2016/05/04 のログ
セシル > 夕方、看板の明かりが際立ち始める時間。
セシルから見た歓楽街は、「この世界の文明の盛大なる浪費地」だ。
資源という観点からすれば無駄であり、無駄な消費がなされることによって集まる財貨を巡り治安も悪化する。
「学園都市」という観点からすれば、セシルにはあまりいい存在と思えぬ場所だが…この世界の学生の息抜きには大事な場所なようだし、色々と意義もあるのだろう。

(治安維持の仕事をする人間が暇な社会であるに越したことはないと思うのだがな…)

セシルはそんなことを頭の片隅で考えながらも、歓楽街を警邏するにあたって注意すべき点を先輩から注意深く聞き、必要とあればメモに書き留めたりしながら、歓楽街を警邏して回る。

セシル > 「………ん?」

…と、とある路地で、あまり身綺麗にしていない男性が座り込んでいる。

「すみません先輩、ちょっと気になる方が」

セシルが身体の向きでその男性の存在を先輩に示すと、先輩は男性の様子を確認して

『そうだね、ちょっと事情を聞いてみよう』

と頷く。セシルはそれを確認して

「分かりました」

と答えると、

「…そこのあなた、少々よろしいですか?」

と、男性の方に堂々と歩み寄っていく。

セシル > 東アジア系、ということが出来るだろうか。その男性の民族的特徴は、島で比較的よく見るものだった。
黒髪に暗い色の瞳、肌はあまり黒くなく、顔は平板な印象を受ける。
背もセシルよりやや低いくらいで、骨格も、鍛えた人間を見慣れたセシルからすれば随分貧弱に見えた。
朗々と太いセシルの声を聞いて、びくっとしたように顔を上げてセシルを見たその男性は…風紀委員の制服を見て、ただでさえ乏しい血の気を、更に引かせた。

『ひッ…』

貧相な身体をよたよたと起き上がらせて、逃げようとする男性。
…しかし、そのような動きで、セシルから逃げられるはずもなかった。

セシル > セシルの異能は間合いを詰めるのに適したものだが、運動能力の差、体力の差から、この場面では使うまでもなかった。
男性が乏しい力を振り絞ってようやく立ち上がる頃には、セシルはもう男の逃げようとした方向に回り込んでいたのだ。

「いきなり逃げることもないでしょう。
随分、お疲れのようですし」

『………』

男性は、更に反対側に逃げられないかと後ろを振り返って、落胆に崩れ落ちることとなる。
セシルを伴っていた先輩風紀委員が、男の視線の先に毅然と立っていたからだ。

セシル > 『ラフフェザーさん、話には聞いてたけど良い動きするね。
…そこのあなた、体調が優れないのであれば病院などのしかるべき施設にご案内しますけど…何か、身分を証明出来るものはお持ちですか?』

先輩風紀委員が、穏やかな物腰で歩み寄るが、男性はうなだれたままだ。

『ご自宅に忘れているとか、何か事情がおありでしたら伺いますよ?』

先輩風紀委員の問いかけにも、男は答えない。
ただ、うなだれた視線の先の拳が、小刻みに震えていた。
先輩が、その様子を見て一つ息をつく。

『…とりあえず、近くの分署まで来てもらいましょうか。
詳しくお話を伺いたいので。』

そう言って、先輩風紀委員は男の腕を掴んで立ち上がらせる。
慣れているのか、連行の手際がスムーズだ。

自分より小柄なこの先輩が、どれだけ場数を踏んできたのか。
セシルは素直に感嘆した。

セシル > 『ラフフェザーさん、本部に連絡入れながらでいいから、ついてきてくれる?
どういう流れで署に引き渡すのか、実地で確認もしたいしね』

「はい、分かりました」

男性を連れる先輩の後ろに続きながら、連絡用の端末を立ち上げるセシル。
訓練施設の情報端末からくる慣れや研修の甲斐あって、機械の類にもそれなりに適応してきていた。

「不審な男性を見かけたので声をかけたところ、身分を証明出来るものを持っておらず、逃走しようとしたため確保して○×署まで連行することになりました。
場所は、ええと…」

一旦地図を広げて道筋を確認し、

「すみません、確認しました。○×通りから異邦人街の方向へ伸びる路地です。
住所としては…△番地と■番地の境目ですね」

と、男性を発見した地点の詳細を報告した。
歓楽街に縁遠かったセシルは、まだ地名の把握が浅い。
これから、より注意して覚えるようにしなければならないと感じていた。

セシル > 『落第街ならともかく、歓楽街ならいつもいつも警邏で何かあるわけじゃないんだけどね』

男性の引き渡しを終えて、そうセシルに語る先輩。

「…あの男性は…不法入島者、というものですか?」

常世財団が公に認めていない存在。学園に組み込まれることなく島で暮らす者達。
委員会の研修でおおっぴらに扱うことはないが、流石に全く触れないわけにもいかない。
そんなわけで、セシルも存在は知っているのだった。

『そうだろうねー、身なりからして二級学生って感じでもないし。
…風紀委員の制服見ただけで逃げ出そうとするあたり、真っ白ってことはなさそうかなぁ。

…ま、詳しいことは取り調べを担当する人達にお任せだね。あの人にまつわる私達の仕事はここまで』

「…そうですか。」

『真っ白ってことはなさそう』。
先輩のその言葉が、セシルには若干の重たさとなって感じられた。
セシルには、彼が貧相で哀れな…ただの、「弱い」人間にしか見えなかったから。

セシル > 『…何か引っかかってそうだね。
ラフフェザーさん、正式に課に所属することになったら刑事課も考えてみる?』

セシルの様子から何かを感じ取ったのか、先輩風紀委員はそんな言葉を口にする。
セシルは、その言葉に目を丸くして先輩の顔を見た後…困ったように笑って、

「…まさか。私の身には余りますよ」

と言った。
「軍人」を志す自分には、そういった「考える」仕事は合わない。
セシルは、そう決めつけていた。…いや、「そういうことにしていた」。
軍人が…特に現場の武官が「考え」ることは、必ずしも良いことになりはしないと、歴史が証明していたから。

セシル > 『そう?色々気がつくし、悪くないと思うんだけどなぁ』

首を傾げる先輩に対して、セシルも

「そういう先輩こそ、どうなんですか?」

と問い返す。先輩は、

『私は少人数で事に当たる能力そんなに高くないから向いてないよ』

と、からからと笑った。

そんな会話をしながらも、警邏の残りの仕事を済ませて、帰途につく2人。

セシルは、この島の抱える『闇』と、改めて向き合うことになったのだった。

ご案内:「歓楽街」からセシルさんが去りました。
ご案内:「歓楽街」にルギウスさんが現れました。
ルギウス > 昼間の歓楽街は活気が薄い。
夜の街なのだから、今のここは眠りの時間。
もっとも、活気があるからといって白を基調とした司祭服なんてものを着用しているこの男は浮いているわけなのだが。

「さて、楽しい舞台の幕を開けるにも……キャストが足りない。
 悲劇と喜劇を演じてくださる、新しい顔が。
 悲劇と喜劇を演じてくださる、馴染みの顔が」

案内板の前に立つ。

「とりあえずは――――」

何かを確かめるように、薄汚れたソレを意味無くノック。

「ジョークを交えて駒を増やしましょう」

ルギウス > 『万能たるマナよ……』
2~3の真の言葉を紡ぎ、魔術を行使する。
それ自体はたいしたことは無い、時間経過により地図の内容を出鱈目に入れ替える程度の迷彩魔術。

それをカバーにつかい、何かのマイナス感情を強く抱く不特定の人物にのみ見える矢印を仕込んでいく。

「嗚呼、嗚呼……力が欲しいか? 金が欲しいか? 女が欲しいか?
 いやいや、テストの点が悪いのかもしれない。
 ひょっとしたら、何をやっても勝てないライバルがいるのかも―――」

ルギウス > 「さてさて、溺れるものは藁をも掴む。
 掴んだ藁は命を繋ぐでしょうかねぇ……?」

そのような悪戯をそこかしこに仕込んでいく。
矢印に導かれるように、誘導されればその先は―――

「落第街の廃ビル というのも芸がないですねぇ。
 警戒されてもつまらない。
 ……学生通りに一軒、用意するとしましょうか。
 
 表向きは……そうですねぇ、カウンセラーということで」

ルギウス > 「なに《大変容》があったのです。
 ささやかな日常が、少しずつ変わったとして……誰が気に留める事でしょう。

 望んだ方に、望んだ力を。
 それで何をどうするかなんて、私の責任問題ではありませんねぇ。
 持つものはその意味を考えなければ。
 持っていなかった方がわかるとも思えませんが」

この男が自称する“ささいな悪戯”が今後どうなるかは……わからない。

ご案内:「歓楽街」からルギウスさんが去りました。