2016/06/02 のログ
ご案内:「歓楽街」に奥野晴明 銀貨さんが現れました。
奥野晴明 銀貨 > 時間は夕方に差し掛かる頃、島の中で一番夜明るいといわれる歓楽街。
いくつかあるゲームセンターには放課後の楽しみとして友人たちとたむろする大勢の学生たちの姿がある。

最新のアーケードゲームから昔懐かしい2Dドットが表示されるレトロゲーム各種がずらりとならび、
それぞれの筐体に向かって各々楽しんでいる様子だ。

そのゲームセンターの内、一つに中学生くらいの少年がひとり、静かな足取りで店内を歩く。
高校生ぐらいの学生が多い中で、年下の、それもいやに目を引くような容姿の少年が堂々と歩いているのだから、周りの者には随分浮いているように見えるだろう。
明らかに居住まいや制服の着崩れがないところから良い所のお育ちを連想させる。

少年は両替機の前で財布代わりのICカードを取り出すと、それを端末にかざしていくつかの硬貨に変える。
じゃらじゃらと両替口から出てくる硬貨を物珍しそうに手にするとまた来た道を引き返し
シューティングゲームのコーナーへと入った。

一番奥の、誰もいない筐体の前に座る。タイトルは『紅蜻蛉』とかかれていた。
ゲーム通なら誰もが噂ぐらいは知っている、まだクリアされたことが一度もない、人類には早すぎた鬼のような難易度を誇るシューティングゲームである。

奥野晴明 銀貨 > 過日、付き合いのある学園の保険医との話題でこれが出たので
せっかく暇ができたのだから自分も一度くらいは触ってみるかと寄ってみた。
だが自慢ではないがこの奥野晴明 銀貨という少年はアーケードゲームやシューティングゲームの類はほとんど触っていない。
ただの興味本位の初心者である。

まずコインを投入口に入れるというところから既にジェネレーションギャップを感じつつ
(銀貨自身ICカードで日々の支払いはほとんど済ませている)
ティロリーン♪というクレジットが投入された音ともにゲームが始まる。

最初に自機の設定やら説明やらが流れたが、さっと目を通すだけでボタンを連打して読み飛ばす。
重々しいBGMとともに一面が開始される。
一番最初の最初なのだからまぁしばらく何も動かさなくても大丈夫だろうと高をくくっていたら
一番最初の接敵で5体くらいが向かってきて色とりどりの弾幕を放ってきたので自機は爆発した。南無三。

「あ」

小さく残念そうな声を上げるが、ゲームは待ってくれない。すぐにリスタートされる。

奥野晴明 銀貨 > 無敵時間とともに点滅する自機がまたもやどんどこ前に勝手に進んでいく。
再び迫り来る敵機、ちゅんちゅーんと軽い効果音に似合わない量の弾が打ち出され再びやられるかと思われたが、

銀貨はかろうじて握っていたコントローラーのバーをさりげない動きで傾けた。
すい、とあっさり敵の集中砲火を掻い潜る自機。
とりあえず、相手の攻撃を避ければいいことを学んだ銀貨はそのまま左手に置いたバーだけを繊細な動きで操っていく。

何度かどうしてもここはくぐり抜けられないだろうと思われるようなところでもぎりぎりまで惹きつけたり、センサーが反応する最小の動きで躱したりと理解し難い謎の操縦テクニックを見せつけていく。
だがシューティングとは避けているだけでなんとかなるゲームではない。
ついに敵の弾幕を自機の弾で撃ち落とさなければならないところまでくるとあっさり爆発した。二度目の無慈悲な爆散。

「……そっかー、この相手の弾って撃ち落とせるんだなー」

感心したような声で独り言をつぶやく。

奥野晴明 銀貨 > 攻撃の仕方をやっと理解したかのように、絶妙なタイミングで攻撃ボタンを押していく。
初心者だから無駄撃ちや空振りも多少はあるかと思われたが驚くことに弾はハズレ無し、
敵機が2,3体交差したところを狙い撃ったり、最低限の撃破で難を逃れたり……。
おおよそ初めて遊んだにしてはやたらうますぎるようなそうでもないような独特の操作で中盤まで進んでいく。

『紅蜻蛉』のタイトルが示す通り、どうやら敵機は虫のようなモチーフが多い。
最初の時よりもずっと邪魔も多くなってくると避けるのも攻撃をするのも苦労していく。
ぷちぷちぷちぷちと片端から群がってくる虫達を丁寧に1つずつ潰していくような作業感を覚え始める。

ぷちぷちぷちぷち、そう、大群とは面倒くさい。
一つ二つ潰しても後から後から湧いてくる。
それを一番良く知っている自分がこうして潰す側に回っているのは



なんだかとても――


中盤の通せんぼらしい、一回り大きな敵が出てくる。
ムカデのような大顎の相手を一瞥して、
銀貨の左手が反射的に動いてしまった。

かくんと進行方向前方に猛然とダッシュした自機がそのまま突っ込んで爆発四散。
あっけなくゲームオーバー。画面が遷移する。

「はぁ……なるほど、難しいなー」

まるで失敗したことをさして気にもしておらず、ううーんと伸びをする。
確かに難しいゲームだった。

奥野晴明 銀貨 > このゲームがいつ開発されたのか、詳しいことは知らないが
大変容前の物だったのなら確かにこれは人類には早過ぎるシロモノだろう。
逆に異能もない時代にこれほどの難易度を誇るゲームを作った人物がどういう相手だったのか興味が湧く。

でも今はどうだろう。
現在ではもう、これに反応する反射速度も認識力を高める方法も異能や魔術を使うことで達成できるのではないだろうか。
異能もまた才能の一つだとすれば、それを使うことを厭う理由はないはずだ。

脚が速いのと同じこと、頭の回転が早いのも、美術の才能が有るのも、歌声が美しいのも。

でももし、この開発者が本当に異能などなくて、ただ単純にこの難易度の傑作を出したとしたのならば
できるなら同じフェアな条件で戦ったほうがなんとなく気分がいい。
銀貨はそういうふうに考えた。

筐体の前から席を外し、余った硬貨は店の手前に設置されたクレーンゲームで消費する。
1回100円程度のそれを3回やって3回ともサクッと景品を落とした。
銀貨の知らないアニメ調の美少女フィギュアと、どこの国のものかわからないゆるきゃらの大きなクッション、最近はやりのSF映画とタイアップした謎のアイテムの三点。
素手で抱えることもできないのは当然だったので横で手持ちぶたさに見ていた店員が慌てて袋に詰めてくれた。

礼を言ってから退店する。少々重い荷物によたよたしながら、とりあえず道すがら携帯を取り出す。
とった景品は全部蓋盛に押し付けるため、彼女の携帯番号を呼び出した。

ご案内:「歓楽街」から奥野晴明 銀貨さんが去りました。