2015/10/03 のログ
ヨキ > (ぷはあ、と天井に向けて吐き出した息に、ニンニクと酒の匂いが交じった。
 休日の前夜、独り酒ならではの肉肉酒肉アンド肉そして酒、である。
 肉は綿菓子のように、酒は水のようにするすると喉を通り、胃へ落ちてゆく。

 カウンタ席の上、まるで数人で酒盛りでもしているかのような品数が並び、そしてそのいずれもが舐めたように食べ尽くされていた。
 慣れた様子の店員が平然と皿を片付けてゆくのを横目に、次は何にしようかとばかり、まるで来店して間もない面持ちでいそいそとメニューに向き合う。

 食事を始めて、優に一時間は過ぎていた)

ヨキ > 「――本日の刺身五点盛りと、あん肝と沖漬けと……あとスモークサーモンのサラダ。
 それから水割りのお代わりを」

(魚である。加えて、やっぱり野菜も摂らなくちゃね、という、申し訳程度の葉っぱである。
 そしてお冷を頼むかのように、酒の追加であった。

 注文の品を待つ間にスマートフォンを弄る姿は、見かけどおりの年頃の青年のものだ。
 言葉遣いや所作は些か年嵩のように見えるくせ、画面に目を奪われた表情は歳若い。
 夜半に盛り上がるSNSの賑わいに、高校生にも劣らぬ流暢さで交じる。無言のうちに、親指だけが饒舌だ)

ご案内:「酒場「崑崙」」に不凋花 ひぐれさんが現れました。
不凋花 ひぐれ > 【視線がひとつ、数分前からヨキを見ていた――】

【失礼します。そんな声かけと共に薄い仕切りのあるテーブル席から出る。お酒やら何やら、酸い匂いが蔓延る空間。
 彼女は静かに頭を垂れながら下駄を履くと、注文を待つ合間にSNSを覗く男性、ヨキへと近づいた。
 同様に随分と長くテーブル席に居座った彼女を含む複数人。テーブル席からは静かながら談笑の声が響いていた。】

「もし、ヨキ先生でしょうか」

【目を伏せたまま、彼の斜め後ろから見上げるようにして口にした。
 様々な食材のにおいと、どこか芸術品めいたにおいのする御人だろう、と。
 愛用する杖代わりの刀の鞘をあてどなくふらつかせていた。】

ヨキ > (静かな声に、ぱちりと瞬いてスマートフォンから顔を上げる。
 振り返った先、幼さが先立つ印象の顔にぱっと笑う)

「――やあ、不凋花くん。こんばんは」

(かの特別支援学級――《たちばな学級》で見知った顔だ。
 視力の弱い彼女へ自分の顔をよく見せるよう、顔を近づけて――
 酒と食物の強い匂いがこびり付いていることを思い出して、僅かに引いた)

「そうだ、ヨキだとも。よく気付いてくれたな。
 ちょうど明日は休みなのでな、夕飯に来ていたところだ。
 ……君も?まさかお酒など飲んでいやしないだろうな」

(冗談めかし、穏やかな声でくすくすと微笑む)

不凋花 ひぐれ > 閉じられたままの目。にぱっと笑う姿は見えないものの、雰囲気から優しいものが伝わる。

「こんばんは、ヨキ先生」

うすらと目を開くと、紅眼が彼の視線を交じり合う。やや近づけるのを止めて引いてくれたのは、酒のにおいとニンニクの匂いを気にしてのことか。
……まぁ、この距離ともなればそれでも匂うけれど、気にしない素振りをしておく。
彼の印象的な出で立ちがぼぉんやりと見える。

「何となく、絵の具と金属片の香りがしました」

ヨキ先生の匂いはそういった印象。美術の先生っぽいにおいこそ先生。

「えぇ、無論未成年なのでお酒は飲んでいません。本日は両親と共に食事に。
 ……ヨキ先生はここによくいらっしゃるのですか?」

冗談にも滔々としてマジメな態度で返す。
笑むそれは楽しんでいるのだと理解して、ウィットに富んだ返しでもあればよかったかなどと思案。
閑話休題、どうでもいい話だった。

ヨキ > 「ふふ、そうか。匂いで嗅ぎ分けてくれたか。
 うれしいよ、そういうのはヨキも得意とするところであるからな」

(少しは酒の影響もあるのか、朗らかに笑って自分の服や腕の匂いを嗅いでみせるジェスチャ。
 ひぐれの話を聞いていて――両親、の語が出たところで目を丸くする)

「……おや、君のご両親。それはそれは。それならこの辺りでも、安心して歩けよう。
 君が武に秀でているとて、無闇に夜の出歩きは勧められんからな」

(相手の実力を知った上での、軽い言葉。
 笑って頷きながら立ち上がり、ひぐれの両親が座っていると思しきテーブル席へ向かう。
 学内ではあまり目にする機会のない、敬語で丁重な挨拶を交わすヨキの姿)

不凋花 ひぐれ > 「嗅ぎ分けるのはお得意なのですね。獣のようで」

――否、確か本当に獣だったか。正確には獣人。普段からはそのような素行も香りもしないのだけど。
ジェスチャーに薄目を開いて目を通し、彼女は口元を緩ませた。

「いえ、失礼を。 しかし夜は私の得意分野です。目に頼る必要が無ければ地の利はございます。
 最も最低限気をつけはしますが。今はお父様やお母様もいますし」

力量を既に理解しているヨキの言葉にこくんと頷く。そうして歩みだすのはこちらの席。
テーブル席へと向かうと、「こちらヨキ先生です」

『おぉこれはこれは。学級のお方ですかな。娘が大変お世話になっております」

父親らしき初老の男性と年若い母親らしき女性がそれぞれ頭を垂れて挨拶をするだろう。
丁寧な対応にもさぞ満足そうにする。

ヨキ > 「そうそう。鼻にはちょっと自信があるんだ。今は少しばかり……ポンコツだがね」

(冗談とも本気ともつかない口調。ひぐれの律された言葉に、小さく確かに頷き返す)

「君が下手な大人たちより腕の立つことは、ヨキも重々承知しているところだ。
 だからと言って……手放しで認めることも出来ぬのが、君を預かる教師、という仕事でな。
 君のけじめある言葉は、ヨキにとっても助かるのだ。有難う」

(ひぐれの両親に向かい合い、柔らかに頭を下げて一礼する。
 背後のカウンタの上が、タイミングよく片付けられていて助かったのは秘密だ。
 何しろそれはもう、食欲の権化っぷりがモロ出しの分量であったのだ)

「――初めまして、たちばな学級の――ヨキと申します。
 非常勤ではありますが、彼女が良くやってくれていること、いつも拝見しています」

(にこやか、そしてさわやか。
 下品で無軌道な食事の匂いが届かない程度の距離を、よく心得ている立ち位置だ)

不凋花 ひぐれ > 「常々思っていましたが、先生はどこか不思議な人だと思います。
 先生という立場にいながらどこか、ぼんやりとした曖昧な雰囲気を覚えます」

はっきりしない。芯があるようで飄々としている。彼女はそんな感情を彼に抱く。
して、父親と母親は彼の佇まいを品定めするように眺める。

『申し遅れました。不凋花ひぐれの父、不凋花夜行です。こちらは妻の朝霞』

両親は共ににこりと笑った。誠実な態度。さわやかな印象。年若い風貌ながら、よく出来たヒト。
距離を理解する彼の振る舞いは、彼らに取って最適なものであると判断するに相応しいものだった。

『そうですかそうですか。いやこちらとしてもこの子が学園で一人で行動するものですから心配でして。
 これからもご迷惑をおかけするかと思いますが、何卒』

その背後からヨキを見上げて思う。
このヒトとて先生である。立ち振る舞いは雲のようでも、地に脚を付けた距離にいることもできる。
どこかそれは、胡散臭さを醸し出しているようにも見えたが。
さっきニンニク臭かった。いっぱい食べていたのを知っている。
なるほど社会に生きるモノとは『ああいう風に』振舞うのか、と思い知る。

ヨキ > 「ふふ。それはヨキが教師である一方で――芸術家の端くれだからだ。
 着想を、天啓のようにあいまいなものに求めることもできるし――
 現実的な支援を、ひとりの人間として乞うこともできる。
 芸術をやるっていうのは、地面と宙のあいだを自在に行き来することなのさ」

(気にした風もなく笑う。
 ひぐれから流れるように視線を移し、その両親へ笑い掛ける)

「なに。お嬢様ほどの年頃であれば、興味は何かと外へ向くものです。
 よく成長していることの証左ですとも。
 そんな子どもたちのために、ヨキのような教師が在りますから――
 お任せください。大事なお嬢様をお預かりしている身ですから」

(両手を軽く広げて目を細める。
 一礼して、背後のひぐれへ向く。しい、と、唇に人差し指を添えてみせる。
 悪戯めかしたウィンク。これが大人さ、と示すかのような仕草)

「しかし、こんな風に食べる店で生徒と会うだなんて、なかなかないからな。
 ――どうするね。どっちのテーブルで過ごす?」

(両親と自分と。そうして笑っている傍で、注文した料理が届く。
 刺身の盛り合わせとあん肝と沖漬けとサラダ。それから焼酎の水割り。
 いかにも酒盛りといった風情だが、幸いにも肉臭くはない)

不凋花 ひぐれ > 「…少々、難しいです。ですが考え方はなんとなく分かります。」

その言い回しがどこか詩的にも思えた。芸術に対する彼の真摯な言葉は、やはりどこかふんわりとしていた。
空想よりカタチにするのが芸術家。浮かぶものを大地に下ろし、また上げて浮かばせること。
もう少し正面から付き合えば、彼の言葉を理解できるだろうか。

『さようですか。ヨキ先生はお若いながら素晴らしいお方だ。それではよろしくお願いします』

再び両親は頭を下げる。父親は深く、母親は軽く。
最中にこちらに向けられたウインクに僅かに首をかしげると、頭に飾る鈴が鳴る。
――はて、彼は読心術でも得ていただろうか。戯言を脳内に響かせて呆れるように肩を竦めた。

「――では、お話したいこともございますので、ヨキ先生のほうでご一緒したいのですが」

両親にも目配せをすると、それも構わないだろうと同意の旨を示してカウンター席へと指し示した。
さも今からフレッシュなものを食べますといわんばかりの品々は、まるで示し合わせたようなレイアウトだった。

ヨキ > 「分かる人も、分からない人も、いろいろさ。
 想像が豊かで、絵やものづくりが巧いだけでは、芸術家で食べていくことは出来ないのさ」

(両親への挨拶をそつなく済ませ、では、と両の手のひらを合わせる。
 ひぐれを誘い、隣のスツールを空けて招く。
 いかにも酒の肴というべきラインナップだが、好きに食べていい、と新しい割り箸を手渡す。
 ひぐれの分のサラダや刺身を、皿に甲斐甲斐しく取り分けてゆく)

「改めて、ヨキの隣へようこそ。
 ――それで、何かね。お話したいことって。何か相談事でも?」

(小奇麗に料理を取り分けた皿をひぐれへ差し出しながら、小首を傾ぐ)

不凋花 ひぐれ > 「世渡り上手な人か、鑑定眼の鋭いヒトが傍にいるから原石は輝く……」

彼女自身の才を見出したのは天性であり、両親がいるからだ。英才教育を受けられるのも、ここにいるのも手助けあって。
芸術家としての筋が幾ら良かろうと、知名度を上げるために行使するべきことはなさねばならない。
恐る恐ると音と気配、匂いのする方向を頼りに椅子までたどり着く。割り箸を渡され、首肯して彼を見上げた。
そうして序に「ウーロン茶をお願いします」と店員にお願いしながら、出されたそれが来るまでの合間。

「はい、ご相談したいことが。現在わたしはたちばな学級にいますが、委員会所属の許可を頂きたいと思いまして。
 ……具体的には風紀委員会になりたいのです。」

使い勝手の悪く、すべてを封じる対人の異能『雲散霧消』の影響もあって、他人への配慮を考えなければならない。個人ではどうしようもないと踏んで非常勤ながら先生であるヨキに頼ることとなったのが経緯である。

ヨキ > (そういうこと、と短く答える。
 ひぐれを隣に迎えながら、自分もさっそく料理に手を付ける。
 それまで直箸で食べていたのが、ひぐれを迎えたことで自分も皿に料理を取り分ける。
 刺身を摘み、酒のグラスを傾けてひぐれの話を聞く)

「ほう、風紀委員。
 君のことだから……恐らく事務仕事、という訳ではあるまい。志望する仕事があるのだろう?
 それに……」

(後方のテーブル席を一瞥する。
 しぐれの両親に、気取られない程度に)

「何より、ご両親に話は付いているのかね?それを訊かねば、ヨキには何とも言えんよ」

不凋花 ひぐれ > 間をおいてジョッキで出てきたウーロン茶。両手で受け取りながら礼を云う。
 刺身を含みながら、ウーロン茶とあわせる。なおも話は続ける。

「……話してはおりません。両親はああ仰っていましたが、あの人たちは私の稼動範囲に制限はかけないのです。
 家を帰る時も一人で帰りますし、学園内で襲われた際にも対応は容易かったです。
 暗にわたしは問題が無いから自由にさせていると考えています。」

指をぴんと立てて、空に彷徨わせた後に水滴の滴るグラスを拭う。

「実働する場所をわたしは志望します。両親の意向で鍛錬を積んできたもので、その力を正規的に振るうのであれば風紀が適していると。」

続けて語る『志望理由』。

ヨキ > 「……ほう。君の話は判った。
 それでは……同じ『クラスメイト』として、君も知るところだろうかな。平岡ユキヱという女子を?
 彼女は大層真面目な風紀委員で……君の助けになるところであろうと思う」

(ひぐれが既にユキヱと委員所属に関する話を交わしていることは知らず、何の気なしに。
 両親についての話には、食事の手を止め、ひぐれに向けて真っ直ぐに目を細める)

「そうか。ならば不凋花君、決めたことはご両親に話しておきたまえ。
 自由にさせてくれるから、言わずにおいていい、ということではない。
 『自分の子どもが進むべき道を決める』ということは――君が思う以上に、親にとっては重大なことなのだ」

(ゆっくりと言葉を紡ぎながら、小さく頷く)

「……担任の蓋盛にも相談した上で、話はこちらから通しておく。

 委員に所属することがどういうことか、それまでによく考えておけ。
 『たちばな学級』とは違って、ハンディキャップが猶予されるものではなく――スタンドプレーが通用する場所でも、ない。

 特に君の異能は、他の委員の大きな弊害ともなり得る。
 これまでにない人との交わりや、戦術を君は学ばねばならん。

 君は他ならぬ『社会』に出ようとしているのだ。
 その意味を、ご両親とも、友人とも、よくよく話を重ね、理解するがよい」

不凋花 ひぐれ > 「……存じております」

【何を隠そう彼女に誘われて所属の志望を行った。正確には誘われたわけではなくフラれたのだけど。
 人数が少ない、相応の力がある者が欲しい。だが彼女の異能の性質と視力のハンディを抱えている分の差は収まりようが無い。
 こちらをまっすぐと見据える彼は、常の朗らかなイメージとは異なって見えて、自然と細めていた眼を開いて背筋を伸ばす。】

「分かりました。そちらは伝えておきます」

【無論、反発する理由も無かった。諭されるなら素直に従うのが筋だ。
 担任への話しを通してくれるとも云ってくれるのなら、これ以上に無い対価足りえる。】

「……分かりました。ありがとうございます」

【そちらへと向き、頭を下げる。
 彼の話す言葉を飲み込む。目指すべき指針、そうする際どうすれば良いか。
 コミュニケーションから戦術まで、多人数による見直しも必要となる。
 学校案内では、この学園の委員会とはただの委員会ではない。社会の縮図でありそれを実際に現しているとされていた。
 たかが10代の小娘程度、ハンディを負ったそれが動けるかは――また上の判断次第、大人に任せるしかないのだ。】

「――わたしはいずれ大人になります。
 ここで委員会に所属することの可否があっても、いずれは。ヨキ先生のように世渡り上手になれるかはこれから次第ですけど」

俯き気味に瞑目した眼。
柔軟に対応し、気立てよく、どこかイマイチ測りかねなくとも時に導きを与える。

「今か後かに社会に出ることがあったとして、ヨキ先生みたいな人になりたいです」

ヨキ > (存じている、という言葉に、真っ直ぐに向けられていた眼差しが緩む。大きな口で、明るく笑う)

「……ふはッ。そうか。ならば話は早い。
 平岡君の人の良さ、芯の強さ――君も痛感したろう?あれが風紀委員だ。
 君はこれから、彼女と肩を並べて戦うやも知れんのだ。
 独りと独りではなく、チームとしてな」

(機嫌よく、和やかな声で言葉を続ける)

「風紀委員は、常に人材を求めているよ。
 君ほどの実力と意欲があれば……採用には、それなりの望みがあろう。
 だが、君にこれから必要なのは、実力ではなく今後の『研鑽』だ。

 ふふ。物語ならば……ここで君とヨキとが一戦を交え、ヨキを打ち負かしてもらいたいところだが。
 実力行使だけで話が進む訳でもないのが、社会というものだ」

(続くひぐれの言葉には、目を伏せて笑う)

「ヨキのような人になりたい、か。さて、どうかな。
 ヨキを手本にすると、あとが大変だぞ」

(くすくすと密やかに笑いながら、肴を美味そうに口にする)

不凋花 ひぐれ > 「彼女は明るく優しい人女性でした。先生の仰るとおり芯もあり、相応に人を包み込む力がありました。
 ほんの少し会話したくらいでしたが、――えぇ、そうですね。いずれ」

いずれ共に前へ出られることがあるのならば。
張り詰めた糸を解いて、穏やかな心境を得る。喉を潤すためにウーロン茶を喉にこくこくと流す。

「理解を深め、人と接すること。意思疎通。そして委員会への意識、理念。
 相応しい人材となれるように――今後のためにもなるかもしれませんね。

 それもまた、別のご機会がありましたらお相手願いたいところです。実力の鍛錬もまた、事欠かさずにおきたいですから」

冗談めかして言葉を浮かばせながら、さぞ語意を弾ませているのは楽しそうにしていた。
酒が絡めば饒舌になろうが、元々こういった先生だったか。普段よりも先生らしさが垣間見える気がした。
彼を見上げながら、ちょいちょいと小皿の料理を口にしていく。

「大人になるまでの過程や、大人になってからも大変ならば、大変さはそう変わらないと思います。皆さん『大変』なんですから。」

ヨキ > 「このヨキとて、彼女を深くまで知っている訳ではないがな。
 だが君にとってプラスに働く人物だと――それだけは信じている」

(その大きな喉に掛かると、酒は水のようにすいすいと吸い込まれてゆく。
 それでいて頬には赤みひとつ差さず、声に酒気の惑いが交じることもない)

「それだけ自覚があるならば……そして、初志を貫くことが出来るならば。
 『たちばな学級』の生徒とて、恥じることなく堂々としていられよう。

 ヨキは打たれ強いことだけがウリなのでな。
 君の剣術の相手としては……少し硬い藁人形、くらいの働きほどしか出来んのではないか。
 それでもよければ、いつでも。このヨキが相手になろう」

(美術の教師で、細面の横顔。それにしては不敵なほどに手合わせを持ち掛ける。
 言葉の合間に、んまい、と舌鼓を打つ)

「ヨキが果たして……どれだけの大人やら。
 ……見ていたまえ、存分にな。生徒の目があれば、ヨキもまたそれだけ教師で居られるのだから」

(ひぐれへ取り分け、自分も箸を進め、やがて料理と酒は減ってゆく。
 時間は大丈夫か、と彼女の両親を目線で見遣って、ひぐれに尋ねる)

不凋花 ひぐれ > 先ほどまでの小奇麗な印象とは違い、どこまでも飲み込む蛇に思えた。
獣のような荒々しさというよりも狡猾に饒舌に語るのは、あくまで先生として振舞う故か。
この人は自分達がここに来て以後ずっと飲み続けていた。肉然り、魚と野菜の羅列然り。
まぁ随分と『強い』のは、細身の体躯とて、元々人間ではないからだと完結した。

「出来る限りのカードを揃えて臨みたいです。
 ――いつかお相手できる日を心待ちにしています。
 ……それと美術の課題でも、分からないところがあったら導をくださいね」

先生として頼りにしているのだ。
大人としても期待している。生徒の目である限り、見えぬ世界だろうと"観て"いられる。

美味しいですね。相槌を打ちながら箸を進める。この料理は気に入った。
静かに行儀よく箸を動かして食べていると、もう既に空となった容器。
ふと問いかけられた。両親のいる方角へと視線をやる。口数が少なくお開きムードとなっていた。

「……えぇ、そろそろ。あちらに戻っておきます。
 ご相談に乗って頂きありがとうございました。また学校でお会いするでしょうけど、よろしくお願い致します」

ヨキ > 「何だって、ヨキに出来ることならば相手になるさ。
 こう見えて……いろんな生徒と渡り合えるだけの手札は、自分でも揃えてきたつもりだからな。
 美術の課題だって、勿論だとも。それこそヨキの独擅場だ。

 君が知りたいことは、何でも教えてやる。
 ヨキも万能ではないゆえに、躓くこともあろうが……
 そのときには、笑わず一緒に探してくれ。納得できる答えをな」

(細めた横目で見遣って、最後の酒を煽る。
 ひぐれの挨拶にこちらからも一礼し、両親とも再びの挨拶を交わす。
 
 親子三人が合流し、その背中を見届けたところで、自分もそろそろ会計を済ませようとして――
 卓上の小さなメニューに目を留める)

「…………。
 このキャラメルアフォガートを、ひとつ」

(〆のデザートの、追加注文であった。
 さてその様子を、どこまでひぐれが見ていたかはさておき――

 とろけるような顔をして、アイスクリームにはにかむ姿があったという)

ご案内:「酒場「崑崙」」からヨキさんが去りました。
不凋花 ひぐれ > 「勿論です、先生」

たちばな学級の一端を任されている――その異世で積み上げた力量とて確かなものであろうから。
こうしてオフモードの先生を見れたこともまた行幸。面白いものが"見れた"。
持ちつ持たれつ。教えを請えば願いは叶う。なれば対価として思考するのも人の営み。
快諾しながら一礼し、一度その場を後にする。『こっちだ』という父親の言葉を耳にして近づく。


―――数分かけて両親へと、ヨキとの会話内容を話しながら帰宅の準備を進める。
両親が会計をする最中、去り際に見えた彼の表情は、そのアイスクリームのようにとろりとした笑顔と声が"聞こえた"気がした。

ご案内:「酒場「崑崙」」から不凋花 ひぐれさんが去りました。