2015/09/23 のログ
ご案内:「歓楽街」に渡辺慧さんが現れました。
渡辺慧 > カツリ。
足音がする。それが自分の物だということに気付くまでに、わずかばかりのタイムラグと共に、ふと。
特に意識をするわけでもなく後ろを振り向いた。

夜間警邏。
熱心にやるわけでもないが、これがやるべき仕事だという認識ぐらいはある。

振り向いた先にあるのは、未だ。既に日は沈みきって。
朝へ向かうばかりの時間帯の癖に明るさが途切れないこの街を少しだけ眩しそうに目を細めると。
再び前を向いて歩き出す。

一つ、ため息をついた。

渡辺慧 > ポケットに手を突っ込み。
やる気なさげに丸まったその猫背からは。
服装を見て――むしろ、服装からも。――風紀だと気付ける人は少ないのかもしれない。
それほど、憂鬱気な調子で夜の街を歩く。

渡辺慧 > 最近はどうにも物騒だ。……いや、それは前からかもしれないが。

だが。このいつも通り。逃避先の物を壊される感覚は――それはまた、別の物への怒りなのかもしれないが――少しだけ、気にくわない。

正義感を振りまくつもりも、自らの正義を固められるほどの思考の余裕がないことから。

ただ、それは。
あくまで“夜間警邏”に過ぎなかった。

渡辺慧 > ふ、と。
また別の光。それは自販機の光とも似ていて。
というか、自販機そのものだった。

ふぅ。とまた一つ息をついた後。
ブラックのコーヒーを買うために、ポケットに突っ込んでいた手を。
小銭を漁る手へ変化させて――。

首を傾げた。

渡辺慧 > 「あれ」

漁る。……先程から突き入れていたなら気づきそうなものだが。
そこにはその欠片もなかった。
他のポケットも漁りだす。

――案の定、というべきか。
そこには小銭どころか。財布の影もなく。

目を閉じ、自分の目じりを抑えるようにして。
自販機に背中から寄りかかる。

「……ねえ」

ご案内:「歓楽街」に霜月 零さんが現れました。
霜月 零 > ぶーらぶーら。
新技開発(?)の帰りに、なんとなく『たまにはあまり行かないところも通ってみるか』と思い立ってぶらぶらと歓楽街に足を向け、やっぱりあまり自分に合いそうなところはねぇなあとか考えつつ適当に歩いていたら、なんだか見た顔がいた。

「……お前、何してんだ?」

自販機を思いっきり占拠している男に、気の抜けた声で問いかける。

渡辺慧 > 「自己嫌悪中」

それに相当する感覚は自分の中に正しくあるわけではないが。
恐らく、それに似ている物は抱いている。

目じりから、その手をゆったりと放すと。
またしても、ひどくゆっくりとした動作で声がかかる方へ目を向けた。

「……やぁ不良。この時間に出歩くたぁ補導すべきかな」
なんて。ひどく気の抜けた軽口を飛ばしながら。

霜月 零 > 「なんだそりゃ、なんかあったのか?」

いつも飄々としているこの男に、自己嫌悪と言う姿は似合わない気がした……が、なんだかしょうもない事で思いっきりヘコんでいる姿が妙に似合う気もする。
一応は友人と言うカテゴリに入る関係の相手だ。本当に何かあったのなら相談くらいには乗ろうか、なんてことも考える。

「そりゃ勘弁してくれ、妹にどやされる」

などと言った軽口が飛びあう以上、その手のシリアスさなんて見受けられないが。
いや、だって本当に風紀の厄介になったら怖いんだよ、あの妹。

渡辺慧 > 「……んん」
「んー。一つ質問」

どことなくも。あいもかわらずゆっくりとした喋り方で。

「例えば――必ず。必要になるであろうということが分かっていることの筈なのに」
「どうしてだかその準備を怠って。いざそれを行おうとした時に、初めて気づいた時。どんな感覚がする」

ひどく重大な物を打ち明けるかのようだが。
気づく人は――いや。この状況だけで気づける人は稀有だろう。
そして、この目の前の友人様は、気づける方ではない、そう認識している。

「じゃあ夜ふかしなんてするもんじゃないよ。俺みたいな風紀委員もいるようだしな、今まさに」

霜月 零 > 「あー……そりゃあまあ、自己嫌悪になるわな」

自己嫌悪、と言う字面ほどヘヴィなものではないが。
得も言われぬというか上手く言葉に出来ないが、己に呆れ返ると言う表現が妥当なのではなかろうか。
だが、それがいったいこの状況でどう関係するのか。すわ、本当に自己嫌悪の領域に至るような大ミスをやらかしてしまったのだろうか?

「おいおい待てよ、俺は善良な一般生徒だぜ?わかってんだろ?」

こんな会話もしている時点で、そのセンが薄い気もするけれど。
あ、でも善良アピールちょっと怪しいかな、許可取ってるけど帯刀してるぞ、今日。

渡辺慧 > 「しかしながら。それを覆す手段が一つあるわけだけど」

そう言って。ふと、片手を伸ばした。

「……小銭、かして?」
準備が足りなかったのなら。現地で調達すればいいのだ。
それこそ――結果さえ良ければ、の。結果論でしかなくなるのは癪だけど。

シシ。
一つ笑い声を落とす。
「さて。……それはまぁ。俺がきめるべきところだけどね」

――。善か悪か。それはなんにしても差異でしかない。
それを“善”にするのも“悪”にするのも、まぁ。
恐らくそれが差を扱うという事なのかもしれないが――。

(……あれ。……でも、それじゃ――)
思考が脱線しかける。……くだらない、か。

「帯刀、が。善良、ねぇ」
そう言って意地悪く笑った。

霜月 零 > 「……そういう事かよ」

場所と要求でピンと来た。
なんてこたぁない、単に飲み物買いに来たのに小銭忘れただけなのだ。心配して損した。

「おいおい、俺とお前の仲だろ?」

財布から小銭を取り出しつつ、似合わないセリフを口にしてみる。
あーホント似合わねぇわ。でもこいつとはこんくらいのユルさがいい気がする。
たまには不真面目な霜月零でも、いいじゃあないか。
とか思ってると、痛い所突かれたぞ。
許可取ってる、って言ってもいいが……ふむ。

「おう、じゃあこいつで手打ちってのはどうだ?」

ちらつかせるのは手元の150円。
小銭を貸してほしくば見逃せ。
そんな交渉……いわゆるWA☆I☆ROである。

渡辺慧 > 「少なくとも。その行為が世間一般で言う、善良ではないことぐらいは俺も知ってるけど」

まぁ――しかしだ。
元より、それをとがめるつもりはないし――自分が、風紀の理念。規則。
それとは対極にあるのかもしれないというのは自覚したうえで。
その上で。規則――言語化されたそれを元に言葉を発するのは楽だった。

だからこそ、それを崩すのもまた、楽でもある。

「ま。……ありがたく頂いておくよ」

霜月 零 > 「そうか?」

なんてとぼける。
自分でもわかってる、賄賂なんてのは間違いなく悪行だ。
だがこれはオチの見えている茶番。だったらまあ、全然アリだろう。

「OK交渉成立。っつーか、わざわざこんなとこまで買いに来たのか?」

ちゃりん、と小銭を渡しつつ質問してみる。別に本当に自販機に買い物しにきただけなら、こんなところに来る必要はないだろう。
なんか別の理由があるんじゃないか?とちょっと探りを入れてみる。

渡辺慧 > 「さんきゅ」
ようやっと。自らが占拠する自販機から背を離し。
小銭を入れて、いつも通りのブラックのコーヒーを買う。

それをかがみ、取り出しながら――投げかけられた質問に横目で。

「お仕事さ」
むしろ。これは仕事の合間における、必要事項。
経過でしかない。結果は――。
見てのとおり。自らの制服が示すとおりに。

「風紀のね」

霜月 零 > 「どーも」

軽く返しつつ、ブラックのコーヒーを買うのを眺める。
財布をポケットにしまいつつ、帰ってきた言葉にぴく、と反応。

「あー……ご苦労なこった。お前、そんなガラだったか?」

見てみれば、制服が風紀のそれ。そしてこんな時間に、こんな余裕を持って行える風紀の仕事と言えば、すなわち夜間警邏だろう。
が、妹ならともかく、目の前の男はそんな真面目に風紀委員してるタイプじゃないと思っていたのだが……?

渡辺慧 > 音を立ててプルタブを開ける。
そして、いつものように。――まるで何かを流し込むかのように。――ブラックの苦味を楽しむと。

「ふぅ……」
「……ん?」

至極当然の疑問だろう。だが、それは自分にとっても疑問の内になるだろう。
何故ならば――。

「ガラか、ガラじゃないかはこの際関係ないさね」
「俺が風紀委員に所属している、というのは事実で――」
「――なら、お仕事ぐらい。やらないと、ね」

それは上辺だけの言葉なのか。
――自分が、何処に根差しているのかを、自分自身で仮定するための言葉でも。

霜月 零 > 「そうかい」

特に感情の籠ってない返事。まあ、仕事だからやるってのも当然っちゃ当然だ。
……けど。
なんていうんだろう、やっぱり似合わない気もする。
真面目にやることはいいことだし、義務としての仕事をこなすのは当然のことだ。
だが、彼がそれを粛々と……って感じでもないが、こなすのはちょっと違和感を感じるのは、失礼に過ぎるだろうか?
もっと言えば、少なくとも以前はそういうタイプじゃなかったわけで……

「で、なんかあったのか?」

そんなことを聞いてみる。
『考え方が変わった』『行動が変わった』と言う結果が導き出されるには、それを導き出すに足る過程が必要なわけだし。
……唐突な気まぐれでやる気になっただけ、と言われても納得しかねない、雲のような掴み辛さがこの男にはあるが。

渡辺慧 > 「ばれてしまっては致し方ない」

そう大仰に。缶を持つその手を大げさに。役者のように広げると。
「実は私め――――――」

言葉をため、そのまま、胸の前に手をかざした。

「なんにもないよ」

そう。少なくとも――これに関しては、何もなかった。
元より――あったというならば。最初から。
生まれたことから、だというべきかもしれないが。
この活動自体は、以前からも。そういつだって。

ここに来てからは続いていたことだ。まるで、誰にも見られないように。
夜間警邏を担当していたのは――何か意図するものがあったのかどうかと言われれば。

そうしてもう一口缶コーヒーを口に含む。

「……ま。……変化はないさ」
「そっちこそ。なんかあったのかい。不良に鞍替えなんてさ」

霜月 零 > 「そうかい」

リピート。
全くと言っていいほど同じ声音で、全く同じ言葉を繰り返した。違うと言えば、呆れたように肩を竦めたくらいか。
まあ、本人がそういうんならそうなんだろう。別に自分だって人間観察力に自信アリな人じゃない。
実は元々やってたのを、ぶらりとここに来た自分が初めて遭遇した。そんなストーリーだって十二分にあり得るじゃないか。
そう、行動が変化したというのならば……

「なんもねーよ。いや、まああったけど関係ねーな」

自分の方だ。
まあ、色々ありはしたが、別にそれらは今回の行動の原因にはなっていない。
何のことはない、自分こそが行動が変化していて、それを導き出すような大層な理由など持ち合わせていなかったのだ。
狙ったわけではないし、そんな大層なことでもないけど、見事なブーメランである。

渡辺慧 > 詭弁だ。自分が言った言葉は、まさしく詭弁だ。

そう。今こうしていることに関係してることは何もない。

そして変化もない。
だが――。――が、どちらにしても。変化はない。
いや、正確に言えば、変化、できない。
変化するのが――その先に見えるものが、たまらなく。

「……ふぅん」

それを聞くのは、自らが何でもない、といったならば。
間違っているのだ。だから、この反応だ。

まぁ――でも。
茶化すぐらいならば。……彼自身が、自分を友人と呼ぶならば。
それぐらいなら構わないだろう。

「彼女でも出来たかい」

霜月 零 > 「……」

実際、ちょっとした違和感は消えない。なんだかこう、何かがズレている感じ。
が、別にそこに突っ込もう、と言う気も起らず……

「あ、あー……」

寧ろ、その後の言葉に完全に気を取られてしまった。
少し頬を赤くし、俯いて額を押さえる。
そして……

「まあ、出来た、な」

素直に白状。隠すことではないのだ、恥ずかしいというだけで。
否、もっといえば恥じる事すらない。やましい所のない堂々の交際なのだから。
なら、この得も言われぬ感覚は何と表現すべきなのだろう。

渡辺慧 > くっく。
喉の奥で笑う。
なにやら――意外にも。いや、こういう場合で言うならば。
とても的確についてしまったようだ。

「……なんだい。青春ってか」
今度は茶化すわけでもなく。

「――おめでと」
ふわりと笑う。この言葉があってるかどうかは知らない。
そういう意味では初めての言葉だ。
こうして。――変化していく。
自分の知らない内に。誰もが、一歩ずつどこかへ歩き出す。

誰に向かっての言葉か。そして、何処に向けての言葉か。
喉からしぼり出そうになったそれを抑えると。

「うまくやんなよ」

――おいていかれる。

霜月 零 > 「どーも」

あまりに気恥ずかしくて――やはり、恥ずかしい以外の表現が思いつかない――、俯いたまま、そっけない声を出してしまう。
ええい寧ろ笑ってくれるくらいの方が気楽だ。
そんな、ふわりと、真摯に言葉を投げられたら、受け止めざるを得ないではないか。
余計に気恥ずかしくなってしまうじゃないか!

「……お前はそういうのはねーのかよ」

反撃、と言うにはあまりに稚拙。
だが、どうにも、そんな意図なんてないのはわかっていても、上手くやり込められたような気になってしまって……憎まれ口とも反撃ともつかない、適当なことを口走ってしまう。
本当に、どこへ行ってしまったのだろう。かつての自分は。
大体のことに関心薄め、自分には才能がないと嘆きつつ、陰日向でこっそりと努力する。
華などなく、ただ地味に。それなりに色々とやりつつ、でも出来る事は大したことがない。
そんな自分は、どこへ行ってしまったのだろうか。悔やむわけではないが、不思議には思ってしまう。
もしかしたら、これが、成長していく、という事なのだろうか。
過去を置き去りにして、変化していく。それを成長と言うのだろうか。

渡辺慧 > 「照れんなよ」
「……いい子かい」

こうして。傍観を気取る。外からを気取って、自分はそこにいるのが普通なんだと。

「…………んー。……あった、かもしれないね」
ない、とは言えないだろう。それは、どうしたって。
心に牙を突き立てるようなものなのかもしれない。

その変化に。変化に戸惑う姿は。

「なァ、零」
「……悪くねーんだろ、それ」

霜月 零 > 「……まあな」

自分には過ぎるくらいには、いい子だ。それを言うと彼女は怒るだろうけど。
ただ、そこで怒ってくれる彼女がなお好ましい……だなんて言うのは、惚気すぎだろうか。
まあ、そんなことはあまり顔に出さず、寧ろその後の返事が気になった。

「なんだそりゃ、半端っつーかあいまいだな」

あったかもしれない、ってなんだ。あったならあった、なかったならなかっただろう。
いや、もしかすると……

「思わせぶりな展開だけあった、って事か?」

そりゃご愁傷様、なんて、自分が正親町三条楓に弄ばれた時のことを思いだしながら口にする。
軽く茶化した、そんな感じの言葉。だが、その後に続いた言葉には、顔を真面目にせずにはいられなかった。
……どこかに、妙な真剣みを感じたから。

「悪くねーかっつったら……」

彼女が出来たこと。悪いはずがない。
が、多分、それだけのことじゃあないんだろう。
先程、自身の変化に少し戸惑っていたのを勘付かれただろうか?
だとすれば。それを踏まえて、答えを用意するとすれば。

「悪かぁないな」

色々あったけど。
嫌なことも、辛いこともあったけど。
それでも自分が変化して、そしてきっと、成長していくのは。
何があろうと、自分の足が前に進んでいるという実感は。
悪いはずがない。寧ろ心地よく、そして心強いものだった。
かつて自身の非才に嘆いていたからこそよくわかる。
停滞は……前に進んでいる実感がないというのは、とてつもなく、恐ろしいものなのだ。

渡辺慧 > 「もうその事実が、俺の中にしかない、ってことさ」
またもやあやふやな言葉だが――。どうとでもとれる。
どうとでもとれるからこそ、相手が、納得できるのだ。
――自分なりの答えで納得することにできるから。

そうさ。
悪くないんだろう。悪くない。
彼が見せる態度は、どこをとっても。

そう、悪くないのだ。

――だからこそ。自分はその場にいるのだ。
進めない自分に安堵を覚え。
今見える、変化のない現実に安堵を覚え。

自分が、自由だと思い知る。

「うん。……そう言うと思ったさ」
「――あぁ。がんばれ。いや……よかったな」

――だから、さっさと。先へ行ってくれ。
この妙な、おいてかれるなどという感覚を感じるのも馬鹿らしいぐらいに、先へ。

「…………全く。……うらやましいねぇ」

それは誰の言葉だったか。

霜月 零 > 「よくわかんねーな……」

とても抽象的で曖昧で、だからこそなんとでも解釈出来そうな言葉。
ここでもう一歩踏み込むことも出来るっちゃあ出来るが……それは無粋な気がした。
なので、おとなしくボカされてやろう。突っ込んで解釈して欲しいが故のフリだったのならば、ご愁傷様だ。

「おうとも。あんがとよ」

素直に礼を言って。
その瞳に寂寥感を感じて。
でも、掛けるべき言葉が見つからなくて。
なのに、最後の言葉が無視できなくて。

「……は、もっと羨め」

下らない言葉を口にした。
そうさ、羨め。羨んで、羨んで……コイツも、それをバネに頑張ってほしい。
走れ走れ、速く速く速く。
それがお前だろう?渡辺慧だろう?
傲慢なのはわかってる。だけど、やっぱり飄々としつつ、走るのがお前じゃなかったのか。
異能と本人の精神性の繋がりになんて明るくないけど。多分お前はそういう奴なんじゃないのか。
だから。
だからさ。
そんな、死んだ目をするんじゃねぇよ。

渡辺慧 > 「下手な考え休むになんたら、か」
くだらない、か。
この場の問答は、そう。
上辺をなぞるそれ。

「……………く」

そうかい。――そうだなぁ。
それが“善”か。

口から笑い声をこぼす。
未だ残っている缶コーヒーを飲み干すと、ゴミ箱へ向けて放り投げた。
カラン、と軽い音を立てて、そこに陥る。

「バーカ」

笑い乍ら、彼に背を向けた。

この場、いやどの場で言おうとも。
彼は善なのだ。

――それは負け惜しみに似て。
いや。――それを言うのは無粋なのだ。

「じゃーな」
「仕事の続きだ」

最後にこぼれたのは、小銭へのお礼なんてひどくつまらない言葉。
笑い乍ら。片手を振る。

――――――――――――――――――――――ない。

そうして、その姿は夜の街へ消え―――。

ご案内:「歓楽街」から渡辺慧さんが去りました。
霜月 零 > 「……はぁ」

見送って、ガシガシと頭を掻く。
やっぱり余計だったかな、と溜め息。
何があんな目をさせるのかなんてわからないけど、持ってる者が上から目線で言う言葉なんて大体嫌味にしかならないものだ。
だから、婉曲的な一言に収めたのだが……あの調子だと、バレたのかもしれない。
言わなきゃよかったのか、それでも言ってよかったのか。
そんなことはわからない。『根源』はそれを知っているのかもしれないが、覗き見る気にはならない。
ただまあ、結局は、一つの身勝手な思いに尽きるのだ。
だってほら、さ。
……友達には、笑っててほしいじゃんか。

「似合わねぇなあ」

そこまで考えて、また頭をガシガシと掻く。
そのまま、彼とは逆方向に歩を進めた。

ご案内:「歓楽街」から霜月 零さんが去りました。