2016/04/15 のログ
十六夜棗 > 「―落ちて曲がれっ!」

揺れに耐えながら詠唱完了。その時には、棍棒の大男のと、対峙していた男の戦いは終わっていた。

問題は、目標を棍棒の大男に定めた落雷を詠唱していた事だ。

追い討ち、死体蹴りになりかねない。
対象を変えるには不十分な詠唱の差込。
棍棒の男に落ちる軌道を一部曲げ、ナイフ使いの持つナイフへ落雷を誘導する。死体蹴りになる雷も落ちたが。

「……助太刀は要らなかったかしら。」

一応、制服の男の後方から申し訳程度に問いかけを入れた。

久藤 嵯督 > 「―――」
「ちょぎぎイッ!?」

大男の体はビクンと跳ねたが、当然起きる気配もない。命中前に気絶しておけたのは、果たして幸か不幸か。
金属に誘導された雷は当然、避ける間もなくナイフ使いに命中。
素っ頓狂な悲鳴をあげながら倒れ、痙攣し始めた。

「……何処の馬の骨だかは知らんが」

スリングショットから放たれた魔道爆弾を掴みつつ、高熱火炎弾を避ける。
爆弾を剛速球で痩男の足元に投げつければ、当然爆発する。爆風に巻き込まれた痩男は壁に叩き付けられ、倒れ伏した。
そして背後で第二射を構えるスリングショットの男の両腕に、苦無を投げて突き刺した。

「があああああっ!?」

それ以外に能も無いのだろう。こちらから離れるようにして壁の隅にもたれかかり、尻餅をつく。

敵陣の中心でひと段落。
荒くれ達の敵意は当然、少女にも向けられることとなる。

「いいや、十分助かっている。
 こんなくだらない戦いなんて、俺としてもさっさと終わらせたいからな……
 手伝うと言うなら、栄賞くらいはやれるよ。やるか――?」

「4、9、10…エネミー2。
 5、7、8…エネミー1」

座っている男が、ここに来て初めて口を開いた。
メリケンを装備した男と、角に電撃を纏った亜人、両腕が肥大化した大女が少女に向かっていく。
携帯端末の女と刀使い、そしてハサミの女は風紀委員の方へと向かった。

[1/1]

十六夜棗 > 詠唱途中で強引に分けた雷の結果を見る。

死体蹴りになった大男は後遺症が残りすぎないといいのだけど。
ナイフ使いだけでも落とせたなら咄嗟にしては十分。

しかし前衛のこの制服の男、多数への対処に慣れている。

助太刀不要だったかもしれないが、乗りかかった船だし、せいぜい店を巻き込まないように、詠唱を切り替える。
落雷が目立ちすぎて手遅れ感はあるが。

「……それは良かった。
まぁ、栄賞とか要らないんですけどね。」

向かってくるのは三人。今日はスコップもないし、向かってくる相手をわざわざ直接戦闘で相手にする事もない。バックステップで間合いに入られる前に距離をとり、より踏み込ませる事を誘っての……

「…ウェイブッ!」

短縮詠唱で自分の周囲の地を這うスタンガン程度の雷撃。これでまず、耐性を持っていそうな亜人以外の動きを止めにかかる。

久藤 嵯督 > 「ならば……ここは一つ、お前に借りておくとしようか」

先の魔術の威力を見れば、その少女がどれだけ戦えるのかは明らかだ。
少なくともこんな連中に後れを取ることもあるまい。
いつもは仕事としてやっている風紀活動も、こうして応える者がいるのであれば少しはやり甲斐もあるというもの。
嵯督の口元は、自然と綻んでいた。

[1/3]

久藤 嵯督 > 【side:棗】

「痛゛っで!!」
「それがどうしたって!」
「……効かねェな」

腕の女は腕を交差させて防御するも、生身で雷撃を防ぐことは不可能に近い。動きが止まる。
少女の想定した通り、亜人には雷撃に対する耐性があった。
しかしここで、メリケンは拳を突き出して雷撃を”かき消した”。

少女に肉薄したのは『二人』だった。

「……おい、テメェがガードに回る陣形だろ」
「あぁ? 知るかよ。アイツの作戦アテにならねーもんなァ! …ああ、アトさ」

あろうことに亜人を押しのけて、先陣を切ってきたのはメリケンの男。
”掻き消すメリケン”を振りかぶり、ごく単調な動きで少女の顔面を狙う。

「女の痛がる顔って、めっちゃ興奮するじゃんよさァ!!」

[2/3]

久藤 嵯督 > 【side:嵯督】

「………」

端末の女がタッチパネルを一度触れるたびに、様々な属性の魔術が降り注ぐ。
何度も連打すれば、それはまるで魔術を放つガトリング砲のようだ。
素早く走って避けた先に刀使い。嵯督の動きを先読みする形で鋭く一閃。それを苦無で受け流す。

「ほう……やるな、お主」
「……お前、”多少”は齧っているようだが」

「キヒヒヒヒヒヒヒ!!!」

ハサミの女が背後から接近する。逸早く気付いた嵯督は刀使いの間合いから抜けて、端末の女の集中砲火から再び逃れ続ける。

[3/3]

十六夜棗 > 一人は止めた。
……かき消されたのは予想外ではあったが、あのメリケンが厄介だって情報を得られただけで十分。

後は近接をいなしつつ、詠唱を入れて一人ずつ冷静に対処するつもりだった。

過去形である。

「…あぁそう言う。」

何かがプツンと切れる音がした。
殴りかかってくるメリケン男の言葉に。
昔の痛みを思い出して、元からつり目だった目が更に吊り上がる。

右斜めに踏み込み返して左耳をメリケンが掠めるのを気にせず、メリケン男の目を狙って中指の関節を立てた握りの左拳で殴り返しに出る。
そこに後詰の亜人に対する意識は、何もなかった。

久藤 嵯督 > 【side:棗】

「あァ―――ッ!?」

やったらやり返される、なんて微塵にも思っていなかったのだろうか。群れていたおかげで慢心していたのか。
中指は見事にメリケンの男の片目を抉り、突っ込む勢いのまま下半身だけが前に出て、アスファルトの地面を尻で滑る。

「あァ! うひぃぃぃ!! ひ、ひでーよぉ!
 目ェ狙うのナシだろォ!! うわああああ!!」

殴られた目と殴られていない目、その両方から涙が零れている。
立ち直るまでには時間が必要だろう。

「……ほう、面白ェ」

続けて突撃する亜人は赤い爪をまっすぐ立てて、貫手のように突き出してくる。
狙われたのは、喉元。まずは詠唱を封じるつもりなのか。
後ろでは、腕の女が体勢を立て直している。

[1/2]

久藤 嵯督 > 【side:嵯督】

「お主には悪いが、拙者は武士の務めを果たさねばならぬ。
 これもその内よ。許せ、学園の戦士よ。我が魔剣の錆となるがよい」

延々と回避を繰り返すしかない嵯督に、刀使いが語り掛ける。
嵯督が言葉を返すことはない。どこか呆れ果てたような表情で聞き流している。

「キヒヒヒ! キっちゃうぞ~♪
 ………あれ?」

死角から鋏を突き立てんとする女。しかしここで戦況が動いた。
鋏の女が突然、すっ転んだのである。
その足首にはピアノ線のようなものが巻き付いている。

「ああ、喧しかった」
「っスぎゃ!」

バチィ! と音が鳴ったかと思えば、鋏の女は一瞬で気絶……電撃を受けた連中と同じように痙攣し始めた。

「『雷と雷』……まったく、奇妙な巡り合わせもあったもんだ」

ピアノ線は、嵯督の指先から伸びていた。
それはまさしく、予測不能な”蜘蛛の糸”。無数の害虫を陥れる不可覚の罠。

[2/2]

十六夜棗 > 左耳に影響は……今は解らない。

振りぬいた左拳に残った感触も余り気にならない。
涙目になっているメリケン男を怒気を込めたつり目で見下ろす。

それが亜人に対する対処の遅れになった。
怒りで見失っていた分もある。
ギリギリで半歩ずらし気道を貫かれずには済んだが、首の付け根の筋肉を爪で貫かれ、出血。

「う、ぐっ!」

その勢いで後ろに倒れながらも、咄嗟に股間を狙って右足を思いっきり蹴り上げる。
右手で首の付け根の手を剥がそうとする動きがカモフラージュになるかどうか。

久藤 嵯督 > 【side:棗】

メリケンの男と違って油断は無かったが、実力上どうしようもない事もある。
咄嗟に繰り出された蹴りには反応が追い付かず、
粉砕まではいかずとも大きなダメージを刻み付ける結果となった。

「ングッ……! マ、マジでやりやがるぜこのアマ……」

若干内股になりながら後ずさる亜人。距離が開く。
それから数秒が経った頃、仰向けに倒れているであろう少女の真上に一つの影。
両腕が歪に肥大化した女だ。

「よ゛ぐも゛ア゛ダジを゛や゛り゛や゛がっ゛だな゛! 死゛に゛や゛がれ゛!」

その巨大な拳は、落下地点にある少女の腹部に向けられている。

[1/2]

久藤 嵯督 > 【side:嵯督】

「オ、オレのチカラでも見え……
 あいや! せ…拙者のクンフーを以ってしても見えなかったとは……」
「もういいだろ、エセ武士。とっくに箔は落ちてんだ」

先読みの力は技術や経験によるものではなく、異能。
それがどうして働かなかったかと問われれば、『この男の頭では理解が出来ない』という一点に尽きる。
綿密な計算を必要とする糸の技巧は、初見の人間一人の意識で見切れるものでは無かったということだ。

「………やば」

携帯の女が端末をタップしようとするが、雷撃が端末を破壊する。
この程度の電撃ならば、即興で放出可能。それも一人分のリソースが開いた今、狙い撃つことは容易い。

「お前は論外だ」

端末の女はぺたぺたと逃げ出そうとするが、入り口方面で戦っている者達を見てお手上げのポーズを取った。

[2/2]

十六夜棗 > 足にも手応えはあった。

これで一息つける、という事もなく。
後ろに倒れたまま詠唱を組み込む。

「回れ、回れ回れ回れぇっ!!」

真上の影に間に合うかは怪しいが、体勢を立て直す暇がない。

両手を突き出し巨大な拳を受け止める構えに見せかけて
手の平に高速回転する電子で出来た回転カッターを作り出す。

そのまま拳を受け止め、左腕の骨が嫌な音を立てた。
カッターで裂けてくれればせいぜい肩の脱臼と骨の軋みで済む。
硬度もあって裂けなければ、左腕の骨は複雑骨折コース。

どの道、声をあげられない。

久藤 嵯督 > 【side:棗】

生憎その腕は、単なる生身の腕である。
度重なる薬物投与によって骨と筋肉を改造したもの。
当然、特別皮膚が硬いとかそんなことはなく。骨はむしろ柔らかく、関節部だけが例外的に硬い。

「ア゛ッ゛ガァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

あわや片腕は真っ二つ。戦意も完全に喪失したようで、怯えた目で少女を見下ろす。
これを見て亜人も「やばい」と思ったのか、どうにも攻めあぐねている。

[1/2]

久藤 嵯督 > 【side:嵯督】

「……あー、えっと―――ゴハァ!!?」
「……当たるのかよ」

問答無用の拳骨一発。
動揺しているとこんなものも避けられないらしい。

「へぇ~。フーキイーンと……一般せーと? 二人ともやるもんだね~。
 じゃあ次は、僕と遊ぼうよ!」

黒い球体で遊んでいた小さな少年が、嵯督の前に立ちはだかった。

[2/2]

十六夜棗 > 骨が軋む。裂ける腕の質量を速度と共に受け止め、分散してくれたにせよ、左肩から硬質な音が鳴った。

膠着には持ち込んだものの、カッターを保つふりで精一杯だ。
単電子カッターがぶれると途端に切れ味が落ちて見掛け倒しになってしまう。

今回も一撃をどうにか返した所でぶれて使えなくなってしまっていた。

起き上がろうにも、片手は使えず、もう片手を差し出していないと、牽制にもならない。

「さぁ、次はどっち?」

今までの相手を引きつけるだけひきつけて置いて、役目は終了。

後はこのはったりがばれるまで意識を保っていれば、いいか。
その後がどうなったかは、風紀委員と球体の少年の結果次第。

ご案内:「歓楽街」から十六夜棗さんが去りました。
久藤 嵯督 > 「―――そこまでだ、諸君! ……皆、武器を収めたまえ」

座りこけていた男が口を開けば、その場にいる全員が注目する。

「えー、これから面白くなるトコだったのに~」
「君の能力は……いささか壊し過ぎる。折角慎ましく暮らしているのに、それじゃあダメだ。
 それを封じて戦ったところで、分が悪いよ。認めようじゃないか、我々の敗北を」

「ちぇっ」と少年はつまらなそうに呟いて、リーダー格の隣にちょこんと座り、膝を抱えた。

「……この中にスリを働いたヤツがいるハズだ。出せ」
「だそうですよ、ミドリ君。ほら、それも持って」
「そ、そんなぁ~!」

戦いに参加しなかった弱腰の男を、リーダーはミドリと呼んだ。
あれが、窃盗事件の犯人。リーダー格に背を押され、嫌々ながらに突き出された。
嵯督はミドリに手錠をかけて。

「いいだろう……言っておくが、ここにいるお前の部下は全員、公務執行妨害でしょっ引くからな」
「構いませんとも。ひとまず、ここらが潮時でしょう」

リーダー格の男は立ち上がって、辺りを見渡した。
端末の女と亜人は仲間の手当てに回っており、協力者の少女は……今にも倒れそうだった。
しかし、荒くれの誰も少女に近づくことはない。
嵯督は少女に駆け寄って、応急処置をした後に休ませた。
少し、無茶をさせ過ぎてしまったらしい。これはいよいよ、借りが大きくなってしまった。

久藤 嵯督 > 「予め護送車は呼んでおいた。もちろん、救急隊も用意している。重傷者は一度救急隊に回されるが、軽症者は応急処置だけ施して、そのまま護送させて貰う」
「ご厚情、痛み入ります」

そう言ってリーダー格の男は、深く頭を下げた。

「別に、気を使った覚えは無いが」
「我々は所謂”人でなし”ですので……治して貰えるだけでもありがたいものですよ」
「……二級学生」

公式には存在していないとされる者。
偽造学生証を用いて、不法入島者でありながら学生として生活する者たち。

「まぁ、私にも色々と事情がありましてね。
 常世島《ココ》に関わる必要があった……ということです」
「……理由を話す気はあるのか?」
「いいえ、まったく」
「その態度さ、尋問官の前ではやめておけよ」
「ほら、お優しい」
「頭が固い連中にうんざりしているというだけだ」

こういう手合いは、どうもやり難い。
ここに来る前までは倒すべき敵しかいなかったが、今は少し違う。

(……ああ、本当にくだらない戦いだったよ)

敵の中に、自分達に助けを求める者がいる。
風紀委員になって、ある意味一番衝撃的だったことだ。

「……模範囚を演じていれば、きっとチャンスが巡ってくる。
 ええ、裁かれるのが今日で良かった。本当にそう、思います」

リーダー格の男は、星を見上げた。
それから間もなく、護送車と救急隊が到着。
少女と重傷者は救急隊の車両に、その他二級学生は護送車に運ばれていく。

久藤 嵯督 > 「―――白い風紀委員さん」

最後にリーダー格が乗せられる前、嵯督に声を掛けてきた。

「名前を……教えて頂けますか?」

「―――クドウ、サスケ。久しぶりの『久』に、『藤』。
 『高く険しい』という意味の『嵯』、提督の『督』」

「……では、久藤さん。次は学校にてお会いしましょう。
 その時が来たら……私は名前と、ここに来た理由を―――」

他の委員に促され、名も知らぬ男は護送車に乗り込んだ。
走っていく護送車を見送って、嵯督は残りの仕事を片付けるため、
夜の街に消えていくのであった。

ご案内:「歓楽街」から久藤 嵯督さんが去りました。