬ心遣いに感謝し、ティッシュを渡す。言うまでもなくお粗末なティッシュだが。
「どもですっ」
にぱっと笑む。数多の職場で数多の立場を経験した者が放てる練達の営業スマイルである。
「……ところで」
軽く目を伏せて、一歩女生徒に歩み寄る。
「こんなこと聞くのもなんなんだけどさ、お客サン結構普通人の雰囲気だ。印象でしかないけどね。
なんでこんなとこに遊びに来てんの? 僕の顔なんか憶えてるぐらいなんだし、常連かもって思うんだけど」
「よけーなお世話だったら顔ハタいてどっか行ってくれていいよ」
くくっと喉元で笑ってみせる。
興味本位だ、ただの。
■松並 和紗 > ティッシュを受け取り、営業スマイルにつられて微笑んだ。
近づいてきた少年から視線を逸らしつつ、問いに答える。
「ときどき散歩に来るくらいよ。常連とは言えないわねぇ。」
嘘か真か。少年に視線を戻し、続けた。
「ティッシュありがとう。お仕事頑張ってね。それから……、ずいぶん痩せているけど、ちゃんと食べなきゃ体がもたないわよ。」
くるりと背を向け、夜の街に向け歩き出した。